2 エメリーは決意する
スカーレット国で騎士になれるのは、貴族に生まれた者、強い魔力が認められた者、騎士学校を卒業した者、と決まっていた。
貴族でもなければ魔力もない…そんなエメリーが騎士になる道はただ一つ。騎士学校に入学する事だった。
しかし、騎士学校の入学試験はとても難しい。その上かなり、いや、とてつもなくお金がかかる。自分の家がそんなにお金持ちでない事も、エメリーはよくわかっていた。
エメリーの様に普通の家で育った者はなかなか騎士にはなれなかったのだ。
(無理だよね。わかってる…。でも、騎士になってマイケルの隣にいることができたら、どんなに素敵だろう。どんなに幸せだろう…)
エメリーは夢を諦めたくなかった。
学校が休みのある日、エメリーは朝から1人で城門の前に佇んでいた。
エメリーは、黄紅色の髪を1つの三つ編みにして前に垂らし、両手をもじもじとさせ、少し目線を下げてずっと同じ場所に立っていた。
マイケルに会えるかどうかはわからなかったが、12歳のエメリーは他に方法が思い付かず、ただじっと門の前で待ち続けた。
(…やっぱり、会えないのかな?)
不安で涙が出て来た頃、突然、門が開いた。すると、そこにはマイケルと何人かの騎士が立っていた。
マイケルはエメリーのそばに駆け寄り、エメリーの両手を握って顔を覗き込んだ。
「エメリー、どうしたの?朝からずっとここにいるって衛兵から聞いて、心配して来てみたんだ。
何があったの?話してごらん…。皆、優しいから大丈夫だよ」
マイケルは涙ぐんでいるエメリーを城壁の側にある椅子に座らせ、自分は片膝をついてエメリーの顔を見た。
エメリーはマイケルがそばにいるだけでドキドキするし、何人もの騎士に囲まれるしで、真っ赤になった顔を上げることもできなくなってしまった。
それでも、少しづつ勇気を出した。
「みなさん、心配かけて…ごめんなさい」
エメリーは皆に頭を下げた。そして、マイケルを見た。
「わたし、マイケルさんと一緒に国王陛下をお護りする仕事がしたいです。騎士になりたいです。
でも…」
(お金がないから騎士学校に行けない…なんて言えない)
恥ずかしくて、俯いてしまう。
エメリーの背中をマイケルがゆっくりと撫でた。
「でも?…変な事でも平気だ。ゆっくりでいい、話してごらん」
エメリーは大きく深呼吸をしてマイケルを見た。
「お金のない家に生まれた私でも騎士になれますか?」
マイケルはエメリーの手を取り、にっこりと笑った。
「頑張れるかい?厳しい道だよ?」
エメリーは唇を噛んで頷いた。
「エメリーが騎士になる方法はある。
まず、勉強をしなさい。校長先生の推薦をもらって、騎士学校の入学試験を受けるんだ。
でも、入学試験に合格しただけじゃダメなんだ。
試験の成績が1番良ければ、2年間の授業料と宿舎での生活費はタダになる。
2番目なら半額だ。3番目からは何も出ない。
いいかい、エメリー。騎士学校の入学試験で、ぶっちぎりで1番になれ。
エメリーは今、何歳なの?12歳?じゃあ、あと3年だね。15歳になったら入学試験を受けられる。入学試験を受けるチャンスは2回だけだ。
頑張れるかい?ここにいる皆はエメリーが騎士になって、一緒に働けるのを楽しみにしている。ほんとだよ。待ってるからおいで。
今日みたいに困ったり、悩んだりすることがあれば、いつでも相談に乗るからね」
マイケルはエメリーの頭をぽんぽんとした。
エメリーは頷いた。蜂蜜色のその眼がキラキラと輝いていた。
「私、勉強を頑張って必ず騎士になります。待っていてください」
ありがとうございましたと皆に頭を下げ、エメリーは小走りになって帰って行った。
その日からエメリーは変わった。
エメリーは家族の皆に騎士になるという夢がある事を話した。家族は誰も笑ったり、無理だからやめろと言わなかった。
エメリーが学校の先生達に自分の夢を話すと、先生達は補習をしよう、と言ってくれた。
校長はエメリーに言った。
「夢が叶うかどうかなんて、誰にもわからない。だったら、やってみなさい。やらずに後悔するより、挑戦しなさい。自分の未来は自分で掴み取るんだ。私達もできる限りの応援をする。推薦状でもなんでも書いてあげるよ」
12歳の女の子は街で見かけた騎士を追いかけて騎士になる夢を持ち、この先の人生をまっすぐに進んでいくことになった。