夫婦の日常 #12 〜 力は、あった。〜
「パワースポットに行きたい。」
「え、どうしたの。急に。」
「だって……。
理由は、いろいろあるよ。」
リビングのソファに体を預けると、
最近の、ちょっとついてないな。
みたいなことが思い浮かぶ。——
「さて、取っといたチョコアイス食べよ。」
冷凍庫から棒付きアイスの袋を取り出して、
封を開けた。
あれ、袋にくっついて取れない……。
仕方なく袋をさらに破いて開ける。
くっついてしまった袋をぺりぺり剥がしていくと、
なんかちょっとテカテカしてる。
形まで……あぁ、なんか潰れてるし。
これ、
一回溶けたよね。
一口かじってみた。
「おいし。」
——というのは、昨日のこと。
んん……どうでもいいこと、ではある。
さらに先週は、——
ピンポーン。
「宅配便です。」
ガチャっ。
扉を開けると、配達員のお兄さんが小さな紙袋に入った荷物を届けてくれた。
「はぁい、どうも。」
やっとキタァー。
「なんか頼んだの?」
「うん、ピアス。
チェーンになってるやつ。」
袋を開けてみると、
「可愛いぃ。」
こういうのが欲しかったんだよぉ。
早速試着しようと鏡の前で、ピアスを穴に通そうと差し込むと、
「痛っ。」
え、チェーンが、通らない。
もう一度チャレンジしても、やっぱり痛くて……。
「どう?いいの買えた?見せて。」
「……。」
「どうした?」
「いいの。
間違えた……。」
「え?何を?」
これ、返品できるのかな。
ピアスの穴、広げてみる?
どうやって……?
無理だよ。
こわい……。
——と、微妙……じゃなくて、すごく苦い思いをした。
さらにさらに、二週間前には、——
「恵、契約してた動画サイト、1個解約したよ。」
「えぇっ!!なんでぇ?」
「いや、もったいないでしょ。
安い方を解約したから。」
「……そうだね。」
そこでしか見れないのがあるのに……。
もう一回だけ頼んでみる?
……だめだぁ。
——これは、私のわがまま……かもしれない。
でも、やっぱり。
これは多分、パワーが足りていない。
パワーがあれば、陽介ももう少し心を広く持ってくれる。
そう思います。
「行きたいの!パワースポット。」
「そんな大声出さなくてもわかったから。
パワースポットかぁ。
いろいろあるよね。
俺はお寺も好きだけど、神社もいいな。」
「神社……そうだね。
それって、本物って感じだね。」
パワースポットって、そういうとこもあるんだ。
「え……何?」
「私もどこがいいか、ちゃんと探すよ。」
「あ、そう。
じゃあ、俺も探してみるよ。」
そして、金曜の夜のこと。
「この前言ってた、パワースポット。ここ行ってみない?」
「なになに?」
「厄割石ができるとこ。」
「へぇーっ!」
「石を投げて、割って、厄を払うんだって。」
「何それ、楽しそう!
明日、行ってみよう。おみくじも引きたい!
ある?」
「あるよ。
大吉出るまで、頑張ろう。」
え、頑張るの?
「大吉出るといいね。」
そして土曜日、二人で早起きをして準備をした。
玄関を出て、
朝の気持ちいい空気をたっぷり吸った。
天気も快晴、しゅっぱーつ。
車で走り出してから、15分くらいした時、
やっぱり、パワー必要なんだよね。
そう思った。
「まだ8時だよね。渋滞しすぎじゃない?」
「土日って、早い時間はそんなに混んでないのに。」
そんな話をしていると、車線規制のポールが並んでいるのが見えてきた。
「工事ね。」
「……。」
またこれ。
最近よくある、微妙なやつ。
「コンビニ寄っておけばよかったね。」
「うん。」
あー、喉乾いた。
しばらく走っていると、車線も元に戻り、車がスムーズに動き出した。
「そんなに、長い渋滞じゃなかったね。」
「うん、よかった。」
もしかして、これもパワースポットに近づいてるからかっ。
有料道路を降りると、コンビニにも無事に寄ることができた。
喉も潤ったし、準備バッチリ。
神社の周りはそこまで渋滞もない。
駐車場に車を停めた後は、ゆっくり神社に向かった。
歩きながら、灯籠をスマホで写真に収めてみたり。
入り口から、しばらく歩いて、奥まで進んでいくと、
あったぁ。
「あそこが、厄割石ゾーンだねっ?」
「うん、先にお参りしよう。」
「あ、そうだね。」
参拝に来た人たちの列に並んでいると、
お参りを終えた男の子が、楽しそうに石割りしてる。
順番が来て、お参り。
「ふぅ……。」
パンっ、パンっ。
2回、手を打った。
目を閉じて、手をあわせる。
穏やかな毎日に、お礼を伝えた。
お参りを済ませたあとは、楽しみにしていた厄割石。
まずは、石のためのお賽銭を入れる。
「恵から、やっていいよ。」
「うん。」
チャリンっ。
石を手に取り、両手に乗せて、息を吹きかける。
「ふぅー。」
厄石に近づく。
「あ、恵、もっと近くじゃないとあたらないよ。」
「え、あ、うん。
でも、そんなに近づいたら……。」
「いや、もっとこっち。」
「……。」
私の腕を掴んで位置を固定させようとしてくる陽介は、
なんか……厳しい。
「そこ、そこだ。行けっ!」
私は厄石めがけて、石を投げる。
……すると、
んっ!
カシャンっ。
「割れたー。やった。」
「すごいじゃん!」
「うん、力入れすぎない方がいいみたい。」
「……。」
私が少し後ろに下がって、陽介の方を見た。
「俺もいくわ。」
「待って。
息吹きかけた?」
「あぁ、そうか。
ふぅー。」
陽介も石を両手に乗せて、息を吹きかける。
なぜか、おでこに近づけて、祈りの動作まで追加。
オリジナルを足してきてる……。
そして、厄石に近づく。
あれ、大きく振りかぶってる。
……なんか変じゃない?
陽介が手を振り下ろした。
のに、
ぽとっ。
え。
「えぇー、割れなかったんだけど。」
「そうね。」
割れなかった石は、綺麗に形が残っていた。
なんか、いいんじゃないかな。
ちょっと奇跡っぽくて。
二人の石割りイベントは終わったので、
私がおみくじゾーンに向かおうと歩き出す。
チャリンっ。
ん、お賽銭?
後ろを向くと、陽介がもう一度お賽銭を入れて、
石を選んでるところだった。
「何やってんの?」
思わず、私の声は低くなった。
「いや、もう一回やったら当たるよ。」
……。
もうやってしまったので、
私は彼の投げる姿を見ようと、今度は横から見てみることにした。
「よし、次は当てるからね。」
「はい、頑張って。」
大きく振りかぶって、
待って?下向きすぎじゃない?
「あ、ねぇ、距離、感……が。」
カシャンっ。
あぁ。
「割れた!」
「うん。」
割れたね。
地面に当たって。
やっぱり、力入ってたね。
……。
割れたけど。
「今さ、石に当たってた?」
「んん……多分ね。」
「……厄石に、当たってたかなぁ。」
……。
「陽介、それは今更どっちでもいいよ。
見えてないなら、仕方ない。」
「恵も見てないんだよね?」
「見たよ。石が割れたとこは。
石割りに来たんだから、成功してるじゃん。」
「あぁ……。」
「さ、おみくじ、行こう。」
腕を引きながら、にっこり笑って、陽介の方を見た。
「うん、俺大吉引くわ。」
「頑張って。」
結果は……。
私は、” 中吉 “。
陽介は、” 小吉 “。
「小吉かよぉ。」
「いいじゃん。石、割れたから。」
「まぁね。」
あ……。
なんか、ちょうどいい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




