正式名称「雪山温泉旅館」、渾名は「妖怪旅館」
妖怪旅館と渾名されている旅館に泊まり、雪山にスキーに来ている。
何でもこの旅館に泊まると妖怪に出会えるらしい。
首が伸びる中居さんとか、堀炬燵の布団を捲ったら堀炬燵の底から大蜘蛛が睨んていたとか、同じように堀炬燵の布団を捲ったら1つ目や鬼のような顔をした小人が多数飛び出できたとか、スキー場でインストラクターをしている雪女に出会ったなどと言う噂がネット上で囁かれている。
まあ眉唾物で、何かと見間違えたんだろうと思うよ。
そんな事より今は自分の方がヤバい。
駄目だ、眩暈はするわ、足は縺れるわ、酒を飲んだあと温泉に入らなければ良かった。
ようやく部屋に辿り着きドアを開け、スリッパを脱ぎすて襖を開けて部屋の中に入る。
「あら? どちら様?」
「え?」
女性の声で顔を上げると、掘り炬燵に足を入れ座っている3〜40代の綺麗な女の人が僕の方を見ていた。
あ! 部屋を間違えた。
「す、すいません! 部屋を間違えました」
「ふーん、ま、良いわ、それより一緒に飲みましょ」
「え、でも」
「飲まないって言うんだったら騒ぐわよ、あなたが無理矢理押し入って来たってね」
「そ、そんな……」
「どうする?」
「飲ませて頂きます」
「宜しい、それじゃ入りなさい」
女の人は炬燵布団を捲り僕を炬燵に招く。
炬燵に足を入れ座ると杯を手渡され酒が注がれる。
「いただきます」
クイっと呷る。
杯にまた酒が注がれた。
「大学生?」
「はい」
「裏の雪山のスキー場に遊びに来たのかな?」
「はい」
「1人で?」
「先輩や友人たちと10人程で来ています」
「後輩って言葉が無いって事は、まだ1年生なのかな?」
「はい」
「じゃ、まだ10代なんだ?」
「はい」
『あ!』
女の人の手が炬燵の中で僕の浴衣の裾を捲り足を撫でる。
「あら真っ赤になっちゃって、もしかして経験無いのかな?」
「は、はい」
羞恥心で顔が下を向く。
「食べちゃいたいな」
『えっ』顔を上げ女の人の方を見て僕は息を飲む。
「ヒッ……」
顔は女の人のままだったけど瞳が縦長になって金色に光り、口が顎まで裂けそこから舌をシュ、シュと出入りさせた大蛇が鎌首をもたげ、僕を見下ろしていたからだ。
「た、助けてください、い、命だけは…………」
歯をカタカタ鳴らして助けを乞う。
「勘違いしないで、命なんて取らないわ。
食べちゃいたいのはそっちじゃ無いから大丈夫よ、心配しないで」
その言葉と共に僕は後ろに押し倒された。
『グス、初めてをいただかれました』