044.決着④
――デクシア帝国領北方 森深くの村落――
メル達が新たなスキルに心を躍らせている頃、リギサンから撤退した帝国軍は自国領の村里に駐留していた。元々別国の領地であったその森には小さな村が存在していたのだが、地勢上の利点もなかったため帝国支配下となっても干渉をあまり受けずに昔ながらの慎ましやかな暮らし振りが続いている。森の恵みを得ながら人間族や獣人族が暮らす古き村は今日も平和だ。村内を多くの軍人が闊歩していることを除けば。
「ファベル副官、軍統括部より連絡です。王国との緊張状態は高まっているが、まだ交戦には至らず睨み合いが続いているとのこと。我が軍には引き続き待機命令が出ております」
「……分かった。フラン様には私から報告しておく。いつでも出撃できるように準備を怠るなと、他の者に伝えておけ」
「はっ!」
村に隣接する広場を陣取った軍用テントの中にはファベルとその部下の姿があった。リギサンで半数を超える味方を失った彼らは、軍本部へ事の次第を報告するためこの村まで引き上げていたのだ。森の中でも比較的遮蔽物がない村の中であれば、安全に通信機器を設営できる。
(顛末は統括部に報告済みだ。本来であれば任務を遂行できなくなった我々には速やかに帰還命令が下るはず……にもかかわらず、何故ここで待機する必要がある?)
部下が去り、静寂が訪れたテント内で椅子に腰掛けながら考えを巡らせるファベル。彼は帰還を命じられないことに妙な違和感を抱いていた。最大戦力であるフランが健在とはいえ、戦闘要員を半数以上失った部隊にやれることは少ない。王国を攻めるため国境付近に展開している前線に加わるにしても、装備と人員を補充しなければならないだろう。よって直ちに帝都へ戻り部隊を再編成する必要があったのだが、ここ数日に渡り軍部からは待機を命じられていた。
(いつ開戦するかも分からぬ状態で、四魔導の1人を遊ばせている余裕があるとは思えないが……)
兵器技師長でありながら軍の内情にも詳しいファベルでも軍首脳達の考えは理解できなかった。尤も、統括部を構成しているのは皇族であり、実務として戦を取り仕切る貴族や叩き上げの軍人は所属していない。実質的な軍の運営は全て補佐官が担当しているため一見上手く回っているようには見えるが、気まぐれな皇族達に振り回される事も多く、現場の者からすれば理不尽に思える指示も多かった。
(考えても埒が明かない。フラン様へのご報告を済ますか……)
黒い軍服と揃いのデザインになっている軍帽を深くかぶると、彼は垂れ幕を捲って外へ出た。周囲には円筒形に構築された白いテント群がいくつも並んでいる。その天幕には帝国軍の紋章である黒竜を模した印が刻まれており、頂点に掲げられた軍旗が物々しい雰囲気を漂わせていた。村内に点在する素朴な住居群とは大違いである。
(長閑な村だ。あまり長居すべきではないな)
水や食料の一部は村からの供出に頼らざるを得ないため、軍の存在が民に与える影響は少なからずあった。民のために存在している軍がその負担になっていることに負い目を感じつつ、ファベルは軍団長専用のテントへと向かう。他のよりも一際大きいそれには鮮やかな金と銀の刺繍が施され、威厳を感じさせるデザインで設計されていた。その入口に立ったファベルは入室の許可を得るべく声を掛ける。
「フラン様、本部からの報告をお伝えしにきました。入室しても宜しいでしょうか」
少し待ってみたが主から返事はない。「失礼します」と一声挙げてから、彼は中へ足を踏み入れた。ふわりと漂う甘酸っぱい匂いと共に視界に入ってきたのは、下着だけの姿でベッドに寝転ぶフランであった。艶めいた黒髪を扇状に広げて完全にリラックスしている様子はとても部下に見せられたものではない。
「……フラン様、そのような格好はおやめ頂くように何度も申し上げたはずです」
「なによぉ、アンタと小間使い以外入ることないんだし別にいいでしょ~?」
だらしなく寝そべった彼女は頬杖を付いたまま視線だけをファベルに移す。彼女用に用意された豪華な大型ベッドの上には大きなぬいぐるみや菓子を食べた後の木皿が散らばっており、その怠惰な生活っぷりが目に見えて分かった。
「それに今、フランは療養中なんだからさぁ~ 仕事は全部任せるって言ったんだし、報告だって要らないくらいなんだけどぉ?」
敵対者が放った強大な魔法により満身創痍であった彼女は、療養と称してテントに引きこもる日が続いている。しかし遺跡から発掘された希少な回復薬を使ったことによりその怪我は完全に癒えていた。恥ずかしげもなく晒されている、潤いを帯びた美しい褐色の肌が何よりの証拠だろう。それでもなお彼女が仕返しするなどと言い出さず大人しくしているのは、リギサンにおいて自信とプライドを圧し折られたからに他ならない。曇りの抜けきれない表情の少女を見て、しばらく戦闘は無理だろうとファベルは察した。
「……軍統括部からは引き続き待機せよとの通達がありましたが、部下にはいつでも出撃できるように指示しております。フラン様は静養に集中ください」
「あっそ。ならさっさと出て行って……あ、少し待ちなさいよぉ。なんて名前だったか忘れたけど、あの変わった髪色の女に、また焼き菓子を作ってくるように言っといて」
気怠そうに呟くとフランは背を向けるように体勢を変えた。10代前半の容姿に似合わない、妖艶なレースが付いた下着を見せつける上司の格好にファベルは溜息を付く。小言の1つでも言いたくなったが、グっと堪えてテントから出た。
(まったく、フラン様にも困ったものだ)
ここの所、彼女は村娘が差し入れた菓子ばかりを気に入って食べている。栄養の偏りが気になるが、一風変わった菓子達はどれも美味であり、帝都にある菓子店に肩を並べるほどだとファベル自身も認めていた。栄養価だけを重視した味気ない糧食に飽きた兵士達からも好評で、菓子を作って欲しいと調理長が軍の資材を提供するほどに人気である。軍人と言えど人間であり、息抜きが必要であることを理解しているファベルはその件について口を出すつもりはない。ただし、フランの自堕落っぷりに拍車が掛かかる結果となった事については頭を悩ませていた。
「村の者に礼をしなければな……」
幕営地を通り抜け、ファベルは村民が暮らす住居へと足を向ける。しかしそれはフランの使いっぱしりをするためではない。軍のために資材や人手を供与してくれた村民へ改めて感謝の意を伝えるためだ。リギサンからの撤退の最中、走り続けて疲労困憊した軍馬を休ませるために急遽立ち寄ったのだが、村人達は皆快く受け入れてくれた。見た限り暮らしぶりは豊かではなさそうだが、昨日も新鮮な獣肉を大量に献上してくれており、その恩は筆舌に尽くし難い。まずは村の指導者である老婆宅を尋ねようと、村の中を歩いていた時だった。
「おお、これはファベル殿。どうかされましたかな?」
質素な麻製のローブを被った女性に声を掛けられ、ファベルは立ち止まった。その両手は土で汚れており、背負った籠には痩せた野菜がいくつか入っている。老齢でありながら手ずから畑仕事をしている彼女こそ、この村の代表であった。軍帽を脱いで頭を傾けると、ファベルは謝儀の言葉を口にする。
「村の長よ、協力に感謝している。おかげで疲れた兵と馬を休ませることができた。ただ、我々は速やかに立ち去るつもりであったが、次の司令が入るまではここで待機するように命じられている。申し訳ないが、今しばらくはこの地に留まらせていただけないだろうか」
「何を仰るのですか。我々はデクシア帝国の領民……軍人殿に尽くすのは当たり前の事ですぞ。そんな事はお気になさらず、普段どおり過ごして下され」
「それはそうだが……」
ファベルの胸中には複雑な想いが渦巻いていた。軍が大きな力を持つ帝国では、あらゆる領民が軍のために尽くすことを命じられている。これは皇帝陛下名で下された勅令でもあり、反故にすることが許されない絶対の掟であった。しかし歴史を翻せばこの村が元々属していた国を滅ぼしたのは帝国である。彼らとて軍に対する反発心が無いとは言い切れないだろう。
「ところで、菓子を差し入れてくれた若い娘はいるだろうか。彼女の作る菓子は部下にも評判がよく、取り合いになっているほどだ。直接会って礼を言っておきたい」
「あの娘なら狩りに出掛けております。もうしばらくすれば森から帰ってくる頃かと」
「狩りだと……? あの華奢な少女が?」
作りたての焼き菓子を持ってテントを訪れた無口な少女を思い浮かべ、ファベルは疑問を抱いた表情で顎に手を当てた。まだ成人に達してもいなさそうな彼女が、その細腕で森の獣を狩る姿が想像できなかったからだ。
「昨日にお渡しした獣肉を獲ってきたのもあの娘です。しばらく前に村にやってきて私と共に生活しておるのですが、剣の腕は村一番で男共ですら敵いません。冬が来る前に森の獣を狩り尽くさないか、心配してしまうほどですじゃ、ほっほっほ」
微笑む老婆の言葉に対して、心の中で成程と納得するファベル。その少女は美しく輝く紫の長髪と、それに負けない整った容姿を持っており、ただの村娘とは思えない風貌だった。初めて見かけた時には、どこの貴族令嬢がやってきたのかと目を疑ったほどだ。だが元々村の人間ではないのであれば、その違和感も拭うことができる。
「それではその娘が帰ってくる頃に出直そう。邪魔をして済まなかったな」
「いえいえ、滅相もございません。それでは、また」
そう言って頭をさげると彼女は自宅へと戻っていった。それを見送り、ファベルもまた自らの幕営へと戻る。帰りすがら部下達の様子でも見ておくかと思っていた矢先、右目のモノクルを介して番兵からの緊急連絡が入った。リギサンから王国軍による追撃があるかもしれないと、念の為に村の周囲に部下を配して見張りをさせていたのだ。
「こちら南方の巡回班ですが、魔物の大軍が接近中であるのを発見しました! かなりの規模……我々だけでは抑えられません! 至急応援をお願いします!」
緊迫した声の向こうからは魔物の鳴き声と思しき音も聞こえており、そう遠くないうちに村まで到達する事を予感させる。帝国領内で魔物が出現することは珍しくないが、大量発生となれば話は別だ。何か恣意的な要因が絡んでいることは予測できたが、それをじっくりと考えている暇はなかった。
「分かった、急ぎ戦闘部隊を送る。非戦闘員を避難させるまで持ちこたえろ! 時間を稼げれば良い、無理はするな」
「了解! 応戦しながら徐々に後退します」
通信を終えたファベルは陣地で武器の手入れを行っていた部下を呼び集め、すぐに迎撃部隊を結成するように指示を出す。幸い出撃準備が完了していた彼らは、ものの数分で出発することができた。しかしそれだけで魔物の大軍を制圧できる確証はない。彼は調査員や村民を含む非戦闘員へ速やかに避難するよう指示を出したのであった。
――軍団長用テント内――
「あーもうっ! 何だったのアイツ~!」
ココノアとの一戦が頭から焼け付いて離れないフランは、うつ伏せのまま悔しそうに足をバタバタとベッドに叩きつけていた。得意とする炎の高位魔法を呆気なく破られ、見たこともない魔法で一蹴された事は今や彼女にとってトラウマになっている。最強の魔法使いを自負していた彼女に黒星を付けた相手が自分よりさらに幼いエルフであったことも手伝い、高飛車で高慢な性格に変化の兆しが訪れていた。
「フランより強い魔法使いがいるなんてぇ……」
生まれて初めて他者を認める言葉を口にするフラン。赤子の頃より大人顔負けの魔力を備えていた彼女は周囲から神に愛されし子と持て囃されて育っている。その後入学した帝国の魔法学院では教師を超える魔法技術を身に付け、誰も成し得なかった古代魔法の術式すら紐解いた事で、その名は魔法の天才として大陸外にも知られるものとなった。そんな称賛されてばかりの人生しか歩んでこなかった彼女は他人など取るに足らないと見下していたが、初めての敗北を喫したことで自分より優れた存在がいる事を知ったのである。
「んん゛っ~!!」
悔しさと情けなさが入り混じった感情を吐き出すように、フランはお気に入りのぬいぐるみに顔を埋めた。幼い頃、両親から貰ったイヌを模したこのぬいぐるみは今でも彼女の大切な宝物である。これがないと寝られないという理由で今回の作戦でも運搬兵に命じて丁重に運ばせていたのだ。高いプライドと歪んだ性格故に友人もできず孤独に生きてきた彼女にとって、物言わぬ彼は静かに想いを受け入れてくれる良き理解者であった。
(ねぇ、フランはどうすればいいの? 魔法で一番になれなかったら、意味なんてないのにぃ……)
挫折を味わったことで、フランの存在証明は大きく揺るがされる。今でこそ好き勝手に生きている彼女であるが、両親に甘えたい盛りの頃から厳しい魔法の教育を施されたため、鬱屈した幼少期を過ごしていた。普通の子供達と違い、彼女には物心ついた時から魔法使いとして生きる道しか選べなかったのだ。来る日も来る日も魔法の知識を詰め込まれる厳酷な日々を耐えることができたのは、両親に褒めてもらいたい、愛してもらいたい――そんな子供なら誰しもが持つ切なる願いである。しかし愛情に飢えた少女に与えられたのは、難解な魔法書ばかりであった。
確かにそれは亜人であるダークエルフが帝国で成り上がるために必要だった事ではある。しかし彼女の両親は愛情の注ぎ方を根本的に履き違えていたのだ。そうでなければ子供が自分の価値を魔法だけに見出すことも無かっただろう。
(母様、父様……)
真っ暗な瞼の裏に両親の姿が浮かんだ。フランの実力を認めた帝国軍から勧誘のの打診を受けた日、祝いとして初めてパウンドケーキを作ってもらった思い出が蘇る。菓子作りに不慣れな母が作ったそれは粗末な見栄えであったが、とても嬉しかった。
「美味しかったな……母様のお菓子。甘くて、柔らかくてぇ……」
おもむろに顔をあげると、フランはすぐ隣に置いてあった木皿を見つめる。それは村娘が作った菓子が乗せられていたものであるが、昔食べたパウンドケーキが乗っていた食器にどことなく似ていた。もしまだ父と母が生きていれば、四魔導にまで上り詰めた姿を見て再びケーキを作ってくれただろうかと彼女は淡い想いを馳せ、その瞳に涙を滲ませる。
「……そうよ、フランは敗けたけど地位まで失ったわけじゃない。帝国に必要な魔法使いで在り続けていれば、父様も母様も喜んでくれるはずなんだから……!」
何故軍に入ったのか、そして何のために魔法を極めようとしたのか――久しく忘れていた目的を思い出した彼女は、生きる意味と居場所を帝国に求めることで折れた心を立ち直らせようとしていた。しかしそれは自らの在り方を委ねる先を両親から組織へと挿げ替えただけに過ぎない。何を求め、何を為すために生きるのか……その答えを自分の内に見出さない限り、彼女はこの先も同じ挫折を味わうことになるだろう。
「そういえばあの女、パウンドケーキも作れるんじゃ……?」
ふと村娘に思い出の菓子を作らせようと思い立ち、フランはベッドから起き上がった。そして椅子の上に脱ぎ捨ててあった彼女専用のワンピース式軍服を身に付け始める。下着姿の上にマントを羽織っただけの格好で行っても構わないのだが、ファベルに見つかって小言を吐かれるのは癪だったので最低限の衣服だけは纏うことにしたのだ。
「これで文句は言わせないもんね~」
大きな姿見で自身の格好を確認したフランが意気揚々と外へ出て行こうとした瞬間であった。「フラン様!」という声と共に勢いよく入口の垂れ幕が開き、慌てた様子のファベルが駆け込んでくる。
「な、何よぉそんなに慌てて……入る時くらい合図しなさいよぉ?」
「緊急事態に付きご容赦を……今、この村が魔物の群れに囲まれつつあります。兵達が応戦していますが戦力差が大きく、ここも無事では済みません。村人と共に安全な場所に退避ください」
「はぁ~? たかだか魔物ごときに押されてるとか、ほんと情けない連中ね~ この辺りに出る魔物なんてザコばかりなんだから、さっさと仕留めればいいじゃない」
「相手はゴブリンとオーガからなる混成集団です。非常に統制がとれており、魔族の支配下にあると見て間違いないでしょう。軍本部には応援要請をしましたが却下され、我らは既に孤立状態……被害を最小にしつつ北方へ逃れる他ありません。フラン様、早くお逃げを……!」
フランを説得するファベルであったが、当の本人に逃げ出すつもりなど毛頭なかった。出口に立て掛けてあった金色の魔杖を手に取り、彼に向けて言い放つ。
「ふ~ん、ちょっと色々考えてムシャクシャしてたからちょうどいいわ。魔物だろうが魔族だろうが、全部まとめて焼き尽くして、フランが帝国に必要とされる魔法使いだってこと証明してあげる!」
その言葉と共に、フランは颯爽とテントから飛び出した。しかしその勢いとは裏腹に彼女の表情にいつもの余裕はなく、むしろ焦りのような色が浮かんでいた。
――半時間後――
圧倒的に劣勢であった戦況は、フラン1人の加勢でひっくり返った。圧倒的な体躯を武器に草木を踏み均して侵攻してきたオーガの群れであったが、炎魔法を避けられないその鈍重さが命取りとなり全て消し炭と化している。また木々の影から毒矢や毒針で襲いかかってくる厄介なゴブリン達も、森を駆け抜けた焔風に撫でられただけで倒れていった。森を燃やさずに敵だけを殲滅するという戦法は、針に穴を通すような魔力制御技術を持つフランにしかできない芸当だろう。
「フラン様、流石です。まさかあの状況をお独りで覆すとは……」
「当たり前でしょ~ フランを誰だと思ってるのよぉ? 魔物なんかに負けるはずがないんだから」
部下達と共に幕営地まで戻ってきたファベルは心の底からフランを褒め称えた。リギサンで失った自信を取り戻すかのような活躍を見せる彼女に、安堵したような表情を見せる。自軍には少なくない怪我人が出てしまっているが村に損害は出ておらず、戦力差を考えれば奇跡的な勝利と言えるだろう。
「で、黒幕はどこなの? これだけの魔物を操るなら、それなりに力をもった魔族がきてるはずだけど?」
「現在兵に調査させていますが、まだ見つかっておりません。しかし300体を超える魔物の群れを動かせるとなると、おそらくは――」
ファベルが見解を述べようとした直後、周囲が急に薄暗くなった。兵士や村人達は暗雲が立ち込めた空を見上げ、雨でも振ってくるのかと首を傾げる。だが、天から降り注いだのは無数の黒い炎塊だった。それに触れた者はたちまち全身が呪いの炎に蝕まれ、藻掻き苦しみながら地面を転げ回る。
「がぁぁぁ!? 何だこれ、熱い! 熱いぃぃ!!」
「助けてぇぇ! 消えない、消えないのよ! この炎!!」
村内の至るところから悲鳴が響き渡った。対象を選ぶことなく無差別に襲いかかる炎の被害は瞬く間に広がり続ける。炎上してしまった隣人を助けようとした者へ黒い炎が燃え移り、共に犠牲になってしまうという酷い連鎖も多発し、まさに地獄の様相を呈していた。
「フラン様、これは一体……!?」
「フランだって知らないわよぉ! とにかくアンタは生き残ってる村人を連れて北の湖へ行きなさい! 炎の魔法は基本的に水に触れると効果が鈍るから、アンタ達みたいなグズでも逃げ切れるはずなの!」
魔道具による防御結界を展開したファベルと、防御魔法を自身に付与したフランは黒炎から逃れることが出来たが、他の兵士はほぼ全滅である。呻きながら地面を這う彼らを見て、ファベルはこれ以上の継戦は不可能だと判断した。
「フラン様、撤退を! この状況下で魔族と戦うのは無謀です!」
「嫌よ! フランが帝国最強の魔法使いであることは揺るがない……揺るがせるわけにはいかないのっ! ここで逃げたら、もう誰もフランを必要としてくれなくなっちゃうんだから……!」
フランは思い詰めた表情のまま、頑なにその場を動こうとしない。ファベルはリギサンでの敗退から彼女の様子がおかしい事には気付いていたが、まさか自身の存在意義を失いかけているほどに深刻な精神状態だったとは思っていなかった。ただ、若くして四魔導となり成果を求められ続ける重圧は、彼女の小さな背中には重たすぎたのだろうと彼は心の中で察する。
「私もご一緒させてください。フラン様の足元にも及びませんが、囮くらいにはなれるでしょう」
「はぁぁ!? 何言ってんのよぉ! アンタみたいなクソ弱いザコがいても、戦力の足しにならないんだから!」
サーベルを引き抜いたファベルに対して、フランは理解できないとばかりに吐き捨てた。しかし言葉に反して内心では頼もしく思っている。両親を失ってから横暴さに磨きがかかり、軍で孤立していた彼女にいつも寄り添ってくれたのは彼くらいだったからだ。時には小言を言いつつも優しく接してくれるその姿に、亡き父の面影を見ていた面もあっただろう。
「ふんっ、馬鹿はどうしようもないわね。ま、せいぜい死なないように足掻けばいいんじゃない……って、何よぉその顔!」
「フフッ……いえ、申し訳ありません。村人を連れて逃げろ、などという台詞をフラン様から聞けるとは思ってはなかったもので」
絶望的な状況であるにも関わらず、ファベルは穏やかな笑みを浮かべていた。自分本位に生きてきたフランが、自国民とはいえ村人を助けるように指示したことが嬉しかったのである。それは帝国への帰属を拠り所にしたが故の意識変化だったのかもしれないが、幼いまま取り残されていた彼女の心が成長し始めた証でもあった。
「死なれたら困るのよっ! 母様が作ってくれたのと同じ菓子を、村の連中に作ってもらわないといけないんだからぁ……」
「それではあの下賤な魔族を倒してから、作っていただく事にしましょう」
ファベルがサーベルを向けた先――村の入口にはオーガ以上に逞しい巨躯を持つ魔族が佇んでいた。黒い獣毛に覆われた体から禍々しい魔力を放ちながら、彼らの方へと歩み寄ってくる。
「久しいな、フラン……いや我らにとっては刻の経過など些細な事か」
巨大な山羊の頭が口を開いた。人間の頭蓋を砕くために存在する巨獣の如き牙と、脳髄を啜るのに適した細く伸びた青い舌を見せながら、不気味な声を響かせる。
「黒呪炎の災禍を放っただけでこの有様……ヒトという生き物はあまりに弱すぎる。お前もそうは思わないか?」
「バフォメット……アンタ、こんな舐めた真似して許されると思ってんのぉ!?」
その魔族をフランは知っていた。デクシア帝国の歴代皇帝と繋がりを持ち、四魔導のモルズとも契約を結んでいたため、会合の場で顔を合わせた事があったのだ。だがその存在は軍内でも極秘裏に扱われていた。ヒト種の天敵である魔族と手を結んだ事が他国に知られれば、世界全ての国を相手にした大戦に発展しかねないからである。
「その名……確かモルズ様と契約していた魔族、ですか。何故それが我々を襲うのか腑に落ちませんが、降りかかる火の粉は振り払うまで!」
「帝国軍を裏切ったんだから、ここで討伐されても文句はないわよねぇ? 覚悟なさい、フランの炎で骨すら残さず燃やし尽くしてあげる!」
サーベルと構えたファベルの隣でフランは杖を構えた。魔道具でもある黄金の杖は一度破損しているが、ファベルによって応急修理されており、魔力を増強させる術具としては十分な性能である。じわじわと距離を詰めてくる対敵が炎魔法の射程に入ったタイミングで、フランは先制攻撃を仕掛けた。
「火焔の爆風!」
詠唱直後、天を穿つような灼熱の壁が立ち上り巨大な体躯を包み込む。人や獣であれば体内の水分が瞬時に蒸発してしまうほどの超高温の炎魔法が炸裂し、勝負は決したと思われた。だがバフォメットは苦しむどころか炎の中を悠然と歩く。その巨大な蹄が大地を踏みしめるたび、魔族とフラン達の距離は着実に縮まっていった。
「なんで効かないのよぉ!?」
「フラン様はお下がりください、私が接近戦を仕掛けます!」
余裕の笑みを浮かべながら炎壁から出てきた魔族に対して、今度はファベルが攻撃を繰り出した。軍靴に仕込まれた推進加速装置で一気に距離を詰めて、湾曲したサーベルの鋭い刃で胴を切り払う。だが邪魔な虫を払うかの如く振り出された黒い左腕によって、武器ごと彼の体は軽々と弾き飛ばされた。
「クッ……なんて力だ! しかしッ……!」
空中で体勢を直したファベルは、着地した瞬間に地面を蹴りつけて次の攻撃を繰り出す。今度は魔力を剣身に注ぎ込み、鋭いサーベル先端をその分厚い胸板目掛けて突き出した。魔道具でもあるこのサーベルには魔力により刃が瞬時に伸びるというギミックが組み込まれており、加速エネルギーを上乗せすることで刺突の威力を倍増させることが可能だ。だがその必殺の一撃をもってしても、バフォメットに傷を与えることはできなかった。
「愚かな……我にそのような小細工が通用すると思っているのか?」
「受け止めただと……!?」
バフォメットは手の平でサーベルを止めただけではなく、魔力を圧縮した黒球を放ちファベルを吹き飛ばした。凄まじいエネルギーをぶつけられた衝撃で彼の体は背後にあったテントへと突っ込み、大きな土煙をあげる。軍服に内蔵された防御機構が働いたが、それでも内臓と骨へのダメージは酷く、彼の口からはボトボトと赤黒い血が吐き出された。
「がはっ……!? これが……上級魔族か……!」
「ほう……まだ息があるとはな。人間の割にしぶといが、我を満たす魔力を持ち得ぬのであれば用は無い。ここで死を迎えるがいい」
バフォメットが手の平から再び黒い魔力球を生み出す。そしてそれを地面に横たわるファベルへと向けた瞬間だった。
「させないんだからぁっ!! 火炎連槍ッ!」
ファベルを庇うようにしてフランがバフォメットの前に飛び出す。そして杖の先端から炎の槍を何本も射出した。魔力によって燃え盛った槍は全て命中したが、そのいずれもが吸収されるようにして黒い巨躯へと吸い込まれていく。
「良いぞ……上質な魔力だ。それでこそ我が糧とするに相応しい」
「触れただけで魔力へ分解してるっていうの……!?」
「お前の魔法は全て知り尽くしている。魔力へ逆変換するなど造作もない」
垂直方向に伸びた四角い瞳孔をフランへ向け、バフォメットは彼女へと歩み寄っていく。魔法が効かないという絶望感と恐怖で足がすくんだフランは、その場から1歩も動けなかった。巨大な影が少女の頭上を覆い、その身体へと巨大な爪を備えた5本の指が絡みつく。
「フラン様っ……!」
激痛に耐えながら手を伸ばすファベルであったが、その指先がフランに届くことはなかった。鷲掴みにされた華奢な身体は地面から離れ、山羊頭のすぐ近くまで持ち上げられていたのだ。手足をジタバタさせて逃れようとするが、生物とは思えぬほどに冷たい腕はびくともしない。
「は、離しなさいよぉっ!」
「フハハハ、ヒトの身でここまでの魔力を得るとはな……手間を掛けた甲斐があったというものだ。モルズは魔力を失っていたが、お前なら腹を満たすのに十分な魔力を蓄えている。魔物化させても戦果を挙げられなかった奴と違い、出来の良い仔だ」
「どういう意味……? モルズを殺ったのはアンタって事!?」
フランの言葉にバフォメットはニヤリを口の端を吊り上げる。モルズはトルンデイン襲撃戦で戦死したと彼女達は聞かされていた。だがバフォメットの言葉が本当であれば軍統括部の発表とは大きく異なる。
「哀れなお前への手向けとして、この国の真実を教えてやろう。我ら魔族は古き頃より貴様らの国と盟約を結んでいた。魔物を操る力を貸し与える見返りとして、最優たる魔力を持つ者を生贄として差し出す……その約定のおかげで貴様らの国は繁栄しているのだ」
「……そんな事、知ってるわよぉ。だから支配した国から強い魔力の持ち主を見繕って、アンタ達に引き渡してるじゃない!」
フランもその話は聞いた覚えがある。帝国は攻め落とした国から徴兵という名目で魔力を持つ人間を大量に動員していた。協力関係にある魔族達へ生贄として捧げるための施策ではあったが、それが人道から外れた行いであることは言うまでもない。しかし資源に乏しい大陸の東端に追いやられ、滅亡寸前であった旧デクシア王国が生き残るためには、血に塗れた覇道であっても選ぶしか無かったのだ。魔族との戦いで疲弊するくらいであれば、代償には目を瞑り共存共栄の道を探す――初代皇帝が苦悩の末に辿り着いたその答えが帝国をここまで大きくしたのは事実である。
だがその一方で、それは連綿と続く悲劇の始まりでもあった。魔族から要求される贄の数は増えていき、それに応えるため他国を侵略しなければならないという負の連環に陥ったのだ。このままではいずれ自国すらも魔族に滅ぼされかねないと懸念した歴代皇帝達は、強欲な魔族達に依存する関係から脱却する事を目的に、古代遺跡の遺物を兵器転用し始めた。フラン達がリギサンを訪れる事になったのもこの方針によるものだったが、帝国の暗部に関する深層は皇族のみが知り得る内容であり、その中にはフランでさえ知らない秘密が隠されている。
「フハハハ! 本当に何も気付いていないのだな……実に滑稽だ。お前が今まで贄だと思っていたものは全て、魔物を増やし育てるために用意させたものに過ぎない。我らに対する献上品は、お前自身なのだ、フランよ」
「ど、どういう事よ……フランが贄って!?」
「選ばれた者達は悦に入っていたようだが、四魔導というのは贄の選定を行うべく用意された枠に過ぎない。高い魔力を持つ者、魔法の素養がある者……そういった贄候補を互いに競わせ、より優れた魔力の獲得に成功した者を我らへ献上するためのな」
「う、うそ……嘘よ、そんなの! 認めないんだからぁ!」
取り乱したようにバフォメットの言葉を否定するフラン。だが過去に四魔導を歴任していた魔導師達は全て消息を絶っている事、そしてそのいずれもが死体すら見つからずに葬られているのを彼女は知っていた。また魔力に優れていても有力貴族出身者が四魔導になることは無く、平民や身寄りのない子供ばかりから選ばれていたことも、その事実を裏打ちしている。否定しようとすればする程にバフォメットの言うことが真実味を帯びてきてしまい窮するフランであったが、四魔導の叙任式で皇帝から賜った言葉を思い出し、それに縋ろうとした。
「こ、皇帝陛下が言ってたの! フランは帝国の将来に貢献する、とても大切な存在だって……!!」
「嘘ではないだろう。こうして立派な贄になったのだ、帝国に貢献できるではないか。あの世でお前の両親もさぞかし喜んでいるのではないか?」
「えっ……父様と母様を知ってるの?」
「よく知っているぞ、その最期もな。知りたいのならば教えてやろう――」
気味の悪い笑いを浮かべると、バフォメットはフランの両親について語った。強い魔力因子を持つ子を授かった彼らを皇族達が唆して英才教育を施させたこと、自ら帝国軍に入るように仕向けたこと……そしてフランが軍から離れることが無いように、彼女の拠り所であった両親を殺したという真相を。
つまるところ、フラン=サエルムという少女は生贄にされるためだけに今まで生かされてきたのである。本人は自分が最強の魔法使いである事を誇りにして生きてきたが、それすらも周囲の者達によって仕込まれた一種のマインドコントロールであった。
「そんな……それじゃ、父様と母様はフランのせいで死んだの……?」
放心したように固まったフランの頬を一筋の涙が伝う。生まれた時から国に裏切られており、今までの人生が虚無であったことを突き付けられた彼女は、心の拠り所をすべて失ってしまった。
「哀れな人の子よ……嘆く必要はない。お前の肉体と魂は我のものとなり、永劫を生きるのだ。そして贄の対価として、この国はこれから始まる戦争で圧倒的な勝利を収めるだろう」
バフォメットは大きく口を開けると、そのグロテスクな牙で少女の頭部を捉えた。その喉奥には深淵を思わせる闇が広がっており、飲み込まれれば二度とこの世に戻れない予感を感じさせる。だがフランはもう抵抗する気力さえ失っていたのだ。絶望感に苛まれて力なく視線を落とした彼女は最後に「父様、母様……」と一言だけ呟き、瞼を閉じた。
「フラン様を離せぇぇぇッ!!」
突如、フランを呼び覚ますかのような怒声が響き渡る。驚いた彼女が振り返ると、そこには身に付けていた全魔道具をオーバードライブさせ、その爆発的な推進力をもってバフォメットに斬りかかるファベルの姿があった。重症を負ったその肉体が衝撃に耐えられる保障はない。それでも彼は動かずには居られなかった。過酷な運命に翻弄された少女の苦しみを断ち切るべく、命を燃やして刃を振るう。
――ドォォォン!!――
人間離れした動きから放たれる渾身の一撃は、大気を揺るがせるほどの衝撃を生じた。しかしそれだけの力を乗せても、フランを掴んでいた腕を切断するには至らない。表面に僅かな切傷を刻んだ程度だ。ファベルは悔しそうに歯を食いしばりながらその場に崩れ落ちた。限界を超えた反動によって全身から鮮血が吹き出し、血溜まりが出来る。
「人間如きが我が身に傷をつけるとは大したものだ。だがお前はもう剣を振るうことすらできまい」
「ハァ……ハァ……これでも、届かないのか……!」
息も絶え絶えにバフォメットを睨みつけるファベル。その右目に装着されたモノクルには全魔道具故障の表示が出ており、持ち主に攻撃手段が全て尽きたことを知らせていた。
「ククク……我ら魔族より強きヒトなどこの世には存在しない。お前達は我が主によって支配され、畜生の如き惨めな生を全うするしかないのだぞ」
「主……だと……!?」
ファベルはバフォメットの言葉に耳を疑う。元来、魔族は群れを成さないものであり、主従関係とは無縁だったからだ。しかし過去の歴史において一度だけ魔族達が結集し、世界を破滅寸前にまで追い込んだ事がある。その当時、魔族達の頂点に立っていた存在を"魔王"と人々は呼んでいた。
「まさか……魔王がいるとでも言うのか……!」
ファベルの言葉にバフォメットは肯定も否定もしなかった。だが幾多の魔物を使役できるほどの上級魔族が主と仰ぐ存在がいるのであれば、魔王の存在を疑う余地はない。そして魔王が生まれたという事実は、世界が終焉へ向かって動き始めたということでもあった。巨大なゴーレムを建造できるほどの優れた技術力で栄華を極めたドワーフ族や、高度な魔術で繁栄を誇った古代エルフ族ですら、僅かな生き残りを残して地上から消え去ったのは、魔王による侵攻が原因とされていたのだ。
「いずれこの地は我が主が支配される。その時、力なきヒト共は真の絶望というものを知ることになるだろう」
そう言うと、バフォメットは勝ち誇った表情で口を大きく開いた。伸ばした舌先をフランの頬にあてがい、絶望の味を味わうようにして柔らかな肌を舐め取る。生理的な嫌悪感からか一度はビクンと体を震わせた彼女であったが、それ以上抗おうとはしなかった。全てを諦めた表情のまま、迫る牙を虚ろな瞳で見つめる。
「力なきヒト……か……果たして、本当にそうだと思うか……?」
ファベルは挑発的な笑みをバフォメットに向けた。ベトベトとした血が喉に絡みつく上、肺に空気を入れれば折れた骨が深く刺さって激痛を生む。もはや発声することすら辛い状況だったが、少しでも意識を自分の方へ逸らせようとしたのだ。僅かに時間を稼いだ所でそれに意味があるとは彼自身も思ってはいなかったが、フランに纏わる真実を知った今、彼女をこのまま死なせる事など出来ない。
「確かに居るのだ……お前達をも凌駕するヒトが……この世界には、な……!」
バフォメットからすれば、それは死にゆく人間が悔し紛れに吐き捨てた言葉にしか聞こえなかっただろう。だがファベルの瞳には確信に近い光が宿っていた。それが妙に引っかかり、バフォメットは手を止める。
「その眼……ただの妄言ではないようだが、どこにそんな者がいる? この大陸にはフランより高い魔力を持った人間すら居ないのだぞ」
「フッ……お前が無知なだけだ……王国には、恐るべき怪物達がいたぞ……!」
彼は知っていた。帝国軍の全戦力でも勝てるビジョンが見えない、比類なき力を持つ者達がエリクシア王国に存在している事を。
――フランすら足元に及ばない魔力で大地を穿ったエルフの少女――
――植物を操る稀有な術を使い、自分を打ち破った人間族の女性――
――攻城兵器である巨大ゴーレムを奈落へ蹴り落とした幼獣の巨人――
彼女達については軍統括部も承知済みだ。皇族達は半信半疑であったが、フランが退けられたという事実もあり、王国への侵攻に踏み切れなかったのである。それはバフォメットにとっても想定外の動きであったため、ファベルの言葉をただの妄言だと片付けられなかった。
「……本当に居るというのか? 我らに匹敵し得るヒトが」
「奴らと戦えばいい……真の絶望とやらを味わうのは……お前達の方だろうがな」
「我らが絶望するだと……? 戯言にしても不愉快だ。その小賢しい希望諸共、我が直々に死を与えてやろう。だが、直ぐ楽になれるなどとは思うなよ」
苛立ちの籠もった声色と共に、バフォメットは筋肉の詰まった太い右脚を地面から離した。黒曜の如き光沢を持つ蹄がファベルの体を地面に押さえ付け、肉と骨が潰れていく酷い音が響き渡る。だが身動き取れない彼は踏まれた虫ケラのように耐えることしか出来なかった。
(なんで逃げなかったのよぉ……? フランのことなんて放っておけば良かったのに……!)
自分を見捨てなかった部下が無残に圧死する様を見つめながら、フランは唇を噛み締めた。緋色の瞳に映るファベルの魔力はどんどんと弱っていき、とても見ていられたものではない。
(ヤダ……こんなのヤダよぉ……!! 誰でもいいから、助けてえっ!!)
無力な少女が心の底から救いを求めた瞬間であった。その願いに応えるかの如く、一陣の風と共に現れた人影がバフォメットの腿を音もなく斬り飛ばした。そして返す刃で今度はフランを拘束していた腕も断ったのである。
――ドゴォォッ!――
離れた手足が地面に落ちるよりも早く、続けてバフォメットの腹部へ衝撃波を伴う強烈な蹴りが打ち込まれる。信じられないことに3m近くあった巨体は森の方へと大きく飛ばされ、間一髪のところでファベルは一命を取り留めた。
「ん……大丈夫?」
凛とした声に呼ばれフランとファベルが見上げた先にいたのは、紫色の髪を後頭部で一束に結わえた少女であった。狩人が使う革製の胸当てとロングスカートという装いに、変哲のない長剣を1本もっただけの姿は戦士にすら見えなかったが、目にも留まらぬ連撃でバフォメットに重症を負わせたのは間違いなく彼女である。
「ア、アンタ……菓子作りをしてた村娘、よね? 確か名前は……」
手製と思しき無骨な腰鞘に剣を収める少女に、フランは恐る恐る声を掛けた。テントに菓子を運びに来ていた村娘が彼女だった事に気付いたからだ。あまりに美味しかったのでその時名前を尋ねていたものの、すっかり忘れてしまっていたので口から上手く出てこない。そんな様子を見かねたのか、少女の方から口を開いた。
「リセでいいよ。でもあたしのことより、そっちの軍服の人をどうにかしてあげたほうがいいんじゃない」
「あ……ファベル! ちょっとぉ、大丈夫それ!?」
「ご心配をおかけして……申し訳有りません。この通り……なんとか、生きております」
血まみれの口元で笑みを作るファベルに、フランは大粒の涙を溜めながら抱きつく。彼の状態はかなり深刻なものであったが、効果の高い回復薬を飲んで安静にすれば命だけは助かるレベルであった。以前のような切れのある動きは今度できなくなる可能性は高いが、死ななかっただけ御の字だろう。
「これ、回復薬……!」
ファベルの腰ベルトに小瓶がついている事に気づいたフランは急いでそれを取り外し、彼の口元へ運ぶ。飲ませ方が強引であったため少し咽てはいたが、澄んだ緑色の液体の殆どが唇を伝って体内へ流れていった。回復薬には痛み止めの効果もあるため、みるみるうちに彼の表情は穏やかになる。
「その様子なら大丈夫そうね。ところで、この雲のせいで村が酷い事になってるみたいだけど、あれの消し方は知ってる?」
上空を覆う黒い雲を見上げてリセは呟いた。いつしか黒炎の雨は止んでいたが、いつまた降り始めるとも限らない。魔族の使う魔法はその特殊性故に文献などには載っておらず、フランにも心当たりはなかった。しかし彼女は初めて見る術式であっても、魔眼で視ることでその構造を解き明かすことが可能だ。
「あれは……術者の魔力を吸い続けて滞留する系統の闇魔法ね。術式の核になってるバフォメットが倒れれば消えるとは思うけどぉ……」
「ん……わかった。さっきのアレを仕留めてくればいいのね」
「待って! 魔族は普通の生き物と違って、四肢の欠損ですら再生することができるの。そりゃあ脚を切断すれば一時的に動きを鈍くできたりはするだろうけど、完全に倒すなら何千回と斬って再生できないくらいに細切れにしないと無理よぉ!」
そんな無謀なことは止せと言わんばかりにフランはリセに詰め寄る。魔力を喰らうという性質だけでみれば魔物と魔族は似ているが、その特性は大きく違っていたからだ。ゴブリンやオーガといった魔物は生物としての枠に収まっており肉体の損傷だけで死に至るが、魔族は超再生能力を備えているために肉体が残っていれば復活することができる。それはバフォメットも同様であり、再生までの時間稼ぎは出来たとしても完全に滅ぼす事は極めて難しかった。
「……フラン様、バフォメットが戻ってくるまでに生き残った者をまとめ、この場から撤退ください。あの傷であれば、もうしばらくは猶予があるはず……殿は私におまかせを」
薬により容態が改善したことで、ファベルは落ち着いて喋ることができるまでには回復していた。だが立つことは出来ず、上半身を起こすだけで精一杯だ。それでも彼はフランを生かすべく、その身を盾にしようとしている。
「何言ってるの……そんな体で、なんとかできるだけないでしょぉ……?」
傷だらけになったファベルの体を見てフランは眉尻を下げた。自分を守るため限界を超えて肉体を酷使した彼に申し訳ない気持ちが溢れてくる。傲慢不遜の代名詞のような彼女だったが、ここ数日でその心情には大きな変化が見られていた。
「別に逃げる必要なんてないと思うけど。何千回か斬ればいいだけなら、特に問題ないし」
「リセ……と言ったか。お前はバフォメットを倒せるというのか……?」
「うん、任せて」
迷いのない顔で答えてみせたリセに対して、ファベルは望みを託すことにした。もし本当に彼女がバフォメットを倒せるのであれば、黒呪炎の災禍によって降り注いだ黒炎に蝕まれた者達も助かる可能性が高い。通常の炎と違って、魔法で作られた呪炎は術式が解除されれば消え去るからである。人を遥かに超えた少女達の存在を知っている彼は、リセもそうである可能性に賭けた。
「なら、あの悪魔を葬ってくれないか……頼む、この通りだ!」
「別に。頼まれなくてもやるつもりだったけど」
頭を下げるファベルに素っ気なく返すと、彼女は体格に比べるとやや不釣り合いな大きさの剣鞘に手を当てながら、森の方へ向けて踏み出す。だがその歩みを威圧するかのように、森の奥から凄まじい魔力が放れたのであった。
「貴様、只のヒトではないな? 微かだが、人外の魔力を感じる……何者だ?」
地獄の底から轟くような低い声と共に、木々の間から黒いオーラを纏ったバフォメットが出てきた。切断されたはずの手足は完全に再生しており、その肉体にはフランでさえ気圧されるほどの強大な魔力が満ち溢れている。
「見たら分かるでしょ。通りすがりの村人だよ」
「我を傷つける程の力を持ちながら、只人を名乗るか。面白い……その正体、この力を以って見極めてやろう」
醜悪な眼でリセの姿を捉えたバフォメットは、バチバチと不気味な音を響かせながら両手に暗黒の球体を生み出した。凝縮された魔力によって突風が巻き起こり、地面にアンカーで固定されていた筈のテントですら吹き飛ばしていく。
「フハハハハ! 見よ、我が魔力の胎動! これに触れれば肉片すら残らんぞ!」
魔族特有の黒いオーラが地面を割り、轟音とともに土や砂を巻き上げた。バフォメットの右腕と左腕に1つずつ宿した魔力球はひたすら膨張を続けており、片方だけでもこの村を灰燼と化すことも出来るほどのエネルギーが凝縮されている。上級魔族が持つ魔力の底が全く見えず、フランとファベルは息を呑むことしかできなかったが、リセは臆すること無く紺碧の瞳で黒い悪魔を見据えていた。
「とりあえず千回ほど斬るから、覚悟して」
彼女は腰を低く落とすと、前傾姿勢となり脚に力を込めた。そしてNeCO最強の物理攻撃スキルの名と共に、恩人から手渡されたブロードソードを鞘から振り抜く。
「――無限の剣閃」
その刹那、リセの姿がバフォメットの目前へと移動した。大地を巻き取って縮めたかのような踏み込みは電光石火と呼ぶのも生温い、神速の妙技である。そこから繰り出された縦横無尽の剣撃もまた疾く、バフォメットが彼女の動きに気付いた頃には、既に幾多の剣閃がその身を切り刻んだ後だった。100回、200回、300回……繰り出される無数の斬撃は銀色の閃光となり、黒い巨躯を飲み込んでいく。
「馬鹿……な……!?」
再生が追いつかず、肉体を維持できなくなったバフォメットは狼狽えた。すぐさまここを離れなければと直感したが、絶え間ない剣閃の嵐によって大地から浮かされた巨体に逃げる術などない。ならば反撃に転じるしかないのだが、それも不可能だ。何故なら四肢は既に切り細裂かれており、生み出していたはずの黒球も塵のごとく消えていたからである。
「認めん、認めんぞォォォォ!!」
最後に残った山羊頭から怨嗟の言葉を吐き出しながら角の先端に至るまで細切れにされ、バフォメットは黒い霧となって空へ消えていった。いくら再生力が高くとも、肉体の一部すら残さない程に破壊し尽くされてしまえば消滅から抗う術はない。この世界において上級魔族は軍隊を総動員してようやく討伐できるかどうかと言われているが、それをリセはたった1人で消滅させたのだ。
「まさか……本当に魔族を斬り伏せてしまうとはな」
明るい陽が降り注ぎ始めた空を見上げ、ファベルは口元を緩ませた。頭上を覆っていた暗雲はバフォメットが消えたと同時に消失しており、澄んだ青色が広がっている。
「空ってこんなに綺麗だったんだ……」
その隣でフランもまた空の青さに見惚れていた。希望に満ちた太陽の光は彼女の心に巣食っていた闇を払い、生きる意味を失っていた器を温かく満たしていく。生まれた時から仕組まれていた人柱として因果から解放された――それを実感した途端、自然と涙が溢れてくるのを堪えることができず、黒髪の少女は見た目相応の子供のようにポロポロと涙をこぼした。
「うぅ……父様、母様ぁぁ!!」
「フラン様……」
ファベルはそれ以上何も言わず、ただそっとフランを優しく抱きしめる。彼女もまた父親に甘えるようにしてその胸に顔を埋めていた。周囲の者を辟易とさせた高慢さと悪辣な態度は、誰にも甘えることができない寂しさの裏返しでもあったのだろう。
「俺達は助かったのか……?」
「炎が全部消えた! 助かったんだよ!」
一方、呪いの炎から解放された事で村で歓喜の声が村の至る所であがっていた。リセはその様子を満足そうに眺めながらファベル達のところへと戻ってくる。
「ん……これで一件落着ってやつだね」
「リセ、あの剣技は一体何なのだ……? 魔道具や魔法の類とも思えんが」
驚きを交えたようなファベルの質問に「斬っただけだけど」と無愛想に答えるリセ。確かにその言葉の通り、彼女は斬撃を叩き込んでいただけに過ぎない。ジリオンブレイドはそれ単体では超高威力の斬り払いでしかないからだ。だが、その真価はスキル連携機能を活用したジリオン・ループと呼ばれる超連撃にある。ジリオンブレイドを連携し続ける事で無限に放つことができるため、使用者の反応速度と集中力次第で無数の剣閃を瞬時に叩き込む事が可能であった。極まった筋力-素早さ型である彼女であれば、その攻撃速度は神の領域にすら到達すると言えよう。
「さてと……なんであんなのがこの村にやってきたのか、話を聞かせてもらうよ」
疲れた様子も見せずに剣を鞘に収めると、リセはフランとファベルの方を向いて言葉を続けた。彼女は狩りから帰ってきた時に、世話になっている村が襲われているのを見て参戦したに過ぎない。それまでの経緯は全くと言っていい程に知らなかった。
「そうだな……どこから話すべきか……」
考えを整理するように額に手を当てたファベルを見て、フランは驚いた顔をした。堅物の軍人である彼が部外者に軍の機密事項を素直に話すとは思っていなかったからだ。
「全部話すつもりなの……?」
「フラン様……我らはもう軍属ではありません。軍統括部がバフォメットにこの村を襲わせた時点で、我らは帝国から切り捨てられたも同然なのですから」
不自然な待機命令とバフォメットの襲来……ファベルの中でそれらの事象は1本の線で繋がっていた。古代兵器の奪取に失敗し、多数の部下を失った挙げ句、極秘裏に行っていた任務を王国側に露見してしまったのだから、その責任をフランに取らせろという声が統括部で出ていたことは想像に難しくない。そして王国との戦に勝つためにはバフォメットの力を借りなければならなかった。故に帝国は魔族との契約を果たすため、バフォメットにフランを贄として捧げることで噴出した問題を一気に解決しようとしたのではないか――それが彼の出した結論である。
「それに軍部と関わりの深いバフォメットが倒れた今、帝都に戻っても我々は逆賊として処刑されるだけでしょう。生き延びるためにはこの国から出なければなりません」
「そ、そんなのダメなんだからぁ! だってファベルには家族がいるでしょ、帝都に……」
フランの言葉にファベルは首を横に振る。
「今はフラン様をお守りしたいと思います。貴女は私が仕えた帝国のせいで人生を狂わされた被害者でもあるのですから」
「でも、フランは……」
黒い前髪で隠すようにしてフランは瞳を伏せた。自身を想ってくれる事自体は嬉しく感じる彼女であったが、これまでとってきた態度や振る舞いを顧みれば、そのように言ってもらえる資格は無いと感じていたからだ。挫折を味わい自分が特別な存在ではない事を知ったことで、他者に対する考え方が変わったとはいえ、その手で他人を虐げてきた事実は消えはしない。それにファベルには自分勝手な行動で迷惑ばかりをかけてきた。つい先日も、民間人の村を焼き払う非道を彼に無理矢理実行させたのはフランである。今になって重苦しい罪悪感に苛まれた彼女は、素直にその厚意を受け取ることが出来なかった。
「なんだか色々と大変みたいね。詳しい話はまた落ち着いてから聞かせてくれればいいよ、村もこんな状況だし」
それまで黙っていたリセがおもむろに口を開いた。言葉をつまらせたフランの様子から、何か深い事情があるのだろうと察した彼女は彼らに背を向けて村へ戻ろうとする。
「待ってくれ。いつまた敵が襲ってくるかは分からない……この場で我らが知る情報だけでも伝えておこう。それに、お前に関係している事もあるかもしれないのでな――」
リセを呼び止めたファベルは、続けて自分達がどういった経緯でこの村にやってきたのかを説明した。古代遺跡の調査を行っていた理由にまで遡り、遺跡で見つけた巨大ゴーレムの話、そして転送装置を使うためにリギサンの村を焼いた際、そこにいた少女達によって返り討ちにされた事、さらには自身が知る帝国の暗部やバフォメットがフランに告げた真実も全て話したのである。軍と無関係である一般人にここまで喋る必要もないとは思いつつも、ファベルにはどうしても確認しておきたい事があった。
「村を焼き討ちにしたのはどうかと思うけど……その山には派手な魔法を使うエルフに植物を操る金髪の人間、それに桃色の髪をした巨大な獣人がいたわけね」
「……その者達に心当たりがあるのか?」
予想通り例の3人に反応を示したリセを見てファベルの疑念は確信に変わる。魔族を容易く屠るリセの姿をリギサンで見た異常な強さを誇る少女達と重ねていた彼は、彼女達の間に何か浅からぬ関係があるのではないかと考えていたのだ。実際にその予感は正しかったようで、リセは隠すこと無く「たぶん、友達だよ」と肯定した。一方、フランはそんな事を思いつきもしなかったらしく、件のエルフとリセが知り合いであったことに驚きを隠せないでいる。
「そっか、やっぱりメル達もこっちに来てたんだ」
穏やかに微笑みながら、リセはかつて同じ世界を共に冒険した友人達の姿を想起していた。昼夜反転気味のレモティーとショートスリーパーの彼女は生活リズムが合っていたため早朝までよくチャットをしていたし、ココノアには対人戦の特訓に付き合ってほしいと言われて何度も刃を交えた事がある。積極的に他人と関わることのなかったリセにとって、彼女達との触れ合いは新鮮で楽しいものであった。
「まさか現実で会えるなんてね」
3人の中でも特にお気に入りだったメルの顔を思い浮かべ、リセは嬉しそうに呟く。NeCOでのパーティ狩り中に彼女のジリオンブレイドを見て「現実でそれが使えたら、キャベツの千切りも楽に作れそうですよね!!」と無邪気に笑っていたメルに、本当のジリオンブレイドによる野菜の千切りを見せてあげたいとまで考えていた。今すぐにでも会いたい衝動に駆られるリセだったが、その前にやっておくべき事もできたので、逸る気持ちにブレーキを掛ける。
「……ま、大体の事情はわかったよ。とりあえず、邪魔になりそうな帝国軍を潰そっか」
唐突に飛び出したその言葉にファベルとフランは呆気に取られる。何がどうなればそのような結論に至るのか分からず顔をしかめる彼らに向かって、リセは鋭い牙を見せて笑った。
「ふふっ、2人は案内してくれればそれでいいから。後は全部、あたしがやってあげる」
「……確かに上級魔族すら圧倒するほどの実力であれば軍を相手にすることも可能かもしれない。だが、何故お前がそこまでする必要がある? もしフラン様や私への哀れみから口にしているのであれば、そのようなものは願い下げだ」
リセの提案を毅然とした態度で拒否するファベル。軍に追われるのはあくまでも自分達の行動に対する結果であり、その責を他人に濯いでもらう事は彼の誇りが許さなかったのだ。だが彼女は親切心だけで言っているわけではない。納得しない様子のファベルに対して、淡々とその真意を述べた。
「帝国軍は隣国に戦争を仕掛けるつもりなんでしょ? なら、そこに居るあたしの友達も巻き込まれることになる。だから先に処理しておくだけだけど」
「つまり、お前は友を守るためだけに帝国軍と戦うというのか……?」
「そうだよ。それ以外に理由なんている?」
偽りのない少女の眼差しにファベルは少しの沈黙を置いて、「分かった」と頷いた。リセが本心からそう言っている事が、その透き通った瞳から読み取れたからだ。それに軍の機密を握るフランが他国に亡命すれば追手が差し向けられる事はほぼ確実であるため、彼女に平穏な人生を歩んで欲しいと願う彼としてはリセに手を貸して軍上層部を始末するのが最善手でもあった。
「リセ……お前を軍本部のある武装型移動要塞群へ案内しよう。その代わり、実質的な軍の支配者である皇族達を共に殲滅してもらいたい。この通り、よろしく願う」
「うん、分かった。それじゃよろしくね」
ファベルが差し出した右手と固く握手を結ぶリセ。さらにそこへ「フランも行くからぁ!」と小さな手が重ねられ、歳も種族も全く異なる3人の盟約が成立した。この出会いは帝国の命運を大きく左右することになる。




