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うちの子転生!  作者: 千国丸
38/107

038.古代遺跡②

――リギサンの山村から約5km離れた尾根――


目的地である坑道へ到着して2日も経たたない内に、帝国軍は坑道から繋がっていた古代遺跡の最深部まで到達することに成功していた。迅速な遺跡探索が可能となったのは、練度の高い精鋭達とドワーフ族の技術に精通したファベルの指揮によるところが大きい。また、遺跡では今もなお原理不明の動力機関がエネルギーを供給し続けており、奇跡的に設備がほぼ無傷で残されていた事も理由に挙げられるだろう。遺跡は地下深くにあるというのに遺跡内は昼間のように明るく照らされており、皮肉にも侵入者達の歩みを手助けしていたのだ。


「先行部隊、通路の先にある部屋に敵性存在がいないか確認しろ」


「了解ッ」


上官の命を受け、角張った形状を持つ黒い甲冑に身を包んだ帝国兵達が通路を駆けていく。彼らの目元はフルフェイスヘルムに隠れており見えないが、真っ暗な兜の奥から視線を左右上下に動かしており、あゆる方向からの襲撃を常に警戒していた。こういった遺跡の内部では侵入者に対する迎撃トラップが動作したり、機械人形(ゴーレム)が配備されていたりする事も多いため、一時も油断できなかった。


――タンッ、タンッ、タンッ――


兵士達の装甲靴が金属製の床を踏み鳴らす度に独特の接触音が反響する。この遺跡の構造物は床や壁だけでなく、天井に至るまでのあらゆる部分が光沢を放つ金属の板で覆われていた。寸分の狂いもなく、規則正しい並びを見せる鈍色のタイル群からは、当時のドワーフ族が極めて高い金属の加工技術を持っていた事が伺える。ただし通路の天井は平均的な人間族の成人男性ですら頭を打ちそうなほどに低い。ドワーフは背丈が人間族の子供程度しかない矮躯な種族であり、その体型に則った設計だったからだ。


「第一小隊、扉前に到着しました。扉を開けます」


4名の帝国兵が通路の突き当りに陣取った。続けて、横にスライドするタイプの扉に対し両側から力任せに開けようとするが、びくともしない。彼らは人力では開かないと判断して、その右手に嵌めた篭手へ魔力を流し込んだ。その瞬間、内蔵されていた魔法石に刻まれた術式が起動し、篭手全体がにわかに赤い光を帯びる。


筋力増強術式(パワーライズ)、作動!」


その掛け声とともに、彼らは掴んでいた扉を豪快に抉じ開けた。無理やり暴かれた扉はすっかり歪んでしまっており、二度と閉じることはできないだろう。このような遺跡の扉は侵入者対策に硬く閉ざされているのが普通であり、本来なら人間が人力で動かすのは不可能なほどに強固なものであった。だがここにいる兵士達は魔道具を内蔵する特殊な甲冑を装着しており、その力を引き出すことで限界を超えた力を手にする事が出来る。今、兵士が発動した超人的能力もその1つであり、篭手に内蔵された筋力増強術式によって筋力パラメータを一時的に10程度ブーストさせるという機能だった。兵士1人1人の筋力は20から多くても30と言ったところだろうが、術式発動中は最大40近くまでブーストできる。これは一流の戦士にも匹敵するパワーだ。


「先行隊、入口を確保できました」


「よし部屋の内部を探索しろ。全武装の使用を許可する」


耳元で聞こえる上官の声に従い、帝国兵達は部屋の中へと雪崩込んだ。何かの実験室だったらしく、見慣れない工具や装置が所狭しと並んでいる。また古代の言語で書かれた計算書らしきものや、何かの機動兵器を模した図面なども雑然と散らばっており、ここで兵器の開発が行われていた事もおぼろげに推測できた。彼らは一通り内部を確認して危険性が無いことを判断すると、騎士兜の側面に取り付けられた魔法石に手をかざして会話を始める。


「こちら先行部隊、ファベル副官に報告します。対侵入者用の迎撃機構は見当たりません。なお、詳細は不明ですが兵器の開発資料のようなものがありました。調査対象に加えるべき部屋だと判断します」


「そうか……よし、お前達はそのまま待機だ。周囲の警戒を怠るな。私が調査チームを連れてそこへ向かう」


「はっ!」


あたかもすぐ近くで話しているような会話が繰り広げられているが、彼ら先行部隊とファベルがいる本隊は大きく離れていた。それを埋めていたのは古き時代の技術によってもたらされた遠隔通話システムである。彼らの兜には、魔法石同士の共振現象を利用することで遠く離れた所での会話を可能にする術式が備え付けられていたのだ。ただし、これはまだ開発段階であり量産できるだけのコストダウンが出来ていない。今の所は軍でも一部にしか採用されてはいないため、一般庶民にこの便利な魔道具が行き渡るにはもう数年を要するだろう。



――半時間後――



兵士達が待機していた部屋へ部下を引き連れたファベルがやってきた。彼は内部を見渡して状況を確認した後、白色の外衣を纏った調査員達へ指示を与え始める。


「古代語の解読は本部で行う。今はここにある図面、書類のうち兵器に関するものを最優先で回収しろ。ただし、装置の類いには手を触れるな。まだトラップが生きている可能性が高い」


「承知しました」


調査員の代表者と思しき眼鏡の男が胸に手を当てて一礼すると、その背後に控えていた白衣の集団が一斉に調査に取り掛かった。彼らは兵器開発を専門としている帝国でも有数の頭脳集団である。黒鎧の戦闘兵と違い戦闘力は皆無だが、古代兵器に関しては秀でた技術と分析力を持っており、その見識は現地調査でも大いに役立っていた。主な調査は彼ら専門要員に任せ、ファベルは部屋の壁を手でなぞりながら思案を始める。


(構造上、まだ遺跡の中枢には至っていないはずだ。だが道はここで行き止まり……どこかに隠し通路があると見て、間違いはないだろう。だがどうやって見つけ出す……?)


彼はこれまでの調査で得た遺跡構造をマッピングしたものを、自身のモノクルへと投影した。他の通路や部屋の構造が詳細に書き込まれたその地図には、不自然に抜け落ちた部分が点在している。目に見える範囲はすべて探索したというのに、どうやっても行き着けないブラックボックスの存在――それは隠し通路が別に存在していることを暗示していた。また、他の部屋の配管やダクトがその()()()()空間へ向かっていることからも、秘匿すべき用途に使われた施設がそこにあることは間違いなかった。


(だが通路を探すために壁を虱潰しに潰して回るのは時間の浪費が過ぎる。隠し通路を開くための仕組みをどうにかして解明する必要があるか……)


額に手を当て、険しい表情で考え込むファベル。そんな彼の耳に、場違いな子供の声が飛び込んでくる。もしやと思いながら通路の方を振り返ると、そこには軍服の上に長いマントを羽織った少女が立っていた。


「ねぇ、そろそろ飽きてきたんだけど~? 能無しなりにもっと必死にやりなさいよぉ?」


「フラン様、何故ここに!? 本隊でお待ちいただくように申し上げたはずですが……」


「はぁ~? あそこに居ても暇なだけだもん。それにフランの時間を無駄にする無能達には、きつーいお仕置きしないといけないでしょ?」


遺跡に一切興味が無いフランが調査任務の最前線にやってくる事など滅多にない。それ故にファベルは戸惑いを隠せなかった。もし、その言葉の通り部下の叱責が目的であれば相当に厄介なことになりかねないと気構える。


「さ~て、見せしめに1人くらい黒焦げにしちゃおっかぁ? それならやる気も出るでしょ?」


フランは不敵な笑みを浮かべると、右手に持っていた金色の長杖を部屋の中へ向けた。同時にその先端には小さな火球が作り出される。真っ赤に輝くそれは子供の拳の大きさ程度しかなかったが、室温が急上昇していくのが分かるほどの超高熱を秘めていた。


「フラン様、お戯れはその程度でお止めください!」


すぐさまファベルが訴え出たが、炎の魔法は収まる気配を見せない。周囲の兵士達はあの火球が自分に向けて放たれるのではないかと、恐怖で体を震わせた。フランが横暴で容赦ない性格をしていることはよく知っていたからだ。数年前に粗相を働いた下士官が、彼女の放った炎の魔法によって骨も残らぬほどに燃やし尽くされた事件は未だに軍内で語り継がれている。軍団長として与えられた権限により兵士の命すら自由にできる彼女を、"小さな独裁者"として恐れる部下も多かった。


「あははっ! 冗談なのにそんな萎縮しちゃって馬鹿みたい~!」


無邪気に笑いながら、杖を下ろすフラン。小さく弾けて消え去った火球を見て、ファベルと部下達も胸をなでおろした。しかし室内には砂漠の熱波のごとき熱風が渦巻いており、フラン以外の者達は皆額に汗を浮かべている。炎の魔法は高熱を操るというその特性から、周囲の環境へ多大な影響を及ぼすのだ。その効果範囲や破壊力を鑑みれば、最も攻撃的な性質を持つ属性と言えよう。ただしコントロールが難しく、魔力の消費も莫大であるというデメリットもあるため、高度な炎魔法を使いこなせる者は帝国でも少なかった。


「ほらぁ、せっかく判別しやすくしてあげたんだから、()()をとっとと剥がしなさいよぉ?」


前髪の間から覗かせた明るい茜色の瞳をもって、フランはファベルの背後にあった壁を指す。その視線の意図を察したファベルと部下達が壁の方に目をやると、1枚だけ金属板が反り返っていたのだった。


「これは……!」


ファベルが壁に近づき、歪んだ壁板の裏側を調べ始める。他の金属タイルは壁に打ち込まれているのに対し、その部分だけ何故か壁に固定されていなかった。そして剥がれた所に扉と思しきものが隠されていることに気付く。


「アンタ達が探してるのって、その扉だったんでしょ? 魔力の流れを辿れば子供でも分かるよねぇ? こんなしょうもな~い隠し通路なんかに惑わされてたなんて、超笑えるんだけど~!」


ケラケラと笑うフランに、その場の誰もが驚嘆していた。彼女はここに来た時から隠し扉の位置がわかっていたのだ。超高温の火球を作り出したのもその位置を示すためである。ただ、悪戯っぽい表情を浮かべて楽しんでいるところをみると、純粋な親切心のみでやったわけではなく、半分くらいは暇つぶしの意味もあったようだ。


「直ちにこの壁を剥がし、奥への通路を探索しろ」


「了解しました!」


ファベルの指示によって武装した兵士達が隠し通路の開通作業に取り掛かる。壁に打ち込まれたタイル群と見た目こそ同じだが、隠し扉を覆っていた金属板は非常に薄いものであった。故に熱の影響を受けやすく、そこだけが歪んでしまったのだろう。判別さえ出来れば取り外しは用意である。彼らは速やかに壁から金属板を剥がし、壁に埋め込まれた扉を強引に開け放った。


「通路を発見! 狭いため先行の2名で調査を開始します」


「何かあれば通信装置で連絡しろ。他の者は作業を継続しつつ、ここで待機だ」


壁の向こうには長く細い通路が続いていた。幸い照明は点灯しているが、これまでの通路と違って極端に狭い。隠されていた経緯から見て、ドワーフ族でもごく一部のものしかアクセスできないようになっていたのかもしれないとファベルは考察する。


「通路の奥にて扉を発見しました。ロックされているので強引に突破します」


ファベルのモノクルを通して調査に向かった兵士の声が響いた。隠し通路の向こう側にはさらに扉が設けられていたのだ。施錠されていることからも、かなり重要なものが保管されている可能性が高い。しかしこれまでの経験から、こういった場合は必ずと言っていいほど侵入者への対策が施されている事を彼はよく理解していた。本来ならば本隊から武装した兵士をさらに追加すべき場面であるが――


(フラン様がおられるのであれば、心配は無用か)


机に腰を下ろして足をぷらぷらと揺らす上官を一瞥してから、ファベルは調査の許可を出す。兵士達は「了解」と短く答えると、扉を打ち破って奥へと進んだ。そこで視界に入ってきた光景に、思わず兵士の1人が感嘆する。


「このような空間が地下にあるとは……」


隠し通路の先にあったのは帝都の建物がいくつも入りそうなほどに広い空間であった。柵で囲まれた巨大な水槽が中央に設けられており、外周部には古代の計測機器と思われる箱型の装置が連なっている。周囲を警戒しながら水槽の方へ向かう彼らであったが、不意に物陰から飛び出してきた移動物によりその行く手を阻まれた。


「侵入者ヲ発見、排除スル」


抑揚のない不気味な音声と共に現れたのは、銀色に光る装甲を纏った人型の機械人形(ゴーレム)であった。銃口の取り付けられた腕を帝国兵へ向けると、そこから幾多もの金属弾を放ってくる。


――ダダダダッ!――


狙われた兵士は咄嗟に魔法障壁を展開して防御した。彼らが左手に着けている篭手には魔力を込めるだけで1人分をすっぽりと覆うバリアを発生させる機能が備え付けられていたのだ。しかし絶え間なく連射される銃弾に反撃の機会を与えられず、兵士達は後退を余儀なくされる。


「銃を装着したゴーレムと応戦中! 応援願います!」


後方で待機しているファベルに支援を要請しつつ、彼らは背中に装着していた円錐状の槍を構えた。これも魔道具であり、攻撃時に雷属性の魔法を発動させる術式が付与されている。ドワーフの身体スペックを補うように造られているゴーレムは2m近いサイズであり、その装甲も分厚かった。通常の武器攻撃では有効打にならないため特殊な武器で応戦する必要がある。


「この人形風情がッ!!」


篭手の筋力増強術式を施した上で、1人の兵士が槍をゴーレムへ向かって投げつけた。投擲されたランスは先端から青白い火花をバチバチと放ちながら、ゴーレムの右脚部へ突き刺さる。電撃による機能障害を引き起こし、脚部のコントロールを失った人形は体勢を崩して前のめりに倒れ込んだ。


「良くもやってくれたな! お礼にトドメを刺してやるぜ!」


今度はそれまで防御に徹していた兵士が反撃に打って出る。槍を構えると、豪快にゴーレムの頭部へ突き立てた。硬い装甲を貫通することは出来なかったが、先端から放たれた雷撃がゴーレムの魔法回路を焼いたことでその機能を停止させることに成功する。煙を吐きながら沈黙した人形を前に2人は安堵の溜息を付いた。


「1体だけでよかったな。こんなのがもし複数いたら、とても対処できな――」


安心しきっていた彼らに視界に、箱型の装置からゾロゾロと出てくるゴレーム達の姿が映る。何かの計測装置かと思われた箱は全てゴーレムの整備カプセルだったのだ。4体、5体、6体……次々と増えていく銀色の人形達――勝利ムードから一転し、絶望的な状況に陥った彼らは死を覚悟する。いくつもの銃口が目標を定めた、その瞬間だった。


「伏せてないと、一緒に丸焦げになるかもよぉ? 火焔の爆風(ファイア・ブラスト)!」


通路から少女の声が響いた瞬間、紅蓮色に染まった炎風がゴーレム達を包み込んだ。瞬く間に銀色の装甲は溶解し、真っ赤なヘドロへと変貌する。魔法金属で出来た装甲といえども、帝国最強の炎魔法使いが放つ灼熱の魔法の前には原型を留めることすらできなかった。


「こんなのに手間取ってたとか、ザコすぎない~? そんなのでヤル気あんの? あ、もしかしてアンタ達もアレと同じ目に遭いたかったりするぅ?」


「も、申し訳ありませんフラン軍団長!」


ファベルと共に部屋にやってきたフランに対して兵士達は深々と頭を下げた。熟れた果実が爆ぜるようにして溶けたゴーレム達を横目に、彼らは表情を強張らせる。


「ご苦労だった。お前達は他の者と合流し、共にこの部屋の警戒を行え」


「りょ、了解しました!!」


萎縮してしまった部下達に助け舟を出したファベルは、フランと共に水槽へと近づいた。かなり深くまで掘り込まれた水槽には水色に輝く神秘的な液体が満たされており、中に巨大な影が見える。上から覗き込んだシルエットだけで、兵器技師長の目にはそれが機械人形であることがすぐに分かった。


「これは……かなり大型のゴーレムですね。躯体の大きさは低めに見積もっても15mといったところでしょうか。おそらくは攻城用の軍略兵器として運用されていたものと思われます」


「ふ~ん……用途なんてどうでもいいけど、こんなデカイの帝国までどうやって持ち運ぶのよ? そもそも、ここから出すのも無理っぽくないこれ?」


怪訝そうな表情でフランが呟く。遺跡調査において見つけた兵器は全て帝国へ持ち帰り、分析した上でその結果を皇帝へ報告する必要があった。地下深くの隠し部屋ということもあり、外部へ繋がる道は見当たらない上、分解して持ち出すにしてもこのサイズのゴーレムであれば何ヶ月掛かるか分かったものではない。だがファベルにはある予感があった。


「恐らく、この液体は魔力の伝導性を高めるものです。そして底に見える古代の魔法文字……あれが空間転移の術式であれば、ここからゴーレムを地上へ転送させることも可能かと」


そう言って彼が指し示す水槽の底には、幾何学的な模様が描かれた魔法陣らしきものが刻まれていた。古代文字であるため一見しただけで効果を推測するのは難しいが、地下と地上をつなぐ出入口が無い以上、水槽自体が転移用の装置を担っている可能性は高い。


(しかし空間転移の魔法は古代のエルフ族が得意としていた魔法だ。ドワーフ族とエルフ族はそれぞれ山と森に生きていた種族……同盟を結んでいたとは考え難いが、()()は協力してこのゴーレムを作っていたということか……?)


歴史書で読んだ限りの歴史を振り返っていたファベルは、何かを思いついたような表情で近くに居た調査員に声を掛けた。


「急ぎ、空間転移用の制御装置がないか確認しろ。古代トレンティア語が使われている可能性が高い。エルフの古代語に詳しい人材を本隊から連れてくるんだ」


「承知しました。すぐに手配します」


指示を受けた白衣の調査員が足早に部屋から立ち去っていく。その後ろ姿を見ながら、フランは興味なさそうに欠伸をしていた。彼女にとって旧き知識など取るに足らないものだからだ。しかし魔法の天才と謳われる少女であっても、これほどまでの巨大なゴレームは初めて見るものであった。これがどういう風に動くのか見てみたいかも――好奇心からそんな考えを持った彼女は、ある提案を口にする。


「このデカブツ、地上に転送したら起動させてみなさいよぉ。どうせ持ち帰るなら、自分で歩かせたほうが早いでしょ?」


「確かに……侵入者迎撃用の自律型と違い、指示を与えれば動くタイプですから、帝都までの移動を指示すれば従うかと思われます。それでは地上に移動後、試験起動を実施する方針を配下に伝えておきましょう」


彼女の提案に対してファベルは素直に賛同した。本来であれば、発掘された兵器の試験起動は環境が整っている帝都で実施すべきであるという考えを持っていた彼であったが、巨大ゴーレムを目の前にして考えを改めていた。もしこれが帝都で暴走などしようものなら甚大な被害が生じる恐れがあったためである。それならばこの山奥の地で試験的に稼働させておいたほうが、遥かにリスクが少ないと判断したのだ。


「ファベル副官、空間転移用に造られたと思われる制御盤を発見しました。こちらは当時の古い地図ですが、ここに転送先が記載されています」


そこへ眼鏡をかけた白衣の男がやってきた。変色した古い図面を差し出すと、ある部分を指差して報告を続ける。


「この山の頂上地点が転送先として設定されている模様です。恐らく現地には転送用のガイド・シグナルを発信している機器が地中に埋まっているものと思われますが……」


「どうした、何か問題でもあるのか」


「問題というほどでもないのですが、現在はこのあたりに人間族を主体とした集落が出来ております。数人程度の自警団程度の戦力しか持たぬ村ですが……如何しましょう?」


「つまり、転送すればその村の者に目撃される可能性があるということか。遺跡の調査をしていた事が王国側に露見するのは避けたいが……」


ファベルは顔を顰めた。巨大ゴーレムを転移させれば目撃されてしまうのは必至だ。かといって転移先を変更することは難しい。何故なら魔道具による空間転移では座標ズレ防止のために転送元と転送先を信号線で結ぶ必要があり、そのための機器を配置しなければならなかったからである。村のある土地のどこかにそれが埋まっているのだろうが、人の目がある状況で極秘裏に掘り起こす事など不可能だ。何か他に良策は無いものかと考え込むファベルに対し、冷ややかな嘲笑を浮かべたフランが口を開いた。


「なんで悩むのよ? 村を先に焼き払えばいいだけじゃない。目撃者がいなければ何の心配もせず、このデカブツを持って帰ることができるんだし~?」


「しかし、それでは……!」


軍人としての誇りを持つ彼は、民間人を巻き込むことを良しとしなかった。目的のために無差別殺人を許すほど無慈悲な男ではなかったのだ。だがフランは完全に村を壊滅させるつもりでいる。


「あはっ、つまんない倫理観で悩んでそうな顔~! でも他に方法がないならやるしかないでしょ? モルズが上手くやってたら、この辺りも腐った死体だらけになってたんだしさ~ 不死者になるか焼け死ぬかの違いしかないのに、躊躇うコトなんてあるのぉ?」


馬鹿にしたような目付きで見上げてくる彼女からファベルは目を逸らした。確かにモルズによるトルンデイン制圧が成功していれば、リギサン地方も含めて不死者で溢れる未来が訪れていたかもしれない。だからといって自分達が手にかけたところで何も変わらないというのはただの詭弁だ。だが、他の調査員や兵士達がその暴論に違和感を覚えている様子はない。帝国こそがこの大陸の統治者であるという偏った軍事教育を受けてきた彼らは、他国の人間が死んだ所で良心の呵責に苛まれることはなかった。


「ファベル副官、転移装置を使わない場合この遺跡には多量の人的資源を投入する必要が生じます。しかし、それでは王国との正面衝突は避けられないでしょう。ならばフラン軍団長の仰るとおり、転送先を我らで制圧したほうが我が軍の損害は軽微で済むのではないかと思われます」


「私もフラン軍団長に賛成です。事前の調査情報どおりであれば、作戦対象は規模の小さな寒村です。盗賊の仕業にでも見せかければ、トルンデイン領主も帝国を表立って帝国を追及することはできないでしょう。転送装置使用のご判断をお願いします」


口々に意見を述べる研究者達の言葉に、黙って耳を傾けるファベル。彼も巨大ゴーレムを人力で遺跡から運び出すことが現実的でない事は十分承知していた。大規模な工事で地下通路を拡張した上で、ゴーレムを分割して輸送しなければならないからだ。どのように思考を巡らせても転送装置を使う事が最も合理的であることは変わらない。


(ならば、諦めるか……?)


一方で、巨大ゴーレムを回収しない選択肢も検討してみたが、今回見つかったものは過去でも類を見ない高度な技術を用いて造られた遺物だ。それを残置することは帝国にとっても大きな損失になる上、エリクシア王国側に発見されれば軍事転用されてしまう可能性もある。


(戦略兵器級であるこのゴーレムをこのままにしておくデメリットを許容するわけにはいかないか。無辜の民をその礎にしてしまうのは気が引けるが……)


迷いを振り払うようにフランの方を振り向き、ファベルは次の作戦行動案を提示した。


「ゴーレムの輸送ルート確保のため、山頂付近にある村を武力制圧します。本日の日暮れを待って作戦開始としますので、これより地上に戻り準備に入ります」


「そうそう、最初から素直にフランの言うことを聞いておけばいいのよ。暇すぎてイライラしちゃってるし、フランも地上でストレス発散するつもりだから指揮はテキトーにやっといて~」


「承知しました。それではフラン様も我々に同行願います」


軍団長であるフランの同意を以って作戦内容が確定した。自分達の都合のためだけに罪もない人々の村を滅ぼすという残虐極まりない任務ではあるが、侵略戦争でそのような蛮行を幾度となく繰り返してきた帝国軍においては疑問や罪悪感を持つ方が少数派である。異を唱えるものは皆無であったので、それ以降における軍の動きは的確かつ迅速に進められた。

地上の部隊に対して出撃準備を整えるように通信した後、ファベルは最低限の人数のみを残してキャンプへと移動を開始した。転送施設の現場責任者は調査員達のリーダーであった研修者が引受け、その配下の者が転送準備とゴーレムの起動シーケンス確認を分担して取り掛かる。こうして村の制圧とゴーレムの転送に向けた段取りが並行して進められるのであった。

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