【第71話】 解けた封印
今晩は。
投稿です。
傷だらけの二人が、目の前に倒れ込む。
「ハァ、ハァ、初心者にこのクエストは無理!」
「ほう、美観、弱音吐くの?ゲホゲホッ」
「はぁ?私より、怪我しているくせに、お口だけは達者ね?」
「あと何匹?」
「12よ、玲門」
「ええっ、あれだけ頑張ったのに、3匹しか倒していないの!?」
「……まあ、私達の実力はこんなもんよ」
私を見る双子の姉妹。
なんだ?
「美観、この剣と杖、抜けないかしら?」
「!?」
え?これ、使うの?
だんだんと意識の焦点が合ってくる。
あ!
エノン!
アイお母さん!
次々に湧き上がる記憶の数々。
心乱れるけど、冷静な私もいる。
怒りで自滅なんて、駄目だ。
ゴブリンのスキル、兵器としてのバランス感覚を上手く使おう。
落ち着いて行動だ、力の制御、もう失敗するわけにはいかない!
「え?抜いちゃうの?魔王化したアッキーを封印している、って聞いたけど?」
「名前のある武器らしいよ、このままでは私達、蜘蛛のご飯だよ!アッキーももう起きたいころだよ!抜いちゃお!」
「で、でもこれって、円くんやサイザンくんじゃないと抜けないし、主以外は認めないから、触らないようにって!」
ざわざわと迫り来る、小型のデス・スパイダー。
蜘蛛とムカデの合成みたいなその姿は、見る者を恐怖に陥れる。
この世界の環境に合わせ小さくなったみたいだが、その凶悪さが、減少されることは全くなかった。
おそらく、この世界は魔力が少ない。
だから小型化し、効率化を図ったのだろう。
どこの世界でも昆虫は優秀だ。
だが、目の前で私の世話係を襲うのは許せんな。
ピキピキ、と私を封印している丸い石が割れ始めた。
しかし封印が解けても、私の身体は殆ど無い。
怒りで魄を砕いてしまったからだ。
魄の再生はまだ、元の身体に追いついていない。
どうする?
二人のうち、どちらかに憑依するか?
剣に手を伸ばし、思いっきり引き抜く美観。
あっさりと剣は抜ける。
お?身体が軽くなった?
ボンヤリしていた気分も、なんか爽快?
剣を構え、見事にデス・スパイダーを斬ってみせる美観。
え?剣、使えるの!?
この使い方は……剣道?
摺り足で間合いを詰め、さくっと斬る美観。
玲門は杖にしがみつき、ゆっくりと引き抜く!
「こ、こっちも抜けた!使えるよ!美観!」
「と、とにかく一匹でも!」
「玲門は休んでな!背中の傷、深い!」
「で、でも!」
二人ともボロボロである。
私はまだ魔力を上手く扱えず、石の封印を割り切らずにいた。
お?ドライアドの杖は赤く染まり、その姿を朱槍に変える。
「え!?」
「どうしたの!?玲門?」
「つ、杖が槍に!?これなら!」
ヒュンヒュンと風切りの音。
この使い方……薙刀だ!
「えいっ!」
サクッ、と白菜のように綺麗に斬れるデス・スパイダー。
朱槍、かなりの魔力を帯びているぞ。
使いこなせる?
「み、美観、これ斬れるけど、なんか重い!」
「そうね、剣自体は軽いんだけど、魔力的に重いって感じだ!」
「あと、幾つ?」
「あと9!」
「うう、もうダメかな?」
「ええ!?イヤだよ、諦めるの!折角支配者(親)から解放されたのに!それにまだ誰ともデートしていない!ホッシーにもアッキーにもちゃんと謝っていないよ!」
「そうね、一応、私、薙刀の師範代だし、もう少し頑張ってみるか」
「そうそう、私だって有段者よ!まさかこんな所で、役に立つなんて」
お家柄、いろいろお稽古事、させられたんだろうなぁ。
でも、明らかに押されている。
ん?デス・スパイダーの動きが変だ。
何かを狙っている?
二人が弱ってきたから、何か仕掛ける気だぞ!
気をつけて!二人とも!
シュッ、と嫌な音がした。
「!」
「糸!?」
拳大の糸の塊が次々に二人を襲う。
「ぎゃう!」
ゴム弾のような糸の固まりは、ぶつかると弾け、二人の行動を制限し始めた。
二人の動きが鈍くなると、一気にデス・スパイダーはジャンプし、捕食に掛かった。
「うう、生き残ったら何したい?」
「アッキーとクッキー焼きたいね」
!
クッキー!?
クッキーがパスワードだった。
私の中の明季が咆えた。
ドオオオオォォン!
地響きと共に割れる石の封印。
石の中から飛び出た私は、玲門と美観に襲いかかるデス・スパイダー9匹を瞬殺する。
パチパチと、長い睫を動かす双子の姉妹。
「アンアン!」
「え?」
「ポメラニアン!?」
ホルダーアキ復活である。




