僕らの関係
『好きです。付き合ってください。』
と、一言言えたらどれほど簡単だろうか。
人生で一度は言ったり言われたりしたことはあるであろう言葉を脳内で反芻する。
彼と彼女の気持ちは同じはずなのに、どこからすれ違ったのだろうか。
幼稚園なのか小学校なのか中学校なのかそれとも…
「悠真…少しだけ時間ある?」
その言葉にスマホから高瀬 悠真は顔を上げ声の主に目を向ける。
声の主は申し訳ないような戸惑ったようなどっちつかずの表情を浮かべてこちらの反応を待っている。
「大丈夫だよ。どうしたの凛?」
その一言で凛と呼ばれた女の子(佐倉 凛)は安堵の表情を見せる。
「ありがとう。ちょっと来てもらえる…?あまり人のいる所で話す内容じゃないから…。」
凛に促されながら教室を一緒に出る。凛は少し足早にこの時間は誰もいない空き教室の扉を開いた。
空き教室ということもあり、薄暗くホコリぽい教室。そこに無造作に置いてある椅子に2人は座る。
凛が『ふっー』とため息を吐き、覚悟を決めた眼差しでこちらを見る。
その眼差しに思わず緊張を覚える。今からどんな展開が待っているか悠真自身は分からず凛の言葉を待つ。
「あのね…こんなこと悠真にしか頼めないんだけどね…。」
歯切れの悪い言葉にますます緊張感が高まる。悠真の知っている凛ではないことはすぐに理解した。
悠真の知っている凛といえば、先輩だろうが先生だろうが決して物怖じせず、自分の気持ちを伝えることが出来るからだ。
「凛どうしたの?そんな詰まるの珍しいね。」
「うるさい…私に言いにくいことくらいあるのよ!」
この場面で逆ギレするのはどうなんだ…と思いながらも、小さい時からお互いの事を知っている手前これくらいの事で特に思うところはない。
「実は最近、色々な人から告白されててね、迷惑ではないんだけど、少し大変でね、だから悠真に彼氏役やって欲しくて…。」
後半になるにつれて声が小さくなっていったがなんとか聞こえた。
聞こえたけど…。なんだって?彼氏役?
現実でそんな事本当にあるのか?ドラマや小説の中だけの話しではないのか?
悠真の頭の中は混乱しつつもしっかりと動いていた。
「ど、どうしたの?急に…。凛がサッカー部のキャプテンだったり、学校一のイケメンだったり、あまつさえ先生からも告白されてるのは知ってたけど…。」
「悠真あんたどこから聞いたのよ!」
凛は顔を赤らめながら悠真に詰め寄る。よくよく見ると、目には涙を溜めながら真剣な眼差しでこちらを見ている。
「知っているなら話しは早いね。少しの間だけでいいから、私の彼氏になって欲しいの。もちろん仮でいいから。」
事情を知っているならと矢継ぎ早に話し始めたが、聞かされている側は途中から全く話しが入って来ず、まるで水の中にいるような感覚になる。
途中、聞いているのかと聞かれそこでようやく意識が水の中から引き戻された。
「聞いてるよ…。」
弱々しい声で答える悠真に対し、凛は満足気な顔で一言「よろしく。」とだけ残して空き教室を出る。
「何がよろしくなんだ…。」
空き教室で一人取り残された悠真はため息を零しながら、椅子に背中を預ける。




