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8 目覚め始めたエメリー


 side エメリー


 騎士学校には週1回、パン屋を営むエメリーの実家からパンの差し入れがあった。


 出来立てのホカホカを兄達が馬車に乗って持ってきてくれる。1学年20人、2年制で40人の若者達と職員、合わせると70人を超えるのだが、兄のカールとデュークは決してお金を受け取らない。


「授業料も宿舎のお金も出してもらって、奨学金までいただいている妹のために、俺達家族がしてやれる事はこれっくらいなんで…」


 若い騎士の卵たちだ。差し入れはあっという間に無くなる。パンの評判もいい。


 カールとデュークは若者にウケるパン作りを考えているらしく、代金の代わりに新製品の試作品を持ってきては騎士の卵たちに感想を聞いている。首を傾げるような試作品も多く、カールが項垂れデュークが肩をたたく、というのもいつもの光景となっていた。


 それでもいくつかの新製品は完成した。若者達の協力もあって、完成した新製品の評判は良く、売れ行きも順調らしい。ついでに宿舎の近所で移動販売もして、お金儲けもしっかりとしているので、カールとデュークはホクホク顔だった。



 その日も兄達は馬車に乗ってやって来た。


 皆に感謝されながら帰る後ろ姿を見ていたエメリーは、急に心臓がどきどきとし始めた。


(…嫌な予感がする!)


「お兄さん、待って!待って!止まって!」


 手を振っていたデュークがなぜか急にバランスを崩した時、エメリーの叫び声が響いた。


「あぁぁ〜っ!お兄さん!危ない!!」


 その声と重なる様にエメリーが一瞬消えた。

 そして、馬車に乗っていた兄達と共に元の場所に倒れ込むように戻ってきた。


 次の瞬間、馬車は車輪が外れて横倒しになっていた。


 エメリーは泣きじゃくりながら、お兄さん、お兄さんと呼び続けたが、のんびりとした兄たちの声が返ってきた。


「エメリー、お前、助けてくれたのかい?すごいな!」


「おいおい、おでこ擦りむいてんじゃん、エメリー。大丈夫かよ?

 あれれ…馬車が!」


 騎士学校の校長が走ってきてエメリーに尋ねた。


「これは…!エメリー、何が起きたか言えるかい?」


 深呼吸をしたエメリーは立ち上がり、敬礼をして言った。


「不甲斐ない所をお見せして、申し訳ありませんでした。

 兄達の馬車がここを離れようとした時に、不穏な気配がしました。兄がバランスを崩したので、危ないと思い……」


「それで、どうしたんだ?」


「はい。危ないと思い兄の所に飛び、2人をここまで運びました。その直後、馬車の車輪が外れて横倒しになりました。

 みなさん、ご迷惑をおかけしました。兄達は大丈夫な様子です。ご心配をおかけしました。」


「すみません…。」

と頭を下げたカールは首を傾げた。


「でも、おっかしいなぁ。馬車は先週整備に出して見てもらったばかりなんすけど、なんでこんな事が起きたんだろ」


 デュークも首を傾げながら言った。


「そうだよな。馬が変な走りしたわけでもないしなぁ…」


 校長が頭を下げた。


「お怪我がなくて本当に良かった。後片付けは事務方に手配しておきましょう。馬車をこちらから出しますので、今日は一旦お家にお戻りください。後の事は相談させてください。またご連絡を差し上げます

 エメリー、後で校長室に来なさい。」


 校長や教官達がいなくなり、事務方の官史と兄達が事務所に消えると、ディックをはじめ仲間がエメリーの周りを取り囲んだ。


「エメリーが飛んだ所、俺見たぜ!」


 ディックがエメリーの肩を叩いた。

 

「うん、俺も見た」と皆が口々に言った。


「後で話そう。とりあえず、校長のところに行ってきな」


 ディックにそう言われ、うん、また後で、とエメリーは項垂れて歩き始めた。


 校長室に行くと、校長はエメリーを見て眉間に皺を寄せて、まず座りなさいと言った。


「先程はご迷惑をおかけいたしました」


 頭を下げるエメリーに、校長は更に深く眉間に皺を寄せて言った。


「あれは君のせいではないし、お兄さん達のせいでもない。誰かが君のお兄さん達が馬車を離れている間にネジを外したんだ。そうじゃなきゃ、あんな事は起きないよ。まあ、調べればすぐわかると思うけどね。心当たりはあるかな?」


「兄達は人に反感を買うような人達ではありません」


「わかっているよ」


 校長は更に険しい顔をした。


「君は正義感が強い。だから、お兄さん達に降りかかった災難を自分で解決しようととするんじゃないかとおもってね。少し心配なんだ。

 犯人は私が警察と協力して必ず探し出す。君は自分のすべき事に集中しなさい。いいね?

 とりあえずの馬車の修理はこちらで手配する。今までの差し入れのお礼、と君の家族にだけ伝えて欲しい。話は以上だ。

 ……!おっと、忘れていた。

 お兄さん2人を連れて飛べたのかい?目覚めてきたのかもしれないね。無理せず、励みなさい。

 以上だ」



 重い気分のまま宿舎に戻ると、仲間が集まってエメリーを取り囲んだ。


「やったな、エメリー」

「初飛び、おめでとう」


 皆が喜んでくれている中、ショーンの悪態が聞こえた。


「一回飛んだからっていい気になるんじゃねぇぞ!」


 ディックたちは顔色を変えてショーンに飛びかかりそうになったが、エメリーは皆を制して言った。


「その通りだわ。まだ1回飛んだだけだもの。これから自分に自信を持って、もっと魔力を使えるようにするわね。

 ショーン、あなたの力も借りることがあると思うの。その時はよろしくね」


 にっこりと笑ってショーンを見るエメリーに、ショーンは何も言わず、無言で自分の部屋へと向かって行った。



 2週間ほどしてエメリーは校長に呼ばれた。校長は厳しい顔でエメリーに言った。


「馬車事件の犯人がわかったよ。事務にいる官史の男だった。女の君が騎士になって、金のロゼットをつけているのが気に入らなかったそうだ。

 男は懲戒免職だ。それ相応の罰もこれから受けることになる。

 君とご家族には本当にご迷惑をかけた。これからはこんな事のないように管理体制を整える。

 ご家族には私が謝りに行くよ」




 この事件で飛べるようになったエメリーは自信をつけ魔力が格段に強くなっていった。それは騎士学校の教官達も眼を見張る程だった。





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