【第68話】 届かなかった手
今晩は。
投稿です。
日暮れが早くなりましたね。
伸ばした手は届かなかった。
消えた?
どこにもいない!?
魔力感知にも、霊視にも反応しない!
(ご、ご主人さまン……これは……)
どこへ!?
どこへ行った!?
逃げた!?
(次元転移と言っていました……おそらく魔大陸に帰ったと思いますわン)
魔大陸?どこだそこは!
助けに!かあさん!エノンッ!
え!?
魔大陸!?
この世界から、異世界へ?
エノンを!お母さんを!
あの世界へ、連れ去った!?
「魔族イー・シャンテン!あいつうううううっ!」
身体が割れるほどの怒り!
(ご、ご主人さまン!お、落ち着いてくださいっ!)
「き、騎士団!動けるヤツは阿騎を止めろ!暴走するぞ!結界で包み余剰魔力を中和!」
(サイザンさま!ご主人さまの魔力中和は無理ですわン!ご主人さまの中は簡易魔王が眠っているんです!)
「俺と同じ?作られた魔王!?」
「そらっ!」
「小次郎お父さん!アイお母さんがっ!エノンが!」
「落ち着け!そら!」
(だ、誰かっ!誰か、ご主人さまを止めてくださいっ!助けてくださいっ!ま、魔王が目覚めますわン!)
怒りの意思が、体内情報を組み変える。
ビキビキと音を立て、魔王化が始まる!
私は怒りに染まり、全てを破壊する衝動に包まれた。
「許さん!!魔族イー・シャンテン!エノンを!かあさんを!かえせええええっおおおおおおおおっうおおおおおおおおおおおっ」
(ご、ご主人さまンが!は、早くしてくださいっ!新しい力を作り始めましたわン!)
「私にもっと力があれば!こんなことにはっ!エノン!エノン!アイお母さん!」
自分が異形の何かに変わっていくのが分かった。
それでも!
バキン!バキン!と身体が崩れ始める。
意思が力を求め暴走し、耐えられなくなった魄が壊れ始める。
それでも!
そして私の意思は怒りと深い後悔に染まり、弾け飛んだ!
「おい、サイザン!アキのやつ、自分を組み替えている!自分の子宮を使って生れ直す気だ!」
「円!俺の杖とお前の魔剣で!」
「封印か?できるのか!?」
(封印をお願いしましわン!っこんな力が世界に出たら、皆、滅びてしまいますぅン!)
「封印しかない!他にないだろう!言葉はもう届かないっ!」
「チッ、なんで秋津川を封印しなといけないんだよ!封!魔!滅!怨!涙!許せ!アキ!」
「俺の言うこと、聞いてくれよ?ドライアドの杖さん!封!魔!鎮!魂!斬!」
剣と杖が私の身体を貫く。
バチンッ!
全てが、止まった。
そこは何もない世界だった。
自分が誰かも分からない世界。
ただ、漂う世界だ。
何が起きたのだろう?
時間感覚がない、考えが纏まらない。
いや考えようと集中すると、集中した意識が拡散させられる。
私は自分で考えることもできず、ぼーっと、何もない世界を漂い始めた。
孤独も感じなければ、焦りも悲しみも楽しみもなかった。
?
どのくらいの時間が過ぎたのだろう?
私は眠っているのだろうか?
起きているのだろうか?
目の前の何かが動き始めた。
あ、見える。
女の人だ。
その髪の長い女の人は、手に何かを持っていた。
「アッキー、ホッシーだよ……」
泣き出した?
「シュ、シュークリーム作ってきた、一緒に食べよう?」
一つを私の前に置き、もう一つをパクパクと食べ始めた。
なんとも言えない甘さが、私の中に広がる。
ああ、なんだろう?
気持ちいい。
この感情、ここちいい。
目の前に『シュークリーム』があるだけなのに、味が広がる。
「あと少しでね、水圧発電完成よ、小次郎さんとサイザン君、近寄れないくらい頑張っているの……あと、来週から討伐に行ってくるね、ヨーロッパの方でア・ダウの分体が活性化したらしいの」
なんのことだろう?
この、シュークリーム、また持ってきてくれないかな。
「私がいない間、クルミちゃんが来てくれるよ、寂しくないよね?」
?
寂しい?
寂しいとはなんだ?
あなたが寂しいのではないのか?
ホッシーと名乗った女性は何回も振り返り、どこかえ行ってしまった。
また、誰か来た。
時間の経過は分からない。
でもシュークリームは覚えている。
「アッキー、来たよ。これドーナツ、私が作ったの」
?
シュークリームではないのか?
「私、寂しいよ。オトちゃんいなくなったし、アッキー丸い石になったし。本当にこの石の中にアッキーがいるの?どんなに霊視しても、何も見えないんだけど」
ドーナツ?
あまい感じがする。
これはこれで、ここちいい。
「水圧発電を中心に世界が纏り始めたよ、ハーサーが交渉、頑張っているの、魔昆虫とか私達しか駆除できないし」
虫?
虫は嫌いだな、苦手だ。
ん……虫ってなんだ?
しかし、私に会いに来る人は皆泣き出すな。
何が悲しいんだろう?
ああ、悲しいってなんだろう?
私は、知らないことが多すぎる。
「それからね、アッキー、勇者達が壊した転送機、復元?がだいぶ進んだんだって、小次郎お父さんやサイザン君、頑張っているよ」
「クルミちゃん、ここにいたの?」
「あ、円さん!」
ま…どか?
何かが私に優しく触れた。
次回投稿は 2023/10/12 夜の予定です。
次回も23時までには投稿したいです。
サブタイトルは 【第69話】 異界へ の予定です。
あと少しで礼羽編が終わります。
次は……編です。
お楽しみに。




