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うちの子転生!  作者: 千国丸
107/107

107.エピローグ 新たな日常

――日本国内 某所――


ガタン、ゴトンという音に揺られ、通り過ぎていく都会の街並みを見つめる。コンクリートだらけの味気ないオフィスビル群を見てると、異世界で過ごした冒険の日々が嘘のように思えてしまう。

アイリスさんの力で元の世界に帰る事ができた私は9月1日……つまり、NeCOのサービス終了翌日に自分のベッドで目覚めた。3ヶ月以上も旅をしてたはずなのに、眠ってから半日も経っておらず、思わず電波時計を疑ってしまったのを未だに思い出す。次元によって時間の進み方が違うって論文が出せたら、きっとノーベル賞間違いなしだろう。もっとも、そんな話を信じてくれる人なんて世界中を探しても3人しかいないだろうけど。

兎にも角にも、冒険者から会社員へジョブチェンジした私は平凡な日々を過ごしている。"メル"の身体にすっかり慣れてしまっていたせいか、当初は色々と困惑する事ばかりだった。魔法が使えないのはもちろん、お肌はカサカサだし、身体も重いし、化粧をしないと外にも出られない。現実は不便な事ばかりだ。


『次は○○駅、○○駅です。お降りのお客様は……』


聞き慣れた電車のアナウンスが響く。平日なら満員電車でもおかしくない時間帯だけど、祝日の早朝だからか他の乗客は数える程しかいなかった。


「あと数駅で乗り換えだっけ。忘れ物しないようにしないと」


自分への注意喚起を兼ねた台詞を小声で呟く。膝の上に乗せたバッグには大切なものが入ってるので、置き忘れたりしたら大変だ。ただでさえお洒落して出掛けるのなんて久しぶりなのに、うっかりで台無しにしたくない。

出不精の私がこうして電車に乗ってるのには理由がある。なんと今日は、サービスが終わったNeCOの非公式イベントが開催される予定なのだ。詳しい経緯は知らないけど、有志の人達がそこそこ大きな会場を貸し切って、元プレイヤー同士の交流会を開いてくれると聞いた。NeCO運営の人も顔を出しに来る――なんていう噂もあるくらいなので、ひょっとしたら有志というのは運営会社の関係者かもしれない。NeCOがプレイヤーだけじゃなくて、製作者にも愛されてたのが分かって胸の内が暖かくなった。


「綺麗に晴れて良かったなーん」


車窓から見える青い空は、異世界と同じくらい明るく輝いて見えた……なんて言い方をすると誤解を招きそうだけど、私達の冒険はまだまだ終わってない。今も週1回ペースで転生し、ココノアちゃんやレモティーちゃん、リセちゃんと一緒に各地で起こる色々な問題を解決しつつ、神獣さん探しの旅を続けている。異世界での私は"メル"として振る舞ってストレスを発散しているので、オンラインゲームで遊ぶ時間は随分と少なくなった。

なお週1回という制限は、私達のためにアイリスさんが設けた唯一の決まりだ。肉体への影響を最小限にするため、転生する当人が寝ている間に魂だけを次元トンネルで移動させる方法が採用されたものの、それでも転生をし過ぎると疲れが取れなくなったりするらしい。アラサーにとって寝不足は大敵と言ってもいいし、過度な転生は避けるべき……いやまあ、スナック感覚で転生するの自体どうかと思うけど。


――パシュ!――


自動扉が閉まり、電車が再び動き出す。乗り換え駅までしばらく時間があるので、異世界の現状を少し振り返ってみることにした。イベント会場で待ち合わせの約束をした()()()とお喋りする時の話題になるかもしれないし。


【女神アイリスと神獣達】

アイリスさんは小さな浮島を作り、そこに新しく建てた神殿から世界を見守り続けている。人々への干渉をできるだけ避けるというスタンスは変わらないものの、大きな問題が起こった時は神獣達と一緒に解決する事もあるみたい。

ちなみにチュンコさんはオキデンスで"チュンコ便"を継続しており、現地の人々と良好な関係を築けているそうだ。最近は貨物だけでなく旅客運送も始めたんだとか。モフモフの羽毛に包まれて空を飛ぶ心地よい感覚が忘れられないので、また乗せて貰いに行ってみよう。


【アイリス聖教国】

デイパラさんが消えてから聖教の在り方は大きく変わり、癒やしの術を広く伝える事を目的とする慈善団体になった。高額な寄付を強制しなくなったのもあって、各地の教会には行列が絶えないらしい。序列制度も見直され、今は大司教のシンマという人が騎士団と一緒に国政を担っている。ちなみにデイパラさんが作った"神の赦し"という刻印術式は、ある人の協力によって魔道具で代替できるようになった。故郷へ戻ったフルカさんが再び癒やしの術を使える日は近いかもしれない。


【ミコトとユキ】

ミコトさんは相変わらず市民議員として多忙な毎日を過ごしている。亜人さんの待遇改善や、闇商人による違法取引の摘発、シニストラ自治区の開発事業などなど……やらなければならない仕事が山積みだって苦笑いしてたっけ。でも家族と過ごす時間は必ず作ってると伺ったので安心した。

ユキちゃんの方はデクシア帝国にある名門学園への留学が決定してるみたい。同盟強化の一環という意味合いもあるので、帝国側でも丁重に迎え入れる準備が進んでいるそうだ。ただ、レモティーちゃんはユキちゃんに悪い虫がつかないかと凄く心配してた。リセちゃんはレモティーちゃんの存在が一番教育に悪そうって言ってたけど……うぅ、私もそれは否定できないや。


【レイルス一行】

レイルスさん達は聖教国での武勲が認められ、歴代最強の筆頭冒険者として表彰された。ただし有名になった分、依頼の数が一気に増えたらしく、息をつく暇すら無いと愚痴ってた気がする。なお来年にはレイルスさんとノルンさんの結婚式が予定されており、私達宛にも招待状が届いた。もし異世界でもブーケトスの習慣があるなら、何が何でもキャッチしにいかないと……!


【デクシア帝国】

デクシア帝国はまだまだ復興の真っ最中だ。侵略した属国との関係改善も進めなければならないため、しばらくは大変な時期が続くと思う。ただ、そんな状態でもオキデンスとの同盟がプラスに作用したようで、経済面での成長が著しい。列強国に返り咲ける日も遠くはなさそう。

ちなみに帝都郊外の有名な菓子店『ステラ』では、たまにリセちゃんがアルバイトをしている。お土産に美味しいお菓子を持ち帰ってくれるので、リセちゃんが帝国へ行く日は私の密かな楽しみになってたりもする。あと、お店へやってくる常連の中にはフランさんやファベルさんの姿もあるとか、ないとか。


【リギサン】

エリクシア王国有数の食糧生産地となったリギサンは、かつての過疎が信じられないほどに賑わってて、今や地方都市にも負けない人口を誇る。もちろんそれはレモティーちゃんが作った農園のおかげだろうけど、海賊船に捕らわれていた亜人さん達がリギサンに定住してくれたのも大きかった。最近はオキデンスから家族を呼んで生活を共にする人も多い。

私達がお世話になったオーティムお爺ちゃんとアヴィお婆ちゃんは自宅を再建し、仲良く元気に暮らしている。そういえば2人とも高齢だったはずだけど、少し前に会った時は何故か前よりも若々しく見えた。ひょっとしたら野菜中心の生活には若返り作用があるのかも……今度詳しく秘訣を聞いてみよう。


【トルンデイン】

城塞都市トルンデインはデクシア帝国と近い物流の要所なので、以前と変わらず活気がある。旅の途中で近くを通りがかった時は必ず立ち寄り、ペアリングを貰ったアクセサリ店で買い物をした。ココノアちゃんは店主のおじさんが私達を見てニヤニヤするのが気持ち悪いって言うけど、なんだかんだで付き合ってくれる。

そういえば、冒険者ギルド支部のケントさんが支部長補佐へ昇進したという話を耳にした。冒険者になった時、色々と面倒を見て貰ったので恩返しに食事でも振る舞おうと思ってる。もちろん、ケントさんがメロメロなレモティーちゃんも同席で。


【セロとリエーレ】

多分、セロさんは今日も書斎に引き籠もって魔法の研究に明け暮れてると思う。というのも、聖教が開示した癒やしの術式を解明するのに夢中だからだ。"神の赦し"が無くても魔道具を使って癒やしの術を発動できるようにしたのは、彼の成果だったりもする。今後はNeCOの回復魔法を見て気付いたアイデアを適用して、もっと効果のある新魔法を開発するのだと、鼻息を荒くしていた。

一方、リエーレさんは私とココノアちゃんがお土産話を持って帰るのを楽しみにしており、顔を出すといつも素敵な笑顔と美味しい料理で迎えてくれる。ついでに伸びてしまった髪の毛を綺麗に整えて貰えるので、こちらとしても凄く有り難い。


【アーエル】

私達が元の世界に帰ってから間もなくして、アーエルさんがエウレカを旅立ったという話を聞いた。アイリスさんの一部となったデイパラさんの分まで、今の世界を見て回るつもりなんだと思う。

最初、少年の1人旅なんて危険なんじゃないかと心配したものの、カタリナさんも同行している事が判明したので安心した。さらに転身したライさんやキヨピーさんがこっそり見守ってたりもするらしい。安全面での問題は全く無さそうだ。他の神獣さん達にとってアーエルさんは甥っ子みたいな存在だろうし、たくさんの愛情を注いであげて欲しいと願わずにはいられない――



『△△駅、△△駅に到着しました。電車とホームの間が……』


異世界への想いを巡らせていた私を現実に引き戻したのは、着駅のアナウンスだった。慌てて窓を覗いた私の視界に、乗り換え駅の看板が映る。咄嗟にバッグを掴んで電車を降りた。


「あ、危なかった……」


少し息を切らしながらホームの電光掲示板を見上げる。うん……なんとか乗り換えには間に合いそうだ。仮に乗り過ごしてもリカバリーはできるものの、乗り継ぎタイミングの関係で遅刻が確定してしまう。


「どうも"メル"はポンコツだと思われてるっぽいし、リアルの方ではしっかりしてる姿を見せないと……!」


待ち合わせの時間には絶対に遅れたくなかった。今日はココノアちゃん達とオフで会う初めての日だし、カッコ悪い登場は避けたい。


「そうだ、荷物は大丈夫だよね!?」


手にしていたバッグを開けて中身を確認した。NeCOで撮影した何枚ものスクリーンショット――それを印刷して作った手製のアルバムは健在だった。


「よかった……はぁ~」


思わず安堵の溜息が出てしまう。今日はNeCOで過ごしたみんなとの思い出を心ゆくまで語るつもりだ。そのためにもNeCOアルバムの存在は欠かせない。重い女だと思われてしまうかもしれないけど、会社と部屋を往復するだけだった灰色の日常を変えてくれたのは、間違いなくあの3人だから。


「さてと、行きますか!」


乗り換え先のホームを目指して足を踏み出す。部屋を出るまでは生身で会う事に不安を覚えていたのに、今は嘘のように心が晴れ晴れとしてる。大好きな人達を想うと、自然と笑みが溢れてきた。


「待っててくださいね、みなさん」


ついつい、"メル"の口調が出てしまう。あの世界での旅を通して、()()は私を支えてくれる大切な一部となった。きっとココノアちゃん、レモティーちゃん、リセちゃんだって同じに違いない。NeCOから異世界に舞台を移し、これからも紡がれていく私達の冒険譚。地球とは違う星を巡る、その物語の名は――


『うちの子転生』 ~Fin~

 私の駄文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。『うちの子転生』はこれにて完結となります。元々本を読む習慣がなく、文章を書く機会も仕事のメールくらいしか無かったため、小説と言えるような内容になっていたのか不安ですが、何とか書き切る事ができたのは皆様のおかげです。


 さて、本作が実在したMMORPGをモチーフとしている事にお気づきの方は多いかもしれません。実は主人公として登場する少女達についても、当該のゲームで一緒に遊んでくれた友人をモデルにしました。文才のない私が筆を執ったのは、彼女達と過ごした架空世界の日々を何かの形で残したかったからです。今となっては一緒のオンラインゲームを楽しむ事もなくなってしまったので、友人達がこの作品を目にする機会があるかは分かりませんが、いずれ読んで貰いたいと思っています。


 ただ、毎回ライブ感に任せて書いたせいか、読み返すと粗が気になって仕方ない……というわけで、今後はWEB小説の利点を活かして少しずつ追記・修正したく考えています。また気が向いた折にでもお目通しいただければ幸いです。

 最後になりましたが誤字報告や感想を送付いただきました方々に深く感謝申し上げます。お気づきの点があれば、引き続きよろしくお願い致します。

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[良い点] 中々の良作 とても面白かったです ご都合と言われようと悉くハッピーエンドなのは気持ちよく読めて良いね [一言] 基本的に本編前の作品説明のままを貫いて成長していく話が好きなのでとても自分好…
[気になる点] メルはなぜ社畜小屋(日本)に戻ろうとする?
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