4 アップルパイと仲間たち
エメリーはドキドキする胸を押さえながら、騎士学校の宿舎に戻った。
自分の部屋に入ったエメリーは窓辺に腰掛け、アレックス隊長やマイケル達に言われたことを思い返した。
(自分を信じる。仲間を信じる。補い合う。
とても難しい…)
騎士学校では競い合ってばかりだ。
(この学校でお互いに補い合うなんて、どうすればいいんだろう)
すると、コンコンコンとノックの音がした。
「開けてもいいかい?」
どうぞと言うと、仲の良い友が顔を覗かせている。
「さっき帰ってくる姿を見たんだけどさ、なんか疲れてる顔してたから、みんなで一緒にアップルパイ食べに行こうって誘いに来たんだ。
行くだろ、エメリー?」
そうエメリーを誘うディックにアメリーは元気よく返事をした。
「うん、行く行く!
準備してエントランスに行くから待ってて」
エメリーはワンピースに着替えてると、勢いよく部屋を飛び出した。
騎士学校は1学年20名で、10名ずつのグループに分けられている。2つのグループはお互いに競い合いっていて、女子は騎士学校でエメリーだけだ。
宿舎から皆でわいわいと話しながら歩いていると、程なくアップルパイで有名な店に着いた。
甘い香りが店中に広がっていて、それだけでエメリーは幸せな気分になる。
店の端っこに置いてある大きくてドーナツ形のカウチに10人でぎゅうぎゅうに詰めて座った。
紅茶とアップルパイを頼むと、ディックがエメリーに聞いた。
「何があったんだよ。心ここにあらずって感じで歩いてたぜ。もしかしたら、あれかい?魔力の事?」
「確かに。エメリーの魔力の無さは…」
と、ティムが追い打ちをかける。
「そんなに気にする事もない、と私はは思いますけど?」
クインスは優しくいう。
「んもう!みんな!それは言わないでよぉ〜!」
ワイワイと話せる仲間は何にも代え難い。1人しかいない女子にも分け隔てなく接してくれる。
運ばれてきたアップルパイは大きくて、一切れでお腹が一杯になる。紅茶もポットにたっぷりあり、お代わりし放題という店だ。長居するにはちょうどいい。
エメリーはアップルパイを半分ほど食べた所で真面目な顔になった。
「さっきの魔力の話、実はちょっと悩んでいて…」
「えっ?ごめん、からかっちゃったよ。そんなに悩んでたんだ。魔力がない奴は他にもいるし、魔力がなくても騎士になれるし…。気にする事ないと思ってた」
エメリーはこくりと頷いた。
「うん、それはわかってるの。
でも、このままじゃ騎士になっても役に立たないんじゃないかって不安に思っちゃって。それで、知り合いの騎士の所に相談に行ってたんだけど…。そしたらね…」
エメリーはアレックス隊長やマイケル達に言われた事を皆に話した。
「騎士学校にいると、競争ばかりでしょう?
でも、私、こうして皆に励まされて、心が少し軽くなってわかったの。
私は1人じゃないんだって。
私の足りない所は皆に助けてもらう。そして、私も皆の事も助ける。皆の事を信じる。そういう事が大事なんだって。
私の魔力の弱い所は仕方がないけど。でも、私に出来ることだってあるし…」
エメリーは皆の顔を見て、にっこりと笑った。
「だから…これからもよろしくね。
今日は誘ってくれてありがとう」
エメリーがそう言って頭を下げると、皆は互いの顔を見ていたかと思うと、おうっ!と小さな声をあげて小さく拳を突き上げた。そして、だんだんと大きな声になった。
「おうっ!おうっ!おおおうっ!」
調子に乗っていると、冷静な顔の男が1人現れ、エメリー達を見もせずに言った。
「お前ら、バカか!うぜぇんだよ!騒いでんじゃねぇ」
クラスメートのショーンだ。
「けっ!バカはお前だろ!」
ショーンの後ろ姿を見てディックが言った。
「気にすんなよ、エメリー。あいつ、ひがんでんだよ。
さっ、皆、アップルパイ、食っちまおうぜ。帰ったら試験勉強だ。エメリー、頼りにしてっからさ!」
「俺も頼りにしてる」
「俺も!」
この皆となら頑張れる。
エメリーはアップルパイを食べながらそう思った。