049.新たなる門出①
――数週間後 リギサンの農園――
心地よい日差しに照らされ、青々と輝く農園では多くの作業員が働いていた。しかし彼らはこの地に元々いた村民ではない。奴隷船から救出されたエルフ族や獣人族の若者達が自ら希望し、農作業へ従事していたのだ。ずっしりと実った果物や野菜は手に取ると重く、それらをいくつも集荷して運び出す作業は荒涼とした山岳地帯でも汗が吹き出る程度に大変な労働である。それでも彼らの表情には希望が満ちており、収穫の歓びを享受していた。
「みなさん、無事に馴染めてよかったのです!」
「最初はぎこちなかったから心配もしたけど、思いの外すぐに溶け込んだわね」
農園を一望できる高台にある、丸太で屋根を組んだだけの簡素な休憩所――そこにはのんびりとした昼下がりを過ごしている少女達の姿があった。リギサンの復興や救助者の受け入れも落ち着き、自由な時間を取れるようになったメルとココノアは、互いの髪をヘアブラシで梳くのを最近の日課にしている。今もベンチに座ったメルの髪をココノアがブラッシングしているところだ。
「にゃふ~♪ ココノアちゃんに髪を梳いてもらうのは本当に気持ちよくて、変な声が出ちゃいます!」
「こら、動かさないでよ! まったく、この耳どうにかならないの?」
「えへへ、ごめんなさい♪ 勝手に動いちゃうので!」
メルの頭頂部に生えた猫耳がぴょこぴょこと揺れた。そのせいでブラシの行き先を邪魔されてしまい、ココノアはため息を付く。しかし上機嫌で足をぷらぷらと揺らす友人の姿を見ると怒る気もなくなり、「このケモ娘は仕方ないわね」と微笑みながら手入れを再開するのであった。
(それにしても綺麗な髪ね……)
明るい桃色に染まったロングヘアは柔らかくサラサラとしており、ブラシは一切詰まることなくスムーズに動く。現代日本と違ってまともなヘアコンディショナーも無いというのに、随分綺麗なものだとココノアは感心したような表情を浮かべた。仕上げとして耳付近の髪をリボンで結わえ、元のツーサイドアップに戻せば頭部のブラッシングは完了である。
「ほいっと、髪はこれでおしまい。次は尻尾よ」
「は~い、お願いしますねぇ~」
すっかり気が抜けた声からも、メルが完全にリラックス状態になっているのが分かる。毛で覆われた尾もブラッシングしてもらうため、彼女はベンチの上にうつ伏せで寝転んだ。そして自分の手で淡い紫色のスカートをおもむろに捲って尾を取り出す。その際に白い布地に包まれた双丘も丸見えになってしまったのだが、直視するわけにもいかずココノアは視線を逸しながらブラッシングへと着手したのだった。
(ほんとに無防備なんだから……レモティーには絶対させられないわね)
外見だけであれば10歳前後にしか見えないものの、大胆に晒された太腿と臀部には女性らしい丸みが備わっている。普段からよく食べているせいかメルの肉付きは非常に良く、腕も足も華奢なココノアと比べるとその差は明確だ。そこに加えて愛らしい猫耳と猫尻尾までついているのだから、幼い少女を愛するレモティーには堪らない状況であることは想像に難しくはない。故にココノアはいくら頼まれても彼女のブラッシング役を絶対に譲ろうとはしなかった。
「あぅっ……! んんっ……! そ、その……尻尾の根元はちょっと敏感なので、優しくしてくださいね……?」
「やらしい声を出さないでよ!? なんか変なコトしてる気分になっちゃうじゃん……」
「ココノアちゃんのブラシが気持ちよすぎるから、つい我慢できなくて♪」
尻尾のブラッシングになると、メルは決まって色っぽい声を漏らしていた。尾の付け根である尾骶骨付近には感覚神経が集中しているらしく、そこに触れると彼女は顔を紅潮させながら悶える。時には恥ずかしげもなく内腿をモジモジと擦り合わせることもあったので、もう何回もブラッシングをしているココノアでも未だに慣れなかった。
(獣人族ってどういう生態してんのよ、まったく……)
桃色の尾をブラシで撫でながら、視線をメルの頭から爪先へとなぞらせるココノア。長い耳以外は比較的人間族と違いが少ないエルフ族に比べると、獣耳と尻尾がある獣人族の身体には謎が多かった。例えば体毛がそうだろう。耳だけでなく尻尾も同様の毛に覆われてはいるが、不思議とそれ以外の部位には毛が生えていない。その特徴を端的に表す「獣要素が耳と尻尾だけだし、ケモナー受けは悪そうね」という感想は、彼女がこちらに来たばかりの頃にメルを見て呟いた台詞でもあった。
(でもあの船にいた獣人族の男性は毛むくじゃらだったし、同じ種族でもケモ具合に違いがあるってこと……?)
ココノアは奴隷船で助けた獣人族男性の姿を思い返した。西大陸の生まれだと話していた彼は、筋骨隆々とした逞しい身体を持っており、長身を誇る巨漢だった。その体つき同様に顔や皮膚も人離れしており、狼に近い顔の形状に加え全身が青色の短毛に覆われていたのである。同じ獣人族でもここまで違うのかと、その時はココノアだけでなくメルやレモティーも驚いていた。
「……ほら、ここに受け入れた人達の中に狼男みたいな人もいたじゃない? あの人の事、憶えてる?」
「ええ、憶えてますよ。大きな身体のモフモフした人ですよね?」
「そうそう、その人。獣人族って出身地で結構見た目が変わるっぽいけど、西大陸の人ってどっちかというと獣寄りの人が多いのかな」
「そういえばケントさんが言ってました、血の混じり具合で見た目が大きく変わるって。西大陸じゃ異種族同士で子供を作ることが殆どないらしいので、亜人さんの血は純血に近いらしいですよ」
リギサン駐在中のギルド職員であるケントから聞いた内容を思い出しながら、メルは話し始めた。冒険者ギルドは西大陸にもあり、職場伝いで様々な情報が入ってくるとのことで彼が色々と教えてくれたのだ。
「エリクシア王国やその周辺国じゃ亜人や人間といた種族の違いによる差別は徹底的に禁止されてますけど、西大陸だとかなり酷いんだとか。亜人さんは自分たちの集落から外に出るのを禁止されてるだけじゃなくて、結婚や職業も制限されてるって聞きました。それに亜人さんにだけ厳しい徴兵制度があるなんて話もありましたし」
「それであの人達、ここに住みたがってたのね」
ココノアは納得したように頷いた。奴隷船から救われた亜人達を受け入れた際に、王国軍の代表者が彼らに故郷への帰還を望むのか尋ねたのだが、ほぼ全員がリギサンで生きていく事を望んだのだ。もちろん中には住んでいた場所を懐かしむ者や、残してきた家族を想って悩む者もいた。しかし人不足に悩むこの村であれば納税の軽減が行なわれる上、自由に土地を開墾して永住する権利を得られるという条件が示されたのもあり、たった1人を除いて移住に同意している。もっとも、彼らの背中を押したのはレモティーが提供した美味しい野菜や果物を自分達の手でも作ることができるという理由が一番大きかったようだが。
「でも、ユキちゃんだけはお母さんのところに帰りたいって言ってましたし、どうにかしてあげたいものです」
「そりゃ、まだ子供だもん。家族といるほうが絶対良いに決まってるじゃない」
「本人さんもそれを一番望んでますからね……」
メルの言葉通り、狐の獣人少女であるユキは母親の元に帰りたいという意思を貫いている。王国軍は彼女の希望に応えるためその旨を故郷であるオキデンスへ打診したのだが、西大陸の大半を治めている大国からの回答は想像を絶するものであった。
「ケントさんから又聞きしたんですけど、オキデンス国は奴隷船の運航を妨害したっていう言い掛かりをつけて、王国へ賠償金を払うように言ってきたそうです。そんな条件は到底飲めませんから、帰還交渉も決裂しちゃったって……」
「……はぁ!? なによそれ! むしろ王国の領土に勝手に上陸してるんだから、あっちが悪いんじゃない。最初に襲われたのもうちらなんだし!」
「まぁ……私達は王国民じゃなくて旅の冒険者という立ち位置なので、その辺は有耶無耶にされたみたいですね。あとオキデンスは帝国と並ぶ大国家らしくて、比較的小さなエリクシア王国相手じゃまともに交渉のテーブルにもつけないと聞きました」
「倫理観どうなってんのよ……この世界の連中は!」
ブラッシングをしていた手を止め、ココノアは空を仰いだ。王国とオキデンスの関係が芳しく無い以上、ユキを故郷まで連れて行くハードルは相当に高い。旅客船が運行されていたといても入国審査の時点で揉め事に巻き込まれるのが目に見えていたからだ。メルも同じように難しい顔をしながらユキの今後について頭を悩ませていると、金色のロングヘアを靡かせながら女性が歩いてきた。
「やぁ2人とも、相変わらずベッタリで妬けちゃうね! 良かったらボクを間に挟んでくれないかな!?」
聞き慣れた声をキャッチし、ピクリと動く獣耳とエルフ耳。メルとココノアが同時に振り返ると、バスケット籠を持ったレモティーが丘を登ってきている姿が見えた。
「何言ってんのよ全く……もう引き継ぎは終わったの?」
「うん、大体はね。みんな熱心で飲み込みも早いから、ボクがいなくても農園をやっていけると思うよ」
そんなやり取りを交わしながらベンチまでやってきたレモティーは、バスケットから暖かいパンを取り出して2人へと手渡した。ちょうど午後3時頃ということもあり、小腹が空いていたメルは喜んでそれを受け取る。
「婆ちゃんが作ってくれたんだよ。焼きたてのベーコンエピさ! 冷めない内にどうぞ!」
「わぁ、美味しそうです! いただきますね!」
早速メルは麦穂のような形をした硬めのパンを頬張った。アヴィが手作りしたそれは口に入れた途端に香ばしい燻製肉の旨味が広がり、パリっとしたパン生地との極上のハーモニーを奏でる。そのあまりに美味しさに彼女は先程まで考えていたことなどすっかり忘れたように無邪気な笑顔をみせていた。
「ほらココノアも遠慮せずに。うっかりしてたらメルに全部食べれちゃうよ?」
レモティーはバスケットからアップルジュースが入った瓶と木製コップを取り出して、飲み物の準備を進める。透明な瓶には丁寧にもラベルが貼られており、そこには"リギサン名産"という謳い文句と、写真と見紛うような山頂の農園風景が鮮明に描かれていた。
「そういえばこのリンゴジュース、いよいよ販売が始まるんでしたっけ?」
「ああ、ココノアのおかげで立派なラベルもできたからね。果物そのままだと場所も取るし保存も効かないけど、こうやって瓶詰めにすれば問題は解消! 立派なリギサンの次期主力商品にできるってわけさ!」
そう言って誇らしげに胸を張るレモティー。彼女が持参した瓶詰めのジュースは、最近この村で製造が始まった新商品の試作品であった。原材料から製法まで全てがリギサンで独自に生みだされているため、他の都市ではお目にかかれない貴重な飲み物である。卸先のベテラン商人も売り出せばすぐに注文が殺到するだろうと太鼓判を押していた。
「これでもう少し村の暮らしが楽になるといいんだけどなぁ……」
レモティーはコップに注がれた明るい黄色の液体を見つめながら、村の将来へと想いを馳せた。奴隷船の救助民を受け入れて人口が増えたこともあり、村の収入をもっと増やさないといけないと考えた彼女は三日三晩考え抜いてこのジュースの製造方法を編み出している。それはこの世界で広く知られているポーションの製法を応用し、果物から果汁を効率よく取り出すというものであったが、酸化させない工夫や摺り下ろした果肉を混ぜる発想に関しては現代日本の技術を参考にした。つまるところ、この果汁100%ジュースは異世界と地球の技術を組み合わせた知恵の結晶というわけである。ただし、その工程の大半を造り手の魔力に頼っているため大量生産には向いておらず、1日100本程度が製造限界だ。
「うちがラベル描いてるんだし、売れるに決まってるじゃない。でもその分のデザイン料はきっちり納めてもらうつもりだから、覚悟しておいてよ?」
「あはは、プロは流石にきっちりしてるね。でも村の復興にお金がいるから、しばらくは現品支払いで勘弁して欲しいなぁ……」
「ふふっ、分かってるわよ。冗談だってば!」
ココノアは悪戯っぽく笑うと、手にしていたリンゴジュースを口に含んだ。遠くからでも目を惹く魅力的な瓶のラベルは、彼女がデザインしたものである。それを魔法画材に搭載されていた記録水晶の機能を応用して大量に印刷し、ラベルに加工して瓶に貼り付けていたのだ。もし粗悪な類似品が出回ったとしても、ラベルまでは真似できないのでリギサンブランドが簡単に傷つくことはない。そういった先の先まで考えた上で、レモティーは用意周到な販売計画を練っていた。それも全ては世話になった村人達への恩返しのためだ。
「ぷはっ、美味しかったのです! ごちそうさまでした!」
一足先にパンとリンゴジュースを平らげたメルが八重歯を見せてニッコリと笑う。その気持ちの良い食べっぷりを称えるように微笑むと、レモティーはメルの隣へ腰掛けた。ここにやってきた際の言葉通り、幼女達の間に割り込んできた彼女にココノアはムスっとした表情を向ける。
「ほんとに間に挟まってきたし……っていうか、ケツがデカくて邪魔なんだけど!」
「ははは、ごめんごめん! でも差し入れを運んできたんだし、これくらいの役得は許されてもいいんじゃないかな!」
「なによ役得って……そういえばレモティー、ユキの事は聞いた?」
ココノアは先程までメルと話していた会話の続きをするべく、レモティーにユキの帰郷に関する話題を振った。ここ最近のレモティーは農作物の栽培や収穫方法を村人達に教えるのに忙しかったので、別行動を取っていることが多い。とはいえ、話題の提供元であるケントから自然と話しかけられる事が多い彼女は、大体の状況を把握出来ていた。
「ああ、ケントさんから大体はね。国主導のやり取りでダメなら、ボク自身が送り届けてあげようと思ってる。そのために村の人へ農園の手入れ方法や収穫次期、販売ルートなんかもレクチャーしたから、いつでも出発する準備は出来てるよ。爺ちゃんや婆ちゃんにも長旅に出ることはもう伝えたし」
「えっ、もうそんなところまで話が進んでたの!? 長旅に出るつもりだったなんて、うちらも初耳なんだけど。随分と思い切りがいいのは、あの子が好みの幼女だからじゃないでしょうね……?」
今度は冗談ではなく、コイツならやりかねないと言わんばかりのジト目でレモティーを睨むココノア。その圧の強さにレモティーは口に含んでいたパンを喉に詰まらせ、咽せてしまった。
「ゲホッゲホッ……ちょっと待ってよ、ココノア! 誤解しないでほしいな!? ボクは下心があって旅をしようとしているわけじゃないからね!」
「ほんとかしら……?」
訝しげに首を捻るココノアに対してレモティーは首を何度も縦に振る。そしてゆっくりと呼吸を整えると、コホンと咳払いをして言葉を続けた。
「実はボク、子供の頃に訳あって両親と一緒に暮らせなかったんだ。最初はそりゃもう寂しかったもんだよ。でも爺ちゃんと婆ちゃんがいたから、なんとかやっていけた。2人とも優しく接してくれたし、生きていくのに必要な事は教えてくれたからね」
「そういえばレモティーちゃんからそんな話を聞いた憶えがあります」
レモティーの家庭事情が複雑なのは、メルとココノアもNeCOでのチャットを介して薄っすらとは知っていた。ただし当時はあまり深くは突っ込まなかったので、具体的な話を聞くのはこれが初めてである。彼女達は静かにレモティーの言葉へ耳を傾けた。
「でも、今のユキちゃんには頼れるものが何も無いんだよ……! 甘えることのできる家族も、叱ってくれる大人も……寄り添ってくれる存在が誰も居ないなんて、悲しすぎるじゃないか。だからせめて、ボクだけでも彼女の味方になってあげたいんだ……」
声を震わせながらレモティーは自らの想いを吐露する。普段は明るく振る舞っている彼女だが、その裏でユキに自身の幼少期を重ね、その悲しみや辛さを自分の事のように感じていたのだった。それに異世界でも彼女はオーティムとアヴィという家族同然の存在を得て、1度は失ってしまっている。メルにより救われたとはいえ、家族を失う辛さを知っているからこそ、親元から引き離された少女を自分の手で救ってやりたいというレモティーの気持ちは本物であった。
「レモティーちゃん……」
メルはそっと腰をあげてレモティーの正面へと歩み寄った。そして彼女の背に手を回すと、母親が子供を慰めるようにしてその上半身を優しく抱きしめる。
「メル……?」
「レモティーちゃんだけが気負いする必要はないのです。私もささやかながらお手伝いしますから。絶対にユキちゃんをご両親のところまで送り届けましょう。ね、ココノアちゃん?」
「勿論よ、最初からそのつもりだし。まずはどうやって海を渡るか考えないとね」
「2人共……本当にありがとう……!」
レモティーは瞳を潤ませながら2人への感謝を示した。そして慈愛に溢れるメルの笑顔につられて頬を緩める。
「暖かいな……いいものだね、誰かと一緒に居られるっていうのは」
そう言って彼女は目の前にある膨らみかけの胸へと顔をうずめると、甘えるように頬ずりを始める。それだけであればまだ見過ごせたが、スーハーと音をたてて深呼吸を始めたのでココノアがすぐストップに入った。
「ちょっと! 良い感じの空気になってたのに、何してんのよこのロリコン女!?」
「女児特有の体温の高さと、甘い匂い……いいよね……いい……」
「このっ、ド変態っ!!! メルから離れなさいよ!!」
頑なに離れようとしないレモティーと、彼女を引き剥がすべく全力で引っ張るココノア。そんな2人の譲れない戦いがその後しばらく続いた。
――半時間後 山村内に設けられたテント群――
これまで家畜の放牧用途でしか使われていなかった草原には仮設テントが規則正しく並んでいた。それらは王国軍の支援団と救助された元奴隷達が寝泊まりするために設けられたものである。復興作業の従事者は農園で働く者が多いため朝昼は多くが出払っているが、炊き出しがここで行なわれている関係で夕方はさながら市場のような雰囲気を醸し出す。
「これだけテントがあると圧巻ですね……」
ちょうど人が増えて賑やかになってきた通りをメル達は並んで歩いていた。みっしりとテントが立ち並ぶ光景は連休に入った人気キャンプ場のようにも見える。ただしそれらは白一色の簡素な色合いに統一されており、天幕にはエリクシア王国の象徴でもある杖と薬瓶の紋様が刻まれていた。全て王国軍提供の資材を流用していたからだ。元々は国境付近で帝国軍と睨み合っていた部隊が使っていたものであるが、帝国軍が撤退したことを受け王国軍も半数近くが王都に帰還していたので、それを運良く借用することができたのだ。
「みなさんの住む場所が手早く出来てよかったのです!」
「ほんとだよ。スキルをフル活用して簡易住居を作るにしても、超デカデカの実がなければ数日はかかっただろうからね。それにしても、生まれた大陸が違うのに言葉が通じてるのは不思議だなぁ……」
レモティーが目をやった先には、リギサンの住民に混じり楽しそうに会話する獣人族の男性や、炊き出しの準備を王国兵と共に行うエルフ族女性の姿があった。すっかりこの地に馴染んだ彼らは、もはや入植者と呼ぶほうが適切かもしれないほどに溶け込んでいる。ただ、取得スキルによって異なる言葉を自動翻訳可能なメル達からしてみれば、彼らの言葉が何の不自由もなく通じているのは少し違和感があった。生まれ育った国どころか大陸すらが異なる彼らが普通に言葉を交わすことができる背景には、この世界特有の事情があるのだった。
「なんでも、数百年くらい前から冒険者ギルドが主体になって言語の統一を推し進めたってケントさんが言ってましたね。元々は国ごとに言語も違いがあったそうですけど、魔物や魔族に対抗するのに意思疎通に壁ができるのは致命的だってことで、各国で協力して統一言語を作ったんだとか」
「その点に関しては流石異世界って気がするよ。地球だと数世紀あっても言語の統一なんて無理だろうしさ」
「地球と似ている部分もありますけど、文化や風習はこの世界特有のものが多いですもんね。時間があれば、他にもこの世界のお話をケントさんからお伺いしたいものです」
ケントから見聞きした情報はこの世界を知る上でメル達の大きな助けとなっていた。そして今回、彼女達がこのテント群までやってきたのも、その豊富な知識を借りて西大陸への行き方について調べるのが目的である。彼はギルド職員として支援団に加わっており、その業務のためにテント群の一角で臨時冒険者ギルドを設けていた。ギルド支部のないリギサンに臨時の拠点が必要となった理由は、ギルドの依頼報酬システムにある。復興に必要となる資材をトルンデインの冒険者ギルドが調達依頼任務の形で発行しているのだが、請け負った冒険者達がリギサンへ納品することで依頼達成となるため、どうしてもその窓口が村に必要だったのだ。
「あ、ここですよ。ケントさんがいるテント! 最初よりも少し大きくなった、というか拡張されている気がします」
冒険者ギルドを示すイメージカラーでもある濃い緑色のロッジ型テントに入ると、それと同じ色の職員服に身を包んだケントが書類仕事をしている最中であった。資材の受け取り処理票や報酬精算の明細書の束と格闘していた彼へ、メルはおもむろに声を掛ける。
「えっとケントさん、こんにちは。お仕事、大変そうですね?」
「ああ、メルとココノアか。なんせ派遣されているのが僕1人だけだからね。雑務も全部自分でやらないと……って、レモティーさんも来て下さったんですか! どうぞどうぞ、狭いところですが椅子にお掛けください! 飲み物も今用意しますから!」
「……うちらとレモティーの扱い、差があり過ぎない?」
不服そうに頬を膨らますココノアを宥めつつ、メルとレモティーは用意されていた丸椅子に座った。ただ長居するつもりはなかったので飲み物は丁重に断り、早速本題を切り出す。
「ケントさん、ユキちゃんの帰郷について相談したい事があるんだ。西大陸へ向かう方法について、何か知ってたら教えてくれないかな。状況が状況だけに、できれば穏便に彼女の故郷に向かいたいと思ってるんだけども……」
「なるほど、あの少女の件でしたか。しかし、それは難しいですよ……西大陸で主要な港はすべてオキデンスの領内にあるんです。あの国は入国時に亜人に対する厳しい審査を行いますから、元奴隷である事が分かればその場で取り押さえられてしまう可能性が高いかな、と。それに国の役人は奴隷商と裏で繋がっている事も多いので、恨みを買っているレモティーさん達の身も危うくなるかもしれません」
険しい顔でケントはそう答えた。王国軍に突き出すつもりだった奴隷商人は船と共に忽然と姿を消しており、その行方はこの場の誰も知らない。実際にはメルが放り投げた"天使の輪"により船ごと壊滅していたのだが、陸から離れた海上での出来事だったので人の目には留まらなかったのだ。故にケントは彼らが自国に戻っていると判断していた。
「うん、普通に入国しても揉め事になるかもしれないっていうのはよく分かってる。でも、その場で取り押さえられる、ってどういう事なんだい? 彼女達は無理矢理に連れ去られただけの被害者だ。どうしてそんな仕打ちを受けるのか理解できないな……」
「信じられないとは思いますが、オキデンスでは亜人に対して行なわれる人間族の犯罪行為を黙認されているんです。なので誘拐された亜人を保護するような考えはないですし、むしろ奴隷船から逃げ出した事を咎められる可能性すらありますね」
「とんだクソ国家だわ……」
心底呆れた顔で呟くココノア。元居た世界がそうであったように、この世界にも独自の成り立ちやルールがあり、自分達の価値観だけで推し量れない事がある事は彼女達も理解しているつもりだ。しかしそれでも酷い人種差別が罷り通っている大国には憤りを感じずにはいられなかった。レモティーもまた虐げられる一方の亜人達が不憫でならないとばかりに唇を噛みしめる。
「はい! 1つ質問してもいいでしょうか?」
漂っていた重苦しい雰囲気を払うかの如く、ピシっと挙手するメル。ケントが縦に首を振って発言を促すと、彼女は思い浮かんだ素朴な疑問を口にした。
「冒険者ギルドってオキデンスにもあるんですよね? それならユキちゃんを冒険者に登録して貰ったら、堂々と入れたりはしないんでしょうか! 確か冒険者登録証って身分証明も兼ねてたと思いますし」
「ああ、言い忘れてたけどそれも難しいと思う。確かにギルドで正式に認められた冒険者なら、国を跨ぐ移動にも支障は出ない仕組みにはなってるよ。でもオキデンスだけは特殊で、国家が亜人が冒険者になるのを禁止しているんだ。だから獣人族のメルやエルフ族のココノアが登録証を提示しても、冒険者としては扱ってもらえない。この問題については昔からギルド本部も異議を唱えているんだけど、あの国はギルドへの出資額が大きいのもあって、未だに解決できていないんだよなぁ……」
「ぐぬぬ……それじゃ冒険者として入国する案もダメですか……」
ケントの回答にメルはしょんぼりと猫耳を折り曲げた。正攻法ではどうやっても入国できそうにない事を悟り、ココノアも深い溜め息を付くばかりである。しかしレモティーはまだ諦めていなかった。NeCOで存在していた不正入国の裏テクニックが使えないかと思い至った彼女は、オキデンスへ入る手立てについて話を続ける。
「それじゃ、非正規のルートはないのかな。どこかの浜辺から勝手に上陸するとか、空から入っちゃうとか……あとは他の人に憑依して入国するとかさ」
「憑依……? それはよく分かりませんが、正式な門以外からの入国はやめておいたほうが無難です。領土内には対魔物用の障壁が張り巡らされてて、基本的には侵入不可能になってるんですよ。ただ、手段を選ばないのであれば方法がないわけではありません。かなり難しい方法になりますけどね、特に今の状況だと……」
レモティーの問いにケントは渋い表情のまま押し黙った。言い淀む彼に対してレモティーは上半身を乗り出し、「方法があるなら教えて欲しい!」と食い下がる。慣性によりプルンプルンと揺れる巨大な胸に目を奪われそうになりながらも、ケントは両手を突き出して彼女を制止した。
「わ、わかりましたから落ち着いてください、レモティーさん! これはかなり危険な賭けになると思うので、正直なところ言うつもりはなかったんですが――」
そう前置きした上で彼は言葉を続けた。
「デクシア帝国経由であればオキデンスに入れる見込みはあります。オキデンスは魔物への対抗手段を増やすため、帝国から主に魔道具を使った兵器を輸入してるんですよ。ただ兵器には取り扱いに注意を要するものも多いので、検査は簡易的にしか実施されていません。なので梱包箱や大型兵器の内部に隠れることができれば、オキデンス内に入れる可能性は高いです。俗に言う密入国なので、見つかったときのリスクは計り知れませんが……」
「なるほど……でも経由するのは帝国か……」
複雑な想いがレモティーの心中に渦巻く。デクシア帝国といえばリギサンに火を放ち、彼女の大切な人達を傷つけた軍団を派遣してきた国だったからだ。勿論心象はよくないし、関わり合いたくもなかった。また今は軍のクーデターにより皇族が放逐されたことで属国の独立紛争が勃発しており、帝国は混乱の最中にある。故に幼いユキを連れて歩く事には抵抗があった。どうしたものかと唸るように悩むレモティーに対して、ケントはこうも付け加える。
「帝国内にも冒険者ギルドがあるので、平時であれば僕の方で協力者を確保することもできたんですが、今の状態では碌に連絡すら取れません。なので、渡航手段についてもみなさんの方で確保してもらう必要があります。港自体も開放されているか怪しいですし、上手く事が進むかは――」
「かなり厳しい見立て、ってことね。よく分かったわ」
ケントの言葉を先取りしたココノアは、椅子から立ち上がると背を向けて出口へ向かい始めた。そしてレモティー達を振り返ると、右手で招くようにして合図をする。
「ほら、行くわよ2人共。あとはうちらだけで作戦会議するの。いくらギルドの依頼には関係ない事だっていっても、公的な立場の人にこれ以上ややこしい発言させるわけにもいかないでしょ」
「あー……それもそうですね。それじゃケントさん、ありがとうございました!」
「そうか、そうだね……気が付かなかったよ。ごめんね、ケントさん。結論が出たら報告はさせてもらうから、今日はこの辺で」
「いえ、お気遣いさせてしまったみたいでこちらこそ済みません。あまり力になれず申し訳なかったです。また何か聞きたいことがれば遠慮せずにどうぞ!」
そう言って見送ってくれるケントに丁寧なお辞儀をし、メル達はテントを後にした。夕日を背で受けながら、炊き出し準備が始まった賑やかなキャンプを通り過ぎていく。
「それじゃ、どっか適当なところで相談しよっか」
先頭を歩いていたココノアの一言により、少女達は人が行き交う場所から少し離れた資材置場へと移動した。空き地に所狭しと並べられている復興資材入りの木箱に腰掛けると、今後の方針について言葉を交わし始める。
「どうするの? ケントの話だと普通に入国するのは無理っぽいじゃない。障壁とやらがうちの魔法で解除できたなら、適当な場所から上陸できなくもないだろうけど」
「いや、それはやめておこう。障壁がなくなったことで一般の人達に影響が出るのは避けたいからね。消去法でいくと、実質的に密入国しか方法はないんじゃないかな。危険はあるけど、帝国の貨物船に忍び込むルートでユキちゃんを親御さんのところへ送り届けようと思う。賛成してもらえるかな……?」
幼い子供のためとはいえ、レモティーの提案は法に反する行為だ。そのため彼女は同意を得られないのではと思っていた。しかしメルとココノアは最初からそのつもりだったようで、異論を挟む素振りも見せずに頷いて同意する。
「……ま、世界を救えとか言われてるんだし? 小さな女の子くらい助けられないとね」
「レモティーちゃんとココノアちゃんがいるんですから、きっと上手くできますよ! 私も及ばずながら頑張りますので!」
「ありがとう、2人共……心強いよ! それじゃあ出発の日だけど、5日後なんてどうかな。それまでに移動用の馬車を手配してみるからさ。あと、メルとココノアにはトルンデインに買い出しをお願いしてもいいかな。旅の資材を整理して貰いたいんだ」
「それくらいは別にいいけど、ルートは決まってるの? 国境を超えるなら、馬車は目立ちすぎない?」
ココノアの疑問にレモティーは人差し指を東へと向けることで答えた。指し示された先には山麓を覆うような深い森が広がっている。
「王国軍が帝国の動向調査で東の森にも入った、って話を先週くらいに爺ちゃんに聞いたんだよ。そしたら森の中には馬車が通れるくらいの道が作られていたみたいで、それが帝国まで続いているみたいなんだ。ボク達も馬車でそこを通っていけば関所を迂回して国境超えできるって寸法さ」
「そんな隠しルートがあったなんて……なんだかRPGっぽくてワクワクしますね!」
「ワクワクって……メルはいつまでゲーム気分でいるのよ。言っとくけど、これ全部現実の事なんだけど?」
緊張感のないメルを諌めるココノアであったが、それは彼女を心配してのことであった。内心ではその気持ちを何となく理解できている。まだ見ぬ場所への旅立ちはいつだって冒険者の心を躍らせるものなのだから。
「えへへ、ごめんなさい。でも、こうしてるとNeCOで遊んでた時の事を思い出しませんか? ほら、密入国みたいな事だってNeCOでやったじゃないですか!」
「ああ、"憑依抜け"だよね。お金のない時代にはお世話になったなぁ……」
レモティーは懐かしそうに呟くと、在りし日のプレイ場面を思い浮かべる。NeCOでは通行許可証を持ってないと入れない国がいくつか存在していたのだが、そこへ入るのに高額な許可証をNPCから購入する必要があった。そこでプレイヤー達は出費を抑えるため、NeCO独自要素として実装されていた憑依システムを利用し、許可証なしで入国するというテクニック――"憑依抜け"を編み出していたのだ。
なお憑依と言っても、難しい処理をしているわけではない。例えばレモティーに対してメルが憑依すると、メルのプレイ画面上では自キャラの姿が消えて、レモティーの視点になるといった単純な変更が行なわれるだけだ。メルの移動は全てレモティーに依存する事になるため、入国許可証もレモティーの分だけあれば良く、その費用を浮かすことができた。またメルには一部の行動に制限がかかるものの、一部のステータスをレモティーに付与したり、取り憑いた状態でスキルを使って援護できるという戦闘面でのメリットもあった。
「うんうん、今から思うと結構革新的だったねぇ、あのシステム。後発のMMORPGには導入されなかったけど、ボクは結構評価してたんだ!」
「いやいや、本気で言ってるそれ……? あれはどう見ても大失敗だったでしょ。アカウントの多重起動で憑依付けまくるのが前提になったもんだから、運営が憑依剥がしを実装しちゃって、コンセプトが破綻してたじゃない」
渋そうな表情でココノアがコメントする。実際のところ、彼女の言葉通り憑依システムは致命的な問題を露呈した。複数のアカウントで憑依用キャラクターを大量に作って、可能な限り憑依させるプレイヤーが現れたせいでゲームバランスが大きく崩れたのだ。
運営としては想定外の状況であったので、もちろんそのまま放置はしなかったのだが、ユーザーに有利になりすぎたことに対して導入された対策は極端なものであった。憑依状態を強制的に解除する"憑依剥がし"と呼ばれるスキルを多くのモンスターに付与し、実質的に狩場での憑依を封じてしまったのである。これによりゲームの売りでもある憑依要素は残念な扱いとなり、専ら移動用の小技としてしか使われなくなっていた。
「そういえばそんな仕様になってたね……すっかり忘れてたよ」
「狩りのときに憑依しても、すぐ外に弾き出されて使い物になってなかったのを思い出しました……」
「2人共、楽しかった頃の記憶を美化しすぎだっての。あのゲーム、素直に褒めれたのは見てくれだけだったんだから」
厳しめの言葉とは対称的にココノアの表情は柔らかい。NeCOで遊んでいた頃のことを思い出して懐かしく感じるのは彼女も同じだった。それに舵取りが悪すぎてサービスが終了したゲームであっても、ここにいる友人達と巡り会えたのはNeCOをプレイしていたからこそである。
(あのクソゲーがなかったら、こうしてメルと居られなかっただろうし……)
向かい側にいる獣人少女を見つめながらココノアは想う。暇つぶし程度にしか思っていなかったオンラインゲームで得た繋がり――出会いから10年近く経った今、それは手放したくないと思える大切な絆になっていると。
(そういう意味じゃ、この世界にも感謝してやらないとね)
仮想世界による関係は本来ならNeCOのサーバー停止と共に絶たれていたはずだ。だが揃って異世界へ降り立ったことで、彼女達の物語は現実となって再び紡がれ始めた。作り物ではない本当の冒険をしている以上、どんな些細なバッドエンドもその道程に挟ませるつもりなんてない――そう固く心に決めていたココノアだからこそ、ユキを故郷へ帰す事を望む友人達への協力は惜しまない。
「それじゃ方針も決まったことだし、各自準備を進めることにして解散しよっか。細かい打ち合わせは夜にやるとして、レモティーは準備しないといけない道具とかを紙に書いてまとめておいて。メルはユキにこの事を伝えておいてくれる? うちはケントに話しに行っとくから」
「はいっ、分かりました! やっぱりココノアちゃんは頼りになりますね! こういう時、しっかり引っ張ってくれますから!」
テキパキと指示を言い渡す聡いエルフ少女に、メルは羨望の眼差しを向けた。普段は一歩引いた位置から冷静に物事を見据えているクールなタイプであるが、重要な場面では率先して動いてくれるため、後衛職ながらもパーティでは一番頼りになる存在――そんなココノアのことが、メルは大好きだった。
「恥ずかしいから、口に出さなくていいってば! 思ってるだけでいいし!」
「えー! 言わないと伝わりませんよ! 折角なのでもう1度言いましょうか♪」
「要らないっての! ああもう、メルが一緒だとほんとにペースが乱されるわね……うちはケントのところへいってくるから」
ココノアはそう呟くなり木箱から降りると、赤く染まった頬を隠すように背を向ける。それから間を置かずして臨時冒険者ギルドの方角へ歩き出したのだが、すぐに立ち止まった。彼女は心優しいメルがレモティーや自分に忖度して今回の危険な旅に同意したのではないかと、ふと心配になったのだ。何しろ底抜けのお人好しで呆れるほどに不器用な友人のことである。その可能性は十分に考えられたので、ココノアは少し思案してから口を開いた。
「……今回の件でよくわかったけど、この世界は胸糞の多いイベントがその辺に転がりすぎてるのよ。最初はいい感じのファンタジー世界だと思ってたのに、とんだ鬱シナリオばっかりじゃない。そういうの、うちは嫌いだから無理矢理にでも捻じ曲げてやるつもり。誰になんと言われようともね。レモティーも同じ考えみたいだけど、メルはどうなの? 本当に覚悟は出来てる?」
そう問い掛けられたメルは最初、何を言われているのか分からないような顔をしていたが、しばらくすると優しげに微笑んだ。彼女が遠回しに自分を気遣ってくれている事に気づいたからだ。その上で、躊躇すること無く真っ直ぐに自分の意思を伝える。
「ええ、もちろん……! 私は信じた結末を目指して進むだけです! なんたって、ハッピーエンド大好き派ですから!」
「……ふふっ、何よハッピーエンド大好き派って?」
メルらしい返答に思わず笑い声を漏らすココノア。彼女は嬉しそうな顔で振り返ると、声高らかに友人達へ宣言する。
「なら、うちらでひっくり返してやろうじゃない。このどうしようもない、クソゲーみたいな理不尽をね!」
その言葉を噛みしめるが如く、メルとレモティーは深く頷いた。異世界にやってきて数ヶ月……自分達が目指すべき道標を見出した少女達の冒険は、その舞台を大国へと移してさらに続いていく――




