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うちの子転生!  作者: 千国丸
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004.プロローグ 終わりと始まり④

見知らぬ場所で不安ばかりだったけど、友人と出会えたことで少し落ち着けたのかもしれない。私は状況を整理すべく、ココノアちゃんとこれまでの経緯について話し合うことにした。NeCOのサービス終了を迎えた後、眠りについたら不思議な夢をみたこと。そしてその時にタイニーキャットさんとの出会い、気がついたらこの草原にいたこと……体験したことをありのままに話す私の言葉に、しばらくの間ココノアちゃんは静かに耳を傾けてくれた。


「ふーん……大体流れは同じってとこかな。うちもメルと同じだよ。駄ネコにここに連れてこられた」


「駄ネコって……お名前で呼んであげましょうよ……」


駄ネコ、というのはNeCOで一部の人がタイニーキャットさんを呼称するときの蔑称だ。タイニーキャットさんは見た目こそ愛らしいマスコットさんではあるけども、ログインボーナスとして使い道のないゴミアイテムを強制的に渡してきたりするので、そういう風に呼ぶ人も少なからずいたりする。


「それにしても、そっか……"メル"はそうなるわけね」


「ん? 私の事ですか?」


本名ではないはずの"メル"という名前に反応しつつも、素直にそれを受け入れている自分に少し驚きを覚えた。何年とこのキャラクターを操作していたせいで、すっかり"メル"で呼ばれることに馴染んでしまったのかもしれない。いつのまにか()()は私の一部になっていたのだと思う。そんな事を考えていたら、ココノアちゃんの視線が私の足元から頭の先に向かって上下している事に気づいた。


「いやさ、NeCOだとそのキャラって結構うわキツって感じだったけど、こうしてみると結構可愛いんだなって。ロリ体型の癖になんか妙にムチムチしてる気はするけど」


「うわキツ!? ムチムチ!?」


「あと猫耳と尻尾も押さえてて、萌えポイントは高いよ」


そう言ってココノアちゃんが私の腰を指さす。尻尾なんてあったかなと思い、上半身を撚って背中側をみてみると、たしかにピンク色の毛で覆われた長い尻尾がスカートの中から伸びていた。今まで視界に入ってなかったのもあるけど、体にそんなものが付いている違和感もなかったので全然気がつかなかった。


「尻尾があったなんて、今初めて気づきましたよ……」


「ケモ要素がそれだけっていうのは物足りない気もするけど、顔とか腕とか毛だらけだと手入れ大変そうだから、それでよかったのかもね。にしても、NeCOの装飾品がそのまま見た目に反映してるってことは、種族選択に影響してるって事かなぁ」


「影響、ですか?」


「アバターに付けてた装備が反映された種族になってる、ってこと。ほら、うちにはこの耳がついてるし」


顔を傾けて、長くて尖った耳を私へ向けるココノアちゃん。それは付け耳なんかではなく本物の耳のように見えた。


「触ってみていいですか?」


「いいよ」


承諾を得た私はそっと耳に手を触れた。サラサラとして手触りのいいそれは、生身特有の柔らかさあって、"生きている肉体"の一部だということがすぐに分かる。付け根の方の具合も確かめてみようと指先を這わせると、こそばゆかったのかココノアちゃんが「んっ……」と声を漏らした。


「ちょっと……! そこは結構敏感なトコだから!」


「ご、ごめんなさい!」


慌てて手を離す私。一方、ココノアちゃんは少し恥ずかしそうな表情を浮かべて目を反らした。なんだかちょっと気まずい空気になってしまったかも。NeCO内だと気兼ねなく出来たスキンシップも、こうしてお互いが実際に触れ合うことができる状況では控えたほうがいいのかもしれない。それにしても、モニター越しに見慣れていたキャラクターがこうして本当に目の前にいる、というのはどうにも不思議な気分になる。元々彼女のアバターはゲームでも十分可愛かったけど、こうして目の当たりにするとまるで……


「お人形さんみたいで凄く綺麗ですね、ココノアちゃん♪」


「はぁ!? な、何よ……それ! 綺麗とか、急に言われたらお世辞でも照れるでしょ……! ああもう、ほら! これからのこと考えようよ!」


本心で言ったのにな、と思いつつ私は苦笑いした。でもココノアちゃんが言う通り、これからの方針を決めるのは重要なことだと思う。


「まず状況を整理すると、こんな感じね。うちらが生きてた場所とは違う、この異世界を救うためにNeCOのキャラクターの体でここに連れてこられた。で、呼ばれたのは今のところ、うちとメルだけ……」


「はい、そうなりますね」


「他のプレイヤーもいる可能性はあるけど、探す手段が無いからそっちは追々考えるとして……何をするにしても、自分達やこの世界の事を知ることが最優先ってとこね」


「NeCOみたいに魔法が使えれば楽そうなのに……」


「いや使えるよ魔法。メルのやり方が悪いだけだと思うけど」


その言葉に思わず「えっ」と声が出てしまった。さっき試して出来なかったし、使えないものとばかり思ってたのに。


「うちが見本見せるからちょっと見てて。ターゲットは……あの石でいっか」


そう言ってココノアちゃんは少し離れたところにあった石の方へと向き直った。いや、石というよりは岩と表現するほうが適切な気もする。遠近感で一回り小さく見えているだけで、近寄れば私達の体よりも大きいんじゃないかな。ゴツゴツしてる上に黒くて頑丈そうだし。


「この世界、何をやるにしてもイメージを頭にハッキリ浮かべるのが大事っぽいんだよね。あと、対象の指定。ほらNeCOでもタゲとってないと魔法は発動しないでしょ」


「そう言われてみればそうでしたね……」


「それじゃ行くよ。魔光弾(エナジー・ショット)!」


発せられた言葉に呼応するかのように、ココノアちゃんの指先から眩い光の弾が放たれた。人差し指から真っ直ぐに飛んでいったソレは頑丈そうな岩をいとも簡単に貫き、役目を終えた途端大気に溶け込むように消えてしまった。壊れたガラス細工のように粉々になった岩の破片をみると、その威力がどれほど強かったのか分かる。


「す、すごいっ……!」


現実世界ではありえない、"本物の魔法"。それを目の当たりにした私は、言いようのない興奮を抱いていた。岩が砕かれた時に響いた音の衝撃がまだ耳に残っており、頭がビリビリする。それがまた眼前の光景に現実味を帯びさせてくれた。


「力を抑えるイメージで初級魔法を使ってもこれだから、上級魔法を本気で撃ったら地形ごと変わっちゃうかもね」


「さすが、魔法を極めし者(フォースマスター)ですね……」


ココノアちゃんはNeCOで無属性魔法を操る魔法使い(スペルユーザー)だった。魔力と器用さに特化したステ振り構成で、高威力の魔法を瞬時に詠唱して放つ事ができる火力砲台――中途半端なスペックの"メル"とは掛け離れた、最高峰の遠距離アタッカーの力に驚きを隠せない。


「凄まじいですね……初期習得魔法であんな岩を一撃で壊せるなんて。しかも詠唱から発動までのディレイもほとんどなかった気がします」


「NeCOより目に見えて魔法の威力あがってるのは、エルフの体になったおかげかも」


「確かにエルフって魔法が得意なイメージがあります!」


アニメや漫画でしか知らないけど、エルフ族は魔法に親和性のある種族なことが多い。もしこの世界に存在する様々な人種にそういった"特性"があるのならば、NeCOのアバターが持つステータスに何らかの補正がかかっていてもおかしくはないと思う。

ちなみにNeCOにはエルフや獣人といった種族は存在しておらず、プレイヤーが選べるのは人間族、天使族、悪魔族の3種族だけだった。しかもその3種族は微妙に初期ステータスが異なったり見た目が違ったりするだけで、キャラクター性能という面では大きな差がない。私もココノアちゃんも天使族のキャラクターをベースにしてたのでアバターには天使の輪っかや翼が付いてたけど、魔法職に有利な補正があったわけじゃなかったし。


「つぎはメルの番。攻撃魔法の1つくらいあるでしょ、試してみれば?」


「えっ、上手くできるかなぁ……」


「的にするのは……ちょっと遠いけど、あの木なんてどう?」


私はココノアちゃんが指差した枯れ木へと目を向けた。雷にでも打たれたのか、上半分は黒く焦げており枝もほとんど落ちてしまっている。あれなら心置きなく魔法の練習台にしてもいいかもしれない。ただ距離が離れており、目測でも100m以上ありそうだったので、"メル"が使える魔法で一番射程距離の長いものをチョイスすることにした。


「うん、使う魔法は決めました! あ……失敗しても笑わないでくださいよ?」


「まー、外れても距離感とか誤差とか掴むのに役立つんじゃない。とりあえずぶっ放せばいいよ」


「はい! いきますっ!」


私はターゲットとして定めた枯れ木へ両手を突き出した。そして瞼を閉じ、頭の中で魔法を放つ自分の姿をイメージする。詠唱するのはカーディナル最強の攻撃魔法。威力と射程は飛び抜けてるけど、火力の低いヒーラーが取得する意味はないって、よく攻略wikiで書かれてたっけ。ロマン砲だなんて馬鹿にする人もいたけど、私はこの魔法の演出が大好きだった。それを本当に使うことができるなんて、楽しみすぎて心が躍る!


闇を滅する神の裁きディバイン・ジャッジメント!!」


そのスペルを口にした瞬間、全身をビリビリとした刺激が走った。これが魔力量(マジックポイント)を消費しているという感覚なのかもしれない――そんな事を思いながら、私は両手に意識を集中させる。次第に両手の先に、熱量をもった何かが形成され始めたことに気づいた。


「うん……?」


何が起こってるのかと思い瞼を開けてみると、そこには白い光を放つ魔法陣が浮かんでいた。そして陣に描かれた六芒星の外周部には、いくつかの光の球体が灯っている。確かこの球体が6つ揃えば、ディバインジャッジメントの詠唱が完了し、魔法陣から極太の光線が発射されるはず。この世界で使う魔法がNeCO通りに発動されるのであれば、だけども。


「DEXにステ振ってないと、詠唱ってこんなに時間かかるのね……」


隣で私の様子を眺めていたココノアちゃんが呆れたように呟く。確かに"メル"の詠唱速度はかなり遅かった。初級魔法といえども一瞬で詠唱を完了していた彼女に比べると情けないほどに。


「だ、大丈夫です! 出は遅いですけど、威力は折り紙付きなので!」


ココノアちゃんに良いところを見せようと思ったせいか、全身に自然と力が籠もる。いつのまにか私の周囲には魔法陣から漏れ出た淡い光の粒が渦巻き、草原に大きなうねりを与えていた。その様子が視界に入り、ふと私は怖くなってしまう。これを放ったら枯れ木を破壊する程度で済まない気がしたからだ。一旦この魔法を中断しようと考えた矢先、私の目の前に広がっていた景色がほんの少しだけ歪んだ。まるで凪いだ水面を指先で揺らすように、ゆらりと。


「膨大な魔力の気配を感じたから来てみてたが……」


落ち着いた男性の声が聞こえたと思ったら、眼前に深い真紅のローブに身を包んだ青年が立っていた。どうやって現れたのか、見当もつかない。まばたきをしたら、既にそこに立っていたのだから。


「子供の遊びだからと、見過ごすことはできないか」


これから放たれるディバイン・ジャッジメントの射線上にいるにも関わらず、彼は顔色一つ変えてはいなかった。それどころか、膨大な光を湛える魔法陣に臆することも無くこちらへ向かって歩いてくる。


「えっ、あの、その……!」


突然の事態に反応できずにいる私を嘲笑うかのごとく、青年は銀色に光る短髪を左手でかき上げた。その時露わになった美形と言って差し支えない整った顔立ちに、思わずドキリとしてしまう。でもそんな私にはお構い無しに、彼は容赦なく右手からスペルを放つ。


魔法の強制解除(ディスペル・マジック)


彼の青い瞳が冷たく輝いた瞬間、両手から力が抜けて魔法を維持することができなくなった。同時にディバイン・ジャッジメントの魔法陣はかき消され、詠唱は停止した。何が起こったのか理解が追いつかないものの、ひとまず枯れ木ごと草原を吹き飛ばす事態にならなくて済んだことに安堵する。


「ええと、どなた様でしょうか……?」


「……」


私の問いかけに青年は答えなかった。もしかして言葉が通じていなかったのかしら。でも先程の彼の言葉は日本語として聞き取ることができたし、理解はできると思うんだけども。


「……あいつがここに来たとき、全然見えなかった。多分ロクでもない奴だよ、あれ」


不意にココノアちゃんが険しい表情で呟いた。確かにあの青年が現れたとき、どこからやってきたのか全く分からなかった。遠くの草が擦れる微かな音ですらキャッチできていたこの獣耳なら、足音くらいは気づきそうなものなのに。となると、彼は"何らかの方法で他人に知覚されずに移動ができる"と考えていいかもしれない。私には1つ、思い当たる節があった。


「……そういえばNeCOにもいましたね。突然瞬間移動してくるような敵さんが」


「あぁ、いたいた。チートみたいなギミック搭載してたのが」


恐らく、この怪しげな男は"空間座標を任意に指定して転移する事が可能"なのだと思う。ちなみにこんな突飛な仮説に至ったのも理由がある。NeCOではプレイヤーキャラの強化アップデートを繰り返した結果、高レベル向けダンジョンのボスでも一方的に倒されるようになったので、運営会社があるギミックをボスに導入したことがあった。それはボスに座標指定式の瞬間移動を付与するというもので、パーティの隊列など無視してボスが突っ込んでくるため後衛から倒されてしまって難易度が跳ね上がってしまうという結果を生んだ。

この理不尽にも程があるNPC専用スキルは、いつしかプレイヤー達によって『縮地』と呼ばれるようになっていた。モニタ越しに見ているのではなく、実際に瞬間移動を仕掛けられたら恐らくさっきのような感覚になるのだと思う。


「プレイヤーが強くなりすぎたからってボスが瞬間移動してくるギミック仕込むって、クソゲーすぎない……?」


「でもそんなクソゲーのおかげで縮地対策も開発されたじゃないですか。とはいえ、相手の実力がわからないうちは迂闊に――」


その刹那、正面に捉えていたはずの青年の姿が消えた。縮地が発動されたと察した瞬間、私は無意識に後ろを振り返っていた。一方、ココノアちゃんは既に後方へ向き直り、今まさにスキルを放とうとしている。


魔光雷(ショック・ボルト)!」


魔法の稲妻が空から降り注ぎ、背後に移動していた彼のローブを貫いた。「チィッ!」と舌打ちが聞こえたもののダメージは軽く、ローブの赤い生地を少し焦がした程度でしかない。このままだと反撃がくると予感した私は、自然と攻撃の体勢を取っていた。初めて出会った人に対して暴力を振るうのは気が引けたけど、もしこの不審者がココノアちゃんに危害を加えるような事があれば、躊躇したことを絶対に後悔するだろう。だから私は覚悟を決める。


「痛かったらごめんなさい!」


右拳を握り締め、身体を捻って男性の腹部へ狙いを定めた。魔法が使えるならそれも選択肢に入るけど、詠唱速度の遅い私が即座に行動するには素殴りが最適だ。それに子供の体だし、当たりどころが悪くても大事には至らないだろうと信じて、思い切り力を込める。


――ドゴッ!――


自分でも驚くほどに素早く繰り出された右拳は、鈍い音と共に青年の脇腹に減り込んだ。衣服越しに、骨らしきものがポキポキと折れていく生々しい感覚が伝わってくる。そこまでするつもりは無かったのに。


「ぐっ……!」


私達の攻撃を受けた後、青年は後ろへ飛び退いてその場で膝をついた。苦しそうに呼吸はしているものの、こちらに向けている表情はどこか明るくも見える。


「何故、俺の動きに反応できた……?」


「瞬間移動するような奴はだいたい背後に回るってよく知ってるからね、うちらは」


「ほう……こちらの転移魔法を看破していたとは。さらに出現場所を先読みして攻撃をしかけたのか。なるほど、なるほど……」


ココノアちゃんが放っていたショックボルトは無詠唱かつ座標指定タイプの特殊魔法だ。対象を選ぶスキルと違って当てるのが難しいものの、相手の位置を先読みできる人なら"事前に置いておく"ことで必中の必殺技となる。ココノアちゃんは彼がNeCOのボスキャラと同じく、縮地を発動してから背後に回ることを想定して、攻撃を置いておいたのだと思う。ただ移動先の座標位置までドンピシャで当てることができたのはココノアちゃんの冴えた直感によるものだ。私なら先読みなんてことできないもの。


「クク……しかもこちらの魔法防御の高さを見抜いて、すぐさま攻撃手段を切り替える判断力、見事だ。幼子にしか見えない容姿にも関わらず、そのような機転が効くとは見事に騙されてしまったものだな、全く」


「は、はぁ……いや別に機転を利かせたわけでもないですけども……」


今までの寡黙っぷりはなんだったのかと思うほど、饒舌に話す彼に唖然としてしまっていた。どうやら私達に危害を与えるつもりは無いみたいなので、もう少し話を聞いてみることにしよう。


「しかし勿体ないな……そこまで高い能力を持ちながら、お前達は世の中の理というものが見えてはいない。そんな膨大な魔力を見せびらかしていては、無駄に敵を増やすだけだぞ」


「はぁ? あんたが勝手にやってきただけでしょうが……」


「ココノアちゃん! 穏便に話しましょう、ここは! この世界で見つけた初めての人ですよ!?」


怪訝そうな表情を浮かべるココノアちゃんをなだめつつ、私は青年に歩み寄った。貴重な情報源である彼と敵対するのは好ましくない。しかも何故か"日本語が通じている"のだから、この機会を無駄にしたくはなかった。私は彼にむかって、回復の魔法を唱える。


身体治癒(ヒール)!」


初級の回復魔法であるヒールは詠唱時間が極端に短いため、"メル"のステータスでもほぼ即時発動だ。青年の体がパァァっと淡い光をはなつ黄色いオーラに包まれる。


「これは……癒やしの術なのか……?」


「ええ、まぁそんな感じのスキルです。どこまで回復できるかは、わかんないですけど……」


荒くなっていた青年の呼吸が整っていく。ローブで隠れてるので見た目では分からないものの、私が殴打した腹部の傷も治ったらしい。彼は何事もなかったかのように立ち上がると、足元に付着していた土埃を払った。


「俺の知らない魔法を操るエルフと、癒やしの術が使える獣人か……珍しい組み合わせだな、興味深い。素性を調べてから排除するつもりだったが、気が変わった」


「排除って……メル、やっぱりコイツここで倒しとこう。絶対危ない奴だよこれ」


「いやいや!? 穏便にって言いましたよね、さっき!?」


「そう敵意を剥き出しにするな。お前達にも利のある案を出そう。見たところ身寄りが無さそうだが、俺の館まで同行するのであれば当分の生活は保証してやる。代わりにお前達の扱う変わった魔法について調べさせてもらいたい……悪くはない話だと思うが、どうだ?」


「えっ、ほんとですか! いきます!いきます!」


「ちょっ、何言ってんの!?」


願ってもいない提案に、私は即座に飛びついた。街を探すにも、このだだっ広い草原をアテもなく歩くのは徒労に過ぎるし、このままだと寝るにも食べるにも苦労しそうだったからだ。特に、お手洗いをどう済ますかは悩みのタネだった。考えないようにはしてたけども……


「はぁ……こんな怪しい男にホイホイついていくとか、どうなっても知らないかんね」


「ココノアちゃん、これは大チャンスだと思うんですよ! 話ができる人がいれば情報収集にも苦労しませんし! ……あ、そういえばお名前を伝えてなかったですね。私はメルって言います! こちらのエルフっ子がココノアちゃんです!」


「メルに、ココノアか。俺は……そうだな、今はセロとだけ名乗っておこう」


「はい、セロさん! 宜しくお願いしますね!」


――こうして異世界の住人であるセロさんと出会った私達は、彼の申し出を受けて行動を共にすることになった。この先どうなってしまうのか、元の世界に戻ることはできるのか……分からない事だらけで不安もいっぱいあったけど、隣に居てくれるココノアちゃんのおかげで、むしろ楽しみにすら思えてしまう。終わったはずの冒険譚の続きを、大好きな彼女と一緒に歩むことができるのだから。

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