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夫婦の日常

夫婦の日常 #12 〜 力は、あった。〜

作者: 葵
掲載日:2026/10/29

「パワースポットに行きたい。」


「え、どうしたの。急に。」


「だって……。

理由は、いろいろあるよ。」


リビングのソファに体を預けると、

最近の、ちょっとついてないな。

みたいなことが思い浮かぶ。——


「さて、取っといたチョコアイス食べよ。」


冷凍庫から棒付きアイスの袋を取り出して、

封を開けた。


あれ、袋にくっついて取れない……。


仕方なく袋をさらに破いて開ける。

くっついてしまった袋をぺりぺり剥がしていくと、

なんかちょっとテカテカしてる。


形まで……あぁ、なんか潰れてるし。


これ、

一回溶けたよね。


一口かじってみた。


「おいし。」


——というのは、昨日のこと。


んん……どうでもいいこと、ではある。


さらに先週は、——


ピンポーン。


「宅配便です。」


ガチャっ。


扉を開けると、配達員のお兄さんが小さな紙袋に入った荷物を届けてくれた。


「はぁい、どうも。」


やっとキタァー。


「なんか頼んだの?」


「うん、ピアス。

チェーンになってるやつ。」


袋を開けてみると、


「可愛いぃ。」


こういうのが欲しかったんだよぉ。


早速試着しようと鏡の前で、ピアスを穴に通そうと差し込むと、


「痛っ。」


え、チェーンが、通らない。


もう一度チャレンジしても、やっぱり痛くて……。


「どう?いいの買えた?見せて。」


「……。」


「どうした?」


「いいの。

間違えた……。」


「え?何を?」


これ、返品できるのかな。


ピアスの穴、広げてみる?

どうやって……?


無理だよ。

こわい……。


——と、微妙……じゃなくて、すごく苦い思いをした。


さらにさらに、二週間前には、——


「恵、契約してた動画サイト、1個解約したよ。」


「えぇっ!!なんでぇ?」


「いや、もったいないでしょ。

安い方を解約したから。」


「……そうだね。」


そこでしか見れないのがあるのに……。


もう一回だけ頼んでみる?

……だめだぁ。


——これは、私のわがまま……かもしれない。


でも、やっぱり。

これは多分、パワーが足りていない。


パワーがあれば、陽介ももう少し心を広く持ってくれる。

そう思います。


「行きたいの!パワースポット。」


「そんな大声出さなくてもわかったから。


パワースポットかぁ。

いろいろあるよね。

俺はお寺も好きだけど、神社もいいな。」


「神社……そうだね。

それって、本物って感じだね。」


パワースポットって、そういうとこもあるんだ。


「え……何?」


「私もどこがいいか、ちゃんと探すよ。」


「あ、そう。

じゃあ、俺も探してみるよ。」


そして、金曜の夜のこと。


「この前言ってた、パワースポット。ここ行ってみない?」


「なになに?」


「厄割石ができるとこ。」


「へぇーっ!」


「石を投げて、割って、厄を払うんだって。」


「何それ、楽しそう!

明日、行ってみよう。おみくじも引きたい!

ある?」


「あるよ。

大吉出るまで、頑張ろう。」


え、頑張るの?


「大吉出るといいね。」


そして土曜日、二人で早起きをして準備をした。


玄関を出て、

朝の気持ちいい空気をたっぷり吸った。


天気も快晴、しゅっぱーつ。


車で走り出してから、15分くらいした時、

やっぱり、パワー必要なんだよね。


そう思った。


「まだ8時だよね。渋滞しすぎじゃない?」


「土日って、早い時間はそんなに混んでないのに。」


そんな話をしていると、車線規制のポールが並んでいるのが見えてきた。


「工事ね。」


「……。」


またこれ。

最近よくある、微妙なやつ。


「コンビニ寄っておけばよかったね。」


「うん。」


あー、喉乾いた。


しばらく走っていると、車線も元に戻り、車がスムーズに動き出した。


「そんなに、長い渋滞じゃなかったね。」


「うん、よかった。」


もしかして、これもパワースポットに近づいてるからかっ。


有料道路を降りると、コンビニにも無事に寄ることができた。


喉も潤ったし、準備バッチリ。


神社の周りはそこまで渋滞もない。


駐車場に車を停めた後は、ゆっくり神社に向かった。

歩きながら、灯籠をスマホで写真に収めてみたり。


入り口から、しばらく歩いて、奥まで進んでいくと、


あったぁ。


「あそこが、厄割石ゾーンだねっ?」


「うん、先にお参りしよう。」


「あ、そうだね。」


参拝に来た人たちの列に並んでいると、

お参りを終えた男の子が、楽しそうに石割りしてる。


順番が来て、お参り。


「ふぅ……。」


パンっ、パンっ。


2回、手を打った。

目を閉じて、手をあわせる。

穏やかな毎日に、お礼を伝えた。


お参りを済ませたあとは、楽しみにしていた厄割石。


まずは、石のためのお賽銭を入れる。


「恵から、やっていいよ。」


「うん。」


チャリンっ。


石を手に取り、両手に乗せて、息を吹きかける。


「ふぅー。」


厄石に近づく。


「あ、恵、もっと近くじゃないとあたらないよ。」


「え、あ、うん。

でも、そんなに近づいたら……。」


「いや、もっとこっち。」


「……。」


私の腕を掴んで位置を固定させようとしてくる陽介は、

なんか……厳しい。


「そこ、そこだ。行けっ!」


私は厄石めがけて、石を投げる。


……すると、


んっ!


カシャンっ。


「割れたー。やった。」


「すごいじゃん!」


「うん、力入れすぎない方がいいみたい。」


「……。」


私が少し後ろに下がって、陽介の方を見た。


「俺もいくわ。」


「待って。

息吹きかけた?」


「あぁ、そうか。

ふぅー。」


陽介も石を両手に乗せて、息を吹きかける。

なぜか、おでこに近づけて、祈りの動作まで追加。

オリジナルを足してきてる……。


そして、厄石に近づく。


あれ、大きく振りかぶってる。

……なんか変じゃない?


陽介が手を振り下ろした。

のに、


ぽとっ。


え。


「えぇー、割れなかったんだけど。」


「そうね。」


割れなかった石は、綺麗に形が残っていた。


なんか、いいんじゃないかな。

ちょっと奇跡っぽくて。


二人の石割りイベントは終わったので、

私がおみくじゾーンに向かおうと歩き出す。


チャリンっ。


ん、お賽銭?


後ろを向くと、陽介がもう一度お賽銭を入れて、

石を選んでるところだった。


「何やってんの?」


思わず、私の声は低くなった。


「いや、もう一回やったら当たるよ。」


……。


もうやってしまったので、

私は彼の投げる姿を見ようと、今度は横から見てみることにした。


「よし、次は当てるからね。」


「はい、頑張って。」


大きく振りかぶって、

待って?下向きすぎじゃない?


「あ、ねぇ、距離、感……が。」


カシャンっ。


あぁ。


「割れた!」


「うん。」


割れたね。

地面に当たって。


やっぱり、力入ってたね。


……。


割れたけど。


「今さ、石に当たってた?」


「んん……多分ね。」


「……厄石に、当たってたかなぁ。」


……。


「陽介、それは今更どっちでもいいよ。

見えてないなら、仕方ない。」


「恵も見てないんだよね?」


「見たよ。石が割れたとこは。

石割りに来たんだから、成功してるじゃん。」


「あぁ……。」


「さ、おみくじ、行こう。」


腕を引きながら、にっこり笑って、陽介の方を見た。


「うん、俺大吉引くわ。」


「頑張って。」


結果は……。


私は、” 中吉 “。


陽介は、” 小吉 “。


「小吉かよぉ。」


「いいじゃん。石、割れたから。」


「まぁね。」


あ……。

なんか、ちょうどいい。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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