奇跡の絵
「才能ってなんだろうね」
そう言うのは絵の才能を持っていた人でした。
彼は、命のある絵を描くことができました。
命、と言っても動いたり、話したりそんな絵ではなくて、彼の絵には人の感情を引き出すことができる特別な力がありました。
楽しみや喜びの絵は心の傷を癒すことができました。
寂しさや悲しみの絵は泣きたいときに涙を与えました。
私はそんな彼の絵が好きだった。
彼の絵はいつだって私に笑顔をくれて、彼の絵は泣きたい私に涙をくれた、悲しいこともつらいことも彼のくれた涙で流すことができた。
……けれど。
今の彼は絵を描かない。
彼は恋人を失ったときに描いた一枚の絵以来絵を描けなくなった。
失うという苦しみ、つらさ、いたみ、悲しみ、寂しさ、そんな彼の感情が込められた絵が人を傷つけてしまったから、彼は思った「この絵は人を傷つけてしまう」と。
そして何より、彼は気づいてしまった、自分の絵が恋人を殺してしまったのではないかと。
……そんなはずがないのに。
彼の恋人も彼の絵が大好きだったのに、それでも彼はもう絵を描かない。
彼の手はもう筆を握ることすらできなかった、彼自身がそうしてしまった。
そうして、彼は今日も私に言う。
「才能ってなんだろうね」と、とても寂しそうに
このままでは、手の傷だけでなく彼が死んでしまう気がした、そんなのはいやだったから私は言う。
「あなたには人を笑顔にする才能があるよ、天国にだって届くような奇跡みたいな才能が……」
「奇跡……」
彼はそうつぶやくともう筆は持てないと言われた傷だらけの手で筆を握った。
……彼には絵の才能がありました。
その絵は描く彼にも力を与える、現実と天国をつなぐ奇跡の絵。
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