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逃走聖女は元令嬢で子持ちになった

作者: リーシャ
掲載日:2026/08/28

 冷遇されるのは何度も殺されるのと何も変わらない。そう知ることは不幸なことなんだと思う。


 まともに育たないじゃないかと困ったペルーポが考えたのは、冒険者になることだった。考えてみたくとも特に不適合というわけではない。


 軽く扱われているが、自分は転生者なので科学的に魔法を紐解いてみたら凄く効果が高くなって方法も、できるということすら隠している。バカにしてくる人たちに教えるバカはいまい。いたら安売りだ。今後利用されるだけされて、ボロ雑巾と馬車馬のように働かされる。


 だから、飛び出した。無我夢中で国から国に移動して気付いたら遠くに居て、もうここまで誰も探しにこれやしないと安堵したら、次はどこかに定住したいと思った。

 悉く無計画な自分に叱りつけつつ、どこかいい物件はないかとスキップしつつ、土地の売り買いをする建物を目指す。


「おいっ!」


 ドォン!


 町を曲がりくねる瞬間、横から唸るような太鼓みたいな地響きが聞こえた。


「あれ、久しぶり」


「久しぶりじゃねぇんだよ」


 国から国へ移動するときに知り合って、意気投合したら住む場所に困っていると知り、快く同居をさせてくれた気のいい男だ。同じく、冒険者をしていたのでたまに噛んでいたけど、実力差にあまり組まなくなった記憶が薄っすらある。


 冒険者なので自由に移動するペルーポにとっての、初めての友人。わざわざここへ来たついでに、挨拶しに来てくれたのだろうか。嬉しくなって、近寄って手を上げながら「元気だった〜?」と言う。


「え、どうしたの?奇遇だね」


「その前にいうべきことがあるだろ。腹の子供のこととか」


 指を指し示されてからああ、と声のトーンを戻す。


「めでたく赤ん坊ができてもうすぐ生まれるね?……で?」


 頷きつつ、相手に問い返す。言い終わったけど的な意味で。


「おれの子だろ?」


「……さあ」


 首を傾げる。勿論彼以外の子であるわけがないけど、認められたいわけじゃない。子を認めろと言う気もないし、彼の子だと認めるつもりも毛頭なかった。それがなんだというのだ。


「なぁっ、どうしていなくなった?」


「あなたがいた国は途中に寄っただけって、出会った頃に言ったはずなんだけど?覚えてない?」


 同棲していた時間は二ヶ月もなかった。


「そ、それは言ってたような。覚えてない」


 言ったことを覚えているからか、目が泳いでいる。記憶を洗い出しているのだろう。適当なところも結構好きだ。


「滞在し終わったから次に向かった。それだけ」


「いなくなった理由はわかったけど、なにか置き手紙くらいあってもよかったよな」


「それはあなたの部屋に置いてきた」


「そうなのか?」


「さようならの言葉と今までの滞在費くらいだと思う」


「いや、それ見ても捨てられたと思って、追いかけるからここに居ることは変わらなかった」


「ふーんそうなんだ、じゃあ」


 話は終わったみたいなので声をかけて終わって、そそくさと元々決めていた場所に向けて足を動かす。しかし、クンッと手を引かれて止まるしかなくなる。

 なんなんだろう、と怪訝に相手を見たらそれを上回る怖い顔が張り付いていた。怖いなもう。ここに他人がいたら事案と思われるだろう。


「急いでるんだけど離してくれる?」


「は、離すわけっ!ないだろっ、馬鹿!馬鹿女!」


 こんなところで話すことではない。煩いなと耳を片方塞ぎ、相手に近所迷惑なんだがという顔を見せる。それでも腕をギチギチと掴み続けた。見た目は髭面だけど、実年齢は一回り若い相手。


 彼は見た目と乖離したSランクの大陸でも珍しい、実力者だ。対するこちらは万年Fランク。それもこれも、逃げるために目立たないための処世術なんだけどね。バレるのを回避したいのだから、上に上がるのは矛盾する。


 花が身体に触れるくらい今は、花が咲き誇っている。そんな中で、似つかわしくない叫び声が目立つ。


「叫ばないでよ。不審者として明日の地域新聞に載るかもよ」


「そんなのいつもみたいに、仕事してしまえばあっという間にSランクがやってきたって、手のひら返すんだよ。気にするか」


「相変わらず黒いな」


「黒くて何が悪い。勝手にSランクなのにって言われて勝手に美化するのが悪い。おれは悪くねぇだろ」


 言葉遣いと口が悪い。本人曰く環境が悪くていつの間にか、Sランクになっていたとか。


「子供ができたんなら、教えろよ」


「教えるのなんで?」


「父親はおれだろ?」


「さあ」


 シークレットベイビーを気取るつもりは全くなかったけど、ここまで来たらなんの関係もないことを突き通してお帰り願おう。苦労して実家を出たのにまた誰かに捕われたり、見られたりするのなんてごめんだ。


「とにかくさ、離して。腕痛い」


「痛くないだろ。加減して掴んでるんだから」


「お腹張って痛いから座りたい。邪魔」


 パッと手を離した男を引き離すようにお腹を持ち上げて、まっすぐ医院に向かう。男は無言で付いて来た。ストーカーの如くピッタリと。


「ペルーポさん。こんにちは」


「こんにちは。定期検診に来ました」


 男はやはり無言で何か言いたげについて来たが、医院の受付に向かうときも椅子に座っても離れたくない距離で、めちゃくちゃ邪魔だ。


「肘狭いからもっと向こう移動してよ」


 睨むようにシッシッと言うと一つ空けて、座り直す。外に行く気はないみたい。内心邪魔だなと、何度目かのため息を洩らす。


「ペルーポさーん」


「はい」


 名前を呼ばれていつものように立ち上がる。腰をガッと持たれて杖みたいに支える腕にびっくり。


 ディディだ。彼は無の表情でこちらを見つつ医院の診察室に連れて行く。この男とは入りたくないんだけど。


「部屋入ったら出てってね」


 何も返事して来ない男は、出て行くつもりはないとの意向。部屋に入るといつも一人なのに二人なことを、産婦人科の医者は驚いていた。


 しかし、ここは産婦人科。いろんな経験がある相手は何も言わずにいつもの様子でテキパキとやっていく。赤ん坊が魔法の投影で映されて「問題はなさそうですね」と笑う。ペルーポもハイと答えて服を直す。


「女、男どっちなんだ」


 いきなり同伴者が医者に話しかけた。医者はどうしようという顔をこちらに向けたので「言ってもいいですよ」と眉を下げる。


「女の子ですよ」


「そうか。女の子、か」


 噛み締めるように呟く男は酷く、孤独な顔をしている。それでは次の定期検診にと見送られてから部屋を出て、支払いをしようとしたらもう払われてますよと言われて、呆気に取られた。

 ディディを見たらぼんやりした顔でこちらを見ずに上の空。女の子というどこに上の空になったのか、わからない部分。


「ほら、出ないと邪魔になる」


 図体が大きくて背も高いんだから。腕を持って医院を出ると彼はハッとなった。


「どうして黙ってた。女の子なんだろ。二人で暮らしていくつもりだったのか」


「二人で暮らしていくつもりはない。夫婦がいてその人たちの養子にって話が進んでた」


「な」


「なに?」


「おれの子なんだろ。勝手にそんな」


「あなたは妊娠しないでしょ。私は妊娠してここにいる。あなたと三人で暮らす予定もないのに勝手も何もない。私たちのことは忘れて元の場所に戻ればいい」


 Fランクという低ランク女のことなんて忘れればいい。いや、正直言うとこの人は自分のことを愛しているのだと自覚した瞬間、逃げなければと思った。


 逃げるために転々としている身の上。一つの場所に止まるリスクを負えない。この人は身の上を知ったら、守ると言うだろう。

 ただでさえ、腕にたくさんのものを抱えている男の一人になりたくない。プライドの問題ではなく、相手がいい人だから。


「子供を抱えて覚悟決めんなよ。おれはお前のこと愛してんだ。二人なんて纏めて」


「それが嫌だから」


「おれの子なんだろ」


「さあ。あなたの子ではなくて私の子であることは確実」


「さあってもう何度目だ。魔力でわかるんだぞ」


「魔力なんてどうとでも偽れる。あなたがそうだって言えば、いくらでもどうとでも言えるじゃん」


 腕を離して自宅に向かって行く。家がバレてしまうなあと詮無いことを思う。相変わらず燦々と花が舞っている道。掃除が大変そう。


「例えおれの子じゃなくてもいい。お前と子供とで暮らす」


「はぁ?頭打った?」


 ディディの子供じゃないと散々言っているのに。子供じゃなくても暮らすとは随分、はっちゃけている。


「聞こえなかった?この子はもう里親が決まってるの」


「関係ねえ。渡さない。お前の子だってだけで渡す気はない」


「はあ」


 全く呆れて声も出ない。下手をしたら、元貴族令嬢の己の子供として狙われるかもしれないのに。遠いから可能性はすごく低いけどね。

 有言実行とばかりに里親のところに話をつけて、ペルーポの側にベッタリ張り付き出産したあとは勝手に子供を抱っこして、勝手に子供の名前を口ずさむ。


「かわいいな、おれのメリリー」


「名前まで」


 息絶え絶えのペルーポを他所に、お父さんぶる男。殺意が湧いたのは、出産したばかりだからだ。


「ああ、ほらなやっぱり髪の色、おれのと同じだ」


「……最悪」


 顔が似ているとかならたまたまだと言えたが、彼の髪色は珍しい。


「産毛だけど同じだな」


 骨格も同じだなと言われて、遺伝について知られていない世界での鋭い指摘に、唇を噛み締めた。遺伝により、親の骨格を引き継ぐことは現代では大体知られている。


「その子はあなたの子じゃない」


 退院してから家に赤子と戻り里親を探そうとしたが、ディディが家に張り付いていて養子先がうまく見つからない。

 そして、勝手に婚姻届と子供が婚外子ではなく二人の子供であることも登録されていることを知った。勝手なことを知らぬ間にされ、夫婦にされていた怒りで初の夫婦喧嘩に発展した。それはもうキレにキレて。


「勝手なことを」


「勝手じゃねえ!」


「勝手でしょっ」


 ディディは何もしないがペルーポが緑の光を投げつけた。


「はっ?聖魔法!?」


 Sランクの男は一瞬でそれを看破して指摘したが、怒りで髪がうねる女には関係ない。


「お前聖女かよ!」


「わ、たしを!聖女と呼ぶなっ」


「おわ!」


 男が光に当たりドアを破り、向こうの魚屋まで飛んでいった。この日のせいで、ペルーポがバーサーカーと密かに呼ばれてしまうのは知らない。


「ごほっ。聖魔法は防げん」


 ディディは痛むのだろう腹を摩って舞い戻ってきた。タフなだけある。


「お前が生まれた場所から、逃げるに逃げまくってる理由がわかった」


「実家はこの力について知らない」


 腕を組み顎を引く。


「そうなのか?聖女になりたくないんだな」


「冷遇されて逃げたのに聖女と知って手のひらを返す場所に戻りたがるように見えるの?」


「見えないが……子供には遺伝するのか」


「さあ。聖女は結婚しないし、生涯独身。子を産んだら能力が下がるらしい」


 本を読んだからヤバさにすぐ能力を隠した。


「誰が他人のために捧げなきゃなんないの?バカじゃん」


 冷遇された国に尽くすほど、頭は出来上がってないんだよ。言い終えると抱きしめられる。赤ん坊はまだ夢の中らしく、すやすや息を上下に吐いているので喧嘩について知らない。


「ごめん。知らなかったからって、背負わせて」


「別に。後悔はしてない。子供は普通に嬉しいから」


「そうか?そっか……なら、必ず知られないようにするから。知られても手が出せないようにするから」


「無理なんじゃない?聖女の母に娘。どの国も利用価値あるんじゃない」


 誰にもまだ知られていないけど。


「その聖魔法はいつから」


「自力で。なんなら教えてあげる」


 ポカンと顔を唖然とさせた男は一年後、聖魔法を会得していた。流石はSランクだ。活躍はさらに加速して、妻と娘を持つ男として国はどこも我先に会得しようとしたが、男はどこかの国に所属する気はないと明言した。


「ただいま」


「かえり、パパ」


「おお、言えて偉いな」


「んー、やー」


 抱きしめられて髭の痛さに嫌がられる、あるあるの光景を見た妻にされている女が咎めた。


「柔肌が赤くなるからヒゲはダメだって言ったでしょ」


 手に光を溜めて夫の男に使おうとする動作に、男がサッと子供を下ろす。


「や、やめた!ほら、降ろした!」


 慌てて子供をゆっくり、素早く足を地面に下ろす。


「どう……だった」


「もう探してない。死んだ扱いにされてる」


 ペルーポの祖国のことを探りに、長期に家から離れていたディディはニッと笑いかけた。


「私も体型変わったし」


 わざと下腹部をふくよかにしていたら全体的にふくよかになり、今は恰幅のよいどこにでもいる主婦。


「おかえりのキスを」


「お風呂が先ね」


 暗に汚いので入ってこいとのキレの良いキスの拒否に男が涙目になる。この人は年々、涙腺が弱くなってきているのだろうか。


「おれの奥さんはおれのこと嫌いなんだ」


「勝手に婚姻届出したやつが、媚びを売るのは教育上悪い」


「ダメか」


 肩を下げて風呂に向かう男を見送ると、子供はお父さんについて行く。一緒に入りたいのだろう。お風呂から親子のキャラキャラした声が聞こえた。もうすぐ出るのだろう、数字のカウントダウンも聞こえて来た。


「ディディが好きなお酒でも出しておいてあげようかな」


 聖魔法を冷やすことに使い、鍋を温めることに使う。更にお風呂から出て来た二人の濡れた体と、髪を乾かすのに使うと体型は痩せていた時に戻る。


「ママ、ぼうになった」


 子供の言葉にそうだね、と笑いかける。魔力消費によるエネルギー解放が肉体に多大に影響して痩せているのだ。


「いただきます」


 ディディがホカホカの飯にありつくのを二人して眺める。


「お前の姿をこの前の女に見せてぇな」


 熱っぽく見てくる男に、そんなの嫌だと首を振る。彼はSランクという稀有な存在。モテる。

 妻がこんな体型の場合、ファンや好意を持っていたり隣を望む女は後を絶たない。そんな女がこの前ディディに突撃して、あんな妻より美しい私を妻にしてと声を大にして叫んでいた。


 それを冷たい目で見た男は無視をして、存在してない扱いをして心をへし折った。


「確かにあの人綺麗だった」


「はっ!嫉妬か?」


 期待に満ちた目を輝かせる。性格悪いなこいつ。相変わらず。


「私だったら普段の体系がこっちより、あっちのスリム美女がいいかな」


「お前の好みは聞いてない」


 グビ!と酒をかっ喰らう男を眺めていたら、子供が眠気に船を漕ぐので寝室に連れて行く。リビングに戻ると完食して、皿類をシンクに落として洗う相手。


「私がやる。疲れてるでしょ」


「Sランクは簡単に疲れない。昔は徹夜の任務も多かったしな」


 なんてことない風に言うが、そんなことは聞いてないし今は関係ない。


「今は任務じゃないしここは家でしょ」


 洗い終えた男がテーブルに座る。


「安心したか?祖国と生家」


 確認しに行ってくれた件を再び話題にする。


「一応ね」


「俺も念入りに調べたから安心しろ」


 彼はテーブルの上にある手に手を出して重ね合わせる。


「妻のまま居続けてくれて本当に良かった。出て行かれてないかって毎日不安だった」


「まだ言ってる。諦めたって言ったでしょ」


 結婚させたことを知ったら即、どこかに行くかもとどこへ行ってもコソコソついて来ていたことをふと、思い出す。


「諦めたって、おれが無理矢理色々詰め込んだことを諦めた、ってことだろ」


 しおしおと犬耳で、しょんぼり顔が見えそうな落ち込みを見せる様は本気だ。


「でも、居たでしょ」


「煙突の煙見て崩れ落ちかけた」


「ふうん」


「好きだ」


「へえ」


「愛してる。あの子も」


 続けて甘えるように見てくる瞳。


「私も」


「っえ……え、え!?」


 ワタワタ慌てる相手をジーっと見ていると、照れてしまう。


「リップサービスか?」


「そもそも好きじゃない相手の子供を産もうとは思わない」


 首を振り、降参を告げる。今まで彼の子と言ったことはない。


「や、やっと認めたな。はあ、長かった」


 気が抜けた様子に首をすくめる。


「ごめん。嫌いじゃないから。好きだから重荷になりたくなかった。逃げてる女にあなたは勿体無い」


「んだよ。惚れてるの知ってたんじゃねぇか」


 拗ねた顔になる男。


「まあね。相思相愛だから怖い」


「怖くなんてあるわけないだろう」


 説教するように手をにぎにぎしてきた。今、見た目には、付き合いたてのカップルにしか見えないんじゃないか。


「あなたについて来てなんて言えるわけない。ついて来るってわかってたから」


 外からは夕陽が落ち、暗闇が二人を覆い始めていた。


「性格は褒められたもんじゃない男に惚れた?」


「うん。惚れた。捨てて子供を隠す性格の女に惚れるなんて女運悪い」


「ばーか」


「そっちこそ」


 お互いを茶化しつつ、お酒の入ったコップをかちんと鳴らして夫婦の晩酌が始まった。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。お互い相思相愛です

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