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うちの子転生!  作者: 千国丸
40/107

040.古代遺跡④

――リギサン地方 山村西部にある採掘場――


周囲の地面より数段掘り込まれた窪地で、デクシア帝国軍による巨大ゴーレムの転送準備が進められていた。剥き出しの岩盤が見えている崖は人為的に掘られたものであり、元々は建築材の採石のために設けられた作業場である。だがその底には明らかに自然物とは異なる、正方形をした金属質なステージが存在していた。周囲に古代エルフ文字が刻み込まれたこの場所こそ、ドワーフ族がゴーレムを搬出するために作製した転送台だったのだ。山村の民は過去に使われていた祭事用の広場程度にしか思っておらず、石材や鉱石の加工場として整備していたのだが、それが皮肉にも帝国軍に利用される形となった。


「これが何なのか疑問にすら思わなかったなんて、ホント生きてる価値無しって感じ~ ()にして正解だったでしょ?」


「……村人達も転送装置が地中に埋まっているとは思いもしなかったのでしょう。しかし彼らのおかげで、我々の任務が楽になっているのも事実です」


「なによそれぇ~? そもそもあの連中がこんな所に村なんて作って無かったら、もっと楽だったじゃない。フランにとってはいい迷惑なんだけどぉ?」


採掘場を見下ろす高台で言葉を交わすフランとファベル。巨大ゴーレム転送の準備は部下に任せ、彼女達は真っ赤に燃える村の方を眺めていた。


「それよりもフラン様、本当にあの古代兵器を魔物相手に使用するおつもりですか? 試運転であれば武装を使わずとも可能だと思いますが」


「何言ってんのよ。あんなオモチャ見つけたんだから、どの程度遊べるか見てみないと楽しくないでしょぉ~?」


そう言って邪悪な笑みを浮かべるフラン。彼女はテストの一環として古代兵器に魔物を掃討させるようにファベル達に指示していた。その中にはリギサンの村民を一箇所に集め、瀕死にした上で放置するという人道に背いた命令も含まれている。新鮮な血肉の臭いを漂わせて、村内に魔物をおびき寄せる生き餌として使うためだ。帝国軍による虐殺を魔物の仕業にカモフラージュし、さらに古代兵器の戦闘データも取得できるという点を考慮すれば、これ以上ない合理的な作戦だろう。


「ファベル副官、応答願います。こちら第2小隊ですが、村民と思しき女と子供が近づいてくるのを発見しました。他の者達と同様の対応で宜しいでしょうか」


唐突にファベルのモノクルへ通信が入る。内容は採掘場周辺の警戒をさせていた魔装制圧兵団(デバステイター)からの報告だった。隠密性に優れる武装を身に着けた彼ら第2小隊には、転移装置に近づく者を監視する役目を与えていた。侵攻時に全ての村民を拘束していたものの、出掛けていた者が戻ってくる可能性もあったためだ。


「……ああ、速やかに拘束しろ。その後は魔物の誘引地点へ連行し、先程と同じ処理を施せ。だが子の方は無駄に苦しませてやるな」


眉間に皺を寄せながらファベルは指示を出す。帝国に貴重な古代兵器を持ち帰るためなら村を滅ぼす事も厭わない覚悟であったが、それでも無垢な子供を手に掛けるのは心が痛んだ。自身も娘を持つ親であるが故に、せめて幼子は苦しむことなく死なせてやりたいと願っていた。


「なによぉ、その腑抜けた指示は? 生きた肉じゃないと食いつきが悪いんだから、即死させるなって言ったでしょ~?」


フランは苛立った様子でファベルを睨みつける。ストレス発散を目的に地上へ出てきたものの、寂れていた村は彼女の炎魔法を使うまでもなく壊滅してしまったので機嫌が悪かったのだ。古代兵器に魔物を駆逐させるように命じたのも、鬱憤を晴らす余興としての側面が強かった。


「魔物を引き寄せるには十分な量の贄です。幼い子供まで無闇に苦しませる必要もないでしょう」


「あはっ、なにそれ~? 痛みに悶える声だって魔物を引きつけるのには使えるんだし、利用しない手なんて無いじゃない。試しに両目でも潰してみたら? きっといい声で鳴くと思うわよぉ♪」


唇の端を吊り上げ、嘲笑を浮かべるフラン。時折見せるその露悪的な物言いや振る舞いにはファベルでさえも閉口してしまう事が多かった。ダークエルフとしてはまだ幼く精神が成熟していない事に加え、生まれつき他者より優れた力を持っていた事で、性格が捻じ曲がっていたのである。

それでもデクシア帝国内において四魔導としての地位を与えられているのは、魔法の才が誰よりも優れていたからだ。抜きん出た魔力の高さは周りの者も認めざるを得なく、軍人らしからぬ振る舞いさえも許される傍若無人な少女は、いつも他人を虫ケラの如く見下していた。だがこの日、彼女は初めて目の当たりにする――あらゆる術式を遥かに上回る威力を持った、異世界の魔法を。




――ドォォォォン!!!――




突如、爆発音とともに闇夜を切り裂くような眩い光が空を駆けた。辺りには爆風が吹き荒れ、採掘場に持ち込んでいた照明機材や試験装置だけでなく調査員や兵士達も諸共吹き飛ばしていく。


「これは一体何事かッ!?」


ファベルは咄嗟に右手に装着していた魔道具を発動させた。銀色のブレスレットから青白い膜が展開され、彼とフランを衝撃波から守る。飛んできたいくつもの石や枝を弾くことには成功したが、採掘場の方は被害が酷く、光が収束する頃には殆どの調査員が地面に伏していた。


「王国にはこれだけの火力を運用できる部隊がいるというのか……!?」


目下には砲撃でも受けたかのような光景が広がっていたが、実際に攻撃を受けたわけではなく、遠く離れた場所で放たれた爆発の余波を受けただけだった事に彼は気付く。何故なら村のある方角にさっきまでは無かったはずの大きなクレーターが出来上がっていたからだ。戦術級の魔法かそれに等しい何かが用いられたのは明白であった。


(もし我々の計画が露見していたのならば、これ以上ここに居座るのは危険だな……兵器の転送は中止し、すぐに撤退しなければ。拠点の残存兵と合流したのち、王国領から速やかに離脱する事が最善手……!)


攻撃の規模から王国直属の兵団が攻め込んできたと推測したファベルは、すぐさま採掘場近辺にいる部下に連絡を取ろうとする。しかしどの部隊からも応答はなかった。先程連絡してきた第2小隊を含め、採掘場を防衛していたはずの20人近い武装兵が一瞬で全滅したことに驚きを隠せない。


「フラン様、ここは危険です! 直ちに拠点へ戻り、残りの兵を纏めて撤退を――」


「ムカツクぅ~! フランに喧嘩を売るなんて、いい度胸じゃない!」


ファベルとは対称的にフランは冷静さを失っていた。先程の爆発を自身に対する挑発と受け取り、歯向かってきた者への怒りを顕わにする。


「お止めください、フラン様! ここからでは敵の数もわかりません。一度撤退すべきです!」


「うるさいっ!! 王国のザコごときに、フランが負けるわけないでしょ!」


そう吐き捨てるなり、フランはマントを風に靡かせて飛び降りた。そして手にしていた金色の長杖に腰を下ろすと、それに体を預けてクレータのある方へと飛んでいく。彼女が使う杖は古代遺跡から発掘された魔道具の1つでもあり、魔力を推進力として空中を飛行する機能を持っていた。そのスピードは馬よりも早く、走って追いつけるようなものではない。


(ああなっては止められないか……だが、出来る限りの手は打っておく)


少し思案した後、ファベルは別の部隊へ連絡をとった。村の南、トルンデインへと続く街道にも20人から成る部隊を展開していたのだ。森を抜ける必要があるため夜間は人の通行が殆ど無いのは確認済みであったが、もし冒険者などが訪れた場合にその報告と制圧を行うのが彼らの役目である。


「こちら第5小隊。ファベル副官、何かありましたか。先程、山頂近くで稲光のようなものが見えましたが……?」


「転移装置の準備中に攻撃を受けた。そこを通過した者はいたか」


「やはり緊急事態でしたか……こちらでは通行者は確認できておりません」


「そうか、なら村へ戻れ。今回はフラン様が直接応戦される。後方から支援せよ」


ファベルはモノクルを介してデバステイター隊へ作戦を伝えた。既に襲撃を受けた以上、トルンデイン方面を見張っておく必要性は少ない。それならば戦力を集中させ前後から敵を挟撃した方が相手戦力を削るのに有効だと判断したのだ。


(こうなった以上、多少準備不足でも仕方あるまい……)


ファベルは巨大ゴーレムを発見した遺跡内の調査員にも指示を送っておくことにした。距離が離れているのでリアルタイムの会話ではなく文字情報を送ることしかできないが、それで十分だ。転送時刻を前倒す命令をした後、採掘場に降り立った彼は意識の残っていた兵達と共に転送準備の仕上げに取り掛かった。





――土煙に包まれたクレーター付近――





大地を抉り取るような巨大なクレーターの隣までやってきたフランは、村民らしき女性と子供に対峙していた。1人は胸が大きい金髪の女、もう1人が自身よりも幼い見た目のエルフ少女だ。


「……はぁ? どんな連中が来たのかと思ったら、クソ弱そうなザコが2人いるだけじゃん。さっきここで魔法をぶっ放した奴について教えなさい。教えないなら、この場で焼け死ぬことになるわよぉ?」


「そういう君はどこの誰なのかな? ボクはレモティー、こっちのココノアと一緒に村を襲った連中を追ってるんだ。もし何か知ってたら教えてくれないかな? ただし……君もその1人だというなら、容赦はしないけども」


レモティーと名乗った女は怒りに満ちた視線をでフランを睨みつけた。見た目が幼いとはいえ、帝国式の軍服を着込んだ彼女が招かれざる客であることはすぐに分かる。村を襲撃した者達の仲間である可能性が高いとレモティーは判断したのだろう。


「なによ、その眼? あはっ、まさか仇討ちでもするつもり~? そんな事できるわけ無いのに、おめでたい能無し共♪ 答える気も無い生意気なザコは、惨たらしく殺してやるんだからぁ!」


フランが魔力を杖に込めた瞬間、その先端から数え切れないほどの火球が発生した。人の頭よりも大きな炎の球はどれもメラメラと燃えており、宙に浮いたまま周囲を煌々と照らす。見た目こそ綺羅びやかではあるが、魔力によって生み出された炎は対象者を焼き尽くすまで消えない恐ろしい呪いを秘めており、彼女が紅蓮の猛火(インフェルノ)と呼ばれる所以にもなっていた。


「せめてフランを愉しませる程度には踊ってみせてよね? 炎弾の多段連射術(ガトリング・ブレイズ)!」


詠唱と共に火球が次々と発射され、レモティーへ向かって降り注ぐ。四方八方から飛来する炎を避ける術はなく、これを受けた者が無傷で居られる事など今まで皆無であった。たが隣にいたココノアが青い魔石を宿した短杖を掲げると、その先から淡く光る魔法の弾が無数に飛び出して火球を迎撃し始める。魔法によって作り出された単なるエネルギー体ではなく、物理的な実体を伴った不可思議な魔弾――それは炎と衝突するたびに派手な爆発を起こした。


――バァン! バァン! バァン!――


砲撃戦が行われているのかと思うほどの爆音が何十回と鳴り響く。フランの作り出した火球はココノアの魔弾によって全て撃ち落とされ、爆風と共にかき消されてしまった。空中に微かな火の粉を舞わせただけで、ただの1発もレモティーに着弾することはなかったのだ。


「ウソっ!? 相殺された……?」


フランは唖然とした表情でその様子を見つめていた。魔法同士が衝突した場合、基本的には魔力が高いほうが勝つ。属性の相性によっては多少の魔力差をひっくり返す事もできるものの、圧倒的な魔力量を保持する彼女がこれまで魔法の打ち合いで負けることはなかった。故に()()()のショックは大きい。


「レモティー、このガキンチョの相手はうちがやるから先に行ってていいよ」


「そうかい? なら頼もうかな」


レモティーはフランの横を通り抜けようとしたが、軽々しく扱われれた彼女がそれを許すはずがなかった。帝国において最強と謳われるその暴力的なまでの魔力を解き放ち、全身に緋色のオーラを纏う。


「はぁぁぁぁ!? フランを無視する気なんて許さない! 全員まとめて消し炭にしてやるんだからぁ! 火焔の爆風(ファイア・ブラスト)!!」


黄金色の杖を天に掲げると、紅蓮に染まった焔風で辺り一帯を包み込むように魔法を展開した。たちまち灼熱の壁が空高くまで形成され、レモティー達の行く手を阻む。触れずとも近寄っただけで発火しかねない超高熱の檻――それを目の当たりにした者は必死に許しを請うか、無謀に突破しようとして業火に身を包まれる末路を迎えるかの2択だ。今回もそんな反応を期待したフランだったが、レモティーもココノアも落ち着いており、怯える素振りも見せない。


「あんたの相手はうちがするって言ってんでしょうが」


再びココノアが杖を構えた。おもむろに先ほどと同じ魔法で弾丸を頭上に生み出すと、それを円周状に配置して射出する。それぞれがフランの作り出した焔の渦に衝突した瞬間、爆発を引き起こして火壁に風穴を開けていった。多少の外部干渉ならば飲み込んで無力化しまう炎の壁も、爆風を引き起こす奇妙な魔弾の前には抗う術がなく、致命的な魔力のほころびを生じて呆気なく引き裂かれる。


「なによ、あの魔法!? 水属性でもないのにフランの魔法を打ち破ることができるなんてぇ……!」


悔しそうにフランが地団駄を踏んでいる間にレモティが採掘所へ向かって駆け抜けていったが、その意識はすっかりエルフの少女の方に向いていた。今の彼女にとっては最優先で対処すべきはココノアであったからだ。扱う魔法に属性の()が全く見えない上、底の無い異質な魔力の流れを感じ取ったことで、警戒心を一気に引き上げる。


「クソガキ、さっきの魔法は何!? 何の術式よ、それ!!」


得体の知れない相手にフランは焦りを覚え始めた。神の寵愛を受けた魔眼――緋色の瞳を持つ彼女は、視た魔法の構造を解き明かす特殊能力を持っていたが、ココノアの魔法にはその天賦の才が一切通用しなかったからだ。属性の色、魔力の流れ……それさえ視えればいかなる魔法でも弱点を突いて打ち消すことはできるし、複製して自らの魔法として扱うことすら自在だというのに、今は何も感じ取る事が出来ない。


(ムカツク、ムカツク、ムカツクぅ! こんなザコの魔法が全然視えないなんてぇ……!)


その憤りの原因はココノアの使う新生魔法が異なる世界のものである事に起因しているのだが、フランがそれを知るはずも無かった。彼女が操る魔弾は"無属性"という性質故に無色の魔力しか帯びておらず、火・水・風・土の四大属性を起点とする帝国式の魔術論理では到底解釈できない。それがさらに混乱を呼び、フランの思考を鈍くする。


「ほら、かかってきなよ。もう終わりってわけじゃないんでしょ?」


続く魔法を繰り出せないフランに対して、ココノアが冷めた表情で言い放った。ここまで舐めた物言いをされたのは彼女の人生で初めてのことだ。元々赤みがかっていた褐色の肌が怒りでさらに紅潮していく。


「なッ……! 凡庸な森エルフ如きがフランに指図するわけぇ!? アンタは絶対フランの魔法で燃やし尽くしてやるから!」


杖を地面に突き立てるとフランは魔力を地中へと注ぎ込んだ。複雑な術式で土属性と火属性を励起させ、真似できる者が数人といない高難度の複合魔法を放つ。


「骨も残さず燃え尽きろ! 地獄の猛火(ヘル・ファイア)ッ!」


その詠唱が完了した直後、ココノアの足元が赤く輝き出した。まるで溶鉱炉を思わせる不気味な光が地面から漏れ出る。本来なら酸素がなく火が燃えるはずのない土中に魔力を通わせることで、高圧縮された火炎溜まりを作り出すのが高位魔法ヘルファイアだ。巨大な火柱を出現させて足場ごと対象を飲み込む大技であるが――


「へぇ、そんなのも使えるんだ? ま、有り難くこっちのスキルを試させてもらうけど……魔法無効化領域ディスペル・フィールド!」


ココノアがスキルを発動した瞬間、地面から放たれていた赤い光が消え去ったのであった。なんらかの作用によって魔力が拡散し、術式を維持できなくなったのだ。


(今度は発動前に潰された!? 一体何がどうなってるのよぉ……!)


何が起こってるのかさっぱりわからず、フランは慌てふためく。ディスペルフィールドなどという術式は帝国にも存在していないし、ダークエルフに伝わる古代魔法にも存在していなかった。そもそも他人の魔法に干渉して、その発動を完全に妨げるなど針の穴に糸を通すような繊細な魔力コントロールがなければ不可能だ。失敗すれば暴発して自爆する可能性もあるのに、それを難なくやってのける目の前の少女に戦慄していた。だがそんな心の内を悟られまいと強気の口調で捲し立てる。


「その程度で調子に乗らないでよ! フランは全然っ本気なんて出してないし~! 今度のはダークエルフに伝わる秘術なんだから、簡単に無効化できるなんて思わないことね!」


「この世界の魔法って本当に種類多いのね。なら()()で返せるかも見ておくかな。魔法反射(リフレクション)っと……」


ココノアが魔法を唱えると、彼女の身体を覆うように六角形をした水晶の板がいくつも出現した。それを単なる防御魔法だと思い込んだフランは、防壁ごと捻じ伏せるべく長杖に魔力を集中させる。


「ひれ伏すがいいわぁ! これが古から伝わる最強の炎魔法! 古代の蒼き炎エンシェント・フレイムッ!」


フランの叫び声と共に杖の先から青白い炎の吐息が迸った。かつてダークエルフの国を破滅寸前まで追い詰めたという黒竜のブレスを模したその術式は、超高温の炎波を際限なく浴びせる炎系最高位魔法である。トルンデインの分厚い城壁ですらこれを喰らえば無事では済まないだろう。だがそんな奥の手でさえココノアには届かなかった。蒼炎の波は彼女が生み出した水晶に触れると方向を転換して術者、つまりフランの方へ押し寄せてきたのだ。


「な、なんでこっちに来るのよぉ!? 跳ね返すとかありえないんだけどっ!?」


急いで術式をキャンセルし、杖に乗って上空へ飛び立つフラン。もう少し反応が遅れていれば古代の炎で焼かれていたのは自分だったと、先程まで立っていた場所を這う青白い炎波を見て恐怖した。


(貧弱な森エルフだと思ってたけど、よく見たら珍しい見た目をしてるし……それにフランの知らない魔法ばっかり使うとか……本当に何なのよアイツ!?)


尖った耳に雪のように白い肌――そこまでは森に住むエルフ族なら誰しもが持つ平凡な特徴だろう。だが亜麻色の髪は違っていた。ダークエルフに黒髪が多いように、エルフ族は銀髪や金髪といった髪色が多い。一方、ココノアの髪色はそのどれとも異なっており、フランの眼には見慣れない容姿のエルフとして映っていた。

単に物珍しいだけの魔法使いであればフランの敵ではない。魔法使い同士の戦いは複雑そうに見えるが実は単純で、より威力の高い魔法で叩き潰せばいいだけなのだ。ところがココノアはどんな魔法にも的確に対処してきた上に、まだ実力を隠し持っているような得体の知れない気配も漂わせている。自身の放った高位魔法を何度も破られた事で、その危険性を本能で感じ取った彼女は上空に佇んだまま降りることができなかった。


「ちょっとくらい珍しい魔法を使えるからって、いい気になってぇ……! ガキのくせに生意気なんだからぁ!!」


「ガキって……あんたも子供でしょ? どういうつもりでこの村を襲ったのか知らないけど、降参するなら命だけは許してあげる。でもまだ抵抗するつもりなら、ぶちのめすけどね」


苦し紛れのセリフを吐き捨てたフランに対して、杖を向けて投降を促すココノア。たがその態度と発言がフランの逆鱗に触れた。


「ぶちのめす、ってフランに言ってるのそれ!? ザコのくせに、ザコのくせに、ザコのくせにぃぃ! 絶対に殺してやるっ!」


憤った表情で地上に戻ってきた彼女は、怒りに任せて長杖を振りかざす。燃え盛るような激情によって励起された魔力が赤い粒子になり周囲を漂い始めた。緋色の目を見張ってココノアに殺意を向けると、フランは体内に蓄えていた凄まじい量の魔力を放出する。それが赤いオーラとなって彼女の体から杖へと伝わり、周囲の地面へ降り注いでいった。


「もう遺跡だろうが、古代兵器だろうが、全部どうなってもいいんだからぁ! 何もかも溶かし尽くせ! 顕現せし地獄の紅焔(ラーヴァ・フロウ)ッ!」


一際大きく杖を持ち上げてから、勢いよく地面を杖の底で突くフラン。死刑宣告を突き付ける木槌(ガベル)の如き高い音が鳴った直後、地響きと共に大地が割れ始めた。次々と隆起していく土塊により、辺り一面に大きなひび割れが走る。そして出来た裂け目から大量の溶岩が勢いよく吹き出た。彼女が注いだ強大な魔力によって、地中深くにあったマグマが励起されたのである。


――ゴォォォォォ!!――


真っ赤に燃えた火砕流がココノアの方へと押し寄せた。それだけではない、超高熱に達した灼熱の風が巻き起こり、周囲の草木を自然発火させていく。あまりの熱に大気ですら焦げ付き、息を吸い込むだけで肺が灼けてしまうほどだ。地獄の釜が開いたかのような惨状が押し寄せる中、ココノアは至って落ち着いた様子で詠唱する。


「ほい、完全遮熱術(ヒートシールド)


一言そう呟くと、彼女の体を青い膜が覆った。この魔法はNeCOに存在していた環境ダメージを無効化するスキルである。これが働いている限り、漂う火の粉や熱風が触れたとしても彼女の肉体に影響を及ぼすことはない。


「この状況でもそんな余裕ぶった顔してるなんて、ほんとムカツク! もっと泣き叫んで、許しを請いなさいよっ! あそこの村人達の方がよっぽどいい顔してたわよぉ!?」


フランの言葉にココノアが眉をピクリと動かした。迫る火砕流を気にする様子なく、フランへ鋭い眼差しを向ける。


「……あんたなの? 村の人にあんな事をしたのは」


「あはははっ! 何よアンタ、ひょっとして怒ってるのぉ? あんな無価値でクズ同然の連中、どうなってもいいじゃない! あ、でも魔物を呼び寄せるための餌にはなったから、少しはフランの役に立ったかなぁ~?」


「なるほど、そういうことね。子供だと思って手加減してたけど、その必要はなかったわけだ」


「きゃははっ! その顔、超笑えるぅ! いくら怖い顔したって、もう助かる方法なんてないのに! ほらほら、もうすぐ溶岩に飲み込まれて焼け死ぬよ? あ、でも土下座して謝るなら、助けてあげてもいいかなぁ~♪」


勝利を確信しているフランは皮肉たっぷりにココノアを嘲笑った。言葉では希望をチラつかせる彼女であったが、この火砕流は術者が解除しても止まらない。超人的な魔力によって引き起こされた地殻の変動はそれ以上に強い力で抑えつけない限り、防ぎようがないのだ。しかし単に絶望したまま燃え苦しむ表情を見たいがために、フランは望みをもたせるような事を口走っている。だが、ココノアはそんな戯言には惑わされてはいなかった。ただただ真っ直ぐに、怒りを秘めた眼差しで睨みつける。


()()()本気ってもの見せてあげよっか。"フォースマスター"!」


ココノアがスキルを発動した瞬間、その足元に光り輝く魔法陣が広がった。エルフ語でも精霊語でもない異界の文字が刻まれたそれは、グルグルと回転しながら極限まで密度が高められた魔力の粒子を噴出し始める。空間が魔力の干渉を受けて揺らめくほどの出力――その異様さは魔眼を介してであれば殊更によく分かるだろう。


「な、なによそれぇ!? そんな魔力、どこから出てっ……」


その瞳にはココノアを中心にして渦巻く巨大な虹色の竜巻が視えていた。強すぎる力によって場の属性が乱れ、世界を構築する理すらも歪み始めたのだ。ル・フェイと呼ばれる自身を遥かに上回っていた魔力の持ち主を前にして、ようやく彼女は気づく。


(こいつ、化け物じゃないの!? こんなの、ヒトがどうにかできる相手できるわけないっ!!)


フランが引き起こした大地の唸りは既にココノアの放つ魔力に抑え込まれて鳴りを潜めていた。灼熱を湛えた大量の火砕流でさえ分厚い魔力の渦に阻まれ、動きをピタリと止める。しかし、それは()()()()()()()()に過ぎない。まだココノアはまだ魔法の詠唱すら始めていなかったのだから。


(に、逃げないと……こんな奴、まともに相手にしちゃダメなんだからっ……!!)


たった1人でここまでの力を持ち得るような存在は、もはや災厄の類いであると言っても過言ではない。故に彼女はプライドをかなぐり捨ててでもその場から逃げようとする――が、ココノアはそれを見逃すほど甘くはなかった。


「覚悟しなよ、ガキンチョ。破滅へ誘う閃光デストラクション・フレア!」


ココノアの杖から放たれた膨大な光の波が、火砕流を含めてあらゆる物を飲み込む。そうして半球状に広がった真っ白な空間では、凝縮されたエネルギーによって極大の爆発現象が引き起こされた。


――ダシャァァァァン!!――


凄まじい轟音と共に、辺り一面の空と山と森が揺れる。遠く離れた湖では湖面が波打ち、トルンデインの城壁も軋んだ。森の獣達は皆怯え、凶暴な魔物ですら異様な力を感じて地面に伏した。この日の出来事は周辺地域にも多大な影響を及ぼしており、後に"神の怒りが落ちた夜"と密かに語り継がれることになる。


「……やりすぎた。直撃はさせないつもりだったのに」


光が消えた後、そこにはココノアが立つ地面のみが残っていた。その周囲には元々あったクレーターでさえ飲み込巨大な穴が出来ており、溶岩流ごと跡形もなく消えている。あまりの破壊力に自分でも若干引きながら、彼女は周囲を見渡した。


「ていうか、フレアってこんな威力だったっけ……?」


NeCOで使っていた頃よりも威力や範囲が強化された新生魔法に対して、疑問を抱くココノア。高い破壊力を有する無属性魔法デストラクションフレアは、そのダメージ倍率の高さと範囲の広さからフォースマスターの主力スキルとされていた。しかし、さすがに半径100m近くを吹き飛ばすほどの威力は無い。むしろ属性によるダメージアップが適用されないことから単体では威力不足であり、魔力増大Buffと魔法防御貫通効果を付与するジョブ専用スキルと組み合わせることが前提とされていたくらいだ。そのためココノアもそれらをセットで運用したのだが、予想以上に効果が強すぎたのだった。


「やっぱりジョブ専用スキルは封印しとこ……」


下手をすると味方を巻き込みかねない威力に強い危機感を覚えながら、彼女は転移魔法を発動してレモティーの後を追った。

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