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11才の僕が大好きな姉を助ける、3つの方法~~悪役令嬢なんか怖くない、キリッ!

作者: 桃色金太郎

「えっ? ミリア姉さん、いま何て言ったの?」


「ヘンリー。だからね、わたし皇太子様にプロポーズをされたのよ。大事なあなたに、この事を最初に伝えたかったの」


 姉さんはそういって左手の指輪を、ハニカミながら見せてきた。


「あっ、うん。お、おめでとう」


 姉さんはその言葉を待っていたかのように、僕を抱き寄せた。そしていつものように、頭を()でてポフポフしてくれた。優しく包まれて安らげる瞬間。僕だけの特等席だ。


「よかったわー。ヘンリーに祝福されるか心配だったのよ。だってあなた、お姉ちゃんっ子じゃない」


 その通りなんだ。小さい頃から僕は、いつも姉さんの後をついてまわった。どこに行くにも一緒、何をするにも一緒。姉さん無しでは考えられない人生。姉さんとは、以心伝心、ベストフレンド。僕の命そのものと言っていい存在なんだ!


 なのに。


「あっ、婚約披露の打ち合わせの時間だわ。また後でね」


 なのに、他の人のお嫁さんになるだなんて!


「ウソだー、こんなの嘘だよ。僕の事が一番だって言ったのに。なんでさ、こんなの悲劇でしかないよ。うぅう~、姉さーん」


 悲しくて悔しくて、大声を出し床を転げまわる。そんな歳じゃないだろだって? はっ、そうでした、見苦しい所スミマセン。普段はちゃんとしているんだけど、姉さんの事になるとツイ。


 それにあの皇太子さんって、え~っと実に言いにくいんだけど、なんと言うか、その~ちょっと頼りない人なんだよね。


 学問や武芸はできるけど、いつも自信なさげでね。あれじゃ先が知れているよって、周りにヘナチョコ呼ばわりされているんだ。


 姉さんにアプローチしていたのは、知っていたよ。でも、どうせダメだと思っていたのに、不意打ちを貰った気分だよ、グスン。


 おかしいよ、姉さんは僕みたいなのが、タイプのはずなのにさ。物静か(ネクラ)で、知的探求心(策略好き)があって、一つ道を極める(オタク)そんな立派な人物が好きなんだ。皇太子さんとは全然違うと思うんだけどなぁ。


 それが()りによって、あの方だなんて。


 もうこうなったら、婚約発表の席がムチャクチャになるように、頑張ってみようかな。うん、それがいいや。だってさ、この国の皇太子さんって、前から探りを入れておいたんだけど、いろいろ問題を抱えているんだよ。


 派閥争いのインボーに、政治の腐敗、そして国力低下による他国の侵略。どれをとってもあの方では、手におえないモノばかり。

 それにあること無いことを加えれば、姉さんも呆れて婚約をやめるはずさ。僕ってアタマいいー。


「えへへ、これで姉さんとの生活も元通りさ。あんしん、安心」


 ……でも、姉さん、すっごく幸せそうだったよなぁ。


 それにあの皇太子さんって頼りないけど、いつも姉さんの為に頑張っている人だ。不器用なのにリードしようと踏ん張ったり、周りにも姉さんの良い所を浸透させようともしていたっけ。うん、いい人かも。


 いやいや、そんなの当たり前だよ。姉さんほど素敵な人はいないんだ。それを褒め称えるのは当然さ。それに姉さんの、良い所を一番知っているのはこの僕だ。そして幸せを一番願っているのも、この僕さ。


 逆に姉さんだって、いつもこの僕を見ていてくれた。だって僕らはいつも一緒にいた仲良しだ。相手の幸せは、自分の事のように喜んで。相手の悲しみは分け合って軽くする。だからこそ、心の繋がった僕ら2人は、ここまでやってこれたんだ。


 なのに。


【よかったわー。ヘンリーに祝福されるか心配だったのよ】


 姉さんは自分が幸せなのを、僕がちゃんと感じているか心配していた。誤解があって欲しくないと、願っていたよ。もしあそこで、僕の暗い顔を見たら、姉さんが悲しんでいたよな。

 僕は何があっても、大切な姉さんを悲しませたくない。


「姉さん、僕が間違っていたよ。ゴメンね」


 うん、姉さんは幸せになるべき人だ。それが皇太子さんとの結婚で実現するなら、僕がやるべき事はただ1つ。全力でサポートすることさ、うん。




 その日から僕は、この婚約披露が成功する様あらゆる手を尽くし、本番当日を迎えたんだ。


 王宮には国内外から多くの来賓がやって来て、祝いの言葉を述べている。姉さんは輝く程に美しく、そして誰よりも幸せそうにしている。(本音は横にいる相手が、自分だったらと思うけどね)


 祝いの品もたくさん届き、目録が読み上げられる度に歓声が起こる。そして、いよいよクライマックスだ。皇帝陛下の宣言により、婚約が確固たるものとされる。錫杖を持って立ち上がり、今まさに宣言をしようとクチを開いた時、それを遮る声が響き渡ったんだ。


「みなさん騙されてはいけません。そのミリア·ラングレーはとんでもない毒婦。国を奪おうとする簒奪者なのです」


 その声の主は、皇太子さんの元婚約者、公爵令嬢のチッチョリーナだった。ああ、姉さんかわいそうに。皇太子の肩に掴まり、不安そうにしているよ。

 姉さんの為の婚約披露が、ムチャクチャだ。それに、姉さんを悪く言うのは許せない。怒ったぞ、今ここでギャフンと言わせてやる。あっ違ったよ、そうじゃなくて、今日は皇太子さんに花を持たせるんだった。僕がヤッたんじゃあ意味がない。


 それにこの公爵令嬢、散々痛い目にあったのに全然懲りていないや。姉さんに意地悪な事をして、それが原因で婚約解消されたのに、学習していないね。

 最初は姉さんに絡んでくる、変な人だと思っていたんだ。でもそのイジワルが陰湿すぎて、僕がちょっとだけ妨害したんだ。するとムキになって、どんどんと酷くなってきた。

 あの時はこっちも、あとには退けなくなって、色々やっちゃったんだ。あれこれワナを仕掛けてさ、最後は皇太子の前で、チッチョリーナが赤っ恥をかくことに。うん、あれはちょっとやり過ぎた、反省です。


 あっ……あれが切っ掛けで、2人は仲良しになったんだ。しまった、僕が原因じゃないか、グハッ。


「王妃になる者は、人の模範になるべきです。しかし、ミリアはその反対に位置する人物。それが証拠に彼女の荷物から、これが出てきました」


 でも今回のチッチョリーナは、自信満々だな。よっぽど大がかりの、準備をしてきたみたい。

 でもこちらの備えも万全だし、筋書きもできているんだよ。これだけ大勢の中で、もし皇太子さんが姉さんを守ったら、みんなヘナチョコなんて言わないはずさ。姉さんも喜ぶし、万々歳だよ。


「ミリア·ラングレーは事もあろうか王家の宝、ホーリースターを盗んだのです」


 そう言うとチッチョリーナは、七色に光る宝石を取り出した。これは初代皇帝が、神より賜りし奇跡の宝石。その恩恵で繁栄と平和を享受できる、世界でたった一つの宝物なんだ。

 その至宝が先日、何者かの手により盗まれた。そこでやってもいない姉さんを、犯人に仕立て上げようとしている。


 しか~し、これはチッチョリーナが仕掛けたワナ、しかも真犯人は彼女だ。そしてその証拠もバッチリ揃っている。事前に皇太子さんと打ち合わせをしてあり、どう追い詰めるか、そして最後のキメ台詞もきめてあるんだ。


 ぷぷっ、そんな事を知らないでイキリまくりだよ。さぁ、皇太子さん出番だよ、しっかりやってね。

 …………って、目が泳いでいる? 足も震えているし、もしかしてビビっていないよね?

 あっ、でも姉さんに励まされて、前に出たよ。やっぱ姉さんは最高だよ、ナイスフォローだね。


「そ、そ、そ、その件には、い、異議がある。こ、こ、この映像を見ろくだされ」


 うーわ、パンチ弱いし、白目むきそう。でも証拠はあるんだから、皇太子さん、ヘタこいても大丈夫だよ、うんうん。映像はチッチョリーナが、宝物庫の番人にワイロを渡して中に入り、ホーリースターを盗み出す姿だ。それと姉さんの荷物の中へ忍びいれる場面も、いいアングルで撮れている。


 チッチョリーナには前から、監視の魔道具を張り付けてあったんだよ。今回は僕の新発明になる映像記録装置オメガが大活躍。証拠と新作のお披露目が同時にできて、僕としても満足さ。


「殿下何ですかこれは? はん、まやかしじゃない。何処の誰が作ったか分からない代物。こんなウソっぱち、証拠になんかなりません!」


「あう、あっ、えっと、そ、そうだよね。ゴメン」


 イモ引いたーーーー! ナゼそこで気弱になるんですか? ちょっとちょっと、そのまま引き下がるつもり?


(真偽はどうであれ、やはりヘナチョコですな)

(やはりこの国、長くは保ちますまい)


 しかも、皇太子さんの評判もメチャ下がっているし、ど、ど、どうしよう。


「うふふ、それにミリアの悪事は、これだけではありません。先日おきた皇后さま襲撃事件、この黒幕もミリアなのです」


 あわわわわっ、ちょっと待ってー、まずい、マズイよ。このままの流れでいったら、さっきの事を認めた事になるよ! それに皇后襲撃はシャレにならない。犯人は死刑確定だよ。


 なんで、魔道具の製作者の名前を出さないの。僕が偽名で使っているジャビーの名は、最高峰の魔道具製作者として、大陸中に轟いている。それだけで信用してもらえるって、あれほど言っておいたのにー! 


 いや、違う。これは僕のせいだ。姉さんごめんなさい、僕がもっとシッカリしていれば。これは、なんとしてでも挽回しないと。


 そうなると、あの手を使うしかないか。皇太子さん、ちょっと痛いけどガマンしてね。でも、これで逆転まちがいなしさ。うん、痛いのはちょこっとだけだからね。


 僕は準備のため、カバンの中の魔道具を探しながら、冷静になろうと、これまでの事を頭の中で整理した。


 チッチョリーナの悪巧みを覆す、確かな証拠はある。でも気弱な皇太子さんは、相手の気迫に押されて、それを全く()かせていない。このままだと、姉さんは犯人として処刑される。僕としては、国が姉さんを捕らえようとするなら、秘蔵の魔道具や魔導兵器で、国ごと潰してやるつもりさ。


 それは簡単な事だけど、姉さんの名誉が傷つけらたままになる。それだけは許せない。それもこれも、誰かさんのヘタレが原因だ。つまり、いくら有利であっても、ヘナチョコの性格が台無しにするんだ。


 だから、人にはちょっと言えない秘技を使って、皇太子さんの意志を奪い取り、僕が操ることにした。ごめんなさい、これも姉さんの為なんだ。


「エイッ!」


 すかさず皇太子さんの背後に回り込み、肩口にアンテナをぶっ刺す。これも僕が作った魔道具で、人間を遠隔操作できる優れモノなんだ。仕草、声色、セリフも全て思い通りに動かせれる。これで大根も名俳優に早変わりさ。


 おっ、神経をジャック出来たサインで、皇太子さんがブルブル震えている。これもやり過ぎると、廃人になるから加減が難しいんだよね。おっと少しだけやっちゃったかも。う~ん、少しだし許してくれる? あっ、そっか反応出来ないんだった。じゃあ、このまま進めるね。ペコッ。

 こちらの準備に、チッチョリーナは気づかず、話を続けている。


「これが皇后さま襲撃に使われた魔剣です。呪いの力で、術者がその場にいなくても、自由自在に操れる物。これもまた、ミリアの持ち物の中から発見されたのです」


 皆の非難の目が、姉さんに向けられている。王宮の警備をかいくぐり、王族が身につけている防御力の高い衣装をも切り裂く魔剣。それぐらいの事、あの魔剣なら可能だ。だってあれは僕が作ったものなんだ。いやー、初期の作品だけど、こんな形で再会できるなんて感無量だよ。


 あっ、感動している場合じゃなかった。まずは皇太子さんの姿勢を直して、顔つきは自信溢れさせてっと。うん、よしよし。で、セリフを入力すれば完成だ、よし、いってー、姉さんを頼んだよー。


「レディ·チッチョリーナの言う通り、この魔剣は母上を襲った物だね。しかし、遠隔操作のため、誰が母上を襲ったのかまでは特定できない」


「そんなのミリアに決まっているじゃない」


「ははは、それを確める良い魔道具がある、これだ」


 皇太子さんが指を鳴らし取り出したのは、これもまた僕の作品の【おしゃべりクチバシ】だ。これは物に宿って記憶を引き出し、音声にするモノ。ただしこれは、決して生命を与えるものじゃないから、自らの意思では喋らないんだ。その反面、質問されたことに嘘もつかない。


「魔剣よ、答えろ。お前を操り、皇后様を襲ったのは誰だ?」


『そこの阿婆擦(あばず)れチッチョリーナさ』


 軽い悲鳴と怒号が巻き起こった。それが本当なら、自作自演でタチが悪いもんね。


「皇太子さま?」


 そして姉さんは、変貌した皇太子さんに驚いている。さっきまでのヘナチョコが、まるで英雄の如く堂々とするんだもの。目をまん丸にしてさ、カッワイイ~。ちょっと皇太子さんに寄り添うのが心乱されるけど、それを差し引いても女神だよ。よしよし、この映像も残しておかないとね、パシャリ。


「殿下。犯人を見つけた最大の功労者に対してあんまりですわ。それに先程と同様に、道具の信用性がありません。どうか目を覚まして下さい」


 ウソ泣きをいれて、周りの同情を買おうとしているけど、そうはさせないよ。


「ふむ、寝ているのはどちらかな。この素晴らしい魔道具が、マスタージャビーによるだとしても、まだ信用できないのかい?」


(あの天才の新作か? どうりで見たことがないシロモノだよ)

(うむ、彼の作品はどれも国宝級。その彼と皇太子は、繋がりを持っているという事ですな)

(あの皇太子は(あなど)れませんぞ)

(ええ、そうなると、あんな娘には勿体無いですな)


 おお、いいぞ。皇太子さんの株が急上昇だ。それと最後の人、聞こえたよ。これはブラックリスト入りだよ、ちゃんと潰しておかなくっちゃね。

 それでも偽物と騒ぎ立てているチッチョリーナに、ジャビーの刻印を見せておく。これは魔力が込められた刻印で、決して真似ができない本物の証だ。


「それと先ほどのまやかしとされた映像も、マスタージャビーの最新技術の結晶。他に類を見ない最高傑作だよ」


 そうだよ、あれを作るのに金貨が何枚飛んでいったことやら。ドラゴンの水晶体を削り出すのも苦労したし、夢馬のたてがみと蹄を合わせた記録媒体だって、奇跡に近い成功だったもん。

 それと姉さんをこっそり撮るため、開発した擬態機能を付けたのが役に立つなんて、世の中どこで繋がるか分かんないね。


「宝物庫の管理者を呼んできなさい。どちらにせよ、外部の犯行でないのなら、色々聞かないといけないですからね」


 んんっ、僕が言わせているんだけど、皇太子さんもちょっと自分に酔っているな。よくもまぁ、あんなにアゴをしゃくり上げれるよ。

 まぁ、皇太子の評価はドンドン高くなってるから、当初の目的は達成しているし、放っておくかな。


「殿下、違うのです。私はなにもしていません。だって私は、もっと恐ろしい陰謀を掴んでいるのです。ミリアはその私を陥れ、信用を失くそうとしているのです」


 それに対してチッチョリーナは、思わぬ反撃にうろたえている。強力のカードをきったのに、あり得ない力技でねじ伏せられて、もうグウの音も出ない。


 なんとかしないと思う気持ちが、ヒシヒシと伝わってくるよ。情緒不安定になり、皇太子に近づくと、肩を掴んで懇願しだした。


「ぎゃーーーーーー!」


「どうしたのヘンリー。急に大きな声を出して」


「い、いや姉さん、な、な、な、何でもないっさ。ははははっ」


 いや、問題ありすぎだー。ヤバい、ヤバいよ。皇太子さんの名調子も、自信に溢れた態度も、それら全ては僕が操っていたからこそだよ。それなのにチッチョリーナが肩を揺するから、刺してあったアンテナとれちゃったんだ。

 つまり、そのアンテナが、外れてしまったという事は、元の頼りない皇太子に逆戻りじゃん! 偶然だろうけど、このタイミングはヤバすぎる。


「殿下、ミリアは国を裏切り、他国へ売り渡そうとしているのです」


「それは聞き捨てならないな。詳しく話してみなさい」


 ぎゃ~、そのフェイズに突入する? お願いだ、貴方には姉さんを守れないんだ。ていうか、調子にのっている。何が詳しく話してみなさいだよ。


 皇太子のさっきの号令で、衛兵が周りをかためているから、迂闊に近づけない。地獄へ直通特急に姉さんを乗せないでよーーーー!


「殿下、ミリアは東から、敵国を招き入れております。手遅れになる前に軍の派兵を!」


 白々しい嘘だよ。そのデマを流し、裏で何をしようとしているか、僕は知っているんだぞ。当然チッチョリーナを追い込むための、超絶強力な証拠も用意してある。だけど、さっきみたいに反論されて、逆手にとられたらあの皇太子さんじゃあ、巻き返しなんて出来ない。それこそ全世界を敵にまわす事になっちゃうよ。


 でも、この会場の誰1人として、僕が皇太子を操っているなんて思ってもいない。気弱な皇太子に戻っているのに、周りはおろか本人すらも気づいていないよ。一番近くにいる姉さんですら、その変貌に目を輝かせているんだ。


「皇太子様、いつもの貴方も素敵ですが、自信に溢れる姿も頼もしいですわ」


「はははっ、ここからが本番さハニー。今から凄いのを見せるけど、あまり驚かないでおくれ、チュッ」


 うはっ、2人の世界だよ。次の策を考えなくちゃいけないのに、僕にまで、頭にお花が咲きそうだ。


「チッチョリーナ、君は敵国の侵略に警鐘を鳴らすが、それよりも更に警戒すべき敵がいるではないか」


 人々は共通の相手を思い浮かべる。それは幾世紀も人類と争い、互いの存在を否定してきた相手。思想や正義の基準が合わないどころか、種族自体が違う存在。暴力と悪の象徴、それが人類の仇敵【魔族】なんだ。


「もし、魔族と手を組む者がいたら、人間の国など構っていられない。だが残念な事に、それをしてしまった人物がいるのだよ。

 その証拠を今から見せるよ。みんな心の準備をしてくれ。ヘイ、ゴーレム、カモン!」


 ああ、呼んじゃったー! 確かにチッチョリーナが姉さんの内通を持ち出したら、それを出してねって指示したよ。だけど、今の貴方には荷が重いでしょ。それに僕も準備できていないんだよ、ホントーにお願い、ちょっとでいいから待ってよ。


 そんな願いも虚しく、鎖につながれた魔族が、無表情なゴーレムに先導されて入ってきた。恐ろしいその登場に、会場は騒然となる。


 しかし、よく見ると魔族は傷だらけで、歩くのがやっと。しかも、ゴーレムにされるがままだ。弱っている魔族の様子を見た人々は、徐々に落ち着きを取り戻していった。


「チッチョリーナ、これは誰だか分かるかな?」


「わ、私は公爵令嬢よ。そんな魔族と知り合いなはずありません」


 知り合いかとは聞いていないのに、自分から白状したよ。まぁ、追い込まれた立場なら、そう言いたくもなるか。その反応をみた皇太子は満足げ、姉さんはキラキラ。その2人を見た僕はブリッジしながら(もだ)えている。はっ、じゅ、準備を……。


「ここにいるのは、魔族軍総司令グリゴアールだ。10万の軍勢でこの帝国を蹂躙しようと、西から攻め入ってきたよ」


「まぁなんて恐ろしい。ミリア·ラングレーは魔族と繋がっていたのですね。殿下お手柄でございます。衛兵、人類の敵ミリアをこの場で討ち取りなさい!」


 う、上手い。姉さんに擦り付け、しかも皇太子の手柄にした上で、どさくさ紛れて姉さんを殺そうとしている。……もはやここまでか。

 もう、こうなったらヤケだよ。この禁断の精神破壊装置で全員をぶっ壊し、その隙に姉さんを連れて逃げてやる。


い、いくよー、5.4.3.2……。


「はーはっはっ、魔族と結託し、この国を滅ぼそうとしたのはチッチョリーナ、お前のほうだろ!」


 ええぇぇぇぇ! あのヘナチョコが言い返した。しかも、自分なりにアレンジも入れてるじゃん。これはもしかして、本当に覚醒したかも。どうしよう、このまま皇太子さんに任せてみる?


「そなたの計画など事前に知っていたのだ。だから私の手の者が、国境に入った魔族軍と、それに共謀する公爵軍。それらをまとめて殲滅しておいたよ。もし、ウソと思うならそこの総司令に、直接聞いてみるがいい」


 グリゴアールは魔族の王に次ぐ実力者。それが遠征に加わっているのだから、魔族の力の入れようはハンパない。だけど、この僕が姉さんの暮らすこの国を、荒らされるのを黙って見ているはずないだろ。僕のゴーレム10体でササッと全滅させ、総大将だけを生け捕りにしておいたんだ。その総大将が苦しげにクチをひらく。


「魔族を裏切るのか、チッチョリーナ。約束が違うぞ。お前の父上は誠実な男なのに、長年の友好を無にするのか?」


「ひいぃぃぃぃ、知らないわ、アンタなんか会ったことないわよ」


 言い逃れは出来ないよ。だって公爵も捕らえて自白させてあるんだもん。ぷぷっ、全て上手くいくと確信していて、緩みきった所に踏み込んだのさ。もうあの時の表情たらバカウケだよ。そうそう、その映像をみんなにも楽しんでもらう為、ちゃんと用意してあるんだ。


「他にも両者で取り交わした書類もある。しかも、君のサイン入りだ。これでも知らないと言うなら、【おしゃべりクチバシ】を持ってこようか?」


「ヒイィィ、そ、そんな事まで知っているなんて」


 すごっ、最後にダメ押しまでやるなんて、冴えていますよ。しっかりと自分の意志で行動している。とても勇敢で自信に溢れた男の姿で、かつてのヘナチョコの姿は何処にもない。


 失意の中で大きく項垂(うなだ)れ、チッチョリーナはとうとう観念をした。衛兵に両脇を固められ、魔族と共に部屋を退出していった。


 ぶ、無事に終わったよ。皇太子さんがやりきってくれて良かった。一時期はどうなるかハラハラしたけれど、今回の事でこの方は大きく成長された。


「おほん、それでは皇帝の名において、我が息子とレディミリアの婚約が成立した事を、ここに宣言する」


 それまで控えていた皇帝が高らかに、止まっていた婚約宣言をした。

 んん? このひと今までどこで何していたんだよ。よく考えたら、この皇帝がちゃんとしていれば、ここまで揉めなかったのに。というか、コレだから、今の帝国がこんなのになったのか。納得だよ。次期皇帝に周りも期待するはずさ。


 人々は祝福と称賛の言葉を口々にし、皇太子の治世に希望を抱く。並ぶ姉さんも人々に応え、一緒に春を謳歌している。うんうん、絶対今より良くなるはずさ。


 なんだか、上手い具合に丸くおさまったよね、ははっ。力が抜けてヘタリ込んでいると、皇太子さんの方から、こちらにやって来た。


「皇太子様、やり遂げられましたね。おめでとうございます」


「ヘンリー、君は大事な義弟にして、人生の恩人だ。心から感謝する。礼をしたいのだ、何か望みの物はあるか?」


「いえ、それには及びません。それよりも姉さんを大事にして下さい」


「もちろんだとも、一生をかけてミリアを守り続けるよ」


 言質はとった。って僕の力は知っているから、釘を刺すまでもないか。それに、この人はその点は純粋だから、安心できるかな。姉さんもそれを信じて(うなづ)き、僕に語りかけてきた。


「ヘンリー、ありがとう。それとね、これだけは伝えたかったんだけど、あなたに似ているから、わたしは皇太子様を選んだのだと思うわ」


「えっ、全然似ていないよ」


「ううん、2人ともいつも優しくて、物静かで、知的探求心があって、一つ道を極める所がソックリよ。とってもとっても素敵だわ」


「そうだとも、ヘンリー。自分で言うのもナンだけど、オタクっぽさがよく似ているよ。そしてそれを誇りに思うよ」


 はははっ、僕の事を一番知っている姉さんが、言うのだから間違いないか。


「それと、姉さん。僕ね……」


「うん、知っているよ。私のため頑張ってくれて、嬉しかったよ」


 えへへっ、やっぱり気付いていてくれたんだ、嬉しいな。うん、2人は仲良し、なんでも分かり会える仲だもんね。でも、それも今日までさ。姉さんには新しいパートナーができたんだ。最後の心の半分コ、しっかりと受け取ったよ。


「うん、ヘンリー、ありがとう」


「さぁ、姉さん。他の来賓がアイサツをしたくて、ウズウズしているよ。行ってあげて」


 振り返り離れていく2人の姿は、とても幸せに満ちていたよ。その時、ジワジワと実感が沸いてきた。そう、姉さんは僕だけの姉さんじゃあなくなったんだって。ポッカリと心に穴があくって、これだったんだ。体験して初めてその悲しみがわかったよ。当分立ち直れそうにないや。


 そう黄昏ていると、後から声を掛けられた。


「ヘンリー、こんな所にいたのね。あなたにね、話したい事があるの」


 声を掛けてきたのは、2番目の姉であるコーデリア姉さんだった。とても優しく笑っていて、僕を慰めに来てくれたのだろう。なんせコーデリア姉さんとは、大の仲良しなんだ。いつも一緒、何をするのも一緒。こんな大切な人は他にいない。お互いに求め合う、運命の赤い糸で結ばれた愛方なのさ。そのコーデリア姉さんが改まってなんだろ?


「実はね、わたし婚約する事になったのよ」


 頭を殴られたような衝撃が走る。う、嘘だ。たった今ミリア姉さんを失ったばかりなのに、続けてだなんてあまりにも残酷だよ。


「しかもね、相手の王子様が双子だから、妹のケイトも一緒なの」


 コーデリア姉さんと双子のケイト姉さんも婚約だって?

 ケイト姉さんと僕とは似た者同士。運命共同体のズッ友。互いの存在は半身で、どちらが欠けても生きていけないのに、グハッ!


「お、おめでとう。2人共……し、幸せそうで何よりだよ、グスン」


「ありがとう。ほら、噂をすれば2人の王子よ。行ってくるわね」


 いやーーー! いやだイヤだー。僕は絶対に認めないぞー。しかもバカで有名な双子王子じゃないか。もうこうなったら、あの国相手に戦争だーーー!


 こう叫びたいけど、結局姉さん達の笑顔には敵わない。僕にとって、それほど姉さん達は大切な人なんだから。これからまた、姉さん達が幸せになれるよう頑張るしかない、グスン。


 それと前からあの国にも、目を光らせていたんだ。きちんと管理されていないダンジョンに、それに伴う干ばつ。身内には性格の破綻した妹が何人かいて、みんなまとめて金遣いが荒い。あと、民衆を煽る聖女もいたなぁ。


 うーん、問題だらけの王国じゃん。これは色々忙しくなるよ。マスタージャビーの出番が増えるけど、やり過ぎたらゴメンなさい。だってさぁ、それもこれも、全ては姉さん達の為なんだもん。だから、みんな許してね。


《完》

 読んで頂きありがとうございます。いかがでしたでしょうか?


【お知らせです】

 #本日19日(水)の夜8時すぎに、《別の短編》ものせます。


 《題名》

最強無能者のメチャ七変化!~追放された俺は、神スキル【全てを叶える者】を覚醒させ、世界を聖女と笑い飛ばす。 勇者? イケメン? チッチッチ。それらすべてを超えてやる【短編】


 こちらはボリュームたっぷりの、ハイファンタジーの追放物の短編です。馴染みのない方も、よろしかったら覗いてみてください。(長編も予定しております)





 それともし、この作品が、


「面白かった!」


「こんな弟いいかもね」


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[気になる点] ざまぁでは無くざまぁ返しでは? [一言] ざまぁしようとしてザマァを逆に相手に仕掛けているのでこの場合はざまぁでは無くざまぁ返しに該当しますよ。 ざまぁ返しとはざまぁをひっくり返す事…
2022/01/19 18:04 退会済み
管理
[一言] そもそもどんな理由があろうとも浮気をしたからこそ虐め等が発生したのだと思います。苛めは当然いけませんがだからと言って浮気を正当化していると読んでいて感じました。 その後の令嬢の行為は問題外…
2022/01/19 17:50 退会済み
管理
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