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うちの子転生!  作者: 千国丸
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027.豊穣の乙女③

豪華な食事を堪能し、ぐっすりと睡眠を取ることができた3人は翌朝元気よく冒険者ギルドを訪れていた。目的はレモティーの冒険者登録である。ココノアがケントに話をつけ、彼女を冒険者として登録できるように話を進めて貰っていた。


「ああ、貴女がレモティーさんですね……! 話にはお伺いしています! デミリッチとの戦で討伐隊を助けていただいたとか! 僕からもぜひお礼を言わせてください、ありがとうございました!」


「改めて言われると照れちゃうなぁ……ボクは単に通りがかっただけだからね!」


レモティーの事をギルド常連の冒険者達から聞いていたのか、ケントは快く冒険者登録に対応してくれた。ココノア達の知り合いということもありレベル測定は特例枠でパスし、その日に冒険者としての登録証が発行される運びとなったのだ。そこまでは問題なかったのだが、ケントが随分と積極的にレモティーに冒険者ギルドの説明をするものだから、彼女達はかれこれ2時間は待たされていた。最初は大人しく待合室の椅子に座って様子を見ていたココノアだが、長時間に及ぶ解説に飽きてしまい足をぷらぷらとさせる。


「はぁー、そろそろ飽きてきたんだけど!」


「なかなか説明終わりませんねぇ……」


「ところで、ケントの様子がいつもと違わなくない? こう、張り切ってるっていうか……力が籠もってるっていうか……?」


「私達と会話するときよりもテンション高いですよね。なんとなくわかります。あれは多分、一目惚れってやつですよ……!」


幼女達の"中の人"による女の勘が囁く。それは実際に当たっており、レモティーを初めて見た時からケントは恋に落ちていた。職員生活が長くとも女性冒険者に好意を寄せることなどなかった彼だが、それは今までの好みに合う女性がいなかっただけである。女性としての魅力に溢れており、()()()()清楚で可憐なレモティーに惚れてしまうのは、年頃の青年ならばごく普通の事だろう。しかしレモティー本人は男性への興味がさっぱり無かったため、熱心な彼とは正反対に話を切り上げるタイミングを図っていた。


「えっと、そろそろ良いかな……? ボク達これから色々と買い揃えないといけないんだ。悪いけど、詳しい説明はまた今度聞かせてもらうよ」


「あ、すみません……僕としたことが! レモティーさんのお時間を取らせてしまいましたね。登録証は夕方には出来ると思うので、その頃にまた取りに来てください」


「うん、ありがとう! また来るよ」


大きく手を振るケントに送り出され、レモティー達はギルドから大通りへと出た。中央広場は復旧工事が続いており、立ち入り制限がされていたものの広場の外周をぐるりとまわることで他の大通りへ移動できる。なので、まずは中央広場まで向かってから買い物に向かうことにした。慌ただしく働く工事関係者の邪魔にならないように端を歩いていた彼女達はアイリス教会の前に差し掛かる。


「……おや、なんか随分と他の建物と見た目が異なるね、コレ。教会か何かかな? せめてもうちょっと周りと調和するデザインにすればいいのになぁ」


「これはアイリス教っていう面倒な宗教の建物だよ。回復魔法を教会の外で使うと異端者判定してくるような厄介な連中だから、近寄っちゃだめ」


「ふぅん……ちょっと話が見えてこないけど、他人を異端者だの何だの言うような連中にロクな奴がいないないのはどの世界でも同じだからね。絡まれないように気をつけておくよ」


そう言ってレモティーは白亜の建物から目を逸らした。訪れる者を拒むかのごとく玄関扉を締め切った教会は、以前にも増して排他的な雰囲気を漂わせている。アイリス教の司祭達はメルによって救われており、後遺症も残さずに快復していたのだが、ドラゴンゾンビ襲撃以降は教会外に姿を見せることがなくなった。信奉する女神の力を以ってしても、不死の魔物を撃退できなかった事実から目を背けたい一心からか、"街の愚民達が女神を信じていなかったせいだ"と責任を転嫁し、住民達との対立を深めてしまっていたのだ。ともすればその歪んだ恨みの矛先がメルに向かう可能性もあるだが、そんな事を彼女達が知る由もなかった。


「そう言えば、レモティーちゃんはリギサンへ帰る時のお土産を探す予定ですよね。珍しい魔法道具のお店なら西側にありますし、日用品的なものであれば東側のお店がお得ですよ。ちなみに東側には美味しいスイーツのお店もありました!」


「そうだねぇ、爺ちゃんと婆ちゃんにプレゼントするから日常生活の役に立つものがいいかな。東にあるっていう日用品のお店に行ってみよう!」


「では案内は任せてください! ココノアちゃんとデートしてた時に道は覚えましたからね!」


不意に飛び出したデート発言にココノアが顔を赤くする。「そ、そんな感じじゃなかったし!」と慌てる彼女に微笑みながら、メルは友人達の手を引いて東の大通りへと向かって行った。





――夕方、冒険者ギルド前――





傾いた陽で城壁の影が長く伸びる夕暮れ時、1日かけて買い物した一行はレモティーの登録証を受け取るべく、ギルド前までやってきていた。通りを歩く彼女達は手ぶらではあったが、半日以上も街中を巡った後であったため少し疲れ気味である。


「ごめんねぇ、ずっと連れ回しちゃって。結局東通りだけじゃなくて西も南も巡ることになっちゃったし」


「まったくだよ。うちの足じゃこの街は広すぎるんだから、加減してほしいんだけど」


「ちょっと疲れましたけど、おかげで私達も日用品を買い揃えることができたじゃないですか。馬車で使えそうな敷物とかも調達できましたし」


そう言ってメルは腰にぶら下げたポーチを撫でた。この中にはレモティーが購入した便利グッズが詰め込まれている。リギサンへの土産として購入された商品は保温のできる瓶や腰痛によく効く塗り薬、足が冷えなくなる魔法の足袋等々……多岐に渡っていた。


(お爺ちゃん達へのお土産ばっかり買うなんて、レモティーちゃんはNeCOの時から変わらず思いやりのある優しい人だわ)


自分の買い物は殆どせずに、世話になった人達のために様々な店を巡っていたレモティーの姿を思い返しながら、メルは微笑むのであった。


「冒険証を受け取りに来たんだけど、ケントさんはいるかなー?」


ギルドの建物に入るなり、レモティーが大きな声でケントを呼んだ。しかし受付机にケントの姿はない。夕方であったためか他の冒険者も疎らであり、ギルド内は静まり返っていたのだった。


「あれ? ケントさんはもう帰っちゃったのかな?」


「待ってるって言ってましたし、どっかには居そうですけどねぇ」


「あ゛ー疲れた! 座ろ座ろ!」


ココノアが窓近くに置かれていたベンチへと腰掛けた。それなら私も、と続けてメルがその隣にちょこんと座る。そんな少女2人の様子を見ながら「2人ともホントに可愛いなぁ! 良ければボクの膝の上に座ったりしないかい!?」などとレモティーが興奮していると、2階からドタバタと足音が聞こえてきた。


「ああ、申し訳ない! ちょっと支部長と話をしてたんです。レモティーさんの証明書は出来てるので、今持ってきます。そこで待っててくださいね!」


2階の欄干から上半身を乗り出したケントはそう伝えると、足早に廊下の奥へと消えてしまった。レモティー達がそのまま1階で待っていると、小さな紙切れを手にしたケントが足早に階段を駆け下りてきた。


「これが冒険者の登録証です。冒険者ギルドと協定を結んでいる国家や公的機関であれば、これを提示するだけで身分証明が完了します。ただし紛失にだけは注意してください」


ケントが差し出した証明書にはレモティーの顔写真とともに、どこの支部でいつ登録したものなのかといった情報が細かく記載されていた。ただ、顔写真といっても現代日本の写真印刷のように画質がいいものではない。魔道具により顔のシルエットを大まかに転写したものなので、あくまで本人確認の一助として使われる程度だ。


「へぇ、免許証みたいだね。これが身分証明書にもなるわけだ」


「……免許証、ですか?」


レモティーの言葉が理解できず、ケントは首を捻った。この世界では免許証なるものは存在していなかったからだ。ただこの証明書は普通自動車の免許書と雰囲気は似ており、冒険者の対応できる依頼の種類なども記載されている。また腕っぷしの強さを示すレベルは中央に大きく書かれており、彼女の場合はレベル60という表記になっていた。これはメルやココノア同様に、過去にこのギルドに所属していた最強の冒険者のレベルを暫定的に設定したものである。メル達の冒険者証明書にも同じレベルが記されているが、実際にはレモティーの持つ鑑定スキルにより、彼女達のレベルは全員120であることが判明している。


「そうだココノア、メル。君達に言っておかないといけない事があるんだ。以前に街を襲ってきたデクシア帝国のモルズについてなんだけど……」


そう切り出すと、ケントは深刻そうな表情で話を続けた。


「実はこの街から脱走してから行方不明になってしまったんだ。北に出没したデミリッチと何か関係性があるかまでは調査できてないんだけど、結果的に帝国によるトルンデイン襲撃の証拠を失ってしまった事には変わりない。せっかく彼を捕まえて貰ったのに、申し訳ないね……」


「別にギルドのせいというわけでもないので、私達は気にしてないですよ。それよりもその帝国さんとは、何か外交上の問題が起こったりはしてないんですか?」


「ああ、それについては少し妙なことになっててね。襲撃の首謀者もいない状況で帝国を疑うことはできないからと、今回の事件はこれ以上深追いしないように国王様から領主様へお達しがあったみたいなんだ。だからギルドとしても深くは追求せず、今回はこれで幕を引くことになってる」


「あんなに街が破壊されちゃったのに……それでいいんですか?」


「もちろん良くはないんだけど、デクシア帝国はこの大陸の3割を占める大国だ。優秀な魔導師の名門が領土内に多く存在しているのもあって、軍事力については他国より頭1つ飛び抜けてるし、いざ戦争になれば王国側の被害は馬鹿にならないだろうからね」


「むむむ……」


ケントの話を聞きながら、メルは口元に指をあてながら難しい顔をしていた。彼女達にとって帝国の動向はさしたる問題ではなかったものの、以前にセロが言っていた「国家間の諍いに巻き込まれないように気をつけることだ」という言葉が引っかかっていたのだ。もしココノアやレモティーに危険が及んだ時は、なんとしてでも私が守ってあげないと、と気を引き締める。


「あ、そうそう。うちらは明日あたりにリギサン地方へ遠出するの。気が向いたら戻ってくるかもしれないけど、いつになるかは分かんないかな」


「えっ、そんな事全然聞いてなかったよ!?」


唐突なココノアの旅立ち発言に目を白黒させるケント。怪しい動きを見せるデクシア帝国を警戒するにあたり、彼女達の力が必須になると考えていた彼にとって、その話は寝耳に水であった。


「別に、この街に縛られるような契約内容にはなってないし問題はないでしょ? 冒険者って世界を旅するものなんだから」


「いや、それはそうなんだけど……もう少し早い段階で教えてほしかったなぁ。あ、ひょっとしてレモティーさんもこの街から出て行ってしまうんですかね……?」


チラチラとレモティーの方に視線を向けるケント。ギルドの仕事を通して、できれば彼女とお近づきになりたいと思っていた彼であったが、その目論見は見事に打ち砕かれることになる。


「うん、ボクもココノア達と一緒に旅をするつもりなんだ。短い間だったけど世話になったね!」


「そ、そんなぁ……」


「しばらく大変そうだけど、頑張りなさいよ」

「お世話になりました! またここに戻ってきた時は宜しくお願いします!」


がっかりと肩を落とすケントに手を振りつつ、彼女達は冒険者ギルドを後にした。まっすぐに宿へと帰ったココノア達は1階の受付で従業員へ明朝にチェックアウトする事を伝えてから、自室へと戻るのであった。

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