【第4話】ラグナルってなんだ?
今晩は。
投稿です。
諸事情で、この時間になりました。
さすがに運動大好きのエノンも、ちょっとイヤなお顔である。
「肘が当たったんだと」
「肘?」
「故意ではない、と言っているけど、あいつら俺らで反則の練習していないか?」
相手が悪いよ、隣のクラスはバスケ部の在籍者が多い。
特に極悪双子コンビ、美観と玲門は有名だ。
こいつら反則が得意で、綺麗なプレーをしないともっぱらの噂。
県大会でも際どいプレーをしたとか。
運動部に属さない私ですら、噂を聞いたことがあるくらい酷い女子!
でも美人さんなんだよねぇ、この二人。
「アキくん……」
「なに?エノン?」
「ラフプレー、怒ったら駄目だよ?」
「切れるなよ?カラ?お前切れると、誰も止められないからな」
「そう?」
「自覚、しているよな?」
ちょっと赤間くんが真剣なお顔になる。
「自覚はしているけど、赤間くんやエノン、クルミちゃんが怪我したら確実に切れる」
「私がどうかした?」
私より、ちょっと背の高いクルミちゃんが、現れる。
ショートカットで、目が大きくて綺麗な女の子。
THEクルミちゃん。
2組のアイドル。
「4組の怪我の話だよ」
「あ、私も聞いたよそれ!事故だって4組の人達言っているけど」
「でもよ、体育の先生は、女子バスケ部の顧問も兼任しているゲス崎だろ?」
「赤間くん、菅崎先生ね?」
「カラに注意されるとは意外だな」
をい、どういうことだ?
それにしても何かみんな、ピリピリしているな?
私が見回していると、クルミちゃんが反応する。
「動画じゃない?黒の獣の動画!」
なんだそれ?体育の授業じゃないの?ピリピリの原因。
「なに?それ?体育が原因じゃないの?」
「お?アッキー知らないの?黒の獣、世界連合のビルがあるところに、必ず現れる怪物よ」
「怪物?都市伝説?フェイクでしょう?絶対映像におかしいところ、あるって」
「世界連合、何か隠しているって、話だよ?」
政府機関に付きまとう陰謀論?
「実際、凄く大きなトラックが、何台も出入りしているんだって」
熱弁を振るうクルミちゃん。
「あれはトレーラーだぞ、俺も見た」
赤間くん、このお話し、乗っかるの?
この手のお話しはまず、無視するのだけれど、ちょっと気になった。
その……前置きが。
世界連合のビル?
「それが凄いリアルなのよ、アッキー、これなんだけど……」
華麗な指捌きで、スマホを操るクルミちゃん。
それを覗き込むエノン、赤間くん、私の3人。
「!」
外国?そこには、ワニのような、獅子、ライオンのような?蛇も入っているかな?キメラ怪物が、一瞬映っていた。
周囲には赤黒い血だまり?周りから判断して5m以上はある!
その獣を見た瞬間、ゾッ、とした。
なんで、ラグナルがここに!?
「!」
……ラグナルってなんだ!?
「これ、魔獣って呼ばれているの、削除された動画も沢山あるみたい」
「アキくん?どうかした?」
「気持ち悪い……」
「でしょう?これ本物じゃない?この街にも世界連合のでっかいビルあるでしょう?その内、出現するじゃない?」
……一瞬、この怪物と目が合ったような気がした。
「あ!?」
「どした?カラ?」
赤間くんが私の異変に反応する。
この怪物、見たことある!
最近、夢の中に出てくるヤツ、そっくりだ!?
いや、同じ!?
そして予鈴が鳴り、退屈な授業が始まる。
エノンもクルミちゃんも大きくなったなぁ。
小学生の時は、私の方が大きかったのに。
エノンとクルミちゃんは、保育園から一緒だ。
出会いはお漏らししたエノンを、トイレに連れて行った所から始まる。
私は当時から、今と大して変われない状態だった。
身体は幼児で頭脳は……って、おいおい、あぶない!
色々な知識があった、と記しておこう。
クルミちゃんもしかり。
転んで、膝を擦りむいたクルミちゃん。
大泣きである。
私は小さいながら、クルミちゃんを抱っこして、傷口を洗い、消毒して、一緒にお昼寝をした。
この二人、友達なのだが、親戚の子供?妹?みたいな感じもする。
赤間くんは小学校からだ。
帰国子女の赤間くん。
親の都合で学校に行っていなかった。
本当は私達より、二つ程年上なのだ。
両親の離婚、連れ去り、保健室で泣いている赤間くんとばったり出会い、お友達になった。
レイ・レッドは向こうでの呼び名だ。
この3人は私の秘密をちょっとだけ知っている。
私はとんでもない身体能力を隠し持っている。
意識して使ったことはないし、使おうと思っても、発動しないのだけど。
これがバレた事件がある。
小学校3年生の時、吹奏楽で有名な先生がいた。
この先生、吹奏楽の指導で有名らしく、必ず毎年入賞、もしくは金賞を受賞するのだ。
ただ、指導は厳しすぎで、体罰は当たり前だった。
それでも受賞歴が凄まじく多く、成績重視で名誉が欲しい大人達は、こいつを優秀と褒め称え、誰も問題にしなかった。
こいつには裏の顔があった。
生徒にやたらと触りまくると、噂が絶えなかった。
ある日クルミちゃんを、音楽授業、吹奏格指導の一環として、放課後音楽室に呼びだした。
おかしい、と感じた赤間くんとエノンは、スマホの録音機能をオンにして音楽室に乗り込んだ。
施錠してあったので、ドアを外して侵入したそうだ。
赤間くん、どこで覚えた?そのテクニック。
そこには、泣いているクルミちゃんに手を伸ばすそいつがいた。
赤間くんは勇敢にも椅子を投げ付け、人の形をした害獣に挑んだ。
が、小学生と大人では、体力差があり殴り倒されたそうだ。
そしてその害獣は、赤間くんのズボンとパンツに手を掛け引き下ろした。
その異様な光景にクルミちゃんは気を失い、エノンは声にならない悲鳴を上げた。
私はクラスが別だったので、校庭で落書きをして待っていた。
その時、確かに私はエノンの悲鳴を聞いた。
どうやって3階の音楽室に辿り着いたか覚えていない。
ここだ!と直感した。
私は3階の窓をぶち破り、最短距離で駆けつけたのだ。
呆けた顔で振り向く害獣。
まあ、普通、3階の窓から小学生は侵入しない。
赤間くんは害獣の股間を蹴り上げ、転がり私の方に逃げて来た。
「っぶねぇ、た、助かったよ、カラ」
ぐしゃぐしゃの泣き顔でお礼を言う赤間くん。
ゆっくりと目を開けるクルミちゃん。
「大丈夫だ、もう心配ない」
私は静かに言葉を放った。
次回投稿は 2023/08/11 20時から21時の予定です。
サブタイトルは 【第5話】私の日常は非日常 です。