6話 贈り物と罠
アレクシス様と共に夕食を食べる。
いつもは仕事で遅いけど、今日だけは大事な日。1年前の今日、私がこの屋敷で目を覚ました日、アレクシス様に言われた。
『屋敷の外へ出ては行けない。毎月、この日付はプレゼント交換を行う』
と。だから私は今回、カフスボタンを用意した。
「アレクシス様…こちら。今回のプレゼントです」
「………あぁ」
アレクシス様は箱を一瞥するだけで、食事の手を止めて開ける気配も無い。
「俺からのプレゼントは届いたか?」
「はい」
「明日、それを着ろ。劇場へいく」
…はい。別に他意はない。そう言われたら従うだけ。
次の日、私はいつものように目覚め、侍女に連れられ自室へ向かい用意をした。
ドレスなんて何年ぶりだろう。
鏡に映る自分を眺め、笑うわけでも回ってドレスの裾で遊ぶ訳でもなく、ただ見つめる。
「出来たか。」
「はい。」
いつものようにアレクシス様に手を引かれ、玄関外に止めてある馬車まで歩く。
袖口には、私の送ったカフスボタンがチラついて見える。
すれ違う使用人が皆、一斉に行ってらっしゃいませと頭を下げる。
私も、アレクシス様も特に返事を返さずそのまま馬車へ乗り込んだ。
馬車の中でも終始無言。馬車のカーテンは閉められており、外を見れる訳でもない。
ただ、気まづいとは感じない。無言、会話なしはいつもの事だ。ただ、食卓や寝室が外になっただけ。
私は侍従に渡された新聞を読む。
“近衛騎士第1隊長と副隊長の恋愛に迫る!!”
という見出しで大きく書かれた記事。
“副隊長ユリウス・アルヴェーンは、
婚約について問われると
『ある想い人がいる。その人が幸せになるまでは、
僕は誰とも婚約しない』と語った“
想い人…ねぇ。そう。
“隊長アレクシス・ヴァルクロードは、
『ずっと欲しかった猫を1年前から飼い始めたが、
その猫が懐いてくれない。
だがしかし保護した野良猫が懐くまで、
無理に抱き上げることはしない。
それと同じだ』と語った“
猫なんて飼ってたかしら?
劇場へ着き、私達は支配人のような人にバルコニーへ案内される。
そこは劇場全体が見渡せて、舞台もよく見える席だった。
「座りなさい」
「はい」
しばらくして、開演のブザーと共に幕が上がった。公演の内容は、巷ではやっている、小説だ。
ガゼボに遊びに来る令嬢と、騎士の恋愛物語。
令嬢は美しさのあまり、ガゼボの妖精と呼ばれ、騎士は不器用ながらも妖精の温かさに触れ、心通わせるストーリーだ。
途中、ライバルの悪徳伯爵が出てきてガゼボの妖精を攫おうとするが、騎士が間一髪で助け、ついにふたりは結ばれる。
というお話だ。
特に心動かされることは無い。なんて思いながら、周りに合わせて拍手をする。
「ヴァルクロード隊長!よろしいでしょうか?」
「あぁ」
アレクシス様はそばに控えていた部下に呼ばれ、行ってしまった。
先に馬車に戻れともその場に色とも言われなかった私は、劇場のエントランスへ行くことにした。
バルコニー席で待機してしまうと次の公演に迷惑がかかってしまうし、馬車はどこか分からない。
そう思って歩き始めた時だった。
「エリシア嬢!!!」
聞き覚えの声に足が止まる。
「この1年どこに居た!?探したんだぞ!さぁ早く帰って結婚式をあげよう!私の妻になるのだ!」
バルドリック伯爵……どうしてここに。
アレクシス様もいないし。
強引に腕を掴まれて引っ張られる。
もう、本当に、どうでもいいや。
抵抗する理由が見つからなかったので、私は目を閉じて、引っ張られるまま歩き出した。
その時だった。
「「エリシア!!!!」」
もう一人、いや、二人聞き覚えのある声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、目の前には剣を構えるユリウスの後ろ姿と、バルドリック伯爵を取り押さえるアレクシス様の姿。
「バルドリック伯爵!殺人教唆容疑及び誘拐未遂の現行犯で逮捕する!」
目の前で悔しそうな顔をしながら手錠をかけられる伯爵。
「エリシア!これは誘拐じゃない!そうだろ!?君からもなにか言ってくれ!私たちはずっとずっと前から付き合っていると!!!エリアス!!!私達は付き合っていたんだ!!!!」
エリ…アス……エリアスは母の名前だ。
「どうして……」
全て聞き終わる前に、伯爵はアレクシス様の部下により連行されて行った。
これでやっと……全てが終わった…の?




