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もう何も望まない私を、騎士公爵だけが手放さない  作者: SoL


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1話 目覚めた屋敷

 私の日々はあの日から全てが変わった。

 そして、毎日同じ事の繰り返しが始まった。

 朝はベッドの軋む音で目が覚める。


「おはようございます」

「……」


 返事が返ってこないのはいつものこと。

 むしろ月に1回返ってこればいい方だ。


 私はまだ重いまぶたを擦り、傍に掛けてあるガウンに袖を透す。

 彼は私を一瞥して、同じく傍に掛けられている騎士服へ手を伸ばす。

 そして彼が着替え終わるのを待ち、差し出された手を取って食堂へ向かう。



 その手は、いつもより少しだけ強く私を引いた。




 朝食は毎日絶対一緒に食べる。それが唯一のルールだ。

 もちろん、朝食の間も会話はゼロ。その方が楽だし、どうでもいい。



 彼は食べ終わるとすぐに仕事へ向かう。私は食べるのを途中でやめ、玄関ホールまでお見送りをする。


「行ってらっしゃいませ」


「……あぁ。今日は…早く帰る。大事な日だから」


「はい。お気をつけて」


 彼もあの日を覚えていた。私の事を助けてくれたあの日を。


「アレクシス様」


 遠ざかる彼の背中に向かって名前を囁く。当然、聞こえてる訳もなく馬車に乗り込み屋敷を後にした。


「エリシア様。本日の新聞でございます」


「えぇ。ありがとう」


 侍従から新聞を受けとり、私は私室へ向かった。

 あの日から、私は屋敷の外へ出ることを禁じられた。なので唯一の情報源はこの新聞。

 毎日外の状況を知る為に読んでいる。


 この1年で分かったことは、アレクシス様が出世して近衛騎士隊長になったこと。

 そしてゴシップ欄ではあの男、バルドリック伯爵の現在。



 私が必死に逃げていた相手。あの時は、後妻にしてやると言い寄られていた。

 未だに新しい後妻は迎えられていないらしい。



 ソファに腰掛け、侍女が用意してくれた紅茶を一息飲み、新聞を広げる。


 父の失踪から1年半。毎日新聞を読むのは、父の手掛かりを掴むためでもある。

 父は、貿易商を行っていた。元々小さな領地を持つ男爵家だった父は、自領の寂れた港町に目をつけ、事業を起こした。


 それが成功し、王室へ献上するほどまでに至った。そして1年半前。父はさらに貿易先を広げると言い残し、航海へ出たきり音沙汰が無くなった。

 母は幼い頃に帰らぬ人となっていた私は、天涯孤独になってしまった。


 それでも生きるしか無かった私は、爵位を返上し、平民になる道を選んだ。

 そして花屋で仕事をしている時のことだった。

 私の容姿を気に入ったバルドリック伯爵に求婚されたのだ。



 そして半年後、私はもう何も望まなくなった。

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