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続 The Lily 前世の記憶は邪魔である   作者: MAYAKO
第一章 礼羽編
21/95

【第21話】野球部の勇者     

投稿です。

残酷な表現が含まれています。

苦手な方は第22話からお読み下さい。

なお、第22話は 2023/08/28 22時から23時の投稿予定です。

 駅前、駅構内は地獄と化していた。

 肉片と血液、体液が破裂した水風船のように飛び散っていた。


 犠牲者は何人であろうか?


 交通機関は全て停止していた。

 バス、タクシー、汽車、電車、全て動かない。

 通信機器も全滅である。

 駅員を問い詰める利用者達。


 数百人の混雑、そこを魔獣ラグナルが急襲したのだ。


 混乱の対応のため、居合わせた警察官は拳銃で応戦する。

 しかし、警察官の拳銃、M360J SAKURA、口径9mmの回転式拳銃はこの魔獣に対して意味を成さなかった。


 そもそも、この世界の現代兵器は、全て異世界の魔獣に対して、無効である。

 魔力を帯びていないからだ。

 自衛隊の20式5.56mm小銃も同様である。


 逃げるしか出来ない人々。

 いや、そこにいた人々は、逃げることさえ出来なかった。


 天敵の出現である。


 人々は次々に餌食となり、肉塊と化した。

 抗う術はない。

 悲鳴と怒号、あらゆる声が周辺に満ち満ちた。


 魔獣は恐怖の感情と、その影響による血液を好んで食した。

 感情で、涙の味が変わるように、血液も味が変わるのだ。

 血の海で、歓喜の咆哮を轟かせている魔獣。


 この世界が気に入ったようだ。


 我こそが頂点!


 次々に声を上げる仲間の魔獣ラグナル。


 そこに小さな泣き声が響く。


 子供だ。


 3歳くらいだろうか?


 内に秘めた感情は透き通るように綺麗である。


 そこにはまだ、善悪の感情も見えない。


 馳走である。

 魔獣達は嬉々として子供を見つめる。


 ぱこん。


 時速にして130㎞/hほどの固形物が頭部に当たった。


「グルルルルルッ」


 この攻撃は、いたく魔獣のプライドを傷つけた。

 拳銃より発射された弾丸を見切る身体能力。


 その能力を無視されたのだ。


 なによりも、仲間の前での失態。

 油断とも言う。


 その自分に腹を立て、怒りを倍増し襲撃者を感知する。


 さらに周囲の生存者を数える魔獣。


 18人。


 目の前の子供が1、老人が2、そして魔獣に挑んだ同じ服装の子供が15。


 この15名は東野台陸中学の野球部メンバーだった。

 毎日、駅前の大きな楠まで、ゴミを拾いながら、部員全員で一緒に帰る。

 

 野球部の伝統だ。


 樹齢数百年の楠。

 昔はこの地に東野台陸中学校はあったそうだ。

 駅の建設で今の地に中学は移設され、この楠だけが、この地に残った。

 この楠は『子守りの楠』と言われ、昔からこの街の人々に愛されていた。


 そんな中、野球部15名は、チーム一丸となって日々を過ごしていた。

 みんな、野球が楽しくて仕方がないのだ。


 彼らはその日の反省、これからのこと、学校のこと、進学のこと、色々なことを話しながら楠まで通う。


 日々の野球、鍛錬の繰り返し、そう思い、辿り着いた駅。

 いつものように、あの老夫婦は楠の下で鳩にエサを与えているだろうか?

 中学を卒業しても、卒業生に挨拶をする老夫婦。


 その日だけは違った。

 そこに日常はなく、地獄があった。


「お?キャプテン、今の球、速くね?」

「140?」

「盛りすぎ!でも130はあったかも!」


 投球速度、130km/hは中学、全国レベルの速度である。

 練習を重ねれば、充分高校でも通用する速さだ。


「チビちゃんは?」

「怪物がこっち見ている隙に、盗塁王が担いで逃げた」

「俺達も逃げるぞ!」

「じいちゃんとばあちゃんは?」

「建物の中に押し込んだ!」

「ずらかれ!」

 

 無謀な逃走であった。


 我先に逃げて行った人々。

 結局、彼らは皆、魔獣の餌食になった。


 野球部のメンバー15名は子供でありながら、更に小さな子供を見捨てることが出来なかったのだ。


 その場より200m程離れたオフィス街、勇者朱天童子は7体の魔獣を倒していた。


(童子、新たに3体召喚したぞ、駅前だ)


「駅に3体?」


 一瞬にして駅に移動する勇者朱天童子。


(この世界に召喚した魔獣は、これで終りだ。真杖も魔力の使いすぎで魔力還元した)


「真杖が?分身だろ?」


(ああ、本体ではない)


 分身とはいえ、命は一つだ。

 何故ここまでして世界を壊したがるのか、勇者朱天童子には理解出来なかった。


「俺の目の前の3体とお前の所の5体?」


(あとはこの世界で作られた、合成生物だ)


「合成生物は、この世界の兵器が有効だったな?」


(ああ、速く次の世界に行かないと、平行世界がまた一つ消える)


「だよな、真杖があと2体残っているが?どうする?」


(魔力が低い個体だ、ここの世界の戦士達に任せよう、倒せるはずだ)


 駅周辺に出現した3体の魔獣は嬉々として殺戮を楽しんでいた。

 そして魔獣は更なる快楽を探して、魔力感知を発動させる。


 どこへ逃げた?あの馳走は?


「!」


 先ほどの態度とは打って変わって、恐怖に怯え出す魔獣。


 彼らの魔力感知に反応したのは、膨大なエネルギー反応。


 上位存在だ。


 ここまでのエネルギー反応は2つしかない。


 魔王か勇者。


 次は自分達が狩られる側になる!

 本能で逃げ出す魔獣達。


 まだ死ぬわけにはいかない、まだ世界を貪り尽くしていない!

 全速で走り去ろうとしたが、逃げられる術はなかった。


 目の前に現れる勇者朱天童子。


 勇者の拳が次々に魔獣を粉砕する。


 挿絵(By みてみん)


「くっ、こいつら倒しても、失った命は戻らんっ!真杖は何を考えている!?こんな世界に意味があるのか?」


 辺りの血の海を見回し、怒りを滲ませる朱天童子。

 ふっ、と空間が歪み、忽然と現れる勇者小角。


「破壊と破滅が好きなのではないか?」


「小角!お前はよく冷静でいられるなっ!?今の真杖は異常だ!我々を手玉にとっているぞ!悔しくないのか!?」


「まあな、能力も行動も、我々が後手に回っている」


「泣き声?」


 子供を抱きしめている一人の翁。

 ヨロヨロと歩み寄る媼。


「無事は3人か」


 氷のような目で3人を見る勇者小角。

 翁は勇者朱天童子を見つめる。


「助けてくれた礼を言いたいが、抗議の言葉しか思い浮かばぬ」

「抗議?」

「老い先短いワシが生き残って、どうする?この小さな子は助かったが、なぜその少年達を助けなかった?」

「……」


 老人は言葉を続ける。


「勇敢な少年達、この子供達こそ生き残るべきではなかったのか?」


 その言葉に目を逸らし、聞き流す勇者朱天童子。

 勇者朱天童子に魔力が満ち始める。


「童子、この世界に干渉するのか?」


「小角、お前だって干渉しただろう!」


 拳が震えているのは、助けられなかった怒りのせいか?


「ああ、そうか、お前も野球少年だったな、童子」


「何が勇者だ!このガキ達こそ勇敢な者、勇者ではないか!」


「選択をさせる気か?」


「ああ、選択をさせる」


 ぶわっ、と広がり溢れる魔力。


 少年達15名は異界で目覚める。


次回投稿は 2023/08/28 22時から23時の予定です。

サブタイトルは 【第22話】憧れ を予定しています。

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