第2話・戸惑う気持ち ~視線の意味に困惑し~
第4章 皇宮医務殿での授業
第2話・戸惑う気持ち ~視線の意味に困惑し~
いつの間に、アインとインスはこれほど距離が近くなったのだろう?
気が付いたらインスに腕の中のアインを奪われていたクロードは、若干混乱しながら二人の様子を黙して見つめる。
アインと出会ったのは自分の方が少しだけ早く……何しろ、アインを保護したのはクロード自身だ……関わっていた時間も、二か月半ほど前まではそう変わらなかったはず。
少なくとも、魔族による皇孫皇女殺害未遂事件より前は、アインと自分との関係も、アインとインスとの関係も、ここまではっきり差はなかった。
つまり……
(……俺が、アインに付くことがなかった間に、仲を深めた……?)
それしか考えられない。
シリウムやウスニーに対しても一切怯まず、いまだに何やら文句をつけているインスの腕の中で。
アインはホッと、安心したように頭を押し付け、抱き付いていて……
嬉しくもあるような、少し、寂しくもあるような……何とも言えない気持ちを覚える。
「とにかく! 一旦病室に戻るぞ! 話はそれからだ!!」
しばらくインスに言いたい放題言われていたウスニーが、半ば逆切れしたように命じて、一同はインスが使っている病室に移動した。
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こっちの苦労も知らないで!!
神殿の秘薬を飲ませた結果。
数日間に渡って続く不快感に唸っていたインスを、半ば揶揄っていたのは認めよう。
しかし、こちらはこちらで考えあっての処方だし、そもそも無茶をする方が悪い。
今回だって、無理を通してインスのために骨を折っているというのに、いつまでもグチグチと……
いまだに納得がいっていない表情のインスの背を押し、病室に移動すると、主神殿から来た護衛官の二人は廊下に待たせ、扉を閉めたところで肩の力を抜いた。
「……あの護衛官は、監視ですか?」
アインを抱いたままベッドに腰かけたインスの問いに、微かに顔を顰めたシリウムが頷く。
え……? とアインが息を飲んだ気配に、インスは落ち着かせるようにゆっくりと背を撫でた。
「と言っても、どちらかと言えば、不当な扱いを受けていないかを気にしているだけで、ある意味仕事熱心な奴ではあるんだが……」
「その結果、子供を無用に怯えさせるのでは本末転倒だがな……」
シリウムが説明し、ウスニーは眉間を揉みながら溜め息を漏らす。
「……ぇ……?」
二人の言葉に、パチパチと瞬きを繰り返すアインは、今ひとつ意味を掴みかねているようで、首が真横に倒れている。
「……つまり、アイン君に怪我などが増えていないかを心配していただけ。ということですね」
「…………え?」
あんなに、何度も見ていた理由が、それ?
「……………」
こてりと首を横に倒したまま、動きを止めたアインの様子に、シリウムとウスニーが溜め息を漏らした。
「……アイン」
「……っ。はい……」
それから、改めて呼びかけたシリウムの声にびくりと肩を揺らして、慌てて居住まいをただしたアインをまっすぐに見る。
「言っておくが、神殿の者らは一応ほとんどが神官だ」
「? ……はい」
シリウムの確認に、それはそうだとアインも頷くが、なぜわざわざ、今更改めて告げられるのかが分からない。
「しかし、残念なことに、時々……よく……頻繁に……。悪い。無理だ……」
先を続けようとして、四苦八苦するシリウムは……最後に諦めて頭痛を堪えるように額を押さえた。
「……つまり、神官も人間だからな……欲に溺れる者がいる」
結局、言いつくろうのを諦めた。
「欲を持つこと自体は悪いことではない。欲があるからこそ、人は成長しようと努力を続けることができる……」
黙って話を聞くアインは……戸惑いが表情に浮かんでいて、一体なぜ、今、この話をされているのかが分からない。
分かっていないことは分かったが、それでもシリウムは話を続ける。
その必要性を理解しているから、インスもウスニーも口を挟まない。
「……欲があるから、生き物は生きていられる……一切の欲を失えば、生きる事すらできなくなる……けれど時に、自らの欲のために他者をないがしろにするものが出てしまう……」
その、極みと言えるのが神話に語られる『赤毛の魔女』。
彼女は、自らの欲望を満たすためだけに……多くのものを踏みにじった。
だからこそ、大陸の守護女神は裁きを下さんとし、大戦が引き起こされたのだ。
「……お前に対して、不当に己の欲を押し付けようとしている者たちが、一定数発生している。ということだ……」
そして、とうとう、シリウムは話の核心である言葉を口にする。
言われたアインは……
「……………?」
ただ不思議そうに、小さく首を傾げただけだった。
第4章第2話をお読みいただきありがとうございます。
インスの腕の中にすっぽりと収まり、すっかり安心しきっているアイン。
その姿を見て、一番最初のアインの保護者(?)であったクロードは「自分が会えなかった間に、いつの間にあんなに仲良くなったんだ……?」と少し寂しさを感じています(笑)。
病室に戻った大人たちは、廊下でアインを取り巻いていた「不穏な視線」の理由について語り始めます。
シリウムが語る、神官もまた人間であり、時に己の欲のために他者をないがしろにする者がいるという厳しい現実。
アインに対して不当な扱い(囲い込み)をしようとする勢力がいることを伝えようとしますが、アイン自身は自分がそんな目に遭っているとは夢にも思わず、不思議そうにするだけ。
悪意に気づけない純粋な幼子に、大人たちはどうやって危険を教えるのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
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【第6弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




