026.豊穣の乙女②
久々の再会ということもあり、話に花を咲かせた彼女達の会話はその後も数時間に渡って続けられた。結局、その夜はレモティーもブルワールに泊まることになり、ココノアは隣の空室を借りる手続きを済ませたのだった。
「あ、おかえりなさいココノアちゃん。隣のお部屋、借りられました?」
「うん、問題ないってさ。あと今夜は大浴場を貸し切りで使ってもいいって支配人が言ってたよ。魔物騒動で他の客がキャンセルしちゃったとかで、うちら以外に使う人いないっぽい」
「わぁ、いいですね! 今から入りに行きましょうよ! ちょうど着替えを用意してたところなんです♪」
ココノアが客室に戻るとメルがポーチから着替えを引っ張り出しているところだった。彼女達の衣服は基本的に宿側で洗濯から乾燥まで丁寧に対応してくれていたため、毎日気兼ねなく清潔なものを使うことが出来ている。街でも最高級の宿だけあって、あらゆるサービスが行き届いていた。
「おっ、ここは大浴場があるのかい? ボクも一緒に入っていいんだよね!? 馬車に揺られてたせいか身体に疲れが溜まってたんだ。肩も凝って仕方ないから、温かいお風呂に入れるのは有り難いなぁ!」
「あんたの肩が凝ってるのは、どう見てもそのデカすぎる乳のせいでしょうが……」
「ささ、2人とも1階へ向かいましょうよ! 」
メルの言葉に押されるようにして、彼女達はブルワールの1階に設けられた大浴場へ向かった。普段は男性用と女性用で区切られているが、この日だけは中央の仕切りが取り払われており、脱衣スペースも共通となっている。3人は白い棚が壁に備え付けられた清潔感のある脱衣所へと踏み入った。
「今日はいつもよりも広く感じます! 貸し切りだし、気兼ねなく入れるのが嬉しいですね!」
棚に置かれた四角いバスケットへ着替えを置くなり早速服を脱ぎだすメル。同性ということもあり友人達には遠慮せずに、あっという間に全裸になった。そんな彼女の柔らかそうな丸みを帯びた臀部を横目でじっと見ていたレモティーは、感心するかのようにうんうんと頷いていた。
「むっ! 獣人の尻尾ってそこから生えてるんだねぇ……なるほどなるほど」
尾骶骨の位置から真っ直ぐ生えたメルの尻尾は、床に触れないくらいの位置でふわふわと揺れていた。この世界では人間族やエルフ族に尾はない。唯一獣人族だけが持つ尻尾には、その優れた身体機能をサポートする役割があったのだ。激しい動きでも体勢を崩さずに動き回ることができるのは、この尻尾のおかげでもあるため、一見無駄に見えても実は重要な部位である。
「この尻尾、お風呂に入るときは結構邪魔なんですよね。濡れちゃうと重いですし」
苦笑を交えながら、メルは両手で長い髪を束ねるとグルグルと巻いてコンパクトに纏めた。そして「お先に行きますね♪」と浴場の方へと出ていくのだった。その様子を幸せそうに眺めていたレモティーに、ココノアは怪訝そうな表情で苦言を呈す。
「いくらなんでもガン見しすぎだっての……衛兵に突き出されても知らないわよ」
そんな彼女は肌を見られるのが恥ずかしいのか、タオルを胸から垂らすようにして身体を覆っていた。板のように平たい胸は隠す必要が無さそうであったが、そんな初々しい反応が逆にレモティーの性的趣向を刺激してしまう。
「ココノアのそういう風に恥ずかしがるところも実に可愛いね! 本当にトルンデインにやってきて良かったよ。眼福眼福~♪」
「そのいやらしい視線が気になるって言ってんの! こっち見んな!」
顔を赤く染めながら右腕でぎゅっとタオルで抱え込むと、ココノアは足早に浴場へ向かった。その様子を見て「ココノアは可愛いなぁ」と呟きつつ、レモティーも服を脱ぎ始める。少女達と異なり、十分に成長したその身体は暴力的なまでの豊満さを持ち合わせていた。胸を覆っていた下着を外した瞬間に、飛び跳ねるが如く乳房が転び出るほどだ。
「さて、ボクも失礼するかな♪」
長い金色の髪を結わえながら、レモティーが浴場に右足を踏み入れる。その直後、むわっと漂ってきた温かい熱気が彼女の眼前を白く染めた。掛けていた眼鏡が曇ったのだ。
「あ、しまった!? ここだと眼鏡が曇る……! せっかくの楽園だというのに!!」
慌てて眼鏡レンズを手持ちの浴布で拭くレモティー。そんな彼女の様子を見ながら、ココノアが不思議そうに首を傾げた。
「そう言えば、なんで異世界にきてまで眼鏡してんの? それ無くても見えるんでしょ?」
「まあ確かに、ボクの視力はそんなに悪くないんだけどさ。これは身体の一部みたいなものだから……常につけておかないと落ち着かないんだよ。こっちの世界に来た時から何故か手元にあったものでもあるし」
「そういうもんなの? 大体、アンタだけそんな成長した身体になってるのも分かんないんだけど。NeCOのアバターには年齢要素なんて、全然なかったのに」
「ああ、その点についてはここに来る前に部屋でメルと話してたんだ。ひょっとしたらボクが着ていた衣装が関係してるかもしれない、ってね」
洗い場で石鹸を泡立てるココノアの裸体をコッソリ視界に収めつつ、レモティーは話を続ける。
「ハーヴェストのジョブ服って、どれもおっぱいが大きく見える仕様だったじゃないか。だからそれが見た目に反映されたことで、こっちでは相応の年齢になったのかもしれないってね」
「私は猫耳をつけてたら獣人になりましたし、ココノアちゃんはエルフ耳で本物のエルフさんになってますからね。お胸が大きく見える服を着ていたレモティーちゃんが、大人の人間族としてこの世界に生まれたというのは、結構有り得そうだと思いません?」
同じく身体を洗っていたメルが会話に乗ってきた。尻尾を前に回して、撫でるように優しく洗っている。よほど石鹸の泡立ちがいいのか、尾全体がモコモコとした白い塊で覆われていた。
「えー! そんな仕様なら、うちもそういう系の衣装着とけばよかった。なら今頃レモティーにも負けないおっぱいが付いてたのに!」
「いやいや勿体ないよ、それは! 未発達が故に、無垢な美を宿した幼い少女の価値をココノアは全然わかっていないね!? ボクに言われせれば今のココノアは思春期直前の女の子が持つ尊さが垣間見えてて――」
「うわぁ……! ガチっぽい事いうの止めてよ……」
ロリータの良さを力説し始めたレモティーにドン引きするココノア。友人とは言え、その偏った趣向は到底理解できないし、したくもないのであった。
「レモティー、一応言っとくけどさ……見た目が子供なだけで中身は大人だから、うちら。あんたの思うようなホンモノのロリじゃないからね、これっぽちも」
「あはは、何を言ってるんだいココノア! 中身なんて関係ないよ! ボクの前では2人とも可愛い可愛いロリータ達であることに違いはないのさ♪」
「もうこの女は何を言ってもダメだわ……メル、近寄っちゃダメだからね? 犯されるよ絶対」
「レモティーちゃん、お外ではそういう事は言わないようにしましょうね……」
美少女2人からジトーっとした目つきで見据えられ、得も知れぬ興奮を感じるレモティー。業の深い性癖を背負った彼女には、ココノア達の塩対応でさえご褒美であった。
「はぁ……もう思い残すことはないね……」
「いやいや、あんたタイニーキャットに世界を救ってくれてって呼ばれたんでしょ? 思い残す事だらけじゃない。せめてこの世界に貢献しなさいよ」
呆れながらそう言うと、ココノアは壁から突き出た蛇口のような金属の筒へ手を当てる。すると程よい温度の湯が勢いよく流れ出てきた。それはセロの館にあったものと同じ仕組みの魔道具であった。出てきた湯を手触りの良い木桶で溜めてから、洗い終わった身体へと掛ける。
――バシャッ――
お湯で流れた白い泡が、渦を巻きながら排水口へ吸い込まれていった。魔法が込められた特殊な器具のおかげで、お湯は好きに使えるし、排水も滞りなく行われる。異世界といえど浴場については現代日本とそう大差なかった。おかげで彼女達は不便な思いをせずに、毎日身体を綺麗に保つことができている。
「ココノアちゃん、お背中を流しましょうか?」
自分の体を洗い終えたメルがココノアの隣へやってきた。彼女の足元で揺れる桃色の尻尾からは透明な水滴が滴っており、先程まで泡だらけだったのが嘘のように綺麗になっている。それを見て、手が空いたなら流して貰おうかなと言いかけたココノアであったが――
「ちょ、ちょっと!? タオルで隠すくらいはしなさいっての! レモティーっていう変態が近くにいるのに、無防備にもほどがあるし!?」
「ふぇ?」
顔を上げた瞬間に視界へ入ってきたメルのあられもない格好に、思わず手を顔を覆うことになった。ココノアと違い、タオルで身体を隠していない彼女は何もかもが丸見えだったからだ。可愛らしい蕾をつけた膨らみかけの胸や、プニプニとして柔らかそうな腹部、そして無駄なモノが一切ないツルツルの下半身――どれも幼稚な子供体型ではあったが、何故かメルの裸を間近で見ると無性に照れてしまうココノアであった。
「別に私は見られてもいいというか、同じ性別ですし気にしていませんよ?」
「こっちが気にすんの!! もういいから、先に湯船に入ってて!」
ココノアの素っ気ない言葉に「むー」と頬を膨らませながら、メルは一足先に湯へと浸かった。たっぷりのお湯を贅沢に使った湯船は心地よく、彼女が脚を伸ばしても届かないほどに広い。この大浴場はブルワールでも特に人気を得ており、高い宿代を払ってでもこの浴場で疲れを癒そうと訪れる旅人は多かった。
「よし、ならメルの代わりにボクがココノアの背を流そうか! あ、いやらしい気持ちはないから安心して任せてくれていいからね!」
今度はレモティーがココノアの背後へ回る。しかしそんな口振りとは裏腹に、彼女の視線は透き通るような白さを見せるココノアの素肌に釘付けだった。エルフ族特有の線の細さもあいまって触れただけで壊れてしまいそうな儚い背中は、熱の籠もった碧色の瞳に堪らなく尊いものとして映っていた。
「それは絶対にノゥ! あんたに任せたら何されるかわかったもんじゃないし!」
「やだなぁ、ボクはこう見えてもリギサンの方じゃ"豊穣の乙女"なんて呼ばれるくらいには清楚で奥ゆかしい女性として認知されてるんだよ? そんな事するわけないじゃないか、あはは」
「豊穣の乙女、ねぇ……」
そう言ってココノアはレモティーの胸に視線を移す。メルやココノアの頭より一回り大きいそれは、確かに豊穣を司っていてもおかしくなさそうな代物である。片や洗濯板とも言うべき自身の貧しい胸に目をやり、ココノアは嘆くように溜息をついた。
「はぁ……うちの事はいいから、自分の身体を洗いなよ。リギサンの方にはこんなお風呂は無かったでしょ?」
「むぅ残念……今日は自分の背中でも洗っておくかな。確かにココノアが言う通り、リギサンにこんな立派な施設はなかったしね」
自分の洗い場に戻り、レモティーは備え付けの石鹸で身体を洗い始める。少し日に焼けた肌は健康的な色をしており、泡で表面が濡れただけで艶めかしい雰囲気を漂わせた。
「さて、うちも湯を堪能しますか」
背中を洗い終えたココノアは、タオルで前を隠したまま湯船へと足を入れた。熱くもなく温くもないちょうど良い湯加減に、つい微笑みが漏れる。
「貸し切りだとやっぱり気持ちいいね。毎日こうだと嬉しいのに」
「そうですねぇ。普段は他の人に気を使っちゃって、こうやって足を伸ばしたりできないですし」
その小さな身体を伸ばしながら、しばらく広い湯船を満喫するメルとココノアであったが、レモティーが浸かりに来たことで状況が一変する。身体の大きな彼女が勢いよく入ったことで、波打った湯が彼女達の顔を直撃したのだ。
「けほっ!?」
「ごぼっ!?」
慌てて身体を起こした幼女コンビは、恨みがましそうな目でレモティーの方へ目をやる。浴槽に小さな洪水を起こした張本人は申し訳なさそうに苦笑いしていた。
「いやぁ、ごめんごめん! 久々にこんなに大きなお風呂を見たものだから、テンション上がっちゃってさ。地球にいた頃は週1回で近場の温泉に行ってたんだけど、リギサンのほうじゃ温泉って言っても秘境みたいな不便な所しかなくて、困ってたんだよね」
「せっかくいい気分だったのに……見た目の割にやることが子供なんだから。これから3人で冒険することになったら、引率者として見られるのはレモティーなんだからね。しっかりしなさいよ?」
「確かにこの組み合わせだと、レモティーちゃんがお姉さんで、私達が妹って感じですよね♪」
メルがニコニコと微笑む。実際には長命種のエルフと獣人が混ざっているため、見た目だけで年齢は判断つきにくいのだが、純粋な印象から言えば彼女の言う通りだろう。
「なるほど、姉妹かぁ……そういうのもアリだね! 今日からボクのことをレモティーお姉ちゃん、と呼んでもいいよ2人共!」
「はぁ? ロリコン変態女の事をお姉ちゃんとか絶対に呼びたくな――」
そこまで言いかけてココノアは口を止めた。なぜなら彼女の瞳には驚くべきものが映っていたからだ。衝撃的なその光景に、メルも息を呑む。
「えっ、なんなのそれ……そんなことある!?」
「お胸が浮いてますね……初めて見ましたよ、こんなの……」
唖然とした表情でレモティーの胸を見つめるメルとココノア。彼女の巨大な乳房は風船のようにプカプカと湯船に浮いていたのである。脂肪の塊であるソレが浮力を持つことは広く認知されているが、実際に水面に浮かぶ場面を見ることがあるかというと話は別だ。
「こうやって常に浮いてくれてれば前に引っ張られなくて楽なんだけどね。
普段はずっと錘をつけているようなものさ」
右手で左肩を揉みながら呟くレモティーと共に、しばらく湯加減を愉しむココノアとメル。体がポカポカを温まってきたところで、ココノアが本題を切り出した。
「これから先の事のことなんだけどさ。明日はレモティーにも冒険者ギルドに登録してもらおうと思ってるのよね。その方が何かと便利でしょ? 国境越える時も登録証があれば身分証明として使えるって聞いたし」
「ボクはそれで構わないよ。爺ちゃん達に土産さえ買えれば、あとは帰るだけだから。リギサンには一度戻るつもりだけど、その間ココノアとメルはどうするんだい?」
「私はリギサン地方も一度見ておきたいと思ってましたけど、ココノアちゃんはどうですか?」
「行くに決まってるでしょ。この世界の何を救わないといけないのか分かんないうちは、色々見て知っておかないといけないし」
2人共リギサンへ行くつもりだった事がわかり、レモティーは頬を緩ませた。彼女はぜひ友人達に自分が作った農園を見てもらいたいと思っていたのだ。
「そういうことならボクがリギサンまで案内するよ。幸い馬車は空だから、荷台に乗って貰えば1日で着くと思うし」
「あの馬車って滅茶苦茶お尻痛そうなんだけど。長時間乗るなら乗り心地は保証してよね?」
「あはは、ボクの手作りだから無骨なのは勘弁してほしいなぁ。乗り心地についてはクッションになりそうなものを買い物の時に探しておくよ」
「馬車の旅だなんて、なんだか本当の冒険者みたいで楽しみです♪」
湿気で少し垂れた耳を、嬉しそうに左右に揺らすメル。この世界で乗り物を使った移動は彼女やココノアにとってこれが初めてであり、期待感に胸を躍らせていた。長距離移動するだけであれば、ココノアの連続転移魔法を使えばいいという考え方もあるが、同時に移動できる人数に最大2名という制約があるため、この場合はレモティーの馬車を使うほうが正解だろう。
「そうと決まったら、夕食をさっさと食べにいかないとね。メルもお腹空いてるでしょ?」
「はい! ペコペコです! 今日はどんなメニューなのか楽しみだなーん♪」
「なら、もう出よっか。あんまり長く入ってると、逆上せそうになるし」
ココノアがメルの手を引いて立ち上がった。彼女達の色白な肌は湯を弾くほどにきめ細かく、湯船から体を出すだけで玉のような水滴がポロポロと流れ落ちる。興奮と湯気で眼鏡を曇らせながらも、レモティーはその光景を眼に焼き付けていた。
「あんたはまだ出ないの? もうちょっとゆっくりしていく?」
「せっかくだしボクはもう少し浸かっていこうかな。ロリータ達のエキスの染み出した湯船っていうのも、乙なものだからねぇ♪」
「なに気持ち悪いこと言ってんのよ! それじゃ、さっきの部屋で待ってるから」
「りょ~かい♪」
スタスタと脱衣所へ向かうココノア達を見送り、レモティーは大浴場を気ままに独り占めするのであった。




