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6 マイケルの過去


 自宅に戻ったマイケルは夕食を食べながら、転属する事になるかもしれないんだ、とロレインに言った。


 ロレインは、まぁ…と言って赤ワインを飲んだ。


 ロレインが何かを待つようにじっとマイケルを見つめている事には気づいたが、マイケルはそれ以上の事を話せなかった。もちろん、エマとの縁談話も。




 自室に入ったマイケルはベッドに寝転んで、今日アレックス隊長から言われたことを思い返していた。


 それは、思ってもいない事ばかりの話だった。




     ***** ***** *****




「こんな言い伝えを知っているか?」

と親衛隊アレックス隊長は言った。


 '王の長子が女である時、その姿を王太子になるまで隠す事。さもなくばスカーレット国は滅ぶ'


「はい、聞いた事はあります」


「か弱い王女を守れ、と言う意味だろうが、当事者にとっては言い伝えでは済まされないと思わないか?」


「…えっ?」 


「実はな…」



 子供がいないと思われているセオドラ国王陛下と王妃ゾーイ殿の間に姫君が2人もいて、それを隠し通してきたのだ、とアレックス隊長は言った。


 昔からこの国にある言伝えを信じるわけではないが、娘に国を滅ぼすような辛い思いだけはさせたくないと国王夫妻は悩んだという。


 国王夫妻の出した結論は、長子は死んだと内外に広め、姫を郊外の屋敷に隠す、という事だった。


「その姫君は今13歳。王位継承の条件に従い15才になったら自衛軍の実務を1年間経験していただく。

 そして、16歳で王太子となる。

 姫君の暮らす館と自衛軍、両方で姫君を護り、秘密を口外しない信頼できる者を姫君の側に置いておきたいのだ」


 マイケルにとって想像をした事もない任務だった。


 何故、私をお選びになったのですか?と尋ねると、アレックス隊長はこう答えた。


「その理由はお前の母上に聞いてみるといい」




     ***** ***** *****





 コンコンコン、とマイケルはロレインの部屋のドアをノックした。


「母さん、夜中にごめん。やはり、少し話をしたい。いいだろうか?」


 ドアを開けて顔を出したロレインはマイケルの顔を見つめた。


「ダイニングで何か飲みながら話しましょうか?」


 ダイニングに入るとロレインはワインがいいわね、と言ってマイケルに赤ワインのグラスを渡したロレインはグラスを掲げた。


「マイケルの新しい仕事に!」


 赤ワインを一口飲んだロレインは、何を話したいの?と聞いた。


 するとマイケルは、母さんが知ってる事の全てを教えて欲しいと答えた。


「長い話になるわ」


 ロレインはワインをまた一口飲んだ。そして、ワイングラスをゆらゆらと揺らしながら話し始めた。

 




 官史だったマイケルの父が亡くなった時の事だった。


 突然夫を無くしたロレインの元に国王陛下の親衛隊隊長であるアレックス殿がこっそりと訪ねてきた。王太后の元で侍女として働いていたロレインに頼みがあるのだと。


「ある御屋敷でお嬢様の侍女を探しているんだ。そこで働いてみないかい?しばらくは住み込みだが、ロレイン殿の子供も一緒で構わない。

 ロレイン殿の人柄は色々なところで聞いていて、ロレイン殿ならばこの仕事を任せられると思っている。

 どうだろうか?もちろん、気が進まなければ断ってくれて構わないよ」


 顔馴染みで信頼できるアレックス殿からの話である事と、給料などの条件がかなりよかった事もあり、御屋敷の家族と顔合わせをしてみる事になった。


 ロレインがアレックス殿に連れられて、郊外の御屋敷に行くと、そこにいたのは商人姿のセオドラ国王陛下と王妃ゾーイ殿だった。


 セオドラ国王は言った。


「この国に昔からある言い伝えを知っているだろう?娘にこの国を滅ぼすような経験をさせたくないのだ」


 王妃ゾーイ殿は乳飲み子のエレノア姫をゆらゆらと抱っこして泣いていた。そして、誰か信頼できる人に姫を託したいのだと仰った。


 エレノア姫はロレインの顔を見ると声を上げてお笑いになった。それはそれは可愛らしい姫君で、ロレインはこの話を断れなくなってしまった。


 それからすぐ、ロレインとマイケルは郊外の御屋敷に移り住んだ。

 

 マイケルはエレノア姫を実の妹の様に可愛がっていた。エレノア姫もマイケルといると楽しそうだった。


 御屋敷には時々アレックス殿がやって来てマイケルを鍛えた。


 やがてマイケルは騎士学校に入学する事になり、姫達の記憶も、アレックス殿との記憶も封印される事になった。姫君達の秘密を守るためとロレインは割り切り、屋敷の近くに家を構えた。



 ところが先日、突然アレックス殿がロレインの元を訪ねて来られ、こう言った。


「マイケルに姫達を護る職務に付いてもらいたいと考えているのだが、ロレイン殿はどう思われるか?」


 ロレインはこう答えた。


「マイケルは心優しく、信頼できる男です。十分な働きをしてくれると思います。

 ただ、女性である姫達の相談に乗る事はマイケルには出来ないでしょう。それができる侍女を1人付けて差し上げてください。まだまだ子供の姫達ですが、これから大人になって行くのですから…。

 姫達を守る力については、アレックス殿の方がよくご存じですよね」


 ロレインの言葉にアレックス殿は深く頷き、わかったと答えた。




「これが私の知っている全てよ。

 マイケル、自分の心のままに道を進みなさい。騎士のあなたには神のご加護があるのですから、信じた道を行きなさい」


 騎士の母は息子を見つめていた。




 翌日、マイケルはアレックス隊長に会って自分の決意を告げた。


「母から昨夜、話を聞きました。隊長が私を評価してくださっている事を嬉しく、誇りに思います。

 これからは自衛軍で力を尽くし、姫君にお仕えしていけるように頑張って参ります。

 それから、エマ殿との事はお断りください。私には伯爵として生きる道が見えないのです」


 アレックス隊長はわかったと答えた。




 その日の夜、家に帰ったマイケルはロレインに、仕事を受けた、とだけ話した。ロレインはにっこりと笑い、何も聞かなかった。





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