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Prolog.
夜道を走る靴音が、やけに大きく響いていた。
息が苦しい。胸が痛い。けれど立ち止まれなかった。
「……待ちなさい」
背後から伸びてきた声に、全身が凍りつく。
振り返らなくても分かった。
この声の主を、私は知っている。
「こんな時間に一人でいるなんて、無防備だね」
指先が、私の腕に触れようとした、その瞬間。
金属の擦れる音とともに、低い声が割って入った。
「――彼女に触るな」
視界の端に、銀色が閃く。
騎士の装いをした青年が、私と男の間に立っていた。
「あなたは……?」
限界に近い力を振り絞り、発した言葉。
男は舌打ちをして、姿を消した。
誰かに抱き留められた感触だけが、微かに残った。
――ああ、もうどうでもいい。
そんな考えが浮かんだところで、意識は闇に沈んだ。
次に目を覚ました時、
私は外の世界から切り離されていた。




