その男、ダビデ
人類が火星ウィルスに侵されて200年。絶滅危惧種類になって130年程経ち、肉体を失い、意識を電子頭脳に移植し、データ生命体になった現在、人類は7人の光人と呼ばれる権利者によって支配されていた。
7人の権利者は人類が姿を消したあとも、そのノスタルジアからか後悔からか人間に瓜二つのアンドロイドにこだわりをもち作り続けていた。
アンドロイドは男女型があり、男性型がXY、女性型がXXと名付けられ、数百年の火星ウィルス解決法の探索時代の中で、改良が続けられ進化していった。
男女型とも典型の白人タイプで金髪に青い目、高身長で容姿端麗に製造された。コレは、7人の光人のうち5人が白人だった影響だったのだろう。
これまでの説明は大筋なのだが、これには例外もある。
一つ目は、人間が全て絶滅したとは言えないこと。
確か自然体の人間は姿を消してしまったが、これまでの数百年に渡る探索時代の中で、探索者として産まれたクローンには行方不明になる者も多数いた。その数は1281名にのぼる。多額の資金をかけ、探索者として産まれたクローンたちには生命探知機が埋め込まれており、コレは確認されていた。しかし、広い宇宙に溶け込み、まだまだ未知のワープゲートを使用し、行方不明になった者たちが、どの様な形で生命を維持してるのかは、捉えきれないところが多かった。
この捉えきれずにいた行方不明者を確認するために、光人たちは、ワープゲートに小型の探索ドローンを無数にばら撒き、火星ウィルスの探索者アンドロイドたちは、行方不明者の救出任務も兼ねされていた。この消息のわからないクローンたちは、今や形のある人間の少ない希望でもあった。
そして2つ目は、この救出任務の長がダビデだった事である。
ダビデは光人七名の一人で。唯一、人間の脳を持つ人間である。
ダビデも当然ながら自然体の人間ではない。もともとは優秀な生物学者で複数の博士号をもつ、アンドロイド、サイボーグ、クローン製造に深く関わった人物である。
彼は早くから気づいていた。
火星ウィルスとは、キルスイッチだと。
火星ウィルスは地球の生物や火星の生物、他生物が人間にもたらしたウィルスではないと。このウィルスは人間のOFFスイッチなのだと。このウィルスはおそらく、人間が誕生したときから遺伝子らに、すでに組み込まれており、人間の時代が終わる時に作動する時限爆弾の様なもの。ダビデはそう考えていた。
そしてダビデは思う。面白いと。このスリルが堪らなく愉快だと。
ダビデはその思想から、他の俗物の光人のように堅苦し電子頭脳などでは我慢出来なかった。
彼はサイキックのモデルのクローンの人間脳に意識を移植し、アンドロイドを強化した生体組織で肉体を作り、その外見をミケランジェロの彫刻のダビデの像に似せた。
そして、感染を止められない、いつ発病するかわからない火星ウィルス対策ために、数体の同じ型のサイキック人間脳をストックし、人体にマイクロチップの発病タイマーを埋め、発病する前に、肉体を交換して人生を楽しんでゆく。
ダビデは白を好んだ。森の中だろうが、砂漠の中だろうが、泥地だろうが
純白の上下のスーツを着込み、純白のシャツに、純白のネクタイ、純白の手袋に、純白の革靴。
その純白たちは特殊な素材が配合されていて、シミ一つつかない。
彼はアンドロイドたちを道具に使い、人生を謳歌する。




