12 最資源(サイリソース)ブーム
最資源装置は、もはや魔法と呼ばれていた。
惑星そのものが巨大な資源庫となり、スクラップも塵も、朽ちた宇宙船も、
汚染された大地すら、装置へ放り込めば新品の素材として甦る。
ただの技術ではない。
文明そのものを再定義する、すべてを再生する力。
人々の「いいね」は爆発的に増え、
宇宙SNSは常に最資源装置の話題で埋め尽くされた。
人類史上最大のブーム。
すべてが清潔に、効率的に、そして便利に…。
だが、暴走は静かに始まった。
「古いものは価値が低い。
ならば最資源化すれば、もっと高品質な未来の素材になる!」
そんな意見が宇宙市民の間で広まり、いつしか文化にまで手を伸ばしていった。
歴史ある博物館の展示品が、
古代の遺跡が、
数千年の記憶を抱く古墳までもが、
「最資源候補リスト」に載せられた。
SNSには投稿が溢れた。
「古墳を最資源化しよう! 新しい観光施設に役立つよ!」
「石器とか骨董とか、古臭いよね。素材にした方が未来的!」
天才は、その情報を見て、思わず眉をひそめた。
彼が求めたのは価値ある未来であって、なにも価値を消す未来ではない。
ゴミを資源にしたつもりが、人々は文化までもゴミ化し始めていた。
「文化を最資源する?
美しいものは残る?
あたりまえではないのか?」
胸の奥に、絶望にも似た違和感が芽生える。
リサイクル現場で出会った、あの老女の独り言が脳裏に蘇る。
「思い出はリサイクルできないよ。
人生は積み重ねなのよ。
雪のように降り積もり、いつか淡く消えてゆく…。
でもね、消えた場所には、新しい芽が育つのよ。
それでいいのよ。
若者よ、おおしく生きなさい……。
次への 道標 になりなさい。」
その言葉が、胸を刺す。
彼女は未来を拒んでいたのではない。
ただ、消してはいけないものの存在を知っていたのだ。
後年、この老女の言葉は、宇宙連邦倫理会議において引用されることになる。
当時の議長は、この言葉を冒頭に語った。
「文明は進む。しかし進めばいいというものではない。
思い出を消すことは、文化を消すことだ。
文化を消すことは、魂の喪失だ。
我々は、いまその岐路に立っている。」
最資源装置の運用基準、
銀河文明の文化保護の法整備、
倫理AIの再設計……。
全ての議論が、老女のあの静かな言葉から始まった。
天才は未来を変えた。
しかし、未来を救ったのは、
あの雪のように儚い人生を歩む老女の声だったのかもしれない。




