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9 出動要請


 ある日の事、校長が生徒を集めて険しい顔で言った。


「出動要請があった!

 ピリオネル山の噴火が始まる。学生は避難介助が任務だ。

 何が起こるかわからない、ということ肝に銘じておけ。グループごとに教官の指示に従うように。

 自らの力を信じて行け!」


 スカーレット国のピリオネル山は何百年も活動を休止していて、今は観光地として賑わっている。今日もかなりの人が街にいる事だろう。




 エメリー達のグループはステイマン教官と共にピリオネル山の麓の街に飛んだ。


 逃げ惑う人々で街が騒乱状態になっていた。


 エメリーの目の前には、泣きじゃくる迷子らしい女の子がいた。

 

 エメリーは咄嗟に女の子を抱き上げて微笑みながら歌を口ずさんだ。赤い大陸スカーレットで昔から歌い継がれている歌だった。


 エメリーが歌い始めると、その子が泣きながらも一緒に唄った。それを見たエメリーのクラスメイト達も唄いながら避難する人々に手を貸した。


 歌はだんだんと広がって行き、避難に向かう人々も唄い出した。

 

 すると、自分の事しか見えなかった人々の心が少し落ち着ついたのがエメリー達にもわかった。


 冷静になった人々は指示に従い、唄いながら手を取り合って避難所に向かった。怪我人も出ずに全員の避難が完了するまで、さほどの時間は掛からなかった。 



 次に、エメリー達はステイマン教官の指示で家に残っている人がいないかを確認することになった。


 ディックの魔力の1つ、透視で家の中を確認しながら進んで行くと、何ヶ所かで人影を発見した。エメリー達はその人達を連れて、次々と避難所へと飛んだ。


 後少しで避難の確認が終了するという時に、小規模噴火が起きた。


(急がないと…大規模な噴火が起きたら…)


 皆が顔を見合わせた時、ディックが叫んだ。


「おい、やばいぞ!あの建物の中に大勢の人がいる。」


 急いで飛んだその場所は老人施設で、動けない老人が何人もいた。助けが来るからと職員が手を握りしめ励ましていたが、皆、恐怖で顔が引き攣っていた。


 1人、2人と老人と職員を連れて、仲間達が何度も飛んでは戻るを繰り返す。エメリーは後方支援に徹して、残る人達を励ました。


 最後に施設長とエメリーは取り残された人がいないか、建物の中を全て確認した。


「施設長さん、私達で最後です。行きましょう。

 私に掴まってくださいね」


 そう言った瞬間、また小規模な噴火が起きた。地鳴り、轟音と共に閃光が走り、窓から施設を直撃する巨石が見えた。


 施設長は巨石を見た瞬間に白眼を剥いて後ろに倒れた。エメリーは施設長を支えつつ、何も考えず右手を巨石に向けて叫んでいた。


「止まれ!」


 次の瞬間、巨石が止まり、エメリーは気絶した施設長を支えて避難所へと戻った。


 全員揃うとステイマン教官が次の指示を出した。


「次の指示が出ている。騎士学校生徒が避難介助をしているエリアへの援助だ。

 住民の避難は終了し、最後の確認をしていたショーン達5人の安否がわからない。皆で戻るという連絡が最後だ。火山灰にやられて気を失っている可能性が高い。

 いいか?仲間を見捨てるような奴は騎士ではない。

 何がなんでも探し出して、連れて帰る。

 行け!」

 

 皆でその場所に着くと辺りは火山灰が降り注ぎ、前もよく見えない状態だった。


「みんな、防塵マスクを出して!」

アメリーの声に皆が防塵マスクを装着した。


 火山灰で辺りが見えない中、ディックが悔しそうに言った。


「どうしよう…。オレの透視が使えない。この灰のせいで見えないんだ。これじゃ、どこにいるのかわからない」


「確か…ショーンは精神感応力があるよね。皆で強くショーンの心に語りかけてみよう。返事が来るよ。きっと!」


 エメリーは深呼吸をして意識を集中した。

 

(ショーン、どこにいるの?皆で迎えに来てる。一緒に帰るよ。どこにいるか、教えて!)


(おいっ!ショーン、みんなで帰るぞ!どこにいる?)


 いつのまにかエメリーは声に出して叫んでいた。


「ショーン、返事しなさい!どこにいるの!」


(……£<.*#%^…)


「ショーンのバカ!それじゃわからない!」


(送る…まって…る)


 ショーンの送ってきた映像がエメリー達の頭に浮かんだ。それはショーン達が火山灰に飲み込まれる直前の様子だった。


 5人の生徒が固まって飛ぼうとした瞬間に爆風が起き、火山灰が5人に襲いかかっていく。ショーンは4人の仲間を守るためにその方向に向けてシールドを張ったが、自分はまともに火山灰を喰らっている。


「だれか、この場所がどこか読める?」


「月が少し見えてる。山の形もだ。」


「あっちだ!行くぞ!」


 飛ぼうとするディックにエメリーが待ったをかける。


「はぐれたら戻ってこれないよ。全員で固まっていこう」


「よしっ!全員で行くぞ!」


 全員で飛んだ先には、倒れている4人の姿があった。4人はショーンの作ったシールドの陰に守られていた。


 治癒魔力を持つティムが言った。


「意識はないが怪我はしてない。この4人はこのまま連れて帰れる。急げ!俺はこのまま残る。俺の力がショーンには必要かもしれないから」

 

 1人ずつ背負った仲間4人が固まって飛んでいった。


 残った6人は、ショーンは近くにいるはずだと火山灰をゆっくりと吹き飛ばしていった。

 

 少しづつ火山灰に埋もれていたショーンが姿を現した。


「怪我はしていないが呼吸が微かだ。急がないとまずい」


 ティムの言葉を聞いて、ショーンをディックが背負い、全員で避難所に飛んで戻った。


 救助した5人は入院して、治療を受けることになった。医務官から5人とも大丈夫だ、任せておきなさいという報告を受けて、エメリー達は10人で飛び跳ねて喜んだ。


 エメリー達の体に付いた火山灰が飛び散り、辺りにもうもうと立ち込めた。


「お前達…元気だなぁ。

 全ての場所で避難が完了したと連絡が入った。任務は完了だ。宿舎に戻るぞ!皆、よくやった!」




 宿舎に戻って自室で長い時間をかけてシャワーを浴び、やっと体が綺麗になると、エメリーは猛烈に空腹を感じた。食堂に走るように行くと、ディック達が凄い勢いで肉に齧り付いていて、エメリーに手を挙げ、ここに座れと合図する。


(信頼し助け合える仲間達がここにいる!)


 エメリーは救助の間、自分の魔力が炸裂していたことも気づかず、肉に齧り付いた。




 数日後、やっと退院したショーンが皆の前でちょっと頭を下げて歩いて行った。


 ディックが、なんだあいつ!と言うのをエメリーが制した。


「皆、じっと聞いてごらん。ショーンのお礼の言葉が聞こえるよ。」


 それは捻くれ者のショーンが皆の心に直接送る、精一杯のお礼の言葉。


(あ、ありがとう!本当に感謝…してる。

 素直に言えなくてごめん。

 オレ、皆に信頼されるように素直になる。努力するから、待ってて欲しい) 


「しょーがねぇ奴だな。待っててやるよ!」


 ディックの大声が辺りに響き渡った。


(私も待ってるよ!)


 エメリーの心の声もきっとショーンに届いているはず。エメリーはショーンの後ろ姿を見送った。





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