第1話・陥る混乱、静める混乱 ~笑顔の下の怒りを隠さず~
第4章 皇宮医務殿での授業
第1話・陥る混乱、静める混乱 ~笑顔の下の怒りを隠さず~
大丈夫。
大丈夫です。
大丈夫じゃないと……!
「……ン! おい! アイン!!」
「落ち着け! おい!」
「「……っ……!!」」
どこか、遠くで……音がする。
『……決して……忘れてはいけませんよ……?』
穏やかに微笑む、冷たい眼差しが、視界の奥から消えない。
突然「大丈夫!」を繰り返し叫ぶアインの様子に、目を丸くして落ち着かせようとする大人たちの様子も分からずに、頭を抱え、一点を見つめるアインの顔は真っ青。
大丈夫。
――忘れてません!
大丈夫です。
――理解っています!
大丈夫じゃないと……!
――ちゃんと、頑張れます! だから! だから――!!
「……何の騒ぎですか……?」
「……っ……!?」
訝しげなその声に、ビクンと身を震わせたアインが、息を止めてゆっくりと顔を上げた。
「…………アイン君?」
「…………ぁ……?」
軽く、目を見開いて騒ぎの中心にいるアインを見たインスの、赤みを帯びた紫の瞳と、青ざめて、呆然としたアインの、黒にも見える深い紫色の瞳が交錯する。
ほんの僅かに吐息が零れて、震える呼吸が小さく揺れた。
「「「「「「………………」」」」」」
シンと、静まり返った皇宮医務殿の入院棟の廊下に、底冷えするような冬の初めを伝える冷気が流れ込む。
「…………で? これは何の騒ぎですか?」
鮮やかな微笑を浮かべたインスの、一切笑っていない眼差しがアインを囲む大人たちを射抜く。
「「「「………………」」」」
喉の奥で凍える呼気を飲み込んで、硬直したシリウムたちの答えを待たずに、あまりの騒がしさに廊下に出て来たインスはゆっくりとアインに歩み寄る。
「こんにちは。アイン君」
「……ぁ……。こ、こん、にち……は……?」
穏やかに微笑みかけるインスを見つめるアインはポカンとしていて、ただただ、不思議そうに目を丸くして見つめ返す。
「…………っ!?」
無言で、そしてさりげなく、クロードの腕からアインを引き取って、自身の腕の中にアインを抱いたインスも、少し首を傾げてゆっくりとその背を撫でる。
ほうっと。アインの身体からこわばりが解けて、小さな手が縋るようにキュッと、インスが纏う寝衣の胸元を握りしめた。
「……で?」
「「「「……すまん……」」」」
それから、改めて大人たちを見たインスの底冷えする笑顔に、十八歳の彼よりずっと年上の四人はただただそう言うことしかできない。
「いい歳して、何をやっているんですか? あなたも……」
声音は冷たいままに、表情には呆れを滲ませて、インスの目がシリウムに付いている護衛官を見据える。
「あなたの護衛対象はアイン君ではないのでしょう?」
「…………はい」
にこりと、その女性的で優しげな風貌に、笑っていない鮮やかな笑みを浮かべるインスに、護衛官は背筋が冷えるのを感じて息を飲む。
ぎこちなく認めれば、温度が二段下がった。
「その『本分』を忘れた護衛官など、害悪ですよ?」
「……仰る通りです……」
ますます身を竦める護衛官と、穏やかなのに冷たい気がするインスの様子とを、その腕の中のアインが不思議そうに見上げていた。
第4章第1話をお読みいただきありがとうございます。
重なる違和感が、ヴィロバ校長から植え付けられた『神殿から見捨てられる恐怖』を呼び覚まし、アインの心はついにパニックを起こしてしまいます。
見えない恐怖に向かって「大丈夫じゃないと!」と必死に叫ぶアイン。
しかし、その絶望の底に、底冷えするような静かな空気を纏ったインスが現れます。
騒ぎ立てる大人たちを冷ややかに見据え、アインを腕に抱き留めるインス。
彼が纏う優しい温もりに触れ、アインの強張りが解けていく瞬間の安堵感。
ボロボロになったアインの心を、インスはどうやって解きほぐしていくのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第6弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




