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うちの子転生!  作者: 千国丸
33/107

033.山頂の農園①

――リギサン地方へ続く街道――


4人目のNeCOプレイヤーが帝国領内に降り立っていたとは知らず、メル達を乗せた幌馬車はその国境近くを通り過ぎていた。街道には他の通行人がいない、馬車の進みは極めて順調である。トルンデインとリギサンをつなぐ街道はしばらく封鎖されていたのもあり、普段に比べて人通りが減っていたのだろう。少女達は他愛もない会話を交わしながら快適な馬車の旅を楽しむのだった。


「そういえば気になってたんだけどさ、この世界にある野菜って名前もうちらの世界と同じなの? 市場で見かけた大根っぽい野菜とかリンゴっぽいフルーツとか、そのまま日本の呼び方で呼ばれてたんだけど」


「ああ、ボクも最初は不思議に思ったよ。異世界なのに白い根菜の事は大根って言うんだ、ってね。でも鑑定すると異世界固有の名前がきっちりと存在してるのが分かるから、厳密にはボク達が知ってるモノと違うっぽいんだ」


馬車の先頭で手綱を操りながら答えるレモティー。ハーヴェストである彼女は"鑑定"というスキルを通して、この世界のありとあらゆる物に関する知識を得ることできる能力を持つ。そんな彼女の能力を羨ましいなと思いつつ、ココノアは馬車の荷台から身を乗り出した。亜麻色の髪をふわりと弾ませてレモティーへ話しかける。


「ふーん……それじゃ"言語変換"のスキルのおかげで何となく話が通じてただけで、正式名称は別にあったってことか。ちなみに、こっちの言葉じゃ大根ってなんていうの?」


「確かラパヌス、だったかな。大根のイメージには全然合わなくて、知った時は驚いたよ」


「つまり鰤大根は"鰤ラパヌス"になるわけですか……何だか不思議な名前なのです!」


荷台で座っていたメルはホクホクの大根とふっくらとしたブリの切り身で作られた煮物を思い浮かべる。こっちの世界に来てから和食は久しく食べてなかったので、たまには白いご飯が食べたいな――そんな事を考えていた彼女に、ココノアがツッコミを入れた。


「いやいや、それだとブリの方もこの世界の名前にしないと合わないでしょ。違和感ありありじゃん、鰤ラパヌス……」


「はっ確かに……! ココノアちゃんは賢いですね!」


八重歯を見せて微笑むと、メルもココノアと同じ様に馬車の前方へと身を乗り出した。風でピンク色の髪が大きく広がり、太陽の光を受けてキラキラと輝く。彼女は靡く横髪を右手で抑えると、レモティーの顔を見上げながら素朴な疑問を口にした。


「でもこの世界での名前がつけられてるのに、私達の見知ってる単語で好き勝手呼じゃうと異世界の人達が混乱したりしないですかね?」


「んー、その点は問題ないと思うなぁ。ボク達が喋ったり聞いたりする上では"地球の言葉"でも通じているようだから、地球にあったものと役割や見た目が似ているものは、自動的に名前が変換されているのかもしれないね」


「多分"言語変換"のスキル効果なんだろうけど、これが無かったら会話もままならなかったと思うと、運営GJって感じよね。NeCOじゃ時空移動用の前提条件でしかなかったけど。他のゴミみたいなスキルも、ひょっとしたらチートスキルに化けた可能性があったのかな。こんな事ならもっと色々取得しとけばよかったわ……」


ココノアが未練がましそうに呟いた。彼女は必要なスキルのみを取得する主義だったので、使い所のないスキルは無視していたのだ。ただしNeCOの攻略wikiでは残念な評価を下されていたスキルでも、いくつかはメルに「便利そうだから覚えましょうよ!」と押し切られて取得していた。例えば高熱地帯での熱ダメージを無効化にするスキルや、水中での呼吸を可能にするスキル、そして休憩用の安全地帯を作り出すスキル等を取得している。いずれも回復魔法やアイテムで代用できるため、一般のプレイヤーには取得する価値無しと判断されていたのだった。


「さて、このあたりからは山道に入るよ。路面が凸凹してるから速度は落とすね」


レモティーは馬車のスピードを少し緩めた。最初は開けた平原を進んでいた彼女達であったが、標高の高いリギサン地方へ近づくにつれ道は険しくなる。木々に囲まれた薄暗い道へと入った途端、馬車の車輪が小石を踏みつけてしまい、ガタンと跳ねた。


「きゃっ!?」


ココノアがバランスを崩し、ぽてりと尻もちをつく。見た目だけなら幼い少女である彼女は身長に対して頭が大きいため、重心の位置も高かった。そのため不意の揺れには滅法弱く、あっさりと転んでしまう傾向がある。


「もうっ! しっかり運転してよ!」


「あはは、ゴメンゴメン。車と違って馬は細かい調整が効かなくてさ。しばらく揺れると思うから2人とも気をつけてほしいな」


頬を膨らませて抗議するココノアに苦笑いを浮かべるレモティー。位置的には車輪の真上にいる彼女の方が揺れやすいのだが、成熟した大人の体を持っているためかその姿勢は安定していた。ただし、たわわに実った乳房だけは常にぷるんぷるんと揺れており、それを見てココノアはほっぺをさらに膨らませる。


「ふふん、私は大丈夫でしたよ♪ 尻尾があれば揺れてもバランスが取れるのですよ!」


一方、メルは尻尾で上手く衝撃をいなして対処していた。彼女は猫の獣人特有とも言える優れたバランス感覚を持っているため、少々のことで体勢を崩すことはない。だが尻尾の存在は必ずしも恩恵だけを与えてくれるものではなかったようだ。


「獣人族の尻尾ってそういうのにも使えるの……ん?」


ココノアは気づいてしまった。上向きに伸びたピンク色の尾が、メル自身のスカートを持ち上げている事に。彼女のドレスは尻尾をスカートの内側に格納する構造になっているため、尻尾が上を向くと必然的にスカートの後ろ側が大胆に捲れてしまうのである。


「そのお尻、ちょっとは隠す努力をしてよ!?」


「あら、見えちゃってました? えへへ……」


露わになっている真っ白な布地から目をそらすと、ココノアは顔を赤くしながら慌ててメルのスカートを元に戻す。下着を見られた本人は恥ずかしがるような素振りをみせていないのに、何故か見てしまった側がモジモジするという不思議な光景だった。


「えっ、荷台じゃそんな至福の光景が広がってるのかい!? もしかして、ココノアのスカートも捲れてたり……?」


レモティーが荷台の方を気にしてソワソワし始めた。黙っていれば金髪の麗しい美女であるが、その実彼女は少女性愛者(ロリコン)だったりする。従って、幼女のような容姿を持つメルとココノアもストライクゾーンに含まれていた。ただし彼女達はあくまでも見た目が10歳前後の幼女なだけで、"中の人"の年齢はその倍以上ある。そのせいもあってか、ココノアは子供扱いされると途端に不機嫌になった。


「あんたは余所見しないで前見て運転しろっての!! 大体、うちらのパンツなんて見飽きてるでしょ! NeCOのときにあれだけ覗いてたくせに!」


「そ、その言い方だとボクが変態みたいじゃないか! まったくココノアは口が悪いよ~!」


慌てて取り繕うレモティーだが、彼女にはNeCO時代の深い業があった。可愛い3Dアバターを売りにしていただけあって、NeCOには着飾るためのアイテムが数多く存在していたのだが、その中でも何故か下着には凝ったグラフィックが1000種類以上も用意されていた。あまりの数の多さに運営側すらも全てを把握できておらず、有志のプレイヤーがパンツカタログなる資料集を作っていたほどだ。

そんなこだわり具合から、いつしかNeCOはパンツクロニクルオンラインと揶揄されるようになった。ゲームバランスは残念すぎるが、パンツだけは手放しで褒めてやれる――そんな評価を下すユーザーも多かったという。レモティーもそういった()()プレイヤーの一員であり、メルやココノアが新しい衣装を着る度にそのパンツをチェックするのが趣味だったのだ。


「まごうことなき変態じゃない! いつも階段の下にいるなと思ったら、まさかスカートの中を覗いてたとか、あの時は流石のうちもドン引きだったわ……」


「仕方ないじゃないかー! ココノアもメルも可愛いかったんだから!!」


「あ、開き直ってるし! そもそも自キャラの見てればよかったんじゃないの? 視点を斜めに下げれば見放題だったでしょ」


「いや、なんていうかその、自キャラのじゃイマイチっていうか……あはは」


そんな呑気なやり取りを繰り広げてる間にも、馬車は木漏れ日に照らされた坂道を突き進んでいく。トルンデインを離れてから、かれこれ3時間ほど経過していた。しかし道のりはまだ半ばといったところだ。


「そうだレモティーちゃん、そろそろ喉が乾いてませんか? 水筒持ってるんですよ、水筒! 宿で冷えたお水を入れて貰ってきました!」


「おっ、助かるよ! ちょうど喉が乾いてたんだ♪」


腰のポーチから薬樹で作られた水筒を取り出し、栓を抜いてレモティーへ手渡すメル。彼女はずっと1人で馬車の操縦を担ってくれていた健気な友人を気遣った。


「任せっきりにしちゃって申し訳ないのです。交代できればよかったんですけども……」


「ああ、気にしなくて大丈夫! これはこれでドライブみたいで楽しいもんさ! とはいえ、もう1人くらいは馭者ぎょしゃが居てくれたほうが楽といえば楽かな。この体勢で座り続けてると、結構腰にきちゃうんだよねぇ」


水筒をぐいっと傾けると、レモティーは澄んだ水で喉を潤した。馬車を操れるのは3人のうち彼女だけなので、必然的にその役目を負うことになる。そもそもメルとココノアは手綱の使い方も知らないので、当分交代できそうな見込みはないだろう。


「もう1人、ですか……ふむむ」


メルは口元に指を当てながら呟いた。NeCOでサービス終了まで共に過ごしていた残りの1人を思い浮かべながら、その人物の名前を言葉に出す。


「そういえば、私の勘がリセちゃんもこっちに来てそうって囁いてるんですよね! きっと2人とも同じ事考えてたでしょうけども!」


「まあボク達3人がいるくらいなんだし、リセが居てもおかしくないだろうね。とはいえ、どこにいるか想像もつかないし、探すのは難しそうだなぁ……」


レモティーが言うとおり、この広い世界で特定の1人を探し出すことは不可能に近かった。メルとココノアは偶然にもこちらの世界へ来た時に近い場所にいたので出会う事ができたが、もし離れていれば未だに顔も合わせて居なかっただろう。レモティーについても同じことが言える。


「見た目はNeCOのアバターが適用されてるとして、どんな種族になってるかは想像つかないわね。悪魔族だったから角だの翼だのあったけど、こっちじゃそれっぽい種族は無いだろうし?」


「あっちじゃココノアちゃんも私も天使族だったのに、翼は綺麗に消えてましたもんね。でもきっと美人なのはわかりますよ! アバターが凄く可愛かったですから! そういえばお菓子作りが趣味って言ってましたし、ひょっとしたら今頃お菓子屋さんで働いてたりするのかも……!! ぜひ私にも美味しいお菓子を作って欲しいものです♪」


そう言いながら、メルはNeCO時代のリセを思い出していた。彼女は睡眠時間が極端に短いショートスリーパーと呼ばれる体質であり、夜も殆ど起きている事が多い女性だった。物静かで口数は少ないものの、いつでも話を聞いてくれるのでメルにとって彼女は良き話し相手である。ただし当のリセからは「暇さえあればずっと喋ってる変わった人」として認知されていた時期がある事を、本人は知らないのだが。


「ま、そのうち会えるんじゃない? レモティーだってこうして一緒にいるわけだし」


「ええ、そうですね♪ 私達は4人揃ってこそのパーティでしたから、この世界でもきっと出会えるはずです!」


「対人戦でも最強プレイヤーって呼ばれてたリセがいれば心強いなぁ。それにボクやメルと違って本物の近接戦闘ジョブだし、頼りになりそうだ!」


リセとの再会を心待ちにする少女達であったが、運命の女神はそう簡単に微笑んではくれそうにはなかった。この異世界において彼女達が邂逅を果たすのは当分先の話である。

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