孤独死はもうこりごりです
シンクにたまった食器にぽたぽたと水滴が落ちる音が聞こえる。暑い。むせるように暑い。頬に触れる床の温度が生ぬるくて気持ち悪い。
そうだ水を飲みに来たんだ。水、水、水。なんで俺は床に寝てるんだ。
手足が痺れていた。力が入らない。助けを呼ぼうにも声が出ない。舌がうまく回らないのか嗚咽のような声しか出ない。
死ぬのか。俺は死んでしまうのか。こんなところで寂しく、独りで。
力を振り絞って首を動かす。散らかった部屋が目に入った。飲みかけのペットボトル、丸まったティッシュ、無造作に詰まれた段ボール。
嫌だ、死にたくない。寂しい。
喉が焼けるようだった。呼吸が短くなり、ふっ、ふっ、と息を吐き出すたびに死に近づいている気がした。次第にぼやけていく視界の中で自分の手を見た。汚くて皺だらけ。72年分の年季が皺の一つ一つに刻まれていた。楽しい思い出などない。友人も恋人もいない人生だった。思えば全ての選択肢を間違えていた気がする。あの時こうしていれば、なんて、今後悔しても遅い。死ぬ間際なんだから。
外から子供たちの笑い声が聞こえてきた。学校終わりか。よかった、誰かの声を聞いて死ねるんだ。幸せだ。
腕に力が入らなくなりすとんと手が落ちる。瞼が次第に閉じていく。子供たちの声が遠くなっていく。ああ、死ぬ。死ぬ。死……ぬ。