第1話・神官呪師学校校長 ~ヴィロバ=エルマーニ~
第3章 神殿の呪師たち
第1話・神官呪師学校校長 ~ヴィロバ=エルマーニ~
アインが新しいスケジュールでの授業が開始されて一週間が過ぎた。
この一週間の間に受けた授業は四つ。
初日は『医学』に関する授業。
ここでは、医呪神官長という、医学を専門分野とする神官呪師のトップから、自分が使った回復魔法が通常のそれとは違い、逸脱したものであることを突き付けられた。
午前中の座学だけで講師役の神官長も、アインも精神的に疲労困憊となってしまい、予定されていた午後からの実技指導……復習は中止される事になった。
翌日は休養日とされてしまったので、授業を受けることもできず、時間を持て余したアインは図書殿で読書をしたり、小礼拝堂で礼拝したりとして過ごし、翌日。
二回目の授業では『図象』魔術に関する知識の復習と、上級・高位での図象に関する話を聞くことになった。
図象魔術というのは魔法を使う際に必要となる呪印の種類や使い方など。
中級の習得のためには必須の技能で、より高度な魔法を使うためには多くの『図象』を学ぶ必要があるのだという。
「君は白魔法の図象だけではなく、精霊魔法は当然として、黒魔法の図象も学んでいますね?」
担当講師は神官呪師学校の校長であるヴィロバ=エルマーニ。
これまでも、神官呪師見習いであるアインの座学を主に担当してきたのは彼で、ある意味詰め込み教育を主導した張本人の一人。
片眼鏡の奥の淡い緑色が、黒くも見えるアインの深紫の瞳を射抜くように見つめる。
「……はい……」
その眼差しの強さに委縮して、身を竦めるようにしながら頷くアインは、どうしてこんなに強く見られているのか分からない。
「……本来、神官呪師は黒魔法を学ぶことはありません……。君が神殿から皇宮呪師学校に通って皇宮呪師としての学習も受けていることは異例です」
頷き返したヴィロバは若干強めの口調で断定し、俯いて小さくなっているアインを見下ろすように見た。
(……この子が、本当に『奇跡』を起こしたというのなら、黒魔法などという穢れた魔法を学ぶべきではないでしょう……)
白魔法は神族に助力を乞う光の魔法。
対して黒魔法は魔族の力すら利用する闇の魔法。
本質的に相容れない、光と闇という正反対の性質を持つ魔法。
如何に才覚があろうとも、本来ならどちらかに絞るべきなのだ。
(……ああ。皇宮側に押し切られて、この子を穢れに触れさせてしまいました……一生の不覚ですね……)
目を眇めてアインを見下ろすヴィロバの思考を知る者がいれば、少し落ち着けと宥められたことだろう。
けれど、幸か不幸か、アインの授業は講師役の神官と、生徒であるアインとの一対一。
他に誰も見ることのない、知ることのない密室空間。
「……アイン。君は、神官呪師見習いです……」
「…………はい……」
ヴィロバの言う通り、公的立場としてアインに与えられているのは間違いなく『神官呪師見習い』。
だから、所属は神殿側で、住まいとして与えられているのも神官呪師学校の生徒専用呪師寮の一室。
衣食住と教育。
そのすべてを保証されているのは、神殿側がアインを引き受け、管理しているから。
そのことを……
「……決して……忘れてはいけませんよ……?」
そっとアインの頬に両手を当てる。
ゆっくりと、けれど確実に顔を上げさせて……
冷ややかな眼差しで見つめながらも、穏やかに微笑むヴィロバの言葉に……
「…………っ。……は……ぃ……」
ゾッとして青ざめたアインは、目を逸らすことも許されないまま、震える吐息を漏らして頷いた。
第3章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は神官呪師学校のヴィロバ校長のターン!
……なのですが、この校長先生、本当に笑顔が怖いです。
アインが皇宮側で黒魔法を学んでいることがお気に召さないようで、2人きりの授業中に「君は神殿側の人間なんだから、忘れないでね?」と強烈な圧をかけてきます。
決して声を荒らげるわけではなく、穏やかな微笑みのまま放たれる、底冷えするような圧力!
逆らうことなど許されない状況で、ただ震えて頷くしかないアイン。
完全にアインの「捨てられたくない」という弱点を知り尽くした上での囲い込みですが、果たして、アインの心はもつのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




