【第72話】 異界へ
今晩は。
投稿です。
何度もすみません、ちょっと遅れました。
ドーンとドアが開く。
そんに力強く開けたら、引き戸、外れちゃうよ!
「封印が解けたって!?」
サイザン君、神妙なお顔でホッシーに尋ねる。
汗が凄い!
どこから駆けつけたのだろう?
ホッシーはグルグルと美観に包帯を巻いていた。
手当中である。
「ち、ちょっと!サイザン君!?」
慌てて美観の前に出るホッシー。
「いやあああああああっ!」
腕をクロスさせ、たゆんと揺れる胸を隠す美観。
「え!?」
風の魔法、いや、暴風か?
咄嗟にガードはしたが、吹飛ばされるサイザン君。
玄関を突き破り、外へ。
ああ、サイザン君?道路まで飛んだ?
あ、阿騎が怒っている?
エルフさんの水浴び覗いた?
いつのことだ?
ここは私のお家。
行くところのない玲門と美観はここに住んでいる。
生息場所はリビング横の4畳半。
今はリビングで、ホッシーから手当を受けている。
「おい、サイザン君?わざと?ワザとか?魔力感知、すり抜けてきた?」
「ち、ち、ち、ち」
「……ちちがどうした?そこへなおれ!この不届き者!女の敵!」
ホッシーに殺気が漲る。
「ち、違う!わざとじゃないっ!ご、ごめんよ玲門さん!」
「……美観ですけど……」
まあ、双子だし。
でも、終わったね、サイザン君。
女子の名前を間違えるなんて、絶対してはいけないことよ!
このミスは、当分、いや人によっては一生許して貰えないわ。
涙目でサイザン君を睨み、ささっと四畳半に消える美観。
同じく涙目で項垂れるサイザン君。
「どうしよう……女の子、傷つけちゃったよ……」
私は、ソファーベッドに横たわる、玲門のお腹に乗って、魔力を注いでいる。
なぜか、玲門には私の魔力が流れ込むのだ。
ゴブリンの時代、記憶の伝承を受けたからだろうか?
「ホッシー、ごめん、ちょっと慌てた」
「謝るのは美観に、それから忠告だけど聞く?」
こくこく。
うわぁ縋るような目つき。
「ちゃんと一度謝ったら、無かったこととして、次から接しなさい、いい?思い出してニヤニヤしたりとか、絶対駄目よ?いい?」
「ニヤニヤ!?ぜ、絶対しないよ!」
「そうかしら?眼福とか思っていない?美観はあなたのことを、死ぬまで許さないわ、このこと忘れないでね?」
「え?じ、事故だよ!」
「理屈じゃないの、感情なの!」
「わかった……反省するし、できる限りのこと、するよ」
コンコン。
?
壊れた扉をノックする円。
「一応ノックしたぜ?」
ソファーベッドに目を移す円。
さっ、と円の顔色が変わる。
「感染したの?玲門さん?」
「ええ」
「ホッシー、怪我の具合は?」
「背中をざっくり、でもさすがは勇者小角のナノマシンね、回復が早いわ。馴染んだら……ある程度の攻撃、弾くかも」
「で、秋津川さんはどこだ?まだ身体構成、できていないはずだ」
うん、そうね。
この姿で再生するのが精一杯だったみたい。
人バージョンになるのは無理みたい。
ん?円、焦っている?
平然としているけど、円も凄い汗だ。
あ、魔法で体温下げた!
「鞘が反応した、誰だ?アシュリーの剣、抜いたヤツ」
「それとドライアドの杖もだ。あれに触れる人物、この世界にいたとは」
思い出したように喋るサイザン君。
「ああ、俺達以外に、剣と杖が認めた人物、どこの誰だ?」
「美観と玲門」
ホッシーが救急箱を持って4畳半に移る。
「「えええっ!?」」
「玲門、無理しない程度にお話し、できる?」
「ええ、いいわ」
「そこの二人、あまり玲門に負担を掛けないようにね!胸元とか覗かないように!」
「の、覗かないよ!そんな失礼なことはしないっ!」
焦るサイザン君。
「分かった」
冷静な円は、じっと玲門を見た。
「杖の封印を解いたのは、君だね」
断定した。
「ええ」
「サイザン、どうする?」
「どうするも、新しい主だ。杖が選んだんだ。円お前はどうなんだ?」
「俺はもう元の世界には帰れない、剣の選択は正しいさ」
!?
えっ?帰れない?どういうこと?
「玲門さん、元気になったらお話しすることがある、いい?」
あ、玲門の体臭が変わった!?
「私達、杖と剣を持って、異界に行く運命?」
「!」
円、固まった?
返事をしたのはサイザン君。
「……おそらく、そうなると思う。運命がどうかは、分からないけどさ」
ゆっくりと上半身を起こし、私を抱っこする玲門。
「この世界の大混乱、招いたのは私達の親が所属する多国籍企業なんだ。こっちの世界の産業廃棄物も、あなた達の世界に持ち込んでいるって話だし……」
責任?中学生には重くないか?
「円さんは帰れないの?どうして?」
お、いい質問だ、玲門。
勇者の家系だろう?
名門、魔力も技術、知識、受け継がれているモノが、あるはずなのに?
「円は、秋津川さんを封印する時、魄と意思の一部を壊した」
!!!!!!!!!!!!!!
「転移にはおそらく耐えられない」
「サイザン君は?」
「僕は水圧発電の建設や、真杖ア・ダウの討伐がある。この世界を離れられない」
「サイザン君も?楠の騎士団は?」
「彼らは強いけど、真杖が相手だと負ける」
これも断言?
「修行次第では勝てるかもしれないけど、今は無理だ。アッキーの復活は10年ほど掛かると思っていたけど、まさかこんなに早いとは……」
「で、どこ?アッキー」
ここだ、ここ!
私は段々と不機嫌になっていった。
私の暴走で、円を壊してしまった。
円はまさに、命を削って、私を止めてくれたのだ。
その結果、故郷に帰れなくなってしまった。
ごめん、円、ごめんなさい。
あなたから、故郷、奪ってしまった……。
それともう一つ。
転移に耐えられない?
どういうことだ?
エノンは重傷だった。
アイお母さんは、そのエノンにナノマシンを移していた。
あの二人……もしかすると、もう……。
そっと、私の頭を撫でる玲門。
(アッキー、それでも行くんでしょう?私達もつきあうよ)
!
玲門、帰れないかも知れないよ?
(私達姉妹、この世界にはいられないわ、異世界で責任を果たすつもりよ)
死ぬ覚悟?
(どうかしら?でも今回の件で、世界中で沢山の人達が死んだわ)
私の直感では、おそらく半減している。
異界に行く目的は?
私は二人の奪還よ!
(目的は異界からの訪問者について、勇者小角さまとお話がしたい、これが一つ。廃棄物の謝罪、そしてアッキーと同じ、エノンとアイさんの奪還ね)
問題は転送機か。
「なあ、玲門さん、気になっているんだが、その犬は?」
円がキラキラした目で私を見る。
もしかして犬好きか?
「この子?名前はクッキーよ、可愛いでしょう?」
ガラッと開く4畳半の扉。
「違う!その子はペロよ!ちなみに女の子だからね、触るなよ!」
きっちりと服を着込み、颯爽と現れる美観とホッシー。
「え!?あ!?あの、美観さん……」
ビシッ!と、サイザン君を睨む美観。
「何も言うな!そして忘れる!いいね?忘れるのよ!私も忘れるから!そしてこれから一生私を見て、笑わないで、いい?絶対ニヤニヤしないで!」
「わかった……」
そこで、全員が一斉にドアを見る。
現れたのは、小次郎お父さんだ。
自然と尻尾が揺れる私。
「理論上は完成した」
!
「今の段階で、転送機で送れる人数は4人、ただ、計算と式が弱い、時間がずれる可能性がある。ピンポンとは無理かもしれん」
「送るだけですか?」
「そうだ、片道だ」
片道でも充分!
ふふっ、さて、ここで亜紀の出番だ。
亜紀は私の封印が解かれた時点で、式を作り始めている。
ヒントは非ユークリッド幾何学。
これとサイザン君の魔科学の知識、小次郎お父さんの理論、残された資料や残骸をまとめると、異界に渡れるはず!
それも、かなり正確に!
メンバーは、私と玲門、美観、マートルで決まりだ。
次回投稿は 2023/10/16 夜の予定です。
できれば 23時までには、と思っています。
サブタイトルは 【第73話】 旅立ち、闘神の帰還 を予定しています。




