13 宇宙連邦 倫理会議議事録
議題:最資源化技術の社会的影響と乱用問題について
議長(記録音声)
「本会議は、最資源化技術の想定外利用の急増を受け、緊急討議に入る。
開発主任である天才タツヤ氏にも参考人としての発言を求める」
メグミ:外交の牙は笑顔の下に
メグミは会議ホールに足を踏み入れた瞬間から、空気が重たく歪んでいるのを感じていた。
都市中枢のホログラム掲示には、連日最資源ブームの映像が流れている。
老朽化したコロニーの船体が光の粒となり、数秒で新品素材に変わる喜びの声。
宇宙港の清掃に喜ぶ作業員たちの笑顔。
だが、問題はそこでは終わらなかった。
「歴史博物館も最資源化の対象に」「古墳も再利用求む」
人々の声は熱狂と混乱を孕み、文明の境界が溶け始めていた。
バカじゃないの…
メグミは舌打ちしそうになるのを耐えた。
彼女は外交部長官に席を寄せ、低く囁いた。
「こうなることは最初から予想できたわ。
だから私は言ったの。
文化は交換可能な商品じゃない、って」
長官は苦笑しながら応える。
「君は正しい。
ただ、宇宙は常に便利へ進む……止めるのは難しい」
メグミは会議場の中央に立つ天才タツヤを見つめた。
さあ、どう乗り切るの? あなたの出番よ。
あなたの理想が、試されている。
ツトム:ビジネスの都合と現実の狭間で
ツトムは腕を組みながら会議の冒頭を眺めていた。
彼の端末には売り上げ曲線が映り、目が痛くなるほど急角度で上昇している。
「最資源機、一億台出荷完了…売り上げは1000倍。
市場支配率は......」
惚れ惚れする数字である。
だが同時に、苦い感情も浮かぶ。
やりすぎたか?
いや、ビジネスにやりすぎはない。
喜ぶ人がいて、社会全体が便利になるなら、それは前進だ。
だが、タツヤの表情は明らかに沈んでいた。
その様子を見てツトムはつぶやく。
「言っとくが、俺たちは正しいことをした。
ゴミを宝に変え、人類の可能性を広げた。それが罪かよ」
しかし胸の奥に引っかかる。
…文化を消すことは誰も望んでなかった。
ほんの一握りの暴走者が歪めてしまった。
ツトムは額を押さえた。
「やれやれ、始末は面倒だな…ジンヤが文句を言うぞ」
ジンヤ:法務は火消し役ではない
ジンヤは机に資料の山を積み、深いため息をついた。
「古墳最資源化事件」
「戦争記念館消失事件」
「文化財を新品素材にされる被害申告 24万件」
「……まじかよ。
人類は道具を手に入れると必ず極端に走るんだな」
彼はツトムにメッセージを送る。
【おい。派手に動きすぎだ。
あと処理は全部俺ら法務の役目だ。
せめてタツヤを黙らせてくれ。
いま彼に爆発されたら終わる】
ツトムからすぐに返事が来た。
【わかってるよ。
青二歳のフォローもしてる。
地方の席も確保して、長官への寄付も準備した】
ジンヤは額を押さえた。
「俺らは政治家かよ……」
だが、タツヤの表情を見ると、もっと深く静かな問題があると悟った。
倫理会議で、ついに天才タツヤへ発言が回る。
議長
「最資源化技術はあなたの理念と外れた利用が増加しています。
あなたの見解を」
タツヤはゆっくり立ち上がる。
目はどこか遠く、しかし焦点はぶれていない。
「……僕は、ゴミを宝にしたかった。
廃棄船を、汚染惑星を、無力な文明を救いたかった。
だけど....」
会議場の空気が張りつめる。
「いま人々は、文化そのものを再資源化し始めている。
思い出も、歴史も、遺跡も、
便利だからという理由で、
消してしまおうとしている」
メグミが息を呑む。
タツヤは続ける。
「文化は、効率に負けてはいけない。
美しいものは、残す努力が必要だ。
残るのが当たり前ではない」
彼の声は震えていた。
「どの文明も、開発者の意図には従わない。
ダイナマイトも、レントゲンも、
薬も、菌も、ウイルスも……
良かれと思い作られたものほど、誤用される」
タツヤは天を仰ぐように目を閉じる。
「でも、文明は間違える。
だからこそ、飛躍する」
その瞬間、議場の誰もが言葉を失った。
老女の言葉 のちに宇宙連邦で引用される思想
タツヤの言葉を受け、議長が静かに言う。
「本会議には、一般市民の声も届いています。
先日の古い住宅の最資源化で、
ひとりの老女がこう語ったと報告がある」
スクリーンに老女の録音映像が流れた。
老女の声
「人生は積み重ね、降り積もる雪のように思い出が増えてゆく。
やがて淡く消えてゆく輪廻……
でも、その場所にはまた新しい芽が育つ。
それでいい。
若者よ、大きく生きよ。
そして次への道しるべになりなさい」
議場は静まり返った。
その言葉は後に、
宇宙連邦倫理憲章 第三条
として引用されることになる。




