活躍するオレンジ
時を少し戻し、殺人事件のおとぼりを冷ましてい
る時の事。
「コレどうです。キューバ産です。」
メガネは顔面の左側の口で葉巻を蒸しながら百目に高級品の葉巻を差し出す。
おそらく、産地偽装でボッタクリであろう葉巻を咥えて百目はマネキンを脱ぎ、いつものミックス体の混じる忍者服の様な戦闘服に着替える。プロテクターやフェイスマスクを装着していない百目は東洋風の顔立で髪も眉も髭もない無毛で顔半分に大きな火傷の跡が目立つ。
「カタコトの旦那と組むのも命がけですねぇー。」
百目は、オレンジを軽くけなす感じのメガネに、葉巻の煙を混ぜながら返す。相棒をけなしていいのは俺だけだと
「アイツに命を救われたのは、1回、2回じゃない。お前も救われたろ。忘れたのか?」
忘れられない顔半分に大怪我を負ったあの時の事。
ブラックキューブは目的の惑星まであとは少しの所まで来ていた。
その惑星の情報は少なかったが、オレンジにとっては重要な生物が手に入る可能性があり、その未知の惑星に危険とは分かりつつ舵を取る。
危険は予想以上のもので、電磁波嵐に巻き込まれ、全ての電子機器が不能になり、ブラックキューブは未開の星に不時着する。
その未開の惑星はその太陽系の2番目に位置し、地球とほぼ同じ大きさで、電磁波嵐に吹き荒れ、硫酸の雨が降り、昼でも夜でも地表温度が500度になる。二酸化炭素の大気に覆われ、海は蒸発したのか存在しない。大気内にはクリオネに似た様な微細な生物が無数に浮遊していた。
その他の生物といえば二種類の巨大な生物で。
40メートルにもなる鮫型の飛行生物。牙の並ぶ口から吸った大気を体内で圧縮し、胸びれにある3連の発射穴から噴射し飛行する。背びれ、尾びれで上昇、下降、旋回する。鮫ジェット機の様な生物。
コレも35メートルにもなる一本の長い角と羽根の生えた馬の様な生物。その口内に無数の硬いヒゲ状の歯があり、大気内のクリオネをこしてを食している。いえば、ユニコーンとペガサス似で、プランクトンを食する様な生物。
ブラックキューブはこの2体の化け物が争い合う、電磁波が吹き荒れる惑星に、ただの箱になって墜落してしまった。
電磁波嵐が吹き荒れ、硫酸の雨が降る空を、巨大な一本角の馬が轟音をあげて、その巨大な翼を広げ空中を蹄で蹴りながら、長い一本角を、コレも巨大な鮫ジェット機生物に突き刺そうと突進しようとしている。
巨大な鮫ジェット機生物もこれを迎え討ち、牙の並ぶ口を広げ威嚇している。
この惑星の500度の地表には高温の強風が吹き荒れ、重力が地球の深海ほどある。
そして、何より目立つのが、数こそは多くないが墜落したと思われる宇宙船が、ある物は地面に埋まり、ある物は粉々に砕け散り、ある物は化石に化していた。
おそらく、建設されたワープゲートの位置が悪く、この太陽系の恒星の影響か、電磁波嵐の影響なのか、どれほど昔からか分からないが、この未知の惑星には不時着、墜落する船があったのだろう。
ただの箱と化して不時着したブラックキューブの内部では、重力制御装着が不能となり、急激な重力の上昇で地面に打ちつけられた百目が負傷していた。
全身を負傷していた百目のフェイスマスクにも不具合がおき、本来、熱風の蒸気を外気に放出するはずが、内部に漏れだし、百目の顔半分を蒸し焼きにし、重度の火傷を負わす。
ただの箱と化したブラックキューブには百目を治療する力はなく、裂傷負傷した百目の命は危険にさらされ、意識すら保てなくなっていた。
カタコトのオレンジは自身のコピーを増幅し、下半身を馬型、上半身を人型に変化させ、人間より一回り程大きなケンタウロス型に変身する。
そのオレンジ色の顔面にはボーリング球の様に3つの穴が空いていて、それぞれ視覚、嗅覚、聴覚の機能を果たしている。
カタコトのオレンジの目的は外空間の探索である。
彼は自身の肉体の半不死身的な能力を理解している。
人型だった頃の能力と違いはあるが、長時間の無呼吸運動を可能とし、その強力な再生能力ならば、この未知の惑星の灼熱の環境や、大気の環境に順応出来ると考える。
そして、この驚異的な再生能力のあるミミズの肉体には電磁波を防ぐ能力もあると知っている。それがオレンジがこのエイリアン生物に寄生した重要な理由でもあった。
オレンジはこの危機を脱するために、ケンタウロス型に変身し、電磁波の影響を受けない実弾式のボルトアクションライフルを持ち、灼熱の外世界に降り立つ。
灼熱の外気に死滅していく組織をそれを補う速度でコピーを複製し、下半身の馬の蹄は焼け付く大地を削りながら走る。
オレンジの探索の目的はブラックキューブの他に墜落した複数の宇宙船の探索だった。
彼はブラックキューブの墜落時に上空から目視でも他の宇宙船を確認しており、そこに活路を見出そうと考えていた。
何隻かの宇宙船の残骸を確認するが不発に終わり、その1隻の宇宙船に辿りつく。
その船はこれまで調べた複数の墜落船よりも大きく、
色は深いグレーで、てんとう虫の様な半球型をしている。
この巨大な宇宙船には墜落した形跡なく、オレンジは船を探索する。
てんとう虫のような宇宙船の前方に移動すると、ワープゲートにも残る文字と同じ、古代文字の彫られた巨大な開口部であろう部分を発見する。
その開口部は、金属というより、まるで有機物のようで、生物感がある。
オレンジは閉じられている、その開口部にある古代文字を正しく触れると、開口部が開口する。
内部は薄暗く、まるで固い血管の様な通路が伸びていて、気のせいだとは思うが脈を感じる錯覚まである。
その血管の様な通路は四本足では歩きづらく、オレンジは、下半身を一番行動し易い蛇型に変化させた。蛇型の下半身をクネクネと動かし、血管通路を進むと、広くなった空間にたどり着く。
その空間は円形でドーム型になっていた。内壁も毛細血管が張り巡らされているかのような有機物感があり、まるで大きな脳みその中にいるような感覚になる。
そして、その脳内にそれはいた。
そのドームの中央には円形の台座があり、そこには円錐の頭蓋骨をし、顔にはくちばしがあり、両目の間には宝石のオニキスの様な石が埋め込まれている。上半身には二本の腕を持ち、下半身は蛇の様で、3メートル以上もある、半人半蛇の様なエイリアンの骸がトグロを巻いて座っている。
その半人半蛇の骸はすでに白骨化しており、死してから相当の年月が経っているのが伺える。
その骸の座る台座にはワープゲートにも刻まれる古代文字が刻まれ、その文字はここがこの船の中枢を表しているようだった。
カタコトのオレンジは、この中枢空間をくまなく調べ、コレも円形型の古代文字の刻まれた下降装着に気づく。
この円形の下降装着の足場に描かれた古代文字には、色々な情報が記されていた。
(コノ シタニ゙ アル ヤット ミツケタ)
(ようやく発見しましたね。宝石の民)
カタコトのオレンジと女型のオレンジは脳内で会話を交わした。
そのエレベーターを操作しようとするオレンジは突然に蜘蛛の糸に拘束される。
「お前、この文字が読めるのか?」
薄暗い広いドーム空間の天井の血管の様な内壁に、色も質感も擬態、カモフラージュしていたウェップ星人が口から蜘蛛の糸を吐きだし、オレンジの身動きを封じると、地面に着地する。
その六本ある触手の内、一本に緑光りする角錐型のプラズマ兵器をはめて、もう一本には、はめ込み式のナイフを装備している。
このウェップ星人も電磁波嵐に巻き込まれ、緑光りする立方体の宇宙船が墜落し、故障。オレンジよりも先に、てんとう虫の様な宇宙船を発見し、紛れ込んでいた。
顔面の目の部分にはメガネの様な入れ墨が彫られていて、他のウェップ種族より節足動物の様な足は短い。この短足なウェップ種族は擬態、カモフラージュが得意な民族で、体色、質感を自由に変えられるようだった。
「コレはお前たち種族の船か?見たことのない種族だな。」
蜘蛛の糸で捕獲して安心してるためか、メガネは不用意にオレンジに近づきすぎた。
オレンジは全身を網の様に蜘蛛の糸で拘束させ、持っているライフルも構える事が出来ない。
しかし、肉体を大蛇型に変化させ、蜘蛛の糸をすり抜け、不用意に近づいたメガネに飛びつき、巻きつき締め上げる。プラズマ兵器で撃てる範囲を撃ち、ナイフで届く範囲をメッタ刺しにするメガネだったが、オレンジの再生能力の前には無意味だった。
(まだ食料もある、この宇宙服も、た…す…け…て)
全身を大蛇に巻きつけられ、圧迫死を恐れたメガネは、声を絞りだし、手持ちの小型で三角錐型のウェップ星人用の宇宙作業用の防護服を触手に持ち、訴える。
この宇宙服は小さな三角錐を体に吸着させると、その体を覆う様に透明な霧を張る。その霧には、電磁波防止、耐熱、耐冷などの機能があり、ウェップ種族たちは、この三角錐から出る霧の宇宙服を纏い、様々な惑星での採掘作業を行っていた。
オレンジは食料を必要としない。
オレンジは高性能な人工知能(2つの人格)を持つ半永久容量のバッテリー式の小型の電子機器核を持ち。
驚異的な再生能力のあるオレンジ色のミミズ型のエイリアンの肉体を持ち。(オリジナル形態は六本足の馬の様な生物だった)
ケイ素生命体のテレパシー能力を持つ指輪程の大きさのオニキス宝石の様な生物に寄生を許し。
その上で、その肉体の組織液内にミクロなミツバチに似た極小な生物を飼っている。
このミクロなミツバチは、吸収したほぼどの様な大気からでも体内で高エネルギーな蜜を作り出せる。
本来、人間型のアンドロイドはバッテリーのみで作動するのだが、オレンジは複数のエイリアンの能力を最大限に引き出すために、バッテリーとこの蜜を併用して生存している。
(まだカカオ星の生態系は完成していません。完成には百目が必要です。百目にはそのウェップ人の宇宙服も食料も必要です。宝石の民よ。)
(ウチュゥ フク イル コノ タコ イラナイ)
この脳内ドームの様な空間が、どのような仕組みになっているのか分からないが、オレンジの意識内の会話とシンクロするのか、テレパシー能力にシンクロするのか分からないが、テレパシー能力のないウェップ星人のメガネにも何故か、オレンジの中の2人の会話がメガネの意識にも流込んでくる。
「オタクは二重人格か?」
「あんたたちは、この古代人とは違う種族だろ.....」
締め上げられるウェップ星人のメガネは苦しさのあまり下の口から博打用に使っているサイコロを2つ吐き出してしまった。
ウェップ種族は胃袋が2つあり、一つは飲食のために使い。一つは収納袋として使っている。
吐き出されたサイコロに気づき、オレンジは無意識にメガネを締め上げる力を弱めてしまう。
この反応に、感のいいメガネはオレンジのギャンブル好きを予測し、
「丁半博打で...勝負で....」
オレンジの脳内ではカタコトのオレンジと女型のオレンジで内輪揉めが始まるが、メガネの拘束は解かれるのだった。
結果は....
「これから長い付き合いになるかもしれないし、仲良くやっていきましょやアネゴ。」
(私は貴方のアネゴではありません。)
女型のオレンジはこの不可解な決断に理解不能であった。
女型のオレンジはボルトアクションライフルの冷却弾をメガネに撃ち込み、メガネを冷却保存する。
(生命反応あり、安全確保確認。)
女型オレンジはウェップ星人のメガネを保管するのだった。
―――― ―――― ―――― ―――― ――――
カタコトのオレンジは円形のエレベーターの不規則に並ぶ古代文字を正しく順番通りに触れる。すると、半人半蛇型のオレンジを乗せた円形のエレベーターはゆっくりと下降し始める。
地下の空間は上階の中枢空間よりも広く、コレも円形のドーム型で、中心には巨大な2層からなる円形の水槽のような、プールの様な建造物がある。
水槽の外側になる1層目には透明な液体が満たされ、その液体の中には、無数の50センチ程のヒルの様な生物がウジャウジャと生息していた。
このヒルたちは吸電生物らしく、その体に電気を帯びている。
2層目の水槽には銀色の液体が満たさていて、この銀色の液体はカカオ星の再生の泉、あの湖と同じ液体の様に思える。
銀色の液体の水槽の中央には台座が建てられており、その台座の上には3メートル程の石像が座っていた。
(ヤット ミツケタ)
その石像はどうやら仮死状態の生命体であった。
その姿は半人半蛇ではあるが、上階のエイリアンの白骨化した骸とは違う部分がある。
上半身の人型は、腐ることもなく筋肉組織が残り、人類に似た頭蓋骨を持ち、頭からは太いドレッドヘアの様な触覚が髪の毛のように伸びている。
顔面には2つの目が存在し、その目は閉じられていて、瞳を見ることは出来ない。
額にはオニキスの様な宝石が埋め込まており、口はなく、くちばしもない。
二本の腕があり、メスなのか乳房のようなものも2つある胴体をしている。
下半身は、へその部分から質感が変わり、まさに大蛇の様な蛇型でコレも筋肉組織が残り、台座にトグロを巻いて座っている。
オレンジはこの未知の惑星にこの石化した半人半蛇の生命体を手に入れるために危険を冒してまで訪れたのだった。
オレンジは上階に戻り、白骨化した骸エイリアンを片付けると、その中枢の操縦装着にもなる円形の台座の足場に不規則に並ぶ古代文字に正しく触れる。
地下の2層式の水槽の、外側になる1層目の水槽が動き出す。
ヒル生物がウジャウジャいる水槽が巨大な石がコスリ合うような音をあげ、回転し始め、ヒル生物たちは蓄えていた電力を放電しはじめる。
動力エネルギーが始動し始めると、巨大なてんとう虫のような宇宙船の固い血管のような内壁もまるで生き返るように脈を打ち始める。
巨大なてんとう虫宇宙船の船体の後方にある巨大な排出穴では、火山活動のように運動が活発になり、マグマのように高温活動を始める。
てんとう虫宇宙船は船体全体が脈打ちはじめ、電磁波の影響を受ける事なく動きだす。
てんとう虫宇宙船の下方には巨大な昆虫のような足が10本あり、その巨大な足が地面を蹴り上げ、船体は空中に舞い上がる。
船体が舞い上がると後方の尻からマグマのように吹き出された推進力によっててんとう虫宇宙船は飛行を始める。
てんとう虫宇宙船は移動し、ブラックキューブのもとに。
オレンジは百目をてんとう虫宇宙船に乗り移させると、その満身創痍の肉体を銀色の泉に委ねる。
てんとう虫宇宙船はブラックキューブをその昆虫のような足で捕獲すると、大気圏外に向かい上昇してゆく。
未知の惑星の空を支配する鮫ジェット機生物と角のある翼の生えた巨大な馬を、その外骨格のような船体に無数にある穴から放たれる音波で撃退する。
その強力な音波攻撃は、例えるならば、鮫と馬の鼓膜を粉々に粉砕し、鮫と馬は成すすべもない。鮫と馬は平行感覚を失い地面に叩きつけられる。
未知の惑星の大気圏を抜け、宇宙空間に到達すると、てんとう虫宇宙船はブラックキューブを捕獲したままカカオ星を目指してワープゲートに消えてゆくのだった。
(あの蛇人間〈オレンジ〉はなんであんなに古代の宇宙船に詳しんだ?)
冷却保存されたウェップ星人のメガネは思うが、深く考える事もなく、その意識は闇に消えていった。




