26 銀河市民の生活に生まれたテレポ前夜の変化
テレポーテーション技術の存在はまだ公には知られていない。
だが、市民の生活にはごく微細な変化が紛れ込みはじめていた。
貨物ワープ便の各スケジュールに、微妙な「不自然な空き」が出始める。
物流企業は理由を説明しないが、ベテラン操縦士は噂する。
「なんか最近、物の移動が軽くなった気がするんだよ…質量の偏りがない日が続きすぎる」
文化復旧プロジェクトの副産物として、古文書や失われた工芸品の再現品が完成度高く出回りはじめ、市場に静かな熱狂が起こる。
市民はまだ知らない。
その復元技術が空間転移のコアであることを。
一般家庭に普及している分子スキャナが、ときどき「未分類の構造データ」を記録するようになる。
市民は単なる故障だと思うが、専門家は薄々感じていた。
局所空間の密度揺らぎが起きている。
各文明の研究者がタツヤのもとに集まり始めたため、各政府は技術空白を恐れ、大規模な視察団や調査官を派遣。
市民は気づかないが、各星系の官僚の移動量は急増していた。
めぐみは多文明会議で、
「この技術は、移動における差別を消す。
距離格差も、資源格差も、文明格差も無意味になる。」
この演説が銀河通信で抜粋引用され、一部の若者の間で流行語となる。
市民同士のオンライン討論では
「移動は権利か?」
「空間は共有できるか?」
という議論が静かに始まる。
何かが変わる。
明確ではないのに、人々は直感していた。
星港の利用者が減りはじめる
長距離輸送の予約が鈍る
観光業は奇妙な低迷に入る
反対に「研究ツアー」「文化保存旅行」が伸びる
「今のうちに見ておいたほうがいい」
「これが最後の旅になるかもしれない」
そんな会話が日常の端々に混じり始める。
手紙の到着が早すぎる
ある星系では、通常3日はかかる手紙が1日で届く。
配送員は説明せず、ただ無言で荷物を渡す。
行方不明の小包が、完璧な状態で戻ってくる
一度紛失した荷物が、当初以上の保存状態で戻る。
「こんなに箱が綺麗だった?……いや、もっと汚れてたはずだ」
市民は気づかない。
それが原子単位で再構成された物体だとは。
子どもは、大人よりも先に変化に気づく。
空間の匂いの変化
自分の影が微妙に遅れる感覚
遠くの音が近くに響く瞬間
ある子どもは母親に言う。
「ママ、空間が……呼吸してるよ」
まだ誰も説明できない。
だが銀河規模で、宇宙そのものが共鳴しはじめていた。




