表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懺悔  作者: 藤見日菜
2/4

2

「お久しぶり」

そう言って、教会には似つかわしくない派手な化粧で顔を覆った女性が、懺悔室に入ってきたのは午後一時半のことだった。

「お昼にくるなんて」

「そう言わずに、シスター。本当は午前の一番にくるはずだったのよ」

「来ていたの?」

「彼女、泣いていたわよ」

そうは言うものの、サリエルを責めるという訳ではなく、ただ事実としての言葉だった。返事も頷きも返さなかった。

「午後からは、信者さんが増えるのだけれど」

「あら、迷惑だった? 私もこれだけ教会に通っていれば、立派に信者だと思うのだけど」

彼女――宗田都は、数か月前から一日おきにこの教会を訪れるようになった。来て、何か告白していくと言うのでもなく、世間話をして去っていく。

「ねえ、萌子」

「その名前で呼ぶのはやめて」

萌子というのは、サリエルの本当の名前。とっくのむかしに、捨てた名前。けれど、都と居る時には、自分はサリエルではなく、萌子。岬萌子だという意識がとても強くなるのだ。

「あら、いいじゃない。私はシスターに会いに来ているんじゃないもの。萌子に会いに来ているのよ」

都はいつもそう言った。初めて会ったとき以来、彼女は萌子に会いに来ているのだと。

「なんで、私なんかに。私たち、ここで会うだけの関係じゃない」

「ここで出会ったって、十分運命的だと思わない? 神の加護の元に出会ったんだから」

「神様なんて、信じていないくせに」

「貴女だって」

余裕たっぷりの都の態度に、萌子もいつの間にか慣れてしまって、もう食って掛かることもいつからかしなくなった。都が何をしにここに来ているのか、彼女はどういう人間なのか、萌子はなに一つ知らなかった。わかっているのは、自分が都を拒否していないということ。いまのところそれでよかった。

「都さんって、何してるひとなの」

「さあ、何してるように見える?」

萌子はあらためて都を見直す。派手な化粧、尊大な態度。人の下に付いて働くような人間ではないと思った。しかしそれがわかったところで、萌子には何かわかるはずもなかった。外の世界は、彼女からはとても遠い。萌子は諦めて肩をすくめた。

「わからないわ」

「そう。まあ、別に私がなにしてても、そんなに問題じゃないでしょう」

結局、都はそれ以上何も言わなかったので、彼女が何をしているのかはわからずじまいだった。そもそも、都が自分自身のことを語ったことは一度もなかった。話すのはいつも萌子のほうだ。

「今日も、ずっとここにいるの?」

「今日は、この後幼稚園に行くの。いつも行っているシスターが風邪を引いてしまって」

「あら、萌子に子どもの相手なんてできるの?」

「あなたには関係ない」

そっけなく返すと、都は少し嬉しそうに笑って、立ち上がった。

「今日も萌子の顔が見れたし、そろそろ帰るわ」

「そう」

「じゃあね、萌子。風邪ひくんじゃないわよ」

萌子に何か言う間も与えず、都はさっさと部屋を出ていった。残された萌子は、しばらくの間ぼうっとして座っていたが、二時を告げる鐘の音ではっと我に返り、急いで部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ