【第23話】それぞれの道
今晩は。
遅れてすみません。
本日 2023/08/29 23時30分までには挿絵が入る予定です。
「おれはグランドに行くぜ」
「俺も」
「キャプテン、どうする?高丸も行っちまったぜ?」
『どうする?決まったか?』
「俺は、あの世界に戻る」
『ほう』
「何でだよ?理解出来ないよ?野球、出来なくなるって話だぜ?」
「それでも、俺は球場には行けない」
東野台陸中学の野球部は、全員が同じ小学校の出身である。
小学校の時から、皆で続けてきた野球だ。
球場以外の選択はないはずであった。
「もしかしてカラか?偽物事件?」
「ああ、カラちゃん、あんなに泣くなんて……」
『偽物?お前ら、そっとしておけなかったのか?』
「赤鬼さん、そんなに怒らないでよ!こっちが泣きそうだよ!こえーよ!」
「カラの家に謝りに行った次の日にさ、力尽くで謝りに来させたって話になっているんだ」
『……』
「何をしても、皆カラちゃんが悪いように、言うんだ」
「面白おかしく言うか、無視するかのどちらかさ」
「いじめって、集団の病気か?」
「なんかクラスの皆に、取り憑いているみたいだったよな?」
「だ・か・ら!赤鬼さん!お顔が怖いよ!」
『それで?』
「俺達が庇えば、庇うほど、皆エスカレートして……」
「野球部は変なバイ菌、カラ菌に感染したとか言い始めるし」
「で、そんな時、先生がカラちゃん養子だって漏らしたんだ」
「皆が妖怪の子供とか、暴力女だから捨てられたんだとか言い始めて」
『ちょっと、時間旅行してくる、お前らここで待っていろ』
「だーかーらー鬼さん?なんか放電?しているって!近寄れねーよっ!」
「センセー絞めに行くの?」
「……赤鬼さん、カラのこと好きなのか?」
『いじめが許せんだけだっ!それで?その偽物事件が起きたんだな!?』
「うん」
「あまりにもいじめが酷くなったんで、保護者が騒ぎ出す前に先生達が朝礼で全校生徒に注意、勧告?したんだ……副部長、注意勧告使い方、合っていますか?」
「ああ、合っているぞ、そこで言ったんだよな、校長が、俺も聞いた」
「例え両親が偽物でも、愛情は変わりません、いじめはやめましょうって」
『は?』
「朝礼が終わると赤間君、校長室に乗り込んで、ランドセル投げ付けたらしい」
「校長先生、頸椎捻挫」
「原因は野球部キャプテンの俺だ。俺が最初にカラちゃんをいじめた。それから広がって、取り返しのつかないことになったんだ。カラちゃん俺に言ったんだ、両親は偽物でも、愛情は本物よ、って。なあ鬼さん、野球とカラ、どちらか選べって話だろ?俺はカラを選ぶよ、謝ったけど、謝り足りないんだ」
『そうか』
目の前に残った者は8名。
「8人じゃもう野球出来ないね?」
「そうだね。鬼さん、あそこにどうやって行くの?」
「行き着くだけで、強くなれるの?」
残った8人を見る勇者朱天童子。
男子6名、女子2名。
『マネージャーか?』
「鬼さん、野球詳しいの?私はマネージャーだけど、先輩は選手だよ」
『ほう、男子に混じって?』
「ぬ?先輩、サードでレギュラーだよ?女子だからって目で見たら、駄目だよ?」
『俺は人を一人の戦士として見る、男女の区別はしないぞ』
「そ、そうなの?」
『そうだよ、俺達の世界、種族によっては、女性の方が強い』
「へーっそうなん?例えば?」
『獣人族は圧倒的に女性が強い、魔法使いも女性だな』
「ふーん、で、どうやってあそこまで行くの?」
『簡単ではない、歩いてだ』
「歩き!?歩くだけ?15分くらいかな?」
『人によって違う、ここからは試練だ。勿論、いつでも小川は渡れる』
「?」
そう言って勇者朱天童子は先頭を歩き始めた。
慌ててついて行こうとする8名。
「なっ!?」
「わっ!?」
「ひっ!?」
それぞれ叫び声を上げるメンバー。
「え?あ、足が?」
「風景が!?」
「く、くるしいよぉ!歩くだけなのに!?」
「進む度に風景が変わる!?」
『お前達はヨミガエリ、黄泉の世界から帰るのだ、簡単には帰れない』
その一歩は重く深く、意思を沈める。
一歩が数年に感じる。
水の中では呼吸できない、それを強要する苦しさに例えようか?
「キ、キャプテン、ごめん、俺には無理だ球場に行くよ」
「謝るなよ、じゃぁな!」
「キャプテン!引止めないの!?」
「それぞれの道だ!」
「ホッシー、お、お前3歩も歩いたのか!?」
「マネージャーが最強!?」
少女の一人はキャプテンを追い越し、更に先に進む。
勇者朱天童子すら、追い越しそうな勢いである。
「き、今日、配信なの!登録者数13万!皆、私の歌、待っているの!止まってなんかいられないのっ!」
そう言いながら、大量の汗が、指先から流れ落ちる。
「ネット、ダウンしていなかったか?」
「封鎖しているヤツ、全員潰して、復活させるの!立ち止まってなんか、い、いられないのっ!」
だが、そのホッシーも次第に動かなくなる。
「うう、足が、上がらない!息がうまくできない!」
皆に私の歌を聞かせるのだ!
特にあの女!秋津川空っ!
親友にして最高の好敵手!
私より歌が上手いなんて、許せん!
私の歌を聴かせて、「私、ホッシーの歌、好きよ!もう、あなたには負けたわ」と必ず言わせてやるっ!
その時を想像し、身悶えるホッシー。
「ああああんっ!そあっいこうう!絶対帰るんだ!死んでなんかいられない!」
再び動き出すホッシー。
ホッシーは思う。この小さな身体では、この異様な荒野は走破できそうにない!
「だめだ!こんな小さな足では!もっと、大人の、長い、綺麗な、力強くてスラリとした足!身体も大きく!沢山のモノをつかみ取れる大きな、大人の、手!体力、スタミナが欲しいっ!」
フルマラソン選手のような、トライアスロン選手のような肉体を渇望するホッシー。
思いが募ると、ホッシーの身体が光り始める。
一歩、一歩、進む度に、意思が変化し、状態が変わり始める。
足取りは強く、筋肉質の大人の女性にその姿は変わり始めた。
「もっと力強い身体に!もっと!こんな状況でも歌える肺活量!姿勢!バランス!」
ホッシーは一歩、一歩、踏み出す度に、苦しみ、身体を変える。
いつまで続くのだ、この苦しみは?
負けてたまるか!アッキーが待っているんだ!
あそこに、帰るんだ!
お母さんが待っている!
浮気して出て行ったオヤジなんてどうでもいい!
クルミちゃんが、レイ・レッドが!
13万の登録者が待っているのだ!
そう、女王ホッシーサマの帰還を!
いつしか、足取りは軽くなり、歌を歌い始めるホッシー。
透き通る銀の糸のような輝く声。
そして、ついに荒野の終りに辿り着く。
次回投稿は未定です。
サブタイトルは 【第24話】円卓の騎士と楠の誓い です。
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