【番外編】 怒りの闘神アキ、砦を壊す、と言う噂
今晩は。
投稿です。
サブタイトル、少し変わりました。
今回も挿絵はありません。
楽しみにされていた読者の皆様、すみません。
「間違いないのか?麗乱?」
獣人族の村に、衝撃が走る。その噂は一気に広まった。
玉座と言うには粗末な椅子に、深く腰掛けた屈強な獣人。
「はい、明季です。正確には明季の魂と記憶を持った異世界のアキです」
椅子に身を委ねているのは、村長のであり、明季の父親でもあった季羅。
獣王と呼ばれる存在だが、その表情は複雑であった。
「ホルダーとは、これほどまでに心を乱される存在なのか?」
「嬉しくないのですか?」
困惑する麗乱。
「明季は戦いの中で死んだ、もういない。ランの嘆き、苦しみ、あの慟哭、癒やされるのか?」
「それは……」
「私達の子供、明季は一人だ。異世界のアキ?それは別のアキだ、私から会うことはない……会うつもりはない」
「え?」
ショックを受ける麗乱。
これは喜ぶ、と思い報告したのだが?
「この世界に来た目的はなんだ?前世の者達に会いに来たわけではあるまい?」
「それは……」
「この世界に来た時点で、お前は調べたはずだ、話せ。お前の能力ならば、もう見通しているはずだ」
獣人族でありながら、並外れた能力を発揮する麗乱。
本来の真杖は麗乱では?と思う者は少なくない。
困り顔の麗乱が、目を逸らし話し始める。
「魔族が……アキの母親と友人を、この世界に連れ去りました」
「なんと、異世界にも魔族がいるのか?」
「いえ、この世界の魔族です、この感じから魔族イー・シャンテンかと」
「あの道化!また問題ごとを!」
「マートルは帰ってきたようだが、サイザンと円はどうした?」
「なにか異世界でトラブルがあり、帰還できなかったと……」
「生きているのか?」
「そこまでは……」
直感では生きている、だが口を噤む麗乱。
「あの者達は魔剣と朱槍の所有者だ、剣と槍はどうなった?」
「魔剣と朱槍は帰ってきています」
「ほう」
「季羅お父さん、やはり会われて直接話されては?」
「……取り合えず、ケインが付いたのだな?」
「はい、ケインお兄ちゃんは喜んでいますが?」
「俺は素直に、喜べん、その母親と友人はどこに?魔大陸か?」
「おそらく」
「では目的は魔大陸への上陸、母親と友人の奪還か?……それは、混乱、禍の始まりではないのか?」
「異世界でのアキの母親はアイです、友人はエノン」
「!」
「助けてあげませんか?」
「……様子をみる、それしか言えん」
助けてあげたい!
麗乱は思う。
あれは明季だ。
私は嬉しく思うのだが……キラお父さんは違うみたいだ。
ランお母さんはどう思うだろうか?
私、私はどうだろう?
会いたくて、助けてあげたいけど……やはり、以前と同じく怖くて会えないかなぁ。
あのアキの魔力、垣間見える炎の巨人、怖いし、近寄れない。
(麗乱!)
「きゃっ!」
「どうした?麗乱?」
「あ、いえ、突然連絡が……」
いつものことかと思い、麗乱から視線を外し、今後のことを考え始める獣王。
俺は……本当に会いたくないのか?
会わなければいけないのでは?だが、明季の死は……戦士の死とはいえ悲しすぎた。
子供の死は悲しすぎる。
異世界の明季と出会い、そしてどうする?
異世界の明季も戦士だ。
また、失うのか?何度も?
前世の記憶など邪魔ではないのか?
獣人族は戦士である。
死は常に付きまとう。
氷獣を狩る、力及ばなければ死となる。
獣人族にとって死は日常であり、それは、すぐ横に存在している。
だが……。
ランは、どう思うのだろうか。
(おい、麗乱!?無視するなっ!)
(え?え?シンお姉ちゃん!?な、なに?)
(なに?だと!?説明しろっ!これはなんだ?誰だ?私の魔力の先に、明季がいる!魔族の罠か!?この反応は明季だぞ!)
(え、えっと……それが……)
獣王と同じ説明をする麗乱。
(異世界の明季だと!?)
(ええ、そうよ)
(信じがたいな……だがこの感じは明季だ……)
(疑うの?)
(複雑だ!だいたい、母親がアイ?それも魔大陸に拉致だと!?)
(友達のエノンも、拉致され魔大陸へ。首謀者は魔族イー・シャンテン、真杖ア・ダウ)
(なんで母親がアイなんだ!)
(は?)
(なんで私じゃないんだ!)
え?そこ?
(アイは知っているのか?)
(アイお姉ちゃんは……どうだろう?感知は無理かな?キラお父さん会わないみたいだけど……)
(さもありなん、魂は同じだが、別の明季だ、ある意味迷惑な存在だ)
!
姉の口から、迷惑という言葉を聞き、困惑する麗乱。
ええ?私は素直に嬉しかったんだけど、お姉ちゃんやお父さんは違うんだ……。
ランお母さんはどうだろう?
段々と気が沈み始める麗乱。
そしてふと思う、明季は私達に、会いたいのだろうか?
麗乱の能力を持ってすれば、今この時、すぐにでもコンタクトができるのだが。
「おとう……獣王季羅、王妃ランにはなんと伝えます?」
わあ、お父さん、難しいお顔!
他の兄弟姉妹はどう思うかしら?
ランお母さんは、キラお父さんと同じかしら?
「私は会わぬ」
!
「ランお母さん!」
いつの間にか開いた扉から、声を掛けるラン。
「マートルから話は聞いた。明季ではない、私の娘、明季は死んだのだ」
虚ろなめで呟く母親に、麗乱は眉をひそめる。
うそだ、会いたいはず!
でも、また戦いの中で明季を失ったら……そうだね、こんなに悲しいことはない。
私は……明季が望むなら会おう。怖くても、勇気を出して。
そんな決意に呼応するかのように、次々に念話が繋がり始めた。
麗乱は妖精族のネットワーク・ホスト的な存在なのだ。
(ハピ子だ、我が魔力に信じられない反応があった、説明せよ!)
(ちょっと!麗乱!?何これ?私のアッキー、復活したの?ん?返事しなさいよ!分かるでしょう?ホッシーよホッシー!)
(ドロトンだけど、今港から。麗乱さん、この反応ラ・ベンダだよね?だがサイザナンシリーズに反応がない、魔族の罠かな?どう思う?)
北のゴブリン、秘のゴブリン、騎士団、問い合わせが殺到する。
(リラです、これは闘神さまですね?)
(ミントだ、麗乱さん、これは?なぜラ・ベンダの反応があるんです?)
(イオリです、ご主人さまの反応があります、説明できますか?それに剣と槍も微かに感じますが……我が愚息の反応がありません、サイザンくんの反応も!麗乱、これは?)
頭を抱え出す麗乱。
魔力、切ろうかしら?
そしてこのタイミングで全世界に魔力が響き渡る。
魂魄意思を揺るがす怒号!
それは轟き渡った。
《我が友に刃を向けるか!》
力のある者は全て、その声を聞いた。
眠っていた者は飛び起き、目覚めていた者は固まり立ち止まる。
その声は勇者、魔王にまで響き渡る。
椅子からずれ落ちる獣王季羅。
妻、ランと目が合う。
座り込む麗乱。
「聞いた?」
思わす素の声が出る獣王季羅。
「はははっ、アキは、どの世界でもアキなのだな」
(やっぱ、アキは怖いよぉ)
声の響いた方向に、思わず目が向く3人。
「!」
窓から見える風景、そこには、閃光が見えた。
そして重く響き聞こえる、爆発のような音、軽い地響き。
(何が始まるのだろう?)
麗乱は期待と不安、これから始まる世界に思いを馳せた。
それから間もなくして、腐敗した東の砦を、復活した闘神が破壊したと言う噂が静かに広がり始める。
長さんの肩に乗る、空と玲門、美観。
その後ろには、周囲を警戒するメイドン。
ケインは砲身の留まって羽繕いをしている。
「長さん、元気にしていた?」
「良」
「また会えて嬉しいよ!」
「我モ」
空は港町を目指す。
空は知らない、自分の魔力がループし始めたことを。
勇者朱天童子、一寸法師、小角、桃太郎、彼らはアキに力の贈り物をしている。
それは言葉であったり、癒やしであったり、きび団子であったりする。
勇者達のナノマシンは、確実にアキの魄に浸透する。
そして意思と魂に影響を与え続けた。
魔剣アシュリー、ドライアドの杖も封印と称して力を与え続けた。
多くの者達がアキに力を与え続けた。
世界を揺るがす声は、その結果である。
そして王都では、一つ目の巨人が動き出す。
「パピー?どこへ行くですの?」
「げへ、げへ、港、東の港ま、街」
「港にですか?何しに行くですの?」
「げへ、こ、こい、パピーと、お、お前を待つ者がい、いる」
「ええっ?ロズマリを待つ者!?運命の人ですの!?」
「あ、あはっ、そ、そうだ運命の人、だ」
「つ、ついにロズマリにも現れたのですね!運命のシトが!エルダーもサフランもさっさと決魂してしまうし!ロズマリ、ひとりで寂しかったですの!」
パピーは騙してはいない。
ある意味、アキはロズマリにとって運命の人である。
パピーとロズマリは王都を離れ、港を目指し、歩き始める。
次回投稿は 2023/10/22 夜の予定です。
サブタイトルは 【第4話】 港街にて です。
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