爱桃护符~このおふだを手にした男女は、必ず結ばれる~
「公主様、本当に信じているのですか? その爱桃护符とかいうおふだのこと……」
「当然ですわ、陽。この桃の木の森のどこかに、あるはずなんですもの」
公主であるその少女は鼻息を荒くしながら、桃の木々の間を通り抜ける。彼女に仕える少年・陽はそれを追いかけるが、その表情はどこか物憂げだ。
「この桃の森の木に隠れたおふだを手にした者は、どんな相手とも添い遂げられるという……恋する乙女として、挑んでみる価値はありますわ」
「……そこまでして、公主様は一体誰と結ばれたいのです?」
意を決して尋ねた陽に、公主は答えない。ただ生い茂る桃の木々の中で必死に、問題のおふだを探すばかりだ。
(こちらの気も知らないで……)
胸の内で呟く陽は、自らの恋心を口にしたことはない。
使用人である自分と、公主の彼女。その恋が実ことはない、とわかっている。しかし公主の表情に、振る舞いに、笑顔に……その全てに恋焦がれ、身を焦がすことは止められなかった。
爱桃护符もどうせ、ただの噂に過ぎないだろう……そう自嘲していた陽に、公主が突然声を張り上げる。
「見なさい、陽! おふだがありましたわ! 間違いありません、ほら! 見てみなさい!」
興奮した様子でそう話しかける公主に、陽は信じられないような気持ちで駆け寄る。
「ほら、ご覧なさい! 『このおふだを手にした男女は、必ず結ばれる』と書かれていますわ!」
公主から急かされるようにそう言われ、慌てておふだを手にした陽だが――
「公主様。『手にした男女は』と書いてあるのだからこの場合、想い人と手にしなければならないのでは?」
一瞬、ほんの少しでも公主への思いが実る可能性を手にしてしまった陽は、落胆しながら諭すようにそう口にする。
だが――公主は平然と、「その通りですわ」と答えてみせた。
「あなたはいつも、傍にいるのに私の気持ちに気づいていないのですか? これでも私、あなたを溺爱しているつもりでいるのですが」
「何をおっしゃって……」
冗談めかし、言い返そうとした陽は公主の真っ直ぐな視線に捕らわれる。
「このおふだは本物です。何せ父上と母上に頼み込み、無理を言って作っていただいた代物なんですもの。まさかそれが偽物だと言うことは、ございませんよね?」
「……公主様、最初からそのつもりで?」
陽の問いかけに応える公主の微笑みは、桃のそれよりさらに甘く――爱桃护符が「本物」であると、確かに証明するものであった。