098.運命の花嫁②
――教皇庁 オラトリオ聖堂――
教皇庁はその名が示す通り、聖教の頂点に君臨する教皇を中心とした行政機関だ。広大な建屋の奥には、司教以上の序列を与えられた者しか足を踏み入れることができない秘密の礼拝堂――オラトリオという名の聖堂があった。黄金で作られた女神像と祭壇を中央に据えた構造自体は、一般の教徒が利用する大聖堂とさほど変わりない。ただし長いテーブルが部屋を左右に分かつ構造を採用しているため、どちらかというと会議室に近い形状だった。
そんな聖堂では人間族の壮年男性が3名、黒い椅子に腰掛けていた。男達はアイリス聖教において大司教の地位にある聖人だ。聖母から特異な能力を授かっており、神器を使いこなせる点も含めて常人とは掛け離れた能力を有する。とはいえ、力ある彼らとて万能ではなかった。朝からオラトリオ聖堂に全員が集まったのも、懸案事項を協議する必要が生じたからである。
「議題は昨日に引き続き、ユースティアを打ち負かした異端者……魔女への対応についてだ。教皇猊下は早急に討てと仰っているが、正面からぶつかれば此方の被害は甚大だろう。さて、どうしたものか……」
白髪交じりの眉を顰める大司教マハート。最古参の大司教ということもあり、組織の運営を任される重要人物だが、神明裁判所が崩壊してからはその対応に忙殺されていた。小皺の多い顔には過労と思しき疲れが滲む。
「聖母様による"命名の儀"が完了すれば、捕らえた神獣は我らの指示に従うはずです。アレに相手をさせては如何でしょう」
マハートの左側に座した大司教ローアから意見が出た。彼は教皇から発せられた神獣の捕獲任務を一任されており、既に3体の獣を聖教国へ連れ帰った実績を有する。野性味を感じさせる浅黒い肌と、短く切り揃えられた短髪から受ける印象とは裏腹に、ローアは聖教随一の策士だった。
「オキデンスでの一件において魔女は空の神獣と対話し、真の歴史を明らかにしたとの事。神獣と良好な関係を築いた手法は未だ判明しておりませんが、おそらく他の獣とも交流を図る可能性は高いかと」
「成程、神獣の力を使えば魔女に対抗できるか。意思疎通を試みた瞬間に襲わせれば致命傷を与える事も容易いだろう。本件については私から聖母様へ上申しておく。シンマよ、お前もそれでよいな?」
「……異論ございません」
最小限の言葉で肯定を示す3人目の大司教シンマ。威圧感のあるスキンヘッドと三白眼が彼の特徴だ。聖アイリス騎士団の総長を経て司教になった異色の経歴を持っており、その逞しい肉体は騎士時代の名残を感じさせた。現役を退いて久しいものの、大司教で唯一の武闘派として名高い。
「それでは当面は魔女の監視を継続しつつ、機を伺うぞ。聖母様の御許可を得られ次第、神獣を差し向ける。具体的な策はローアに任せるとしよう」
「承知しました。ところで、聖母様より承った例の話は如何なさるおつもりですか?」
「猊下の花嫁探しか……あの件についてはザケルドに任せていたのだ。箔を付けさせて大司教に推薦するつもりであったが、とんだ見込み違いであった。別の責任者を選ばねばならん」
「残る司教達も優秀ではありますが……神器に選ばれていない以上、この大役を任せるには少々荷が重いでしょう」
「うむ……聖母様が理想とされる花嫁は極めて高い魔力を秘めた女だ。そのような者を神器を使わずして連れてくるのは困難であろうな」
マハートとローアは黒いテーブル越しに視線を交差させる。大司教には聖母から重大な任務――若き教皇に相応しい伴侶を用意せよ、という命令が下されていた。花嫁の条件は類稀なる魔力を持つ相手であることのみであり、必ずしも聖教の信徒である必要はない。従って国外から見つけることも可能なのだが、飛び抜けて大きな魔力を宿した者となるとハードルは一気に高くなる。
人間族や獣人族は必然的に選択肢から外れるため、候補はエルフ族のみに絞られた。ただし深い森で暮らすエルフ族には純血を至上とする考え方が古来より残っており、他種族との婚姻に強い嫌悪を抱く傾向が強い。人間族とエルフ族が恋に落ちて夫婦となった例も皆無ではないが、ハーフエルフとして生まれた子供は穢れた忌み子として蔑まれ、集落から追放されてしまう事が大半だ。そういった背景も考慮すると、聖母の条件に見合うエルフ女性を連れてくる事は非常に難しいと言える。課された難題に唸りつつ、ローアは疑問を吐き出した。
「ううむ……エルフ族でも特に高い魔力を持つのは古代王家の血筋ですが、混血を嫌う彼らを説き伏せるのはあまりに非現実的。かといって、強引に進めるとエルフ族との関係に大きな禍根を残し、後々面倒な事になりかねません。何故、聖母様は魔力の大小に拘るのでしょうか?」
「愛する我が子の幸せを願うのは母として当たり前の事だと、そう仰っておられた。何か深いお考えがあるのかもしれんが、私には見当も付かんよ」
女神像を見上げ、自嘲気味に笑うマハート。聖教の設立者であり、国の祖でもある聖母には大司教も従う他なかった。序列上では教皇から順番に大司教、司教、司祭……そしてその他大勢が並ぶ形となっているが、女神の神託を唯一聞くことができる聖母はこの枠組を超越した別格の存在だ。
「……当方に妙案がございます」
おもむろにシンマが口を開く。普段口数の少ない彼が自ら提案したことに少し驚きつつも、マハートとローアは頷いて続きの言葉を促した。
「件の魔女にはエルフ族の同行者が付き添っているとの報告がありました。幼き少女の風貌ながらも噴火を抑え込むほどの魔法の才を持つのであれば、その身に宿る魔力量も相当なもの。教皇猊下にとって理想の花嫁ではありませんか」
「……お前の言う通り、底知れぬ魔力を持つという点では聖母様が求める伴侶の条件を満たす。だが相手は魔女の仲間なのだ。聖母様がお許しになられるはずがないであろう」
魔女の一団に含まれる魔法使い――ココノアというエルフの子供がマグマを消滅させた時に発した途方もない大魔力は、教皇庁でも観測済みである。しかしながらシンマが口走った内容はマハートにとって許容できるものではなかった。聖教に牙を剥いた者を教皇の花嫁に迎え入れるなど、狂気の沙汰と言っても良い。
「お待ちを。教皇猊下の御子を産める身体であれば、伴侶の出自は問われないかと。それに反抗心があったとしても、聖母様にお任せすれば如何様にもなりましょう。あの御威光を前にして抗える者はおりませんから」
隣からローアが会話へ割って入った。知謀に長けた男が考え無しに発言するとは思えず、マハートはその真意を問い質す。
「お前までそのような事を言い出すとは……いや、何か理由があるのだな?」
「ええ、花嫁には別の使い道もあると気付いたのです。仲間が我らの手中に落ちたとなれば、魔女と言えど抵抗できなくなるはず。さすれば捕獲した神獣を無駄に消耗させずに済むのでは、と……」
「あの化け物に枷を掛けるか。仮にそれが上手くいけば、被害を最小限に留めることができるかもしれぬ。だがそう簡単にはいくまい。ユースティアとニールですら歯が立たなかった相手なのだぞ」
マハートは怪訝そうな表情で首を横に振る。歴代最強の騎士であるユースティアだけでなく、天才剣士ニールを下した一団から仲間を奪う事は困難を極めると結論付けたからだ。しかしローアは不可能を可能にする策を既に頭の中で描いていた。
「教皇猊下のためであれば、聖母様は快く至高の神器をお貸しくださるでしょう。アレさえあれば我らの計略は盤石となります」
「よもや神樹の覇杖を持ち出すつもりだったとはな……確かに、あの神器を前にしては化け物も己の無力を嘆くしかあるまい。検討の余地はありそうだ」
マハートの額に刻まれていた皺が少し緩んだ。聖母の元で厳重に封印された最高位の神器――カドゥケウスは世界の法則すら捻じ曲げる凄まじい力を持つ。ザケルドに与えられた名もなき聖杖はカドゥケウスの複製品に該当するが、大噴火を引き起こすほどの神器であってもオリジナルが宿す力の1割にも満たなかった。エウレカ内でしか力を発揮できないという制約を差し置いても、カドゥケウスは聖教国の最終兵器と呼ぶに相応しい。
「ふむ……良いだろう。神獣の件と合わせて神樹の覇杖の使用許可についても聖母様に申し上げておく。あの魔女には随分と苦汁を嘗めさせられたが、理想の花嫁候補を連れて来たという1点においては褒めてやっても良いかもしれぬ」
逡巡の後、マハートはローアの提案を受け入れた。至高の神器は現教皇が成人を迎えた暁に与えられる予定であったが、花嫁候補を用意するためという名目が立てば聖母の理解を得られると判断したのだ。それにこれは対処の見込みが立たなかった難題を、2つ同時に解決できる千載一遇のチャンスでもある。マハートはすぐさま聖母のところへ向かおうと考えていた。一方、ローアは主たる議題が終わったタイミングを見計らい、自らが抱える懸案について話を始める。
「ご相談したい事項があります。少々お時間をいただいても宜しいでしょうか」
「構わぬ。聞こう」
「それでは早速……神獣調査の依頼を受けた筆頭冒険者から、暴食の海魔が討たれたと報告を受けました」
「馬鹿な……そのような事、あるはずがない!」
聖堂に緊迫した空気が張り詰めた。巨躯と強大な魔力を有する神獣をヒトの手で討伐することは不可能に近いからだ。聖教国による神獣捕獲は何とか成功したものの、聖母が与えた秘術が無ければ全滅は免れなかっただろう。特にクラーケンの縄張りは外洋に限られており、圧倒的不利な状況での対応を強いられる。捕獲するにしても多大な犠牲が見込まれるため、大司教達は長い年月を費やして準備を整えてきた。
「ある時期を境にして、暴食の海魔の観測報告が途絶えています。しかし海を支配する巨獣を倒せる勢力があるとは信じ難い……冒険者ギルドが何らかの方法を用い、神獣を我らの目が届かないところへ誘導したのかもしれません」
「小賢しい連中め。聖教国が神獣を従える事に危機感を覚え、手を打ってきたか。だが穴だらけの情報工作を見破れぬ我らではないわ」
マハートは渋い表情で不快感を露わにする。世界中に拠点を持ち、インフラとなりつつある聖教と冒険者ギルドの共通点は多いが、組織としてのスタンスは大きく異なる。魔族や魔物といった驚異に対抗するべく、互助を目的として発足した冒険者ギルドに対し、聖教は癒やしの術を秘匿・独占するために設立された側面が大きいからだ。それ故に両者の衝突は尽きない。
「筆頭冒険者と称される者であれば信用に値するかと思ったが、結局は冒険者ギルドの犬でしかなかったようだな。実に嘆かわしい」
「始末の手配は進めております。国内に留まっている今なら暗殺も可能でしょう」
「いや、しばらく泳がせておけ。残る神獣の生息地を突き止めるためにも、人跡未踏の地を踏破してきた奴の能力は大いに利用すべきであろう」
ヒトとの接触を忌避する神獣の生息地調査は困難を極めた。人里に降りてくる稀有な獣もいるが、大半は足を踏み入れることもできない絶境を住処とする。戻ってきた者がいないと伝えられる迷いの樹海、吐息すら凍りつく極寒の雪原、危険な毒性ガスを生み出して生命を拒む洞窟――訓練された探検隊ですら簡単に命を落とす危険地帯を探索するには、超人的な肉体と鋭い勘を持ち合わせた冒険者の存在が必要不可欠だ。
「シンマよ、冒険者の監視はお前に任せる。冒険者共が動きを見せた時に備え、騎士団を使役する全権もお前に預けておく」
「……お任せください」
強面の老僧は深々と頭を下げ、マハートから与えられた責務を引き受けた。司教職以上の序列に就いた者には騎士団の派遣を要請する権限が与えられるものの、直接動かせるのはマハートのみに限られる。そのためローアとシンマは大司教でありながらもマハート不在時の代行者でしかなかった。しかし特権を持つ本人が委任すれば彼らも騎士団の全権を握る事が可能だ。
「他に議題がなければ評議を終えるぞ。聖教のさらなる繁栄のため、己が務めを抜かりなく果たせ」
マハートによる締めの言葉で大司教の密談は終わりを迎える。様々な思惑が交差する"神の島"において、運命という名の歯車は回りだした。このアイリス聖教を巡る一連の物語が、後に星の行く末を大きく左右する事になる。
――その頃 風の島――
広い港の中でも南端に位置する古びた桟橋。そこには1人で釣りに勤しむ男性の姿があった。太陽の光を反射する金色の髪とは対照的に彼の表情は冴えない。
「このままだと昼飯抜きになっちまう……」
男は困り果てた様子で空の魚籠を見つめた。早朝から食料調達にやってきたものの、昼前になっても釣果は皆無である。海から吹いてくる心地よい潮風だけが唯一の慰めだ。
「勘弁してくれよ、これなら魔物討伐の方がよっぽど簡単じゃないのか」
肩を落とした釣り人の体躯は平均的な人間族男性より一回り大きく、鍛え抜かれた筋肉が目を引く。大抵の者は彼が漁師でもなければ島民でもない事にすぐ気付くだろう。何故ならば、この男は冒険者ギルドにおいて銀壁の守護者の二つ名で知られる筆頭冒険者レイルス本人だからだ。今は重装鎧の代わりにカジュアルな布服を纏っているが、体中から発せられる闘気は隠しきれるものではない。
「はぁ……やっぱりこういう仕事は苦手だな」
抜けるような青空を見上げて独り言を吐露するレイルス。数週間前、彼は冒険者ギルド本部からの特命を受けて聖教国の内情調査へ赴くことになった。しかも単なる潜入ではなく、大司教ローアから寄せられた依頼を利用する形を取っている。
いわゆるスパイ行為に該当するため、レイルスは最初この仕事にあまり乗り気でなかった。英雄の冒険活劇に憧れて正義の冒険者を目指した子供時代――若かりし頃に抱いた自分の想いに背いてしまうためである。だが、冒険者ギルドが突き止めた事実を知って考えが変わった。
上位魔族の出没と魔物の増加に伴う被害の甚大化、そして世界情勢の悪化……いずれも聖教国の現教皇が即位してから顕著になった事が判明している。さらに魔王の降臨でデクシア帝国が弱体化した隙を突いて聖アイリス騎士団が東大陸へ乗り込み、3体の神獣を捕獲した。単なる偶然で片付けるには出来すぎた流れである。このまま聖教国を野放しにすれば大きな厄災が引き起こされるかもしれない――そう問題提議したギルド長にレイルスも同意し、危険を承知で単身エウレカへやってきた。
(それにしてもコドルガを連れてこなかったのは英断だった……自分を褒めてやりたいくらいだぜ。あの切れ者相手じゃすぐにボロが出ただろう)
波の間をゆらゆらと漂うウキを見つめながら、レイルスは数日前に顔合わせした依頼主の姿を思い浮かべる。大司教ローアは物腰こそ柔らかであったものの、言葉の隅々まで精査するような尋問じみたやり取りを仕掛けてきた。下手な嘘が通用する相手ではないと悟ったレイルスは、敢えて自分の知る情報を正直に伝えている。
一切の偽りを交えなかった作戦が功を奏したのか、ローアはレイルスについて深く追求してこなかった。またいくらかの報酬を受け取ることが出来たため、普段より懐が温かい。では何故、こんな所で彼は食糧を調達しようとしているのか――その答えは幾多の修羅場で培われた直感にある。
(とはいえ、あんな話は到底信じられないだろう。そろそろオレにも監視が付いたと見て良いはずだ。信者達との接触は出来る限り避けないとな)
レイルスが語った内容は全て正しいものだったが、それを相手が信じるかどうかは別問題だ。会話時に相手から感じた僅かな敵意を警戒し、彼は意図的に他人との交流を避けていた。エウレカの住民は全てがアイリス聖教の信徒であり、その全てが監視の目だと言っても過言ではない。駆け出しの頃を思い出させる自給自足の生活は、聖教の干渉を避ける観点から言えば最も有効な手段だった。
「……フッ、今頃連中がどんな会話をしてるのか知りたくなってきたぜ」
ニヤリと口元を曲げる筆頭冒険者。暴食の海魔が1隻の軍船に討伐されたという報告を聞いた直後、それまで微笑みを湛えていた大司教がピクリと眉を顰めた様子は彼の記憶に色濃く残っている。デクシア帝国の海兵から仕入れた確度の高い情報をそのまま伝えただけだが、普通に考えれば有り得ない事だ。島すら飲み込む巨獣と正面から戦おうとすれば、大型戦艦を何千と用意しても足りないからである。レイルス自身も話を聞いた瞬間は耳を疑った。
しかし、軍船に同乗していたのが幼い少女を含む冒険者の一団という情報が加わった事で、軍人の証言は一気に信憑性を帯びる。しかも少女達は荒れ狂う神獣を一撃で黙らせただけでなく、その肉を船内で調理して振る舞ったらしい。思わず笑ってしまうほどの豪快な英雄譚だ。
「オレも筆頭冒険者として負けてられない……なっ!」
不意に沈み込んだウキを見て、レイルスは釣り竿をしならせた。期待を乗せた腕に力を込め、針に掛かった獲物を釣り上げる。
――バシャン!――
海面から勢いよく飛び出した緑色の植物塊。どうやら魚ではなく、海藻に釣り針が引っ掛かってしまったようだ。熱を加えれば食べられないこともないだろうが、昼食には物足りない。彼の顔に落胆が浮かぶ。
「ちくしょう、ハズレだ。そういえば魚を釣るなら"水の島"がオススメだって水夫が言ってたっけか……場所を変えた方がいいかもしれないな。あいつらの準備が整うまでこの生活を続けないといけないし、食糧の調達手段は最重要問題だぞ」
"あいつら"というのはレイルスの仲間である2名の冒険者を指す。1人は並外れた膂力を誇り、爆裂戦斧の異名を持つ大熊の獣人コドルガだ。戦闘では頼りになる男である一方、良くも悪くも短絡的な行動をしがちなので調査任務には不向きと言える。そのため今回はレイルスが単独で聖教国へ入る事になった。
現在、コドルガはギルド本部の指示を受けてオキデンスに滞在している。現地の支部にて戦力となる人材を見繕い、少数精鋭の冒険者小隊を編成する事が彼の役割だった。神獣を従えた聖教が世界に牙を向ける可能性がある以上、万全を期して対策を施さなければならない。冒険者ギルドは最悪の場合に備え、西大陸と東大陸から追加の調査隊を送り出す決定を下したのだ。
もう1人のメンバー、絶対零度の魔術師の名で知られるエルフ族女性のノルンにも、コドルガと同じ役目が与えられた。彼女は今、東大陸側の冒険者を選抜するため本部のある自由都市リベルタスで活動中だ。
なお、ノルンとレイルスは恋人関係にある。そのためレイルスがしばらく別行動になると告げた際、ちょっとした口喧嘩に発展してしまった。寿命が違うからこそ一時も離れたくないと訴えたノルンの言葉を思い出し、レイルスの胸中にほろ苦い気持ちが広がる。
「……ああ、それは分かってるよ。でも一緒に生きていける世界が無くなっちまったら、元も子もないだろ?」
遠く離れた海の向こう側にいる愛しい女性へ呟くと、レイルスは釣り道具を片付け始めた。魚影も少ないこの港ではロクに釣れないと見切りを付けたのだ。今のところ成果は海藻の塊だけだが、時間はまだ十分にある。
「水の島とやらに行ってみるとするか。次は旨い魚を釣ってやるからな!」
自らを励ますように声を出し、筆頭冒険者は手荷物を持って来た道を引き返した。渦中の少女達と神の名を冠した獣が集う波乱の地――水の島へ彼が導かれたのは偶然なのか、それとも必然だったのか……その答えはまだ誰も知らない。




