惑星5R5R
百目は語る。
「今までで、一番大変だった狩り。間違いなくダイヤモンドゴリラだね。」
百目は迷う事なく答える。
惑星5R5Rは3つの恒星をもつ太陽系の3番目の惑星で灼熱の星である。
この 惑星5R5R は3つの太陽から振り注ぐ強烈な太陽光から身を守る為に、光の反射力の強い硬質なガラスのようなクリスタルで組織され、星に生息する動物も植物もほぼ全ての生命体がこのガラスのようなクリスタルで形成されていた。
百目と猟虫のトビーは今回、この星の生態系の上位にあたるゴリラに似た生物を捕獲するために空中を移動していた。
灼熱の星での狩りをこなすために、百目とトビーは耐熱性のある塗料をスプレーで全身にくまなく浴びていたが、3つの太陽から放射する熱は不愉快だった。
この星の植物や動物たちは半透明なまるでガラス細工のようで脆そうに見えるが、イメージとは違い、その強度はそれほど弱くはなかった。
百目はコアエメラルド製のタイルを敷き詰めたような板型の飛行体に乗り、トビーはそのすぐ後を飛行している。
掌サイズのガラス細工のアブのような昆虫生物がアチコチに飛んでいて、そのアブがうっとしい。百目は(これも1つ2つ持って帰るか)とガラスのアブに冷却弾で撃ち、冷却化したガラスのアブを板型の飛行体に備えつけの収納BOXにおさめる。
(ポン)
破裂音で百目は振り向く。視線に入ったのはガラス細工のようなアブを捕らえたて噛み砕くトビーだった。
ガラス細工のアブを噛み砕く破裂音が響き、程なくしてトビーの大きな目が二つついた顔は霧に包まれる。
ガラス細工のアブの組織液から発生した霧はトビーの表皮に取り込まれてゆく。
トビーは徐々にフラつき、意識が混濁して、飛行困難になり、口から泡をふき、落下してゆく。
ガラス細工のような植物の森に落下したトビーを救援するために百目もガラスの森に着陸する。
百目は板型の飛行体の収納BOXから手持ちのメンタルケア機器を出し、ブラックキューブにデータを送信する。
「アル中.....アル....トンボ、アル中..」
「そのアブの組織液には高濃度のアルコールが含まれているようです。簡単に言えば、トビーは急性アルコール中毒症です。」
データを分析したオレンジが宝石型のエイリアンを介してテレパシーで返答してきた。
「なんでもかんでも食うから.....」
百目は板型の飛行体の下面に気絶したトビーを吸着して、そのまま飛行体は上昇していき、飛行体は音もなくまた目的地に向けて飛行してゆく。
行くほどか飛行するとガラスの森はひらけ、平地の部分が見えてきた。百目はトビーを吸着した板型の飛行体を空中で静止させると、飛行体から飛び降り平地に降り立つ。ここが目的で今回の獲物の住処だ。
自分の縄張りに無駄で侵入してきた異物の臭いにゴリラの群れはすぐに気づき、その群れのボスゴリラはガラスの森から姿を現し、雄叫びを上げ、胸を叩くドラミングで威嚇する。
現れたボスゴリラはカカオ星の高濃度な酸素で育った個体よりは、一回り小さいが、ゆうに2メートルは越していた。
怒ったゴリラのその体毛の下になるクリスタルの爬虫類のような鱗は、攻撃モードに入り、まるでダイヤモンドのように強度が増し、ゴリラはダイヤモンドゴリラに変化する。
ダイヤモンドゴリラの武器である拳はボクシンググローブをはめたように分厚く、怒りで硬質化した拳はダイヤモンドで出来たビックサイズのボーリングの玉のようだ。
百目は姿を現したダイヤモンドゴリラに両脇に備えた2丁ある全自動の銃身が30センチぼどで長方形の実弾式の銃を向け、1発の冷却弾を撃ち込む。
ダイヤモンドゴリラは撃ち出された冷却弾を裏拳で叩き落とす。冷却弾は弾き飛ばされ空中で破裂する。ダイヤモンドゴリラの皮膚に傷1つつける事が出来ない。
ダイヤモンドゴリラはここで、驚きの行動をする。
ファイティングポーズをとったのである。
顎をひき、背中を丸め、肩幅に両足を開き左足を出し、両腕を折りたたみ、上半身をその剛腕でガードする。
まさにボクサーがとるファイティングポーズだった。
驚いた百目は両脇に備えた2丁の銃を操作し、2丁に装弾された全弾20発をすべてをダイヤモンドゴリラに撃ち込む。
しかし、ダイヤモンドゴリラは放たれた冷却弾20発、全てを左手の素早いジャブで叩き落とし、空中で破裂させる。
ダイヤモンドゴリラは全弾を防ぐと、顔面をガードしながら、頭や上半身を揺らし、ボクシングでいうウィービングをしながら、百目との距離を詰めてくる。
百目は危険を察し、素早いバックステップで距離を取り、瞬時の判断で冷却捕獲を諦め、腰の光熱弾を放つ銃を抜く。
そのヤツデのように八枚の掌型に広がり、広範囲の敵を個別で自動で狙う事が出来る光弾銃を、今回は八枚の銃口を一つにまとめ、ライフル仕様にし、1発の圧力を強めてダイヤモンドゴリラに発射する。
発射されたライフル光弾はダイヤモンドゴリラの上半身をガードする両手のブロッキングを弾き、百目は隙の出来たダイヤモンドゴリラの胸の中心に2発目のライフル光弾をぶち込む。
仕留めたかと思った百目は、ダイヤモンドゴリラの目を見て気づく、(効いていないぞ)
ダイヤモンドゴリラは一気に距離を詰めて百目にワン ツーを打ち込む。
ダイヤモンドゴリラの左ジャブをスウェーして外した百目だったが、フィニッシュブローの右ストレートは避けられず、持っていた光弾銃をヤツデ型に広げ、盾として使い、その右ストレートをブロッキングする。
八枚のヤツデ型に広げた盾でブロッキングした百目だったが盾がわりの光弾銃は粉々に砕けちり、百目自体も吹っ飛ばされる。
飛ばされた百目は盾のおかげでダメージはだいぶ軽減されたが軽く脳震盪を起こし、全身に痛みが残る。頭を振り、気力を振り絞り、立ち上がる百目。
ダイヤモンドゴリラはまたガードを上げ、ウィービングしながら、距離を詰め、強烈なワンツーを打ち込んでくる。
百目はまた左ジャブをスウェーでかわし、右ストレートを今度は踏み込んで、ダッキングでかわし、ダイヤモンドゴリラの懐に飛び込む。
懐に飛び込んだ百目は、ガードの薄い下半身を狙う。
柔術技の蟹挟みで両足を刈取り、その長い真っ赤な尻尾を首に巻きつけ、ダイヤモンドゴリラを地面に倒す。
そして、素早くダイヤモンドゴリラの上を取り、馬乗りになると、マウントポジションを奪い取る。
マウントポジションを取った百目は首に巻いた真っ赤な尻尾を解除し、その毒針をダイヤモンドゴリラの目玉に突き刺す。
「ココもか....」
百目の毒針ははじき返された。ダイヤモンドゴリラは目玉さえもダイヤモンド化していて、硬い毒針が刺さらない。
ダイヤモンドゴリラはその強靭な足と背筋でブリッジし、百目はマウントポジションを返されるどころか、ブリッジの圧力でまたもやぶっ飛ばされ空中に舞う。
百目はなんとか立ち上がり、ブリッジの跳躍で立ち上がるダイヤモンドゴリラと対峙する。
全身の痛みをこらえて、サウスポーに構えて右手を前に距離を取る百目にダイヤモンドゴリラはまたも、距離を詰め右ストレートを放つ。
ダイヤモンドゴリラの右ストレートを読み、また懐に入ろうとする百目だったが、その瞬間に右腕が粉砕し、体は木の葉ように中を舞う。
ダイヤモンドゴリラは右ストレートをフェイントに肝臓 内臓を狙った左ボディブローを打ち込んできた。
辛うじて右腕でボディブローをブロッキングした百目だったが、その頑丈な赤いプロテクターで保護されていた右腕は、筋肉が破裂し、赤い強化された骨も砕けちり、折れた赤い骨は皮膚を突き破り、銀色の血をたれ流し、手首から先は皮一枚でぶら下がっていた。
重症を負った百目は頭上高くに、トビーを吸い付けたままの板型の飛行体を呼び寄せ、その足のスプリング状の強化された筋肉組織を使い、高く飛び上がり、飛行体に避難する。
百目はそのボロボロの右腕に真っ赤な尻尾の針でモルヒネからなる麻酔薬を注入する。その麻酔薬は痛みを和らげるだけではなく、簡易的ではあるが粘土性のある組織液で止血も行う。
空中に逃げた百目に対し、ダイヤモンドゴリラは胸を叩くドラミングをし、大口を開け、雄叫びで威嚇する。
強敵を見下し、しばし思案する百目。雄叫びを上げる敵を観察しながら思考を巡らし妙案を思いつく。
板型の飛行体に備えつけの収納BOXを漁ると、百目は飛行体から飛び降り、地面に着陸する。
百目はダイヤモンドゴリラの射程距離に入らないように距離を測りながら前後左右にステップしながら、真っ赤な尻尾を最大限に伸ばして、その針でダイヤモンドゴリラの顔面を素早く軽く手打ちのジャブのように打撃する。
ダイヤモンドゴリラは顔面を打つ、そのダメージを与えない軽い打撃の連続とチョロチョロと動くステップに苛立ち、またも胸を叩きドラミングし、大口を開け、雄叫びを上げる。
百目はそれを待っていた。ダイヤモンドゴリラが大きく口を開いた瞬間に隠し持っていたガラス細工の様なアブの昆虫生物をダイヤモンドゴリラの大口に放り込む。そして、飛び上がり、一気に距離を詰め、ダイヤモンドゴリラの口めがけてプロレス技のドロップキックを打ち込んだ。
(ポン)
破裂音が響く
ダイヤモンドゴリラの口の中でガラス細工の様なアブは砕けちり、アブの組織液はダイヤモンドゴリラの口内に飛び散り、顔面を霧が覆う。
ダイヤモンドゴリラは徐々に動きが鈍くなり、硬質なダイヤモンド化は解除され、口から泡をふき、その巨体はゆっくりと崩れ落ちる。土煙と轟音を上げて地面に倒れ沈んだ巨体は気絶し、ノックダウンした。
百目はようやく冷却弾を撃ち込める体に戻ったダイヤモンドゴリラを冷却し、その場に崩れるように座りこむ。
激闘が終わると、その場にどこからともなくブラックキューブが現れ、冷却された巨体の獲物と、ベロベロのトビー、血だらけの百目を回収し、何事もなかったように飛び立っていった。




