(3)土曜日くらいゆっくりさせろ
コンビニから自宅に帰り、早30分。
目の前の机の上には、小さめな丸いプラスチック容器。
容器に微かに残る水滴と、使い捨てのスプーン。
ウキウキで買った期間限定のアイスは、すっかりもう空っぽだ。
「あーー、美味しかったなぁ。」
お風呂上がりに食べるアイスは格別だ。
肩にはタオル、上はタンクトップに、下はショートパンツ。夏のお風呂上がりはだいたいこんな物さ。
携帯をながら操作してたら、ふと思いつく。
契約してる音楽のサブスクリプションから、昔懐かしい夏ソングを流したい。いまはなんだか、そんな気分。
『 ーーー、だいきらい!!! 』ドンッ
、、、へ?
わたし、今、夏ソングを聴こうとしたよね。
急に隣の壁から、
女の人の大嫌いって、
結構怒ってる声聞こえてきたんですけど。
ここのアパート、コンクリート造りだから、多少大丈夫なはずなんですけど。
男女の、いざこざですかな。これは。
「はー…夏だねぇ。」
夏の恋は、パッと咲いて、パッと散る。
そんな夏ソングがあった気もする。
プルプルブルブル…
壁にかけてあるハンガーから、振動の音が鳴り響く。
この音を聞くと、いつも胃が痛くなる。
正体は、スーツのポケットにいれたまんまの
会社用の携帯だ。
いつもなら会社の机に置いて、帰宅するのだが、今日はうっかり持って帰ってきてしまっていた。
「んー、あーっ、
取りたく無い、取りたく無い、、、、、けど」
気になる。
私の身体は社畜なんだと、再度痛感した。
着信は、誰からだ、、、
、、あ
ピッ
「はい、白木です。」
『わーーーん!白木せんぱぁい(涙)』
「、、、どうしたの?梅野さん」
『それが聞いてくださいよー、部長が急に無茶言ってきて、パワーポイント1人で作ってみろって言われるんですー。私まだ作ったことなくてぇ』
電話の相手は、今年入社してきた梅野 雫さん。
とにかく、キュルンキュルンな女の子。
どちらかというと、
プライベートだと少し距離を置きたいタイプ。
ただこれでも、私の直属の部下。
放っておくわけにはいかない。
「大丈夫よ梅野さん。
梅野さんなら絶対できるから。」
『えぇ無理です、私次の会議の内容、まだ頭に入ってないんですよね、、。白木先輩も今日1日居ないし、、不安ですー。
でもあれ?そいえば、これ会社用の携帯ですよね?いつもなら置いて帰るのに。』
ああ、、今日だけは絶対持って帰る日だったな。
「そうなの、たまたま持って帰っちゃってて」
うちの会社は、月曜日から土曜日まで営業している。
ただ月に1回だけ、
社員交代で、土曜日休みがあるのだ。
そうとても、貴重な1日なわけで、、
『白木先輩〜っ』
「わかってる、次の打ち合わせの内容一つずつ説明する。パワーポイントの作成は頑張って。月曜日にチェックはするから。」
『えー本当にありがとうございますぅ。せっかくのお休みなのに〜』
本当だよ、せっかくの休みだよ。
時刻はAM8:00を回った。
頼むから、土曜日くらいゆっくりさせろ。