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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞⑥ ~陰りの闇が刻む痕跡《あと》~  作者: norito&mikoto
第1章 制御不能の幼き見習い

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第1話・医呪神官長と医学基礎 ~正しい認識、おかしい結果~

第1章 制御不能の幼き見習い



     第1話・医呪神官長と医学基礎 ~正しい認識、おかしい結果~



 アインの新しいスケジュールでの授業が始まったのは、その翌日。



 これまで通り、アインと指導役の神官との一対一での授業。



 その理由を、アインは自分が他の生徒とは一緒に勉強できないくらい遅れている『落第生』だと思い込んでいる。



 だが、実際には習得速度や理解力が違いすぎる上に、そもそも最低入学年齢に達していないがための個別授業だった。




 最初の授業は専攻『医学』の生徒が受ける、治療魔法の応用に関する基礎知識に関するもの。



 担当講師は主神殿の医務殿総括。医呪神官長のシリウム=ゾナール。



 アインが入院中には主治医として治療に当たっていた主神殿の最高医師。



 正直、普通は学生に基礎講義をするような立場にはない。



 それでもシリウムが担当することになったのには理由があった。




「お前、初級や中級でできる回復魔法がどんなものか、ちゃんとわかっているか?」



 授業の冒頭。シリウムにそう聞かれてアインは首を傾げた。




 治療魔法は使う魔力量や魔力操作の仕方によって効果が大幅に変化する。



 他の魔法との明らかな違いはその一点。




 普通は効果……つまりは起こる現象によって呪文や呪印、合図の言葉すら変わるのに『治療魔法』と呼ばれる、治療に使える魔法はたった二つしかない。



 そして、その二つの『使い方』を極めていくのが上達の基準となる。



 だから、すべての治療魔法は『回復ルイオエル』という合図で発動する、怪我や病気を治すための魔法と。



弱毒アトチヌアーテ』という合図で発動する、毒の効果を弱め、進行を遅らせる魔法。




 では、医学専攻の見習い呪師は何を学ぶのかと言えば、人体構造を始めとした解剖学、病気の仕組みや怪我が治る仕組み、また薬学、毒物学と言った……いわゆる医学にかかわる知識のすべてと、それに付随する技術のすべて。




 回復魔法は、患者が持つ治癒力を高め、怪我や病気を治す魔法。



 弱毒魔法は、毒の効果を弱め、進行を遅らせることで解毒の処置をし、癒す魔法。



 怪我や病気の程度や、毒物の種類によっては魔法による対処ができなかったり、足りなかったりするのを補うための知識と技術だ。




 よって、先ほどのシリウムの質問に答えるのなら。



「……初級では、擦り傷や浅い切り傷、また、喉の痛みや頭痛、胃の不快感と言った病気の初期症状の治療を、中級では、縫合が必要とならない範囲での怪我の治療……風邪の引きはじめなどのごく軽い症状の病気の治療ができます……」


「正解」



 教本通りの回答をしたアインに対し、一言頷いたシリウムは直後に大きく溜め息を吐いた。




 ぐったりと机に突っ伏して、頭を抱える。



 驚いたアインはびくりと身を竦ませ、緊張と困惑で硬直した。



 それを、のろのろと顔を上げて……疲れた顔でシリウムは見る。



 完全に目が死んでいた。




「……つまり、お前がインスにやった回復魔法は初級や中級のレベルを超えていた……」


「……ぇ……?」



 絞り出された言葉に、目を見張ったアインの口から、戸惑ったような吐息が零れた。




 ここでシリウムが言っているのは、入院中にアインがインスにかけた回復魔法のこと。



「先の事件からそろそろ二か月を過ぎたが……皇都西方にある旧都の廃離宮で皇孫皇女であらせられるジャネット皇女のお命を狙う魔族との戦闘が起こったな?」



 その事件で、アインもインスも大怪我をして、一時、生死の境を彷徨うことになった。




 シリウムの確認に、一瞬にして顔も体も強張らせたアインは、ぎこちなく頷く。



「その後、先に回復したインスは退院し、皇宮側での任務で怪我をして、また医務殿に戻ってきた……」



 そこでシリウムはまた溜め息を漏らす。



 アインもまた、表情を曇らせ、俯く。




 皇宮にある神殿に所属する、医務殿の長官である医呪神官のウスニー=メンテからも度々報告はあったが、インス=ラントという皇宮呪師は死神にでも憑かれているかのように、よく医務殿に担ぎ込まれている。



 当の本人にとっても不本意ではあるようだが、状況が一切改善しない。



 やはり本人の資質なのか、それとも上司である皇宮呪師長キプラ=ペンティスの采配に問題があるのか……彼の考えが分からない。


 



「そしてお前が退院する直前。インスの怪我に絡む『魔力の剥離』と『神経の修復』をお前はやってのけた……」



 それに関しては、シリウムにも監督して貰って行った事実なので、アインとしても否定する要素がない。



 しかし、本来であれば見習いにやらせられるような内容でもない。




 けれど、その怪我には、アインの血に宿る魔力が利用されていて、だから治療を行うのはアインが一番向いていた。



 いや。むしろ、アインにしかできない理由があった。




「……お前の中には水の神剣があるからな……どういう訳か、水の神剣はお前に使い手になることを強要しているから、どうにか折り合いがつかない限り、お前は水の神剣という、手に負えない魔法の塊を体内に抱え続けることになるわけだが……」



 その水の神剣の魔力が、アインの流した血に混ざっていた。




 きゅっと、アインが唇を噛んで、手を握りしめる。



 インスを無用に苦しめてしまった原因が自分にあると知った時、物凄く動揺した。



 どうして……!? と恐怖した。




 神剣の魔力が宿る怪我は治らない。



 それは、事件から二か月たっても一切治っていないアインの左腕の怪我が証明している。



 だからインスの怪我も、そのままでは治って行かないか、表面的には治っても後遺症が残る可能性が高かった。




 幸い、インスの怪我に残っていた魔力は、アインの腕の怪我に宿る魔力と違ってごく微かな、霞のようなもの。



 アインが回復魔法をかけることで、その時にその魔力を回復魔法の魔力として利用することで引きはがし、治療に充てた。



 だが……



「……だからと言って、魔力の剥離や神経の修復なんて高等技術。初級や中級の知識と技術でできてたまるか……!」



 溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように、シリウムは低い声で唸る。



 びくりと震えて、呼吸さえできなくなったアインは真っ青。



 自分がいかに常識の埒外のことを行ったのか……漸く、何となく察した。


第1章第1話をお読みいただきありがとうございます。


ペルフィーに引き続き、今回はシリウム神官長の常識が破壊される回となりました。


基礎講義でアインに「回復魔法とは何か」を答えさせたシリウムですが、教本通りの完璧な正解を聞かされたことで、逆にアインがインスに行った治療の「異常さ(高等技術)」が浮き彫りになってしまいます。


そりゃあ、最高医師からすれば「初級や中級の知識と技術でできてたまるか!」と呻きたくもなりますよね(笑)。


大人が頭を抱えて唸る一方で、自分が怒られている(?)と勘違いして、ビクビク震えて青ざめるアイン。


このすれ違いっぷりが本作の醍醐味です!


果たしてアインはどうやってインスを治療したのか?


次回もお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第6弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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