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戦記 短編

特攻隊の真実

作者: 橘花

神風特別攻撃隊


それは、太平洋戦争末期に、日本が行った飛行機に爆弾を搭載して敵艦に体当たりするものである。


「西村一等兵曹。貴様に特攻隊の任務を命じる。」


それは突然訪れた特攻隊転属命令。最初は、命令ではない命令であり、殆どが進んで志願していた。しかし、末期には完全な命令として特攻に赴くのが普通であった。


転属命令を受け、特攻隊航空基地に転属する前の日


「母さん。俺、特攻隊になったよ。」


だが、母はすすり泣くだけだった。西村もこれ以上は耐えられないと思い電話を切る。そして、翌朝に転属のための準備をしている際


「西村兵曹、面会です。」


「俺に?」


誰だろうと思い、西村は基地の入り口に向う。そこに居たのは


「沢村!?」


子供のときから一緒に遊び、今は地元の農家の跡を継いだ親友がそこにはいた。


「お前のお袋に言われて慌てて来たんだ。これ、お前のお袋から。」


そう言って差し出したのは、懐かしい昔に母に作ってもらい、一緒に食べた団子だった。


「国が危ないんだろう。帝都のほうじゃ、連日の爆撃に晒されているらしい。」


沢村は自分が知っている限りの戦況を教えるが、西村の耳には入っていなかった。


「直に、アメリカも本土へ上陸してくる。そうなれば、俺達の故郷が危ないんだ。」


その時、西村の頭には


(母を、アメリカに渡すものか。俺が、死んで守る。)


団子を包んだ笹を握り締め、西村はそう心に誓った。午後、基地移動のために軍用のトラックが到着した。それに乗り、西村と同じく特攻隊を命じられた西村を含めて8人は特攻隊基地に移動する。その見送りの中に、沢村は居り、見えなくなるまで手を振り続けた。



特攻隊は出撃前に当時の最低限豪華な食事が出される。しかし、手をつける者は殆ど居ない。喉を何も通らないのだ。西村も、食事には手をつけずに兵舎の壁に背中を預けて立っていた。そして、辺りを見回していると、司令部の階段に自分より、これが初陣と思えるような若い搭乗員が居た。


(あいつ等も、これから死ぬのか。)


そう思うと、西村は自然とその若い搭乗員の方に歩みだしており


「これ食うか?」


と、先程沢村から渡された団子を振舞った。


「お、おいしいです。」


「ありがとうございます。」


そう、若い搭乗員達は言う。


「お前等、どうして死ぬんだ。」


そう、西村は聞くと


「お国のためです。」


「陛下のためです。」


そう言う者が殆どで、一部は家族の為ですと言う。


そして、西村は団子に目を落とす。そこにあったものは


「お袋の指の跡。」


団子は強く握った時に指の形が残る。それが、この団子にくっきりと残されていた。西村は兵舎の影に入り、この時ばかりは出来るだけ小声で泣いた。




「指揮官訓示。」


飛行長がそう言い、台から降りる。昇ったのは、特攻隊司令官宇垣纏が


「敵艦数などの正確な情報は不明であるが、かなりの数が集結していると見込まれる。諸君等は出撃し、これらに体当たりせよ。では、質問のある者は居ないか?」


暫く沈黙があり、一人の搭乗員が


「はい。」


と、挙手をする。


「うむ、言ってみろ。」


「自分は、搭載されている爆弾で輸送艦2隻を沈める自信があります。もし沈める事ができたら、帰ってきていいですか?」


誰もが思っている事だった。質問をした搭乗員は緒戦の方から戦い続けているだけあって堂々としている。しかし、返ってきた言葉は


「いや。死んでくれ。」


その瞬間、全員の顔は分からない程度に青ざめた。そして、搭乗する乗機へと向った。


「彗星棺桶か。」


西村の乗機、それは彗星艦上爆撃機であった。機体に搭乗しようとすると


「西村兵曹。ちょっといいですか。」


機体を整備していた整備兵は西村を呼び止める。そして、機体の燃料タンクの蓋を開け、中を見せた。


「こ、これって。」


通常、特攻機には燃料半分程度が普通である。しかし、入っていた燃料はタンク満タンである。


「これは、男としての整備員全員の気持ちです。全員が軍法会議に掛けられる覚悟は出来ております。だから、これから死に行く者に燃料半分なんてさせません。」


一旦整備兵は間をおいて


「もし、エンジンに不調があったら。迷わずに不時着してください。」


西村は帰ってくる積りは無かった。しかし、その気持ちだけはありがたかった。西村はその整備兵にガッチリと握手を交わす。そして、機体に搭乗した。後部には偵察員を兼ねる野村三等兵曹。これが、彼にとって初陣であった。


「今日は宜しくお願いします。」


「おう。」


西村は野村を見る。


(これが、死地に赴く顔なのか。)


野村の顔はそれこそ不気味な程に笑顔だった。


「行くぞ、野村!!。」


「はい!。」


そして、二人を乗せた彗星艦上爆撃機は離陸していた。しばらく飛行し、故郷の空が見えた


「うさぎ追いし、かの山。」


思わず、「故郷」を歌ってしまう。


海に出て、20km飛行した所で敵艦隊に遭遇した。何の偶然か、一切防空戦闘機が上がっていなかった。


「行くぞ!覚悟を決めろ!!。」


「はい。」


彗星は急降下を掛ける。ようやく気づいたのか、対空砲を撃ち上げ始める。


「く、ものすごい対空砲火だ!!。」


目の前を覆う弾幕と黒煙。だが、ついに眼前に敵空母を捉えた。


「天皇陛下!!、ばんざーい!!。」


その瞬間、彗星艦爆は空母「エセックス」の飛行甲板に体当たり。甲板を突き破り、飛行格納庫にて爆発、炎上。大破して退いた。



8月15日、天皇陛下が国民に戦争終結を知らせる。


9月2日、日本はミズーリ艦上にて無条件降伏の文書に調印。


戦争は終結した。





実際、エセックスは沖縄沖で神風攻撃に遭遇しておりません。艦名は変えてあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 橘花さん…勝手に殺してすんませんm(__)m 優しいツッコミおおきに(^-^)v
[一言] 橘花さん、浜園重義さんの本読んだ事ありますか? 零戦にかけた男 浜園重義物語 って言う本なんですが、機会があれば参考にしてください(^-^)v 敷島隊の関行男さんの話も書いてほしいです。 …
[一言] 浜園重義さんの話ですね。お国の為に戦ってくれた特攻隊の方々が居るから、今の俺達が生きていられるんですね。 この小説を書いて頂いてありがとうごさます。 今の若者と…あまりにも差がありますよね……
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