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10 「思い出はリサイクルできない」

 惑星辺境区画・第三居住帯。

 くすんだ赤土の上に、ひとつの古い住宅がぽつんと残っていた。

 外壁は日に焼け、長い歳月を語るように色あせている。


「こちらが、今回のリサイクル対象物件です」


 係官が淡々とタブレットを掲げ、業者に引き渡しのコードを送る。

 宇宙連邦は無駄ゼロ政策の名のもと、老朽化した建造物を資源として再利用する事業を急速に拡大していた。

 その中心にあるのが、あの天才が発明した原子分解再構成装置。

 どんな物質でも、分子から原子へ、原子核から電子へまで分解し、別の素材として再生成できる魔法の装置だ。


「了解。じゃあ、すぐ取りかかります」


 業者の作業員たちは無表情で装置を設置し、住宅全体を覆うようにフィールドを展開した。

 高周波の唸りとともに、家はゆっくりと粒子化し始める。


 その少し離れた場所で、一人の老婦人が柵に手をかけて見つめていた。

 表情には、覚悟と寂しさが混じりあっている。


「……なくなるのね。思い出の家が」


 隣に立つ娘が、母の肩をそっと抱いた。


「お母さん。この家の素材は、また誰かの宇宙船の壁になるかもしれないし、

 新しい街の橋になるかもしれない。

 ほら、ほら……もう使われなくなっただけなのよ。

 誰かの役に立てるの。

 それで、いいでしょ?」


 老婦人の目は細められ、家が光の砂になっていく様子を静かに追い続ける。


「あぁ……そうだね。そうかもしれないね」


 声は震えていたが、否定ではなかった。


 しかし、娘は最後にそっと付け加えた。


「……でも、お母さんの中の思い出は、誰にも分解できないよ」


 フィールドの輝きが収束し、家は跡形もなく消えた。

 残されたのは、なめらかに舗装された更地と、遠い記憶の匂いだけだった。


 思い出だけはどんな文明でもリサイクルできない。


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