【第28話】天翔る女の子
お早うございます。
朝刊です。
「アッキーどうしよう!?ワンワンが、ワンワンがっ!」
血だらけの犬を抱きしめている、クルミちゃん。
「あいつらっ!殺す!」
漫画やアニメーションのワンカットのようにふわっ、と空の髪が浮き、蠢き出す!
怒髪天を衝く、である。
(あ!?)
一瞬、大きな家?西洋の建物?お屋敷?に楽しく暮らす犬や猫の姿が空の脳裏を駆け抜けた。
(犬猫屋敷の管理人。彼がこれを見たら、あいつら皆殺しだろうな……ん?なんだ?知らないぞ?犬猫屋敷?どこの風景だ?)
「おい、あいつらよりワンワンだ!どうする?病院!」
今度は、赤間君にお姫様抱っこされている左近。
「だね、赤間くん!エノン!」
空が声を荒げる
「3丁目の四つ角!動物病院がある!でも、川向こうなんよっ!?」
「あ、あそこか!行ってくる!」
血だらけの犬を抱き上げると、そのままジャンプする空。
その姿を、呼吸するのも忘れて見つめる左近。
彼女は犬を抱いたまま、一級河川、対岸までの数十メートルを飛んで渡ったのだ!
天を翔るヒロイン、左近はその非現実の風景に呆れ、思わず痛さを忘れる。
そして、憧れを強くした。
「左近、大丈夫、わんわん助かるよ、お前もな」
「お、お前ら、あれが日常なのか?」
その言葉を聞き、エノンのお顔が更に殺気立つ。
「……あれ?うちのアキくんをあれ呼ばわりするん?また貶めるの?アキくんは許しても、うちは許さん!お前だけは許さん!」
殺気が、触れるようだ。
(きっと音絵ちゃんは、一生許してくれないだろうな)
独特の音、サイレンが聞こえてくる。
一台ではない、複数の音が折り重なり辺りは騒然とし始める。
もうカラちゃんの姿は見えない。
左近は後悔した。
(なんであの時、意地悪したのだろう。いじめて、涙を流させたんだろう……俺、こんなにもカラちゃんのこと、好きなのに……)
駆けつける救急隊員、警察官。
まるで非現実だ。
意識は遠くなり、左近は闇に中に落ちていく。
目が覚めるとそこは白い天井。
集中治療室だった。
最初に聞いたこと。
「ペロは?」
ペロは助かっていた。
どれほどカラちゃんと、そのメンバーに感謝したか。
左近は肋が折れ、肺、内臓に刺さっていた。
重傷である。
空の方も大変だった。
いつものパターンで怒られる秋津川空。
警察、小学校、中学校、高校、もはや有名人である。
この事件は、地方新聞の一角も飾ることになる。
襲撃者は最低で全治3ヶ月。
全員病院送りである。
教科書が当たっただけなのだが、全身打撲、当たった箇所は骨折、5人全員頸椎や腰椎にダメージが残った。
少年院か鑑別所を覚悟した空だが、どういうわけかお咎めなし、地域清掃ですんだ。
それだけではなく、空にとって良かったことは、終に、いじめが終わったことか。
これだけの危険人物、もはや小学校では、誰も手を出さない。
そして秋津川空は中学に入学する。
同じ小学校の者達は皆口を噤み、空は生徒の中に埋もれていくはずであった。
「静かにしておけ」
赤間くんの言葉だ。
「問題は、俺が引受けるから、じっとしていろ!」
「え?進んで問題は起こさないよ?」
心外とばかりに、赤間君に不満を漏らす空。
「当たり前だ!お前、音ちゃんやクルミちゃんどれだけ心配して泣いたか!」
「う」
赤間君は知っている。
秋津川空は家族や友達を大切に思っていると。
それは長所だと思う。
そして、思いすぎている。
これは短所に繋がる。
いや、弱点かな?
家族や友人のことで、こいつはいつか命を落とすのではないか?
そんな心配もしている。
穏やかな日々。
本人も、両親も、友達も、事情を知っている中学校の先生達もそれを望んだ。
(一部、それらの話を信用しなかった体育教師を除く)
だが、世界は大きく動き、変わり始める。
次回投稿は 2023/09/05 朝です。
サブタイトルが変更になりました。
【第29話】蘇る記憶 を予定しています。
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