カカオ星 命の湖
今から何十年も前になる。
火星を飛び立ったアンドロイドとクローンを乗せた探索船は彼らを仮眠冷却装置モジュールにしまい込んだまま、探索船のトラブルにより、ある太陽系の6番目の惑星をまわるカカオ衛星に不時着する。
この事故の生存者は15名の探索者うち2名だけだった。生き残った探索者は、初期型アンドロイド男性XY型と軍人モデル生産のクローンだけで、男性型アンドロイドは運良く無傷にちかく残った仮眠冷却装置モジュールから自力で脱出し、故障しながらも、まだ生命反応があるモジュールから東洋系の軍人モデルクローンを助け出す。
アンドロイドはあまりにも低温なこの星の環境に生命の危機を覚え、背に腹は代えられず、無傷だった一人用のモジュールにクローンを押し込め、自らの体も押し込む。
アンドロイドはこの危機をどうにか好転させようと、モジュールに備えられていた機器を駆使し、遭難信号を発信するなど、出来る限りのSOSを試みる。
どれほどの時間が経っただろうか、救援は来るはずもなく、この極悪な環境に影響を受け、アンドロイドの高性能な半永久的容量バッテリーも力を失いつつあった、アンドロイドの意識も徐々に闇に落ちていく。
「助けてあげようか....聞こえてるかな....聞こえ.....」
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心地が良かった。
全身を程良い温度の液体が包み込む、呼吸がしやすく、全身の細胞が活性するのを感じる。快感だった。
東洋風軍人モデルのクローンが気がつくと、その体は銀色の液体の中に浸かっていた。その成分はまるでわからない.が、全身を癒やしているのは理解できた。
ふと隣に目をやると、同じ探索船に乗車していた男性型アンドロイドも銀色の液体に浸かっている。
あまりの快感にクローンは再び目を閉じ、眠りに落ちてしまった。
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真っ青な草原をオレンジ色の足の六本ある馬似た草食動物の群れが走っている。草食動物たちは追われている。
それを狙う数匹の肉食動物たちは馬たちより一回り大きい二足歩行の恐竜に似た姿で、その尾にはモルヒネに似た麻酔薬をもち、それを狩りに使っていた。
この星の地熱をエネルギーにする植物たちは広大な森を作り、その中には沢山の昆虫生物が生活している。
マントヒヒに似た七色の毛並みをもつ猿たちが、その昆虫や樹の実を食する。マントヒヒたちは、その足にスプリング式の筋肉組織をもち、驚異的な跳躍力で移動する。
猿たちが地底の空に舞い上がると、ホバリングで待ち構えていた、大型の真っ黒なトンボに似た昆虫生物が、猿たちを空中で捕獲する。猿を捕食したトンボ生物は、それよりも大型のトンボ生物に一瞬で捕獲される。地底の空には大小サイズの違うトンボに似た生物たちが無数に飛んでいた。
多くの動物が集まる水辺に目を向けると、二匹の頭にコブの目立つ1メートル程の牙のあるスッポン似た生物が縄張り争いをしていた。このスッポンのコブに生体電気を感知する器官があり神経が詰まっていた。
突然、このスッポン二匹は槍の様な外骨格に腹を貫通され、持ち上げられる。水辺の泥の中に隠れ、獲物を狙っていた、巨大な真っ赤なサソリに似た生物が姿を現す。尾を入れると3メートル弱もある真っ赤なサソリは両手に槍の様な武器を備え、その他にも針のついた長い尻尾の武器持ち、その尻尾にはヒ素毒を備えていた。
そのサソリの騒々しさに水辺での休息を邪魔され怒ったゴリラに似た生物がサソリに襲いかかる。このゴリラもサソリと変わらず巨大である。このゴリラの毛の下には鱗があり、戦いになれば鱗はダイヤモンド化し、ゴリラはダイヤモンドゴリラに変化する。ゴリラのダイヤモンド拳はグローブを履いてるかの様に分厚く、凄まじい破壊力がある。
真っ赤な硬度な外骨格の巨大サソリとダイヤモンドゴリラは水辺に集まる動物たちを蹴散らしながら、決闘
を続ける。
百目とオレンジとトビーは居住地に戻ると、捕獲したコウモリを解凍する。
ドーム型の居住地は正確に切断された、その建築に半透明な岩石が使われ、その中心には、プール程の広さの銀色の液体が満ちた湖がある。
銀色の湖に捕獲した異星生物を沈めると、その異星から捕獲した生物はゆっくりと解凍されると同時に傷は癒やされ、生体改造が行われ、カカオ星に順応する生物に生まれ変わる。居住地の銀色の湖は地底世界の中央部分にある真っ青な草原にある銀色の湖と繋がっていて、解凍され、この世界に合うように生まれ変わった生物は野に解き放たれる。
この地底世界に生きる生命体はオレンジと百目がこのシステムで繁殖させた住民たちである。
依頼主はカカオ星ではあるが、世界を自分の手でつくる快感にオレンジは自分の存在価値を見出していた。
オレンジと違い百目はそんな目的には存在価値を覚えれなかった。
居住地の真ん中にあるプール程の銀色の湖から少し離れて一本の木が生えている。
その木には不思議な実が毎回1つだけなる。その実はイチゴ程の大きさでハート型をしガラスの様に透明で、そのハートのガラス細工の様な実の中には赤い血液の様な液体が満たされていた。
フェイスマスクを外した百目は、その樹の実を取ると舌に乗せ、奥歯でガラス細工の様な実を砕く。中の赤い血液のような液体が喉を流れ、胃に吸収され、全身に回り、百目はトリップする。
百目は木の幹によりかかり座り、脳内は凄まじ快感に襲われる。口はしまりがなく開き、その舌は力がなく、涙を少し浮かべた目は溶け、百目の表情は恍惚感に満たされる。赤い血液のような液体のなる樹の実のドラッグ 麻薬 の効果は絶大だった。
百目は重度なジャンキーだった。この1つ取ると、また1つだけなる濃厚な樹の実の常習者。
自分の体を改造してまで狩りを続ける理由はこのカカオ星にも一体しかない樹の実の麻薬の摂取が目的で完全に依存していた。
この麻薬の副作用はほぼなく、百目の肉体はこの麻薬のせいなのか衰えた老人になる事もなく、若々しい。人類を滅亡させた、おそらく遺伝子レベルで感染していた火星ウィルスの発症がないのも、この麻薬の効果なのかも知れない。
オレンジと百目はカカオ星と共存し、それぞれの生きる理由を探しているのかも知れない。




