12/29
11 老女の独り言
天才たちは知らない。
彼らがいま胸を焦がして見つめている未来の眩しさを。
あの子たちの目は、まだ濁りひとつなく、
ただ前へ、前へと突き進む光のようだ。
けれど、人の生は、そんな一直線じゃない。
人生とは積み重ねだ。
降り積もる雪のように、静かに、確かに、思い出が層になってゆく。
やがて春になれば雪は溶ける。
けれど、その下に眠っていた土から、新しい芽が育つ。
それでいい。
世界はそうして続いていく。
「若者よ……おおしく生きなさい」
老女は小さく呟いた。
消えた家の跡に、新しい陽が一筋差し込んでいた。
「そして……次の道しるべになりなさい」
その声は風に運ばれ、解体現場の奥へと消えていった。




